導入——静かに変わった二つの高齢者施策

磐田市の高齢者施策は、選挙や当初予算の総額のように大きく報じられることは少ない。けれども令和七年度、静かに、しかし確実に変わったものが二つある。ひとつは高齢者補聴器購入費助成金の対象年齢引き下げであり、もうひとつは帯状疱疹ワクチンの定期接種化である。いずれも令和七年四月一日から制度が変わり、令和八年度に入った今も続いている。予算額でいえば数千万円規模の事業であり、道路や学校の整備に比べれば決して大きくはない。けれども、多くの高齢者の日々の暮らしに直結する施策だからこそ、一市民としてきちんと中身を見ておきたいと思い、今回はこの二つを取り上げたい。

私は日頃、高齢者の暮らしに近い場所で仕事をしている。だからこそ、こうした制度が「作られたこと」自体よりも「実際に使われているかどうか」の方が気になる。立派な制度ができても、対象となる本人やその家族に伝わらなければ、絵に描いた餅で終わってしまう。今回はその視点も交えながら書いていきたい。

磐田市は第二次総合計画の後期基本計画で「安心できるまち、人が集まる磐田市」を掲げ、「五つの安心」を施策推進の柱に据えている。人口減少と少子高齢化が進むなかで、令和八年度末に約十六万五千七百人以上という将来人口目標も示されている。国勢調査などの統計を見ると、磐田市の高齢化率、つまり総人口に占める六十五歳以上の割合はおよそ二十九パーセント前後で、全国平均とほぼ同水準にある。将来推計では、この割合は今後さらに上昇していくと見込まれている。今回取り上げる二つの施策は、事業規模としては大きくないものの、この「安心」という方向性、そして着実に進む高齢化という現実の中に位置づけられているものだと理解している。

まず補聴器助成である。対象年齢はこれまでの「満七十歳以上」から「満六十五歳以上」に引き下げられた。対象となるのは、市内に住所を有する六十五歳以上で、両耳の聴力レベルが三十デシベル以上、身体障がい者手帳の交付対象とならない方である。耳鼻咽喉科医師による「補聴器の使用で日常生活の聞き取りが改善する見込みがある」という証明が必要で、労災など他の制度による助成を受けていないこと、市税等の滞納がないこと、過去にこの助成を受けたことがないこと、そして本人および世帯全員の市民税所得割額が四十六万円未満であることが条件に加わる。助成額は上限三万円である。窓口は市の高齢者支援課給付グループで、申請は必ず購入前に行う必要がある。

次に帯状疱疹ワクチンである。以前は法令上の定期接種に位置づけられておらず、任意接種として費用が全額自己負担であった。それが令和七年四月から、六十五歳になる方を対象に、予防接種法に基づく定期接種として実施されるようになった。これは磐田市に限った変更ではなく、全国の市区町村で一斉に始まった国の制度変更である。令和七年度から令和十一年度までの五年間は経過措置期間とされ、その年度内に七十・七十五・八十・八十五・九十・九十五・百歳になる方も対象に含まれる。ワクチンには生ワクチンと組換えワクチンの二種類があり、いずれかを選んで接種する。費用の一部は公費で負担され、生活保護世帯や市民税非課税世帯については自己負担が免除される仕組みも用意されている。効果については、帯状疱疹後神経痛という合併症に対して、接種後三年の時点で生ワクチンは六割程度、組換えワクチンは九割以上の予防効果が報告されているとされる。

「定期接種」と「任意接種」の違いは、費用負担だけではない。定期接種として位置づけられると、万一の健康被害が生じた際に、予防接種法に基づく救済制度の対象になる。任意接種のままであれば、独立行政法人による別の救済制度を利用することになり、給付の枠組みが異なる。帯状疱疹ワクチンが定期接種になったということは、単に「安くなった」という以上に、国が制度としてこのワクチンを位置づけ直したという意味を持つ変化である。

この二つの施策に共通しているのは、加齢とともに誰にでも起こりうる問題――聞こえにくさと帯状疱疹――を、症状が重くなる前に支えるという「予防」の発想に立っている点である。派手な新規事業ではないが、多くの高齢者の暮らしに関わりうる施策だからこそ、内容を丁寧に見ておく意味があると思う。

二つの施策、この一年の変化。補聴器購入費助成は対象年齢が満70歳以上から満65歳以上へ拡大(上限3万円)。帯状疱疹ワクチンは任意接種から定期接種になり、費用の一部を公費で負担。
図1 二つの施策、この一年の変化(対象年齢の引き下げと、任意接種から定期接種への切り替え)

評価——是々非々で見る

この二つの施策を、是々非々の立場であらためて評価してみたい。

まず良い点から述べる。聴力の低下を放置すると、人との会話が億劫になり、外出や交流の機会そのものが減っていく。それが心身の活力の低下につながりうることは、医療の分野でも指摘されてきた。二〇一五年に厚生労働省が策定した認知症施策の国家戦略「新オレンジプラン」では、難聴は加齢や高血圧などと並ぶ認知症の危険因子の一つに挙げられている。さらに二〇二〇年には、医学誌ランセットの国際委員会が、予防可能とされる認知症の危険因子のうち難聴が最も影響が大きいと報告している。こうした知見を踏まえれば、対象年齢を七十歳から六十五歳へ引き下げ、聞こえにくさを自覚し始めた早い段階で補聴器につながりやすくしたことは、方向性としては妥当だと私は考える。帯状疱疹についても、発症すれば体に発疹が広がり強い痛みを伴い、治った後も神経痛が長く残ることがある病気である。それを全額自己負担の任意接種から国の定期接種へと位置づけ直し、費用の一部を公費で支える枠組みができたことは、高齢者の暮らしの質を守るという観点で理にかなった判断だと思う。どちらの施策も、症状が重くなってから対応するのではなく、その手前で支えるという考え方に立っている点を、私は前向きに評価したい。

一方で、注文をつけたい点は五つある。

第一に、補聴器助成には見落としやすい落とし穴がある。「購入後の申請は対象とならない」という点である。先に補聴器を買ってしまってから制度の存在を知った、という人が出やすい設計であり、耳鼻咽喉科や補聴器販売店の店頭で、購入を検討し始めた時点で「まず申請を」という情報が自然に届くようにしておく必要がある。窓口で「もう遅い」と伝えることになる前に、情報が先回りして届く仕組みを整えるべきである。

第二に、所得要件の「はざま」の問題である。本人および世帯全員の市民税所得割額が四十六万円未満、という基準そのものに異論はないが、この基準のすぐ上に位置する、決して余裕があるわけではない世帯が対象から外れてしまう構造がある。しかも助成額の上限三万円は、補聴器の実勢価格からすると心もとない水準でもある。近隣自治体と比べても、たとえば掛川市は六十五歳以上で上限五万円、四十歳から六十四歳でも上限二万円としており、湖西市も六十五歳以上で上限三万円という水準にある。磐田市の制度が対象年齢の引き下げという点で前進した一方、助成額そのものは近隣と比べて手厚いとは言えない位置にあることは、率直に指摘しておきたい。

補聴器購入費助成の上限額(65歳以上)の近隣市比較。磐田市は上限3万円、掛川市は上限5万円、湖西市は上限3万円。
図2 補聴器購入費助成の上限額(65歳以上・近隣市の比較)。対象年齢や要件は各市で異なる。

第三に、帯状疱疹ワクチンの経過措置対象年齢が、七十・七十五・八十というように五歳刻みで区切られている点である。制度設計としては合理的だが、市民の側からすると「自分が対象になる年度を逃さないように覚えておく」という負担が生じる。案内が届いた年度に接種を検討しなければ、次に対象になるのは五年後になってしまう可能性がある。忙しさや体調の都合でその年に判断できなかった人が、静かに機会を逃していく制度でもある。加えて、ワクチンには二種類あり、効果や接種回数、自己負担額もそれぞれ異なる。自己負担額は医療機関や自治体によって幅があり、他の自治体の例を参考情報として挙げると、組換えワクチンで一回あたり一万円台後半、二回接種で三万円台になるケースも見られる。定期接種になったとはいえ、家計にとって決して小さくない出費であることに変わりはなく、案内を受け取った本人が、どちらのワクチンを選べばよいのか、費用と効果のバランスも含めて迷うことは十分に想定される。

第四に、情報の透明性である。市の公式ページでは制度の説明や申請方法は丁寧に示されているが、実際に何人が申請し、何人が接種を受けたのかという実績数値は、少なくとも一般に公開されているページの中では見当たらなかった。制度を作ったこと自体は評価できるが、その先にある「実際にどれだけの人に届いているか」を市民が確認できる形にしてこそ、施策の検証が可能になる。

第五に、情報が届く経路の問題である。市の公式ウェブサイトや公式LINEは便利な手段だが、対象となる高齢者の中には、こうしたデジタルの経路に日常的には触れていない方も少なくない。補聴器助成にしても帯状疱疹ワクチンにしても、本人が自分から情報を探しに行かなければ気づきにくい制度である。町内会の回覧板や民生委員を通じた声かけ、地域包括支援センターの窓口など、これまで高齢者福祉で使われてきたアナログな経路もあわせて活用しなければ、本当に情報を必要としている人にはかえって届きにくいのではないかと感じている。

対案・結論——五つの提案

こうした評価を踏まえて、私は次の五点を提案したい。

第一に、補聴器助成の「購入前申請」というルールを、市の窓口や広報だけでなく、耳鼻咽喉科や補聴器販売店の店頭でも周知されるよう、市から医療機関・販売店への協力依頼を強めてほしい。購入を検討し始めるまさにその場面で情報が届くことが、この制度を生きた制度にする一番の近道だと思う。

第二に、所得要件のはざまに落ちる世帯への目配りである。基準額そのものをすぐに見直すのが難しいのであれば、せめて相談窓口の段階で、紙おむつ購入費助成や訪問理美容サービスなど、他の高齢者福祉サービスとあわせて案内し、使える制度を一つでも多く漏れなく届ける工夫を続けてほしい。助成額についても、近隣市の水準を踏まえた将来的な見直しの検討を求めたい。

第三に、帯状疱疹ワクチンの対象年齢の周知と、ワクチンの選び方の情報提供である。広報いわたや市の公式LINEなどで、年度替わりのタイミングに「今年度、あなたは対象になりますか」と具体的に問いかける形の案内を、経過措置が終わる令和十一年度まで粘り強く続けてほしい。あわせて、二種類のワクチンの違いをかかりつけ医と相談しやすくする一言も、案内に添えてもらえるとありがたい。

第四に、申請件数や接種件数といった実績データを、年に一度でよいので広報いわたや市の公式ウェブサイトで公表してほしい。予算をつけて制度を作ったところで終わりにせず、「どれだけの人に届いたか」を市民と共有することが、次の予算編成や制度改善の議論にもつながるはずである。

第五に、デジタルの経路に偏らない周知の徹底である。町内会の回覧板、民生委員による声かけ、地域包括支援センターや高齢者支援課の窓口対応など、これまで積み重ねてきたアナログな経路を軽視せず、公式サイトや公式LINEと並行して使い続けてほしい。制度がどれほど整っていても、情報が届かなければ利用にはつながらない。

これらは、予算の総額で見れば決して大きな事業ではない。けれども、聞こえにくさを我慢して人と話すのが億劫になる高齢者や、帯状疱疹の痛みに苦しむ高齢者を一人でも減らせるとすれば、その効果は金額以上に大きいはずである。聞こえにくさを放置して交流が減り、心身の活力が落ちてから支援につながるのと、早い段階で補聴器を使い始めて会話を保てるのとでは、本人の暮らしの質はもちろん、その後の医療や介護にかかる社会全体の負担も、長い目で見れば違ってくるはずである。帯状疱疹についても同じで、発症してから長く神経痛に苦しむよりも、予防できるところは予防しておくほうが、本人にとっても、支える家族にとっても負担は小さい。制度は作って終わりではなく、必要な人にきちんと届いて初めて意味を持つ。磐田市には、この「地味だが効く」施策を、最後まで市民に届くところまで仕上げてほしいと思う。

最後に一言。私自身、高齢者の暮らしに近い場所で働く中で、「制度はあるのに、本人がその存在を知らなかった」という場面を何度も見てきた。今回取り上げた二つの施策も、知っているかどうかで暮らしの質が変わってくる。この記事が、身近な家族や知人に「こんな制度があるらしいよ」と伝えるきっかけの一つになれば、書いた甲斐があると思っている。

出典(2026年7月確認)

  • 磐田市公式ウェブサイト「高齢者等在宅福祉サービス」(高齢者補聴器購入費助成金)
  • 磐田市公式ウェブサイト「おとなの予防接種」「令和7年度 帯状疱疹予防接種」関連ページ
  • 磐田市広報「共創で未来を育む投資予算」令和7年度予算概要/令和8年度当初予算「基本的な考え方」
  • 厚生労働省「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」(2015年)
  • Lancet Commission on dementia prevention, intervention, and care(2020年)に関する各種紹介記事
  • 静岡県内自治体の補聴器助成制度に関する比較情報(各自治体公式サイト・専門店解説記事、2025〜2026年時点)

※金額・要件・対象年齢等は変更される可能性があります。最新情報は必ず磐田市公式サイトでご確認ください。