導入――無料で学べることは前進である。だが、受講後の行き先まで見えているか

磐田市公式ウェブサイトに、2026年7月3日更新で「静岡県防災士養成講座(磐田市サテライト会場)開催」という案内が掲載されている。市によれば、この講座は防災に関する専門知識や実践力を身につけ、防災現場のリーダーとして活躍できる人材を養成し、地域の防災力向上を図るものだという。受講料は無料で、テキスト代5,000円は磐田市が負担する。対象は磐田市民で、一般の方に加えて大学生・専門学生も含まれる。定員は50人、先着順である。

私は、この取り組みをまず前向きに受け止めたい。防災は、いざ災害が起きてから急に強くなるものではない。避難所の開け方、声かけの順番、要配慮者への気づき、地域の備蓄、情報の取り方、初動の迷い。こうしたものは、平時に少しずつ学び、顔の見える関係の中で積み上げるしかない。磐田市内にサテライト会場を置き、費用面の負担を下げ、学生も対象に含めることは、地域の担い手を広げる入口になる。

一方で、ここで満足してはいけないとも思う。講座を開けば担い手が増える、資格名が付けば地域が強くなる、というほど防災は単純ではない。大切なのは、受講した人がその後どこで、誰と、何をするのかである。地域防災の現場は、自治会、自主防災組織、地域づくり協議会、学校、福祉、事業所、消防団、避難所運営など、いくつもの場所に分かれている。せっかく学んだ人が地域に戻っても、役割が見えなければ、学びは個人の知識で止まってしまう。

さらに、資格名の説明も丁寧にする必要がある。磐田市のページには、オンライン講座のため、日本防災士機構の認定講座にはならないと明記されている。静岡県の受講案内でも、オンラインのCコースは修了すれば「静岡県防災士」の称号は得られるが、資格試験の受験資格は取得できないと説明されている。これは悪いことではない。県の制度として地域防災の人材を育てる意義はある。ただ、市民には「防災士」という言葉だけが先に伝わると、全国的な防災士資格と混同されるおそれがある。最初から違いをはっきり説明することが、受講者への誠実さである。

図1:磐田市サテライト会場の募集概要
図1 磐田市公式ページから見える、2026年度静岡県防災士養成講座サテライト会場の主な募集概要。

評価――入口はよい。課題は「地域で動く人」までつなぐ設計である

今回の案内で良い点は、いくつかある。第一に、受講料無料という入口の作り方である。防災の学びは本来、地域の公共性が高い。本人の関心だけに頼って費用を負わせるより、市が一定の負担をして受講しやすくすることは理にかなっている。特に5,000円のテキスト代は、関心はあるが迷っている人にとって小さくない。市が負担することで、一歩踏み出しやすくなる。

第二に、会場を豊田支所大会議室に置く点である。県の講座をすべて静岡市方面で受けるとなると、磐田市民には移動の負担が大きい。サテライト会場が市内にあるだけで、参加の現実味はかなり変わる。防災の担い手を広げたいなら、学びに来てくださいと言うだけでなく、学びに来られる場所を用意することが大事である。

第三に、大学生・専門学生も対象に含めている点である。防災というと、地域役員や自治会関係者が中心になりがちである。もちろんその方々の経験は欠かせない。しかし、災害時には若い力も必要である。スマートフォンで情報を扱える人、体力のある人、学校や職場を通じて周囲へ広げられる人が地域にいることは心強い。若い世代が「地域のために動く経験」を持つことは、将来のまちづくりにもつながる。

ただし、注文もある。まず、日程は全7回で、2026年8月26日から9月11日までの平日を中心に設定されている。加えて、磐田市の独自講座が1回予定されているが、日程と場所は未定である。これは学びとしては本格的だが、働く世代や子育て世代には参加のハードルが高い。防災の担い手を本気で増やしたいなら、「受けたい人」だけでなく「受けたいが時間が難しい人」にどう届くかを考えたい。

次に、50人という定員をどう生かすかである。50人は少なくない。各地区に少しずつ広がれば、大きな力になる。一方で、50人がそれぞれ個人として修了して終われば、地域の実感は変わりにくい。例えば、受講前に「どの地区で活動したいか」「避難所運営、要配慮者支援、訓練の補助、情報発信、学校との連携など、どの分野に関心があるか」を聞いておき、修了後に地域の活動へつなぐ仕組みが必要ではないか。

防災の現場で難しいのは、知識よりも役割である。避難所で誰が受付をするのか。高齢者世帯へ誰が声をかけるのか。外国人住民への情報は誰が橋渡しするのか。停電時にスマートフォンが使えない人へどう伝えるのか。自治会に入っていない人をどう把握するのか。福祉施設、学校、地域団体、事業所は、どのタイミングで連絡を取り合うのか。こうしたことは、講座の教室だけでは完結しない。地域の中に戻して、具体的な動きに落とし込む必要がある。

私は、高齢者の暮らしに近い仕事をしていると、災害時の不安は机上の話ではないと感じる。ひとり暮らしの高齢者、足腰に不安のある方、耳が聞こえにくい方、家族が遠方にいる方、認知症のある方。避難情報が出ても、すぐに動けるとは限らない。地域防災の担い手には、地図を読む力だけでなく、「あの家は大丈夫だろうか」と思い出せる関係性が必要である。講座で知識を学んだ人が、地域の福祉や見守りとつながれば、災害時の初動はかなり変わる。

もう一つ大事なのは、行政が市民に頼る時の姿勢である。共助は、市民への丸投げではない。市が何を用意し、地域が何を担い、専門機関がどこを支えるのか。この分担が見えないまま「地域で助け合いましょう」と言われても、現場は疲れてしまう。担い手を増やすなら、同時に担い手を孤立させない仕組みを作らなければならない。

講座だけで終わらせないための論点

ここで、講座を地域の力につなげるための論点を整理したい。

一つ目は、受講前の説明である。静岡県防災士とは何か、日本防災士機構の認定講座ではないとはどういう意味か、修了後に地域でどんな活動が想定されるのか。ここを分かりやすく示すことで、受講者は期待値を合わせて参加できる。

二つ目は、地区との接続である。受講者がどの地域に住み、どの活動に関心があるのかを、本人の同意を前提に整理する。そして地域づくり協議会や自主防災組織などへ、修了者が無理なく関われる入口を作る。名簿を渡せばよいという話ではない。顔合わせ、役割説明、初回の訓練参加まで伴走することが大事である。

三つ目は、学び直しである。一度講座を受けても、地域の課題は変わる。水害、地震、猛暑、停電、感染症、避難所の混雑、ペット同行、外国人住民への情報提供など、毎年見直すべき点は多い。修了者向けの年1回のフォローアップや、地区別の情報交換会があれば、知識が古びにくい。

四つ目は、成果の見える化である。何人が申し込み、何人が修了し、どの地区にどれだけ広がり、修了後にどんな活動へ参加したのか。個人情報に配慮しながら、概要だけでも公開すれば、市民は「講座が地域の力になっているか」を確認できる。行政にとっても、翌年度の改善につなげやすい。

図2:受講後に地域で動く人へつなぐ流れ
図2 講座を「受けて終わり」にせず、地域で動ける担い手へつなぐための考え方。

対案・結論――「受講者を増やす」から「地域に残る仕組みを作る」へ

では、磐田市の防災士養成講座を、地域防災の担い手づくりにつなげるには何が必要か。私は、次の六点を提案したい。

一、公式ページに資格名の違いを一目で分かる形で出す

まず、「静岡県防災士」と「日本防災士機構の防災士資格」は何が違うのかを、表で示してほしい。どちらが上か下かという話ではない。受講者が誤解なく申し込めることが大事である。特に、オンライン講座は日本防災士機構の認定講座ではないこと、資格試験の受験資格とは別であることは、募集ページの中で目立つ場所に置くべきである。

二、申し込み時に「地域でやってみたいこと」を聞く

申し込みフォームで、地区名、関心分野、参加できそうな活動を任意で聞く。避難所運営、訓練補助、情報発信、要配慮者支援、学校との連携、備蓄点検など、選択肢を用意するだけでもよい。受講後の接続を考えるには、最初から「どこで生かすか」を意識してもらうことが有効である。

三、磐田市独自講座を「地域接続」の時間にする

市独自講座の詳細は、2026年7月8日時点では未定とされている。この1回を、単なる追加講義にするのはもったいない。磐田市内の災害リスク、各地区の避難所、自治会・自主防災組織との関わり方、福祉や外国人住民への配慮、修了後の活動メニューを扱う時間にしてはどうか。県の講座で学んだ一般知識を、磐田の現場へ翻訳する場にするのである。

四、修了者の顔合わせと地区別マッチングを行う

修了後に、地区別の顔合わせを設ける。自治会や地域づくり協議会の担当者、自主防災組織、学校関係者、福祉関係者と、修了者が顔を合わせる機会である。防災は、知らない人同士で急に動けない。平時に一度会っておくだけでも、災害時の声かけはしやすくなる。

五、若い世代が参加しやすい導線を作る

学生を対象に含めているのはよい。だからこそ、修了後に学校、地域活動、ボランティア、事業所でどう生かせるかを示したい。若い人に「地域役員をやってください」といきなり言っても重い。まずは訓練の受付、SNSでの周知、避難所設営の補助、地域イベントでの防災展示など、入りやすい役割から始められるようにする。小さな参加を積み重ねることが、将来の担い手につながる。

六、翌年度に改善点を公表する

講座が終わった後、翌年度の募集前に、実施結果と改善点を公表してほしい。定員50人に対して申し込みはどうだったか。途中で参加が難しくなった人はいなかったか。平日日程は支障にならなかったか。修了者は地域活動につながったか。こうした振り返りを出せば、講座は毎年良くなる。公表することで、市民の関心も続く。

防災士養成講座は、地域防災の担い手を増やせるか。私の答えは、「講座だけでは増えない。しかし、受講後の行き先を設計すれば、確実に種になる」である。50人の受講者が、それぞれの地区で一人ずつ声をかけ、訓練を支え、避難所の動きを理解し、高齢者や子ども、外国人住民にも目を向けるようになれば、磐田の防災力は底上げされる。

災害時に頼りになるのは、肩書きだけではない。顔を知っていること、地域を歩いていること、迷った時に声を出せること、役割が分かっていること。その土台を作るために、今回の講座を「資格を取る場」だけで終わらせず、「地域に戻る入口」として設計してほしい。

市が費用を負担し、市内に会場を置き、学ぶ機会を作る。ここまではよい。次に必要なのは、学んだ人を孤立させず、地域の中で生かす仕組みである。防災は、行政だけでも、地域だけでも守れない。だからこそ、講座の先にある共助の作り方を、今から具体的に考えたい。

出典(2026年7月確認)

※日程・定員・受講要件・資格の扱い等は変更される可能性があります。最新情報は必ず磐田市公式サイトおよび静岡県公式サイトでご確認ください。