こんにちは、大石浩之です。梅雨に入り、磐田でもまとまった雨の日が増えてきた。テレビでは連日「線状降水帯」という言葉を耳にする。そんな時期にあらためて確かめておきたいのが、自分の住む場所の災害リスクである。
実は今年、磐田市の防災情報まわりに静かな、しかし大きな変化があった。令和8年(2026年)1月から、市の「磐田市地図情報提供サービス」で、洪水・土砂災害・高潮の情報がデジタル地図として提供され始めたのだ。これまで紙の冊子や市役所の窓口が中心だったハザードマップが、自宅のスマホやパソコンで、住所を入れるだけで確認できるようになった。
この記事の要点:磐田市のデジタルハザードマップは、出水期の今こそ価値を発揮する良い一歩だ。ただし「使われてこそ」の仕組みであり、スマホに不慣れな世帯への周知と、紙との併用をどう設計するかが問われている。まずは今夜、家族で一度開いてみてほしい。
令和8年1月に始まった「デジタルハザードマップ」
磐田市は令和8年1月より、「磐田市地図情報提供サービス」を通じて、洪水・土砂災害・高潮の浸水想定などをデジタル地図で提供し始めた。市役所の窓口に出向かなくても、手元のスマートフォンやパソコンでハザードマップを閲覧できる。このサービス自体はもともと道路台帳図や上下水道管網図などを公開してきたシステムで、そこに防災のレイヤーとしてハザード情報が加わった形だ。地図の縮尺を変えたり、住所を検索したり、レイヤーの透過度を調整して航空写真と重ねて見たりと、紙の地図ではできない操作ができる。
磐田が抱える「水」のリスクの全体像
そもそも磐田市は、地形からして水と無縁ではいられないまちだ。市域を整理すると、リスクの種類がはっきり分かれる。
「想定最大規模」という言葉の重み
ここで一つ、地図を見るときに知っておきたい言葉がある。「想定最大規模」だ。洪水の想定最大規模とは、おおむね千年に一度程度の降雨を指す。1年あたりの発生確率でいえば千分の一以下、つまり「めったに起きないが、起きれば極めて大きい」雨である。
「千年に一度」と聞くと、つい「自分が生きているうちは関係ない」と思いがちだ。だが近年、全国で「これまで経験したことのない大雨」という表現が、毎年のように使われるようになった。線状降水帯が同じ場所に居座れば、平年なら数日かけて降る量が数時間で落ちることもある。確率の小ささは、安心の根拠にはならない。むしろ「最悪のときにどこまで水が来るか」を知っておくことが、避難の判断を早める材料になる。地図には「浸水継続時間」という情報も含まれている。同じ浸水でも、すぐ引く場所と、長く水が残る場所では、必要な備えが変わる。長く水が引かない地域では、在宅での垂直避難に頼り切るのは危うく、早めに安全な場所へ移ることが現実的になる。
情報を受け取る手段も整いつつある
- いわたホッとメール:避難所開設情報、避難指示、土砂災害警戒情報、河川の水位情報、同報無線の放送内容などがメールで届く。
- 同報無線(防災行政無線):屋外スピーカーからの放送。聞き取れなかったときは電話応答サービスで内容を確認できる。
- 気象庁「磐田市の防災情報」や県の「サイポスレーダー」:雨雲の動き、危険度分布、雨量・水位がリアルタイムで分かる。
評価できる点:「窓口に行かなくても確かめられる」の価値
最大の利点は、確認のハードルが大きく下がったことだ。紙の冊子は、配られた当時は見ても、引っ越しや時間の経過とともにどこかへしまい込まれてしまいがちだ。スマホで住所を入れればすぐ見られる手軽さは、「いざ気になったその瞬間」に確かめられるという点で本質的に強い。また、デジタルならではの「重ねて見る」力も大きい。航空写真や地図に浸水想定を半透明で重ねれば、「うちの前の道がどう冠水していくか」「最寄りの避難所までの経路は安全か」を、自分の生活圏の解像度でイメージできる。
疑問点1:「始めた」と「使われている」は別物だ
サービスを始めることと、市民に使われることは、まったく別の話である。「令和8年1月からデジタルハザードマップが始まった」ことを、いま磐田市民のどれだけが知っているだろうか。立派な仕組みを作っても、その存在が知られず、開かれなければ、防災上の効果はゼロに近い。
疑問点2:いちばん助けが要る人に、いちばん届きにくい
スマホやパソコンの操作に不慣れな高齢世帯ほど、新しいデジタルサービスから取り残されやすい。災害時に「高齢者等避難」(警戒レベル3)の対象となり、早めの行動が必要なのは、まさにその層だ。避難に時間がかかる人ほど、事前にリスクを把握しておく必要が高い。にもかかわらず、その人たちにこそデジタル地図は届きにくい。ここに「防災の情報格差」がある。
疑問点3:紙をやめてはいないか、という不安
デジタル化の話が出ると、つい「では紙はもう要らないのか」という流れになりがちだ。だが災害時、停電してスマホの充電が切れた状況でこそ、紙の地図は強い。デジタルは「平時にこまめに確かめる」のに向き、紙は「いざというときオフラインで頼れる」点で強い。どちらかではなく、両方を当たり前に持っておく設計思想が、まだ十分に伝わっていない。
市への対案:「届ける」ところまでを、市の仕事に含める
- 広報いわた・回覧で、操作手順を一枚で。「住所を入れる→洪水のレイヤーを表示→自宅の色を確認」までを、文字の大きい図解一枚で全戸に届けてほしい。
- 交流センターや出前講座で「一緒に開く」場を。地域の集まりで、職員や民生委員、地域の若い世代が一緒にスマホを開き、その場で自宅のリスクを確認する。一度やれば「こうやるのか」と腑に落ちる。
- 紙とデジタルの役割を、はっきり言葉にする。「平時はデジタルで、いざというときのために紙も手元に」という方針を市の側から明言し、紙のハザードマップの入手方法を案内し続けてほしい。
- 窓口・電話というアナログの受け皿を残す。デジタルが苦手な人のために、窓口や電話で確認できる体制をコスト削減で細らせないこと。
市民として、今日できること
- 磐田市の地図情報提供サービスで、自宅の住所を入れて洪水・土砂・高潮のリスクを確認する
- 浸水の想定があるなら「何センチか」「垂直避難で足りるか、早めに離れるべきか」を家族で話す
- 最寄りの指定避難所と、そこまでの安全な経路を地図上で確かめる
- いわたホッとメールに登録し、水位・避難情報が届くようにしておく
- 気象庁「磐田市の防災情報」や県のサイポスレーダーをスマホのお気に入りに入れておく
- 紙のハザードマップを一部手元に置き、家族の見える場所に貼っておく
- 離れて暮らす高齢の親には、電話口で一緒に画面を開いてあげる
「自分は大丈夫」という思い込みをほどく
過去に浸水しなかったことは、未来の安全を保証しない。住宅地の開発で水の流れは変わるし、雨の降り方そのものが昔と違ってきている。ハザードマップを開く意味は、この思い込みを一度ほどくことにある。事実を知った上で、「ではどう動くか」を平時の落ち着いた頭で決めておくためだ。そして防災は一軒の家だけで完結しない。デジタル地図を一緒に開く集まりは、リスクを知る場であると同時に、顔の見える関係をつくり直す場にもなる。新しい道具を、人と人をつなぐきっかけにできれば、それがいちばんの防災になるはずだ。
避難の合言葉は、平時に決めておく
| 警戒レベル | とるべき行動 |
|---|---|
| レベル3(高齢者等避難) | 高齢者や避難に時間のかかる人は、この段階で避難を始める。元気な人も準備を。 |
| レベル4(避難指示) | 対象地域の全員が、危険な場所から避難する。「まだ大丈夫」が最も危ない。 |
| レベル5(緊急安全確保) | すでに災害が起きているか、起きる寸前。命を守る最善の行動をとる。 |
冠水した道路や、アンダーパスには進入しない。水深はわずかでも車は流される。少しでも水に覆われていたら、必ず迂回する。
デジタルハザードマップは、磐田市が市民の自助を後押しするための、確かに良い一歩だ。私たち一人ひとりが、自分の住所を一度入力し、家族と「うちはどうする」を話したとき、はじめて命を守る道具になる。
良い道具が用意された。あとは、開くかどうか。まず、あなたとご家族の安全を最優先に。今夜、一度だけでいい、家族で地図を開いてみてほしい。
参考・出典(2026年6月26日時点)
- 磐田市ハザードマップ(磐田市公式)
- 洪水ハザードマップ(磐田市公式)
- 磐田市地図情報提供サービス
- 防災リンク集(磐田市公式)
- いわたホッとメール(磐田市公式)
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