こんにちは、大石浩之です。最近、「AIが政治家の代わりになる」という話題をよく目にするようになりました。一方で、私たちの磐田市役所では、すでに書類審査や子育て相談など“現場の仕事”にAIが入り始めています。同じ「行政×AI」でも、私の受け止めはこの二つでまるで違います。「AIに決めさせる」方向には慎重であるべきだが、「職員の作業を助けるAI」はむしろ大いに進めてほしい。今日はその線引きを、できるだけ具体的に整理してみます。是々非々で、対案まで考えます。
「AI市長」という動きが現れている
政治の世界に「AI」を掲げて挑む人が出てきました。古くは2018年の多摩市長選で、松田道人氏が「AI市長」を名乗って立候補し、約4,000票を得たと報じられています。同氏は2026年4月の多摩市長選にも「AIメイヤー」として再び挑む構えだと伝えられています。
2024年の東京都知事選では、AIエンジニアの安野貴博氏が、本人そっくりの「AIあんの」というアバターを使い、YouTube上で24時間、視聴者の質問に答え続ける選挙運動を行いました。約7,400件の問いに応答したと報じられ、得票は5位。安野氏はその後、AIで多くの声を集めて可視化する「ブロードリスニング」という手法を掲げ、デジタル民主主義のプロジェクトを進めています。
これらは「AIが政治家の代わりに決める」という極端な話ばかりではありません。多くは「AIを政治の道具として使う」試みです。ただ、言葉として「AI市長」「AIメイヤー」が広まると、“市長の判断そのものをAIに任せられるのでは”という期待(あるいは誤解)も生まれます。ここを冷静に見ておきたいのです。
一方、磐田市役所では「現場のAI」が動き始めている
足元の磐田市はどうでしょうか。市は「磐田市DX推進計画」を掲げ、現場の業務にAIを取り入れ始めています。報道やプレスリリースで確認できる主な取り組みは、次のとおりです。
参考までに、お隣の静岡県湖西市では、生成AIの活用で2023年7月〜2024年2月に約800時間、1年間では年間およそ2,800時間の業務削減を実現したと報じられています。住民向けの案内文づくりなどに使い、職員のAIへの慣れも進んだそうです(数字は各報道時点のもの。最新は各自治体の発表をご確認ください)。
つまり今、二つの流れが同時に走っています。一つは選挙の場の「AI市長」、もう一つは役所の現場の「AIによる作業支援」。言葉は似ていても、中身はまったく別物です。次の章で、私がなぜ前者に慎重で後者に賛成なのか、論点ごとに点検します。
「AIだから良い・悪い」と一括りにしても、議論は前に進みません。大事なのは「何をAIに任せ、何を人が握るか」です。私が気になる論点を四つ挙げます。
論点① 責任は誰が取るのか
政治の判断には、必ず「うまくいかなかったとき、誰が責任を負うのか」がついて回ります。税金の使い道を決め、ある事業を止め、別の事業を増やす。その結果に対し、市長は選挙で、議会は議決で責任を引き受けます。ところがAIは、どれだけ賢く答えても、結果の責任を取れません。落選もしなければ、頭も下げられない。「AIが決めました」では、市民は誰に物申せばよいのか分からなくなります。判断の最終責任は、選挙で選ばれた人間が負う ―― この原則は譲れないと私は考えます。
論点② 政治は「正解探し」ではなく「利害の調整」
計算問題なら、データを入れれば最適解が出ます。しかし市政の多くは、そもそも「全員が得をする正解」が存在しません。子育てに厚く配れば、別の分野は薄くなる。中心部を優先すれば、周辺部から不満が出る。政治の仕事は、この“誰かに我慢してもらう”という痛みを、納得のいく形で調整することです。どの価値を優先するかは、効率では決められません。AIは「最も効率的な案」は示せても、「誰の負担を増やしてよいか」を市民に代わって正統に決める資格は持たないのです。
論点③ 説明できないものは、信頼されない
AIの答えは、なぜその結論になったのかが見えにくい「ブラックボックス」になりがちです。行政の決定は、市民に理由を説明できることが大前提です。「AIがそう言ったから」では、議会でも住民説明会でも通用しません。さらに、AIは学習したデータの偏りをそのまま引き継いでしまう恐れもあります。説明できない決定は、たとえ結論が正しくても、信頼を失います。
論点④ だからこそ「現場のAI」は歓迎したい
ここまでは慎重論ですが、裏を返せば、責任・価値判断・説明が人の手に残るなら、AIは強力な味方だということです。磐田市が進めている書類審査の下準備、議事録の要約、子育て相談の一次対応、案内文の作成 ―― これらはいずれも「判断」そのものではなく、「判断の前の手間」です。ここをAIが肩代わりすれば、職員は確認と対人サービスに時間を回せます。湖西市の年2,800時間という数字は、その時間を市民のために使い直せる、ということでもあります。
| 仕事の種類 | AIに任せてよいか | 理由 |
|---|---|---|
| 議事録の要約・文字起こし | ◎ 任せてよい | 最後に人が確認すれば、作業時間を大きく減らせる |
| 書類審査の下チェック | ○ 補助として可 | 不備の洗い出しは下準備。可否の決定は職員が行う |
| 制度案内・一次相談 | ○ 補助として可 | 24時間の入口に。複雑な判断は職員へ引き継ぐ |
| 予算配分の最終決定 | × 人が決める | 価値の優先順位は政治判断。責任が伴う |
| 個人の処分・許可の最終判断 | × 人が決める | 市民の権利に直結。説明責任を負う必要がある |
ここだけは譲れない一線:「決める」のは人、「準備する」のがAI。AIの出した案を、確認も説明もせずそのまま決定に使うこと ―― これだけは、どんなに便利でも避けるべきだと考えます。
では、磐田市はどうAIと付き合えばよいか。私の提案はシンプルです。AIを“市長の代役”として競わせるのではなく、“職員の右腕”として育てる。そのために、五つのルールを市として明文化してはどうでしょうか。
- 線引きを文章にする。「AIが下準備してよい仕事」と「人が必ず決める仕事」を一覧で示し、誰が見ても分かるようにする。
- 必ず人が最終確認する(ヒューマン・イン・ザ・ループ)。AIの出力はあくまで“たたき台”。決裁の責任者が確認した記録を残す。
- 個人情報とセキュリティの扱いを明記する。どの情報をAIに入れてよいか、庁内の安全な回線で使うか等を、市民に分かる形で公表する。
- 効果を“見える化”する。湖西市のように「何時間減ったか」を定期的に公表し、税金に見合う成果かを市民が点検できるようにする。
- 浮いた時間を対人サービスに回す。削減は人員削減の口実ではなく、窓口対応や見守りなど“人にしかできない仕事”を厚くするために使う。
「AI市長」という言葉は刺激的で、関心を集める力があります。AIで多くの声を集める「ブロードリスニング」のような試みも、道具としては大いに価値があると思います。ただ、それらはあくまで市民と職員の判断を助ける材料であって、判断そのものを肩代わりさせるものではありません。声を集めるのはAIでよい。しかし、その声をどう受け止め、何を優先し、誰に説明するかは、私たちが選んだ人間の仕事です。
反対の立場にも触れておきます。「人間の政治家こそ、しがらみや感情で判断を誤る。むしろAIの方が公平ではないか」という意見はもっともです。実際、人の判断には偏りも怠りもあります。だからこそ、AIに“材料集め”や“下準備”を任せて人の手間と偏りを減らすことには大きな意味があります。ただ、それは「人を助けるAI」であって、「人に代わって責任を負うAI」ではない。公平さを高める道具として使い、最終判断と責任は人が握る ―― この組み合わせが、いまの私たちにとって一番現実的で、健全だと思うのです。
磐田市はすでに、書類審査も、企画立案の支援も、子育て相談も、会議要約も、堅実な一歩を踏み出しています。派手な「AI市長」ではなく、こうした地道な現場改善こそ、私たちの暮らしを静かに良くしてくれる。私はそう信じて、これからも市の取り組みを是々非々で見守っていきたいと思います。
AIに「決めさせる」のではなく、AIに「手伝わせる」。判断と責任は人が握り、作業と下準備はAIが担う。この線引きさえ守れば、磐田市のAI活用は、市民のための時間を増やす味方になります。
出典・参考
- Next Wisdom Foundation「世界初『AI市長』候補 松田道人さん」
- AIメイヤー(多摩市長選2026 候補者 松田道人 公式サイト/ai-mayor.com)
- 東京新聞「AIを力に都知事選に挑んだ安野貴博さん」ほか
- PR TIMES/シブヤ経済新聞「磐田市、生成AIを活用した書類審査業務の効率化に関する連携協定(アンドドット)」
- EnterpriseZine「SDTと静岡県磐田市、生成AIの活用で職員の業務効率化を実証実験」
- Plus Web3/新規事業通信「磐田市が24時間対応の生成AI子育てチャット実証開始」
- 各種自治体AI活用事例まとめ(湖西市の業務削減時間に関する報道)
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