導入——膨らんだ予算が、772億円に戻った

昨年、私はこのページで「初めて800億円を超えた予算」の話を書いた。令和7年度の磐田市一般会計当初予算が869億7,000万円と、前年度比17.1%増で市として初めて800億円台に乗ったという話である。そのとき私は、膨らむ予算をどこか一過性のものとして見ておいたほうがよい、と書いた。そして令和8年度、予算は771億9,000万円へと、前年度比11.2%の減となった。数字だけを見れば、およそ98億円が一年で消えた計算になる。市民の立場からすると、まず「何かサービスが削られたのか」と身構えてしまう。今回は、この「縮んだ予算」を、家計の目線でできるだけ落ち着いて読み直してみたい。

まず事実を並べる。磐田市の一般会計当初予算は、令和6年度が742億円(当時の過去最大)、令和7年度が869億7,000万円(前年度比17.1%増・初の800億円台)、そして令和8年度が771億9,000万円(同11.2%減)である。三年を通して見ると、いったん大きく膨らみ、そして今年しぼんだ、という形がはっきり見えてくる。

では、なぜ令和7年度はあれほど膨らんだのか。報道や市の説明によれば、海岸堤防の整備と、向陽学府の小中一体校の整備という、大型のハード事業(建物や施設をつくる工事)が重なってピークを迎えたことが大きな理由とされている。つまり令和7年度の「800億円台」は、いわば工事のヤマ場で一時的に膨らんだ数字であり、そのヤマ場が過ぎれば予算が下がるのは、ある意味で織り込み済みの動きだったといえる。令和8年度の11.2%減は、突然サービスを切ったから減ったのではなく、大きな工事が一段落したことによる「戻り」の色合いが濃い。

磐田市一般会計当初予算の推移。令和6年度742億円、令和7年度869億7,000万円(前年度比17.1%増・初の800億円台)、令和8年度771億9,000万円(前年度比11.2%減)。海岸堤防・小中一体校など大型ハード事業のピークアウトで戻った。
図1 磐田市一般会計当初予算の推移(3か年)。令和7年度に大型ハード事業のピークで膨らみ、令和8年度に戻った。

もうひとつ押さえておきたいのは、いま挙げている771億9,000万円は「一般会計」だけの数字だという点である。市の予算はこの一般会計のほかに、国民健康保険や介護保険などの特別会計、水道・下水道や病院などの企業会計を持っている。令和8年度の総予算は、これらを合わせて1,521億3,014万円あまり(前年度比4.4%減)にのぼる。内訳は、一般会計が771億9,000万円、特別会計が333億8,000万円あまり(同2.5%増)、企業会計が415億5,000万円あまり(同4.9%増)である。一般会計は減ったが、特別会計と企業会計はむしろ増えている。ここは後でもう一度触れたい。

令和8年度予算に、市は「安心できるまち!共に創ろう魅力ある磐田」という基本目標を掲げ、「みんなで磨く!みんなでカケル!魅力づくり予算」というテーマを付けている。掲げられた言葉の是非よりも、私はその中身が暮らしにどう届くのかを見たい。以下、是々非々で読んでいく。

評価——是々非々で見る

まず、良いと思う点から述べたい。

第一に、予算が縮んだこと自体を、私は必ずしも悪いこととは受け止めていない。大型のハード事業がピークを越えて予算が戻るのは、財政の動きとしてはむしろ健全な形である。工事のヤマ場に合わせて借入をふくらませ、それが何年も高止まりし続けるほうが、あとの世代にとっては重い。膨らんだものが適切なタイミングで戻るというリズムがあること自体は、まず落ち着いて評価しておきたい。

第二に、予算全体が縮むなかでも、暮らしに直結するソフトの部分を削らずに保った姿勢である。市の説明によれば、令和8年度は民間の認可保育園などへの給付費を拡充し、障がいのある方への給付費も増やしている。物価高が続くなかでのプレミアム商品券の事業も盛り込まれている。工事が一段落して総額が下がる局面で、子育てや福祉、物価対策といった足元の支えを縮めなかったことは、方向性として妥当だと考える。予算が減ったからといって、暮らしの支援まで一律に削るのが正しいとは限らない。むしろ、削るべきでないところを守ったかどうかが問われる局面であり、その点は一定の評価に値する。

令和8年度磐田市の総予算1,521億3,014万円の内訳。一般会計771億9,000万円、特別会計333億8,000万円、企業会計415億6,000万円。一般会計は全体の約半分にすぎない。
図2 令和8年度の総予算1,521億円あまりの内訳。ニュースで報じられる「一般会計」は全体の約半分にすぎない。

一方で、注文をつけたい点は五つある。

第一に、「減った」という言葉の中身である。海岸堤防、小中一体校、そして近年整備が進む新しい消防庁舎——こうした大きな箱ものは、つくるときの工事費のヤマは過ぎても、そこから先は維持管理や運営にかかる費用が毎年ついてまわる。建てる費用のピークが過ぎたことと、支える費用がこれから続くことは、別の話である。今年の当初予算が11.2%減ったという一点だけを見て「これから財政はラクになる」と早合点するのは危うい。つくった施設をこの先どれだけの費用で支え続けるのか、その見通しこそ市民に丁寧に示してほしい。

第二に、物価対策としてのプレミアム商品券の位置づけである。商品券は、配られた時期にはたしかに家計の助けになる。しかし物価高そのものは一度きりの出来事ではなく、じわじわと続いている。単発の商品券は、その場の下支えにはなっても、続く物価高に対する恒常的な備えにはなりにくい。一過性の給付をくり返すことと、必要な世帯に届き続ける仕組みをつくることは、似ているようで違う。

第三に、先ほど図2で見た「会計のちがい」である。ニュースで大きく報じられるのは一般会計の総額だが、それは市の予算全体の約半分にすぎない。一般会計が11.2%減った一方で、水道・下水道や病院などの企業会計は4.9%増え、国民健康保険や介護保険などの特別会計も2.5%増えている。市民が実際に負担するのは、税金だけでなく、水道料金や各種保険料も含めた総体である。「一般会計が減った」ことと、「暮らしの負担が軽くなった」ことは、必ずしも同じではない。市民が払う総額の視点を欠いたまま「減額」だけを見ると、実感とのズレが生まれる。

第四に、予算のテーマの伝え方である。「みんなで磨く!みんなでカケル!魅力づくり予算」という言葉は勢いがあるが、勢いのある言葉ほど、その裏で足元の暮らし——物価、子育て、介護、水道——にどれだけの額が向けられているのかが見えにくくなりがちである。魅力づくりを掲げること自体を否定はしないが、それと並べて、暮らしを支える基礎的な支出がどこにどれだけ置かれているのかを、一枚でわかる形にしてほしい。

第五に、貯金と借金の見えにくさである。予算の総額が上下する裏側では、市の基金(貯金にあたるもの)と市債(借金にあたるもの)の残高が動いている。工事のヤマ場で借入がふくらんだのであれば、それをこれからどのくらいの年月をかけて返していくのか。家計でいえば、今年いくら使ったかだけでなく、貯金と借金がいくら残っているかこそが将来を左右する。その残高の推移が、当初予算の説明のなかでは市民に伝わりにくい。

対案・結論——五つの提案

こうした評価を踏まえて、私は次の五点を提案したい。

第一に、予算を「家計簿」に翻訳した一枚要約を、市民向けに用意してほしい。入ってくるお金(税や国からの交付金)、出ていくお金(暮らしの支援・箱ものの整備・借金の返済)、そして残高(貯金と借金)を、家計になぞらえて一枚で示す。総額の増減だけでなく、「わが家の家計に置き換えると今年はこういう年だった」と伝わる資料があれば、市民が予算を自分ごととして受け止めやすくなる。

第二に、大型のハード事業が完成したあとの、維持管理と運営にかかる費用の見通しを公表してほしい。海岸堤防や小中一体校、消防庁舎といった施設を、この先どれだけの費用で支え続けるのか。つくる費用のピークが過ぎた今だからこそ、支える費用の見取り図を示す意味がある。

第三に、物価対策を、単発の商品券から、続く物価高に届き続ける仕組みへと育ててほしい。すべてを恒常化するのが難しいのであれば、せめて本当に苦しい世帯に的を絞り、年度をまたいで途切れないかたちで支える工夫を検討してほしい。一度きりの配布を毎年くり返すよりも、必要な人に確実に届く継続的な支えのほうが、家計にとっては心強い。

第四に、一般会計だけでなく、特別会計と企業会計を含む「市民が実際に払う総額」で予算を説明してほしい。水道料金や保険料の負担も含めて全体像を示すことで、「一般会計は減ったのに、暮らしの負担感は減らない」という市民の実感と、行政の説明とのあいだのズレを、少しでも埋めることができるはずである。

第五に、基金と市債の残高の推移を、毎年、グラフのようなわかりやすい形で公表してほしい。今年いくら使ったかという単年の話に加えて、貯金と借金がどう動いてきたかを時系列で見せることが、次の年の予算を市民と一緒に考える土台になる。

ここまで書いてきたことは、要するに「数字の大小に一喜一憂せず、中身と流れで見よう」という一点に尽きる。令和8年度の予算が772億円に戻ったことは、それ自体は驚くようなことではなく、大きな工事のヤマ場が過ぎた自然な結果である。大事なのは、しぼんだ総額の内側で、暮らしを支える部分がきちんと守られているか、そしてつくった施設をこれからどう支え、借りたお金をどう返していくのか、という中身と流れのほうである。予算は、金額の大きさそのものよりも、その使い道と、あとに残る貯金と借金の姿にこそ、まちのこれからが表れる。

最後に一言。私自身は財政の専門家ではなく、まちで小さな商いをしながら暮らす一市民にすぎない。それでも、予算の話を「難しいから」と行政や議会だけに預けてしまうと、気づいたときには暮らしの負担だけが増えていた、ということになりかねない。今年の予算が去年より減ったと聞いて、ほっとするのでも不安になるのでもなく、「その中身はどうだったのか」と一度立ち止まる。この記事が、そんなふうに市の予算を家計の目線で眺めてみる、ささやかなきっかけになればうれしい。

出典(2026年7月確認)

  • 磐田市公式ウェブサイト「令和8年度 当初予算」「令和7年度 当初予算」「令和6年度 当初予算」各ページ
  • 磐田市公式ウェブサイト「令和8年度当初予算(案)のポイント」(記者発表資料)
  • 磐田市公式ウェブサイト「令和7年度施政方針」
  • 静岡新聞・中日新聞ほか各紙による磐田市当初予算案の報道(2024〜2026年時点)

※金額・比率・事業内容等は変更される可能性があります。最新情報は必ず磐田市公式サイトでご確認ください。