導入――学校再編を「賛成か、反対か」だけで終わらせてはいけない
学校再編の話になると、すぐに「賛成か、反対か」と聞かれる。子どもの数が減っている。校舎が古くなっている。先生の配置も難しくなっている。だから統合した方がよい、という声がある。一方で、学校がなくなれば地域が寂れる。通学が遠くなる。子どもの顔が地域から見えなくなる。だから残すべきだ、という声もある。
どちらの声にも理由がある。だからこそ、この話を単純な二択にしてはいけない。学校再編は、校舎の場所を変えるだけの話ではない。子どもの学び、保護者の生活、地域の行事、通学路、防災、放課後の居場所、そして跡地の使い方まで、暮らし全体に広がる話である。
2026年7月9日時点で見ると、磐田市公式ウェブサイトには「新時代の新たな学校づくり」のページがあり、その中で向陽学府小中一体校などの情報が整理されている。向陽学府では、2026年4月に向陽小学校が開校し、向陽中学校と同じ校舎で小中一体校となった。一体校となるにあたり、岩田小学校、大藤小学校、向笠小学校は2026年3月をもって閉校を迎えたことも、市のページで説明されている。
これは、どこか遠くの話ではない。磐田の中で、すでに起きている話である。そして、これから別の地域でも同じような議論が起きる可能性がある。だから私は、最初にこう書いておきたい。
小学校をなくすということは、地域コミュニティをなくした果てにあるものだ。
これは、統合に絶対反対だという意味ではない。小規模校の課題を見ないという意味でもない。むしろ逆である。小学校をなくす判断は、地域のつながりが先に弱り、子どもの声が地域から遠ざかり、学校が地域の中心でなくなっていった先に出てくる。だから、最後に「学校をどうするか」だけを議論しても遅い。問うべきは、学校がなくなる前に、地域をどう立て直すのかである。
評価――小学校は、教育施設であると同時に地域の核である
文部科学省の「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」は、学校規模の見直しについて、児童生徒の教育条件の改善を中心に考えるべきだとしている。同時に、小中学校は教育施設であるだけでなく、地域コミュニティの核として、防災、保育、地域交流など多様な機能を持つことが多いとも整理している。ここが大事である。学校は、勉強する場所であると同時に、地域が自分を地域として感じる場所でもある。
だから、学校再編を考える時には、少なくとも五つの視点を分けて見る必要がある。
一、子どもの視点――人数が増えれば、それだけで良いとは限らない
小規模校には課題がある。クラス替えがしにくい。多様な意見に触れる機会が限られる。集団活動の幅も狭くなる。これは現実である。一定の集団規模があった方が、学びが広がる場面は確かにある。
ただし、統合すれば自動的に子どもが幸せになるわけでもない。学校が遠くなる。友人関係が変わる。先生との距離感が変わる。低学年の子にとっては、朝の出発時間、帰宅時間、雨の日の通学、不安な時に戻れる場所の有無が大きい。子どもの視点で必要なのは、「大きい学校か小さい学校か」ではなく、「その子が安心して通い、学び、人と関われるか」である。
二、保護者の視点――通学は、家庭の一日の組み立てを変える
学校が遠くなると、保護者の生活も変わる。スクールバスがあれば解決、というほど簡単ではない。集合場所まで誰が送るのか。下校後、放課後児童クラブや習い事へどう移動するのか。熱が出た時に誰が迎えに行くのか。仕事の時間とどう合わせるのか。兄弟姉妹で学校や園が分かれる家庭はどうするのか。
学校再編の説明では、地図上の距離やバス路線だけが示されがちである。しかし、保護者が知りたいのは、毎日の生活がどう変わるかである。朝何時に家を出るのか。帰宅は何時になるのか。台風や大雨の時はどうするのか。そこまで見えなければ、安心して判断できない。
三、地域の視点――学校が消えると、地域の予定表から子どもが消える
小学校は、地域の予定表の中心にある。入学式、運動会、資源回収、避難訓練、地域探検、登下校の見守り、PTA、学校支援、校区の行事。学校があるから、地域の大人は子どもの顔を知る。子どもも、自分がどの地域で育っているのかを体で覚える。
小学校がなくなると、単に校舎がなくなるだけではない。地域の大人が子どもと出会う口実が減る。自治会や地域づくりの活動に、子育て世代が関わるきっかけが減る。地域の行事が、学校を通じて家庭へ届きにくくなる。これが積み重なると、地域は「住む場所」ではあっても、「育つ場所」ではなくなっていく。
ここを軽く見てはいけない。小学校をなくすということは、地域コミュニティをなくした果てにあるものだ。だから、学校をなくすか残すかを語る前に、地域コミュニティそのものをどう残すか、どう作り直すかを語らなければならない。
四、通学の視点――距離だけでなく、時間、危険、体力、放課後まで見る
文部科学省の手引でも、統合により通学距離が長くなる場合には、通学路の安全点検、集団登下校、地域全体での見守り体制などが必要だとされている。スクールバスを導入する場合も、乗車時間、到着時間、授業への入り方、放課後活動との関係まで考える必要がある。
つまり、通学は「何キロまでならよい」という線引きだけでは足りない。実際に歩く道は安全か。冬の夕方は暗くないか。バスを待つ場所に屋根はあるか。障害のある子どもや、体力に不安のある子どもはどうするか。放課後に遊ぶ時間、補習の時間、地域活動に参加する時間は残るのか。通学の設計は、子どもの一日全体の設計である。
五、跡地利用の視点――「あとで考える」では地域は納得しない
学校再編で最も後回しにされやすいのが、跡地利用である。新しい学校の場所、校舎、教室、体育館、通学方法は説明されても、閉校後の校舎やグラウンドをどうするのかは、後から検討するとされがちである。しかし、地域にとってはそこが核心である。
体育館は避難所として残るのか。グラウンドは地域行事に使えるのか。校舎は交流拠点、子育て支援、高齢者の居場所、民間活用、防災備蓄、地域資料の保管場所になり得るのか。維持費は誰が持つのか。使わないまま老朽化するのか。跡地の未来が見えなければ、地域は「学校だけ持っていかれる」と感じる。
対案・結論――学校をなくす前に、地域を残す設計を出すべきである
では、学校再編を賛否だけで終わらせないために、何を示すべきか。私は、少なくとも次の七点を、最初の段階で見える化してほしい。
一、決まっていることと、決まっていないことを分ける
地域が一番不安になるのは、「もう決まっているのではないか」と感じる時である。だから、決定済み、検討中、これから意見を聞くことを一枚で分けて示す必要がある。未定は未定でよい。未定を隠すことの方が、信頼を失う。
二、子どもの数だけでなく、地域の機能も数字と文章で示す
児童数、学級数、校舎の築年数、維持費は必要な資料である。しかし、それだけでは足りない。登下校の見守り人数、地域行事との関係、避難所としての役割、放課後の居場所、学校支援に関わる人の数など、地域機能も整理するべきである。
三、通学を机上ではなく実測する
地図上の距離だけでは、子どもの負担は分からない。朝の集合時間、実際のバス運行、雨の日、暗い時間帯、危険箇所、送迎渋滞、放課後の帰宅まで、実際の生活に近い形で確認する必要がある。保護者と地域の見守り側も一緒に歩くべきである。
四、跡地利用を新校舎計画と同時に出す
新しい学校の姿だけを先に出し、閉校する学校の未来を後回しにしてはいけない。跡地利用は、地域の納得に直結する。体育館、グラウンド、校舎、記念資料、防災機能、地域行事の継続を、同じテーブルで扱うべきである。
五、子どもの声を大人の会議とは別に拾う
学校の主役は子どもである。しかし、説明会では大人の声が中心になる。子どもに結論を背負わせる必要はない。ただ、「何が不安か」「何が楽しみか」「通学で困ることは何か」は、子ども自身の言葉で聞く必要がある。
六、地域コミュニティを残す代替策を出す
もし小学校がなくなるなら、地域と子どもの接点をどう残すのかを同時に示すべきである。旧校区単位の行事、地域学習、放課後の活動、見守り、地域資料の継承、防災訓練、子育て世代が地域へ関わる入口を、学校統合後にも残す必要がある。
七、開校後・閉校後の検証を約束する
学校再編は、開校した日や閉校した日で終わらない。通学に無理は出ていないか。地域行事は続いているか。跡地は使われているか。保護者の負担は増えすぎていないか。子どもは安心しているか。1年後、3年後、5年後に検証し、必要なら直す仕組みが必要である。
学校再編は、避けられない地域もあるだろう。子どもの教育条件を良くするために、学校の形を変える必要がある場面もある。そこから目を背けるつもりはない。
しかし、学校をなくす判断は、地域の未来を削る判断でもある。その重さを引き受けずに、「子どもの数が減ったから仕方ない」で済ませてはいけない。地域コミュニティが弱った結果として小学校がなくなるなら、行政も地域も、まず地域コミュニティをどう再生するのかを考えるべきである。
私の結論は明確である。小学校をなくすということは、地域コミュニティをなくした果てにあるものだ。だからこそ、学校再編を語るなら、子ども、保護者、地域、通学、跡地利用を同時に語らなければならない。賛成か反対かの前に、地域が何を失い、何を残し、何を新しく作るのか。その見取り図を出すことが、最低限の出発点である。
出典(2026年7月9日確認)
- 磐田市公式ウェブサイト「新時代の新たな学校づくり」
- 磐田市公式ウェブサイト「向陽学府小中一体校」
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引の策定について(通知)(平成27年1月)」
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」(PDF)
※学校再編、通学方法、工事、跡地利用、説明会等の情報は変更される可能性があります。最新情報は必ず磐田市および文部科学省の公式情報をご確認ください。