こんにちは、大石浩之です。先日、夜の駅前を歩きました。時刻は午後10時すぎ。まっすぐ伸びる道に、人影はほとんどありません。信号だけが几帳面に色を変え、遠くにテールランプがひとつ、ふたつ。シャッターの下りた店の前を通るたび、「ここにも、昔はにぎわいがあったのだろうな」と思わずにはいられませんでした。
「なぜ、こんなに駅前は寂れてしまったのか」。今日はこの問いを、特定の誰かを責めるためではなく、原因を冷静に分けて、そのうえで「ではどうするか」まで一緒に考えてみたいと思います。
まず、これは磐田だけの話ではありません。地方都市の駅前で、シャッターを下ろしたままの店が並ぶ「シャッター通り」は、1980年代後半からすでに各地で見られる、全国的な現象です。県庁所在地クラスの駅前商店街でさえ、人影がまばらで空き店舗が目立つ、という状況は珍しくなくなりました。磐田の駅前が静かなのは「磐田が特別にダメだから」ではなく、日本の多くの地方都市が同じ流れに巻き込まれている、という前提をまず置いておきたいと思います。
そのうえで、磐田駅前の話です。駅の南口からまっすぐ北へ伸びる道は、地元のJ1クラブ・ジュビロ磐田にちなんで「ジュビロード」と呼ばれ、400mほどまっすぐ続いています。昔をご存じの方に尋ねると、「肉屋さんや洋服屋さんがたくさんあってね」「アーケードの商店街があったよ」「映画館もあった時期がある」と、にぎわっていた頃の光景が次々と語られます。ところが今は、駅前にチェーンの居酒屋が数軒、その先に商店がぽつぽつ、という具合で、人の行き来もまばら。私が夜に歩いて感じた「人影のなさ」は、決して気のせいではなく、長い時間をかけて積み重なってきた変化の、いまの姿だと言えます。
原因は、四つの流れの重なり
つまり、駅前が寂れた原因は「市の努力不足」だけでも「商店主の怠慢」だけでもありません。車・ネット・住まい・世代交代という、いくつもの大きな流れが同時に押し寄せた結果です。原因を一つに決めつけないこと。これが、対策を考えるうえでの出発点だと私は思います。
ここで、多くの方が意外に思う事実があります。磐田市の人口は、減るどころか、長い目で見れば増えているのです。市の統計によれば、2024年3月末時点の人口はおよそ16万6千人。1980年が約14万人ですから、40年あまりで2万人以上増えた計算になります。
「人が増えているのに、なぜ駅前は寂しくなったのか」。一見すると矛盾ですが、ここまで見てきた流れを思い出せば、答えははっきりしています。増えた人口は、駅前ではなく郊外で暮らし、郊外で買い物をするようになった。市全体のパイは大きくなったのに、その人の流れが駅前を通らなくなった――これが正体です。
この「人口とにぎわいのねじれ」を理解しておくことは、とても大事です。なぜなら、「人口が増えれば駅前はまた賑わう」という発想だけでは、問題は解けないからです。必要なのは、人数を増やすことそのものより、「人の流れを、もう一度どうやって駅前へ向けるか」という設計なのです。
これまでの取り組みも、評価すべき点はある
公平のために申し添えれば、磐田市もこの問題を放置してきたわけではありません。JR磐田駅は橋上駅に生まれ変わり、南北の自由通路や南口駅前広場が整備されました。駅北では市街地再開発ビルが建ち、市は「中心市街地活性化基本計画」も策定し、まちなか再生を掲げています。こうした基盤整備そのものは、私は前向きに評価しています。
ただ、率直に言えば、ハコ(建物や道路)を整えるだけでは、人の流れは戻りきっていません。これは磐田に限らず、全国で「まちづくり三法」以降の中心市街地対策が、思うような成果を上げきれなかったことと重なります。立派な再開発ビルが建っても、その周りを人が日常的に歩く理由がなければ、夜の静けさは変わらないのです。だからこそ、次は「建てる」発想から「使われ続ける」発想への転換が要ると、私は考えます。
原因が複合的である以上、特効薬はありません。「昔のにぎやかな商店街に戻す」というのも、正直に言えば現実的ではないでしょう。買い物の主役が郊外とネットに移った以上、駅前を「買い物の中心」に戻そうとするのは、流れに逆らう発想です。私が提案したいのは、駅前の役割そのものを、時代に合わせて静かに描き直すことです。
特に私が大切だと思うのは、①の「住む場所に戻す」という視点です。空き家・空き店舗の再生は、磐田が市全体で抱える課題でもあります。駅前の上階や奥まった店舗を、移住者や若い世帯、あるいは高齢の方が安心して暮らせる住まいに変えていけば、買い物客がいなくても、そこに暮らす人の灯りが残ります。介護や福祉、相続といった分野とも、駅前再生は決して無縁ではありません。むしろ、これからの地方都市の駅前は、「商業の中心」から「暮らしと支え合いの中心」へと役割を移していくのが自然なのではないか、と感じています。
具体的に、市民の立場からできること、行政に期待したいことを整理すると、次のようになります。
- 空き店舗の「所有者・状態・貸す意思」を一度きちんと調べ、貸せる物件を見える化する。
- 家賃を抑えたお試し出店や、改修費の一部補助など、小さく始められる支援を用意する。
- 住まい・福祉・子育ての機能を駅前に呼び込み、「夜も人が暮らす」状態をつくる。
- 夜間の明るさ・ベンチ・小さな広場など、歩いて滞在したくなる工夫を重ねる。
- 郊外と競うのでなく、役割を分担する前提で計画を立て直す。
ひとつ、釘を刺しておきたいこと。「とにかく大きな施設を建てれば賑わう」という発想だけは、慎重であってほしいと思います。立派なハコができても、周りを日常的に人が歩く理由がなければ、維持費だけが市民の負担として残りかねません。建てることがゴールではなく、十年後も使われ続けることがゴールです。
夜の駅前を歩いて感じた静けさは、確かにさみしいものでした。けれど、それは「終わり」ではなく、「次の役割へ移る途中」なのだと、私は受け止めたいと思います。買い物の街としての役目を一度終えた駅前が、暮らしと支え合いの拠点として、もう一度静かに灯っていく。そんな未来なら、十分にあり得ると信じています。大切なのは、誰かを責めることではなく、原因を冷静に分け、自分たちのまちの駅前に「どんな役割を持たせたいか」を、市民みんなで描き直すこと。今日のこの一文が、その小さなきっかけになればうれしく思います。
駅前の静けさは「終わり」ではなく「次の役割へ移る途中」。これからの駅前は、買い物の中心から「暮らしと支え合いの中心」へ。建てて終わりではなく、十年後も使われ続ける形を、市民みんなで描き直したい。
主な出典・参考
- 磐田市公式ウェブサイト「中心市街地活性化基本計画」「都市再生整備計画」「磐田市の人口・統計」
- けんせつ静岡「わが街ウオッチング」磐田駅北・駅前地区再開発
- RIETI「中心市街地のにぎわいをどうやって取り戻すか」、内閣府「中心市街地活性化の重点課題」
- Merkmal「駅前シャッター商店街が放置される根本理由」ほか
数値や計画の内容は時点により変わります。最新の情報は必ず磐田市公式サイト等でご確認ください。