導入――「もう上がらない」と思っていないか
磐田市の下水道使用料は、2023年4月1日(令和5年4月1日)に改定されている。それまで1㎥あたり約118円だった単価が、135円へ引き上げられた。もう2年以上前の話なので、「値上げはもう済んだこと」と思っている市民も多いのではないか。
しかし、磐田市上下水道事業審議会が示した答申を読むと、話はそこで終わっていない。答申は、単価を将来的に150円/㎥まで引き上げることを基本方針としつつ、急激な負担増を避けるために2段階に分けて改定するとし、今回(第一段階)は135円への引き上げが妥当と結論づけている。つまり135円は最終形ではなく、150円へ向かう通過点として位置づけられている。
次の一段が、いつ、どれくらいの水準で来るのか。私たち市民は、その中身をどこまで知っているだろうか。
評価――「答申に書いてあること」と「市民が知っていること」の差
下水道使用料の値上げそのものを、私は頭ごなしに否定しない。下水道施設は老朽化していくし、地震対策も必要になる。一般会計からの繰入に過度に依存する運営を続ければ、いずれ別の形でツケが回ってくる。原価回収率を適正な水準に近づけていくこと自体は、行政運営として筋が通っている。
問題は、値上げの是非そのものよりも、「135円は通過点であり、次に150円への一段がある」という答申の中身が、どれだけ市民の共通認識になっているかである。2023年4月の改定は広報されただろう。しかし、2年以上たった今、次の一段がいつ来るのか、家計にどう響くのかを、ふだんの生活のなかで意識している市民は多くないはずだ。
値上げが既定路線として答申に書かれているのに、その先の情報が市民の手元に届いていないなら、それは「値上げをしたこと」よりも重い問題だと思う。
一、なぜ下水道使用料は上がったのか
磐田市は令和3年8月20日、上下水道事業審議会に「下水道使用料のあり方」について諮問し、審議会は令和4年9月5日に答申を出した。答申の基本方針は、当時の使用料単価(約118円/㎥)を150円/㎥まで引き上げ、一般会計への過度な依存を解消し、将来的に経費回収率100%を目指すというものである。
背景にあるのは、下水道施設の老朽化への対応と、地震対策の必要性である。管路や処理施設は年数がたてば更新が必要になるし、南海トラフ地震などへの備えとして耐震化も避けて通れない。こうした投資を、使用料でどこまで賄い、一般会計(=税金)でどこまで支えるかは、本来、市民全体で合意しておくべき論点である。
ただし、答申は「118円から150円へ一気に上げる」とは言っていない。急激な使用料の上昇は利用者への負担が大きいとして、2回の段階的な改定で150円を目指すこととし、今回(第一段階)は135円への引き上げが妥当と結論づけた。これが2023年4月に実施された改定である。
二、「135円は通過点」という答申の中身
ここで確認しておきたいのは、135円という数字が「落ち着き先」ではなく、「まだ途中」だということである。答申の理屈をそのまま並べると、こうなる。
- 基本方針=将来的に150円/㎥まで引き上げる
- 理由=一般会計への過度な依存の解消、経費回収率100%の実現
- 方法=急激な負担増を避けるため2段階で改定する
- 第一段階=118円から135円へ(2023年4月実施済み)
2段階で150円を目指すという構造である以上、残る第二段階で135円から150円へ、さらに引き上げられる公算が高い。これは推測ではなく、答申そのものに明記された基本方針である。
三、次の一段は、いつ来るのか――「時期未定」という情報の空白
では、第二段階の改定はいつ、どのくらいの水準で行われるのか。磐田市公式ウェブサイトで公開されている現時点の情報を確認する限り、次の改定の具体的な実施時期は明記されていない。つまり、「150円を目指す」という方向性だけが決まっていて、「いつ、いくらに」という肝心な部分は、今のところ市民には示されていないということになる。
他の自治体を見ると、浜松市は令和7年10月に水道料金を改定し、時期を明示して市民に周知している。方向性だけを先に決めておき、具体的な改定時期は近づいてから発表する、というやり方自体は珍しくない。しかし、それは「決まっていないから言わない」でよい話ではない。答申の存在自体を早い段階から市民に周知し、「いずれ第二段階がある」という前提を、家計の見通しとして持ってもらうことこそが、行政の役割だと思う。
値上げの発表が近づいてから突然知らされるのと、2年以上前から「次の一段がある」と分かった上で家計の見通しを立てられるのとでは、市民の受け止め方はまったく違う。
四、水道基本料金の免除と、下水道使用料の値上げ――二つの顔をどう理解するか
ここでもう一つ、確認しておきたい事実がある。磐田市は2025年8月7日、物価高に苦しむ市民の負担を軽減するため、水道基本料金を2か月分免除する方針を発表した。対象は口径13ミリまたは20ミリで契約している約6万5千世帯で、市が給水する一般家庭のほぼ全てをカバーする。事業費は約1億6千万円で、関連議案は市議会9月定例会に提出される予定とされている。
一方は、物価高への一時的な負担軽減として水道基本料金を「免除」する。もう一方は、施設老朽化・地震対策という将来投資のために、下水道使用料を段階的に「値上げ」する。どちらも根拠のある判断であり、矛盾していると決めつけるつもりはない。ただ、この二つが同じ上下水道というジャンルの中で、逆方向の顔を同時に見せていることは、市民として意識しておいた方がよい。
一時的な軽減策は、今の家計にはありがたい。しかし、それによって「上下水道はむしろ安くなっている」という誤った印象を持ってしまうと、数年後にやってくるはずの第二段階の値上げに、心の準備がないまま直面することになりかねない。
対案――大石はこう考える
批判だけで終わらせるつもりはない。次の一段が来る前に、私は次の四つを行政に求めたい。
一、答申の全体像を、改めて市民に周知する
「135円への改定が終わったこと」だけでなく、「150円という目標に向けた2段階改定であること」を、広報やホームページで改めて説明する。過去の答申を探さないと分からない状態は、情報公開として不十分である。
二、老朽化・地震対策の投資計画を、数字で見せる
管路の更新や耐震化に、いつ、いくら必要なのかを具体的に示す。値上げの理由が「なんとなく老朽化」ではなく、「この投資にこれだけかかる」という形で見えれば、市民も納得しやすくなる。
三、第二段階の検討時期を、早めに予告する
実施の1年以上前から、審議のスケジュールと検討の見通しを公表する。家計を見通す時間を、市民に確保するためである。
四、一時的な負担軽減策と、恒久的な値上げを、区別して説明する
水道基本料金の免除のような一時的な支援策と、下水道使用料の段階改定のような恒久的な値上げは、性質がまったく異なる。混同されないよう、行政自身が丁寧に説明を分けるべきである。
結論――135円で安心せず、150円への備えを
下水道施設の老朽化や地震対策に、応分の負担が必要になること自体は理解できる。問題は、その負担が「まだ途中」であるという事実を、市民がどれだけ共有できているかである。
135円は、答申が描いた道のりの通過点にすぎない。次の一段がいつ、いくらで来るのか。行政がその情報を早めに、分かりやすく示すこと。そして私たち市民も、「もう終わった話」と思わず、家計の見通しの中に、次の値上げの可能性を織り込んでおくこと。その両方が必要だと思う。
出典(2026年7月10日確認)
- 磐田市公式ウェブサイト「下水道」(下水道使用料及び農業集落排水処理施設使用料改定・令和5年4月1日)
- 磐田市上下水道事業審議会「第4回審議会資料 下水道使用料の改定率について」(上下水道総務課・上下水道工事課)
- 静岡新聞DIGITAL「磐田市、水道基本料金を2カ月分免除へ 物価高対策」
※下水道使用料の第二段階(150円/㎥への改定)の具体的な実施時期は、2026年7月10日時点で磐田市公式ウェブサイト上に明記が確認できませんでした。今後の公表内容により状況が変わる可能性があります。