導入——「空き家を減らす」と「人を呼ぶ」は、地続きの話
私は、磐田で小さな不動産の仕事をしながら暮らしている。日々の仕事のなかで、ここ数年はっきりと増えたと感じるのが、空き家の相談である。親が施設に入った、亡くなって実家が空いた、遠方に住んでいて管理ができない——事情はさまざまだが、「どうすればいいか分からないまま、時間だけが過ぎている」という点は共通している。そして時間が過ぎるほど、家は傷み、片づけは重くなり、選択肢は狭くなっていく。今回は、この空き家の問題と、それと地続きにある「移住を呼び込む」という取り組みを、現場の目線で一度整理してみたい。
磐田市には、いくつかの手立てがある。まず、令和3年(2021年)4月1日に開設された「磐田市空き家バンク」。売りたい・貸したい空き家を市のサイトに登録し、使いたい人とつなぐ仕組みである。次に、令和6年(2024年)4月1日から相続登記が義務化されたことで、「名義を放置したままの実家」という問題が、以前より表に出やすくなった。そして令和6年度には、市が「空き家おこしプロジェクト」を立ち上げた。空き家への不安を解消し、多くの関係者に対策を知ってもらい、一緒に進める相手を見つけ、空き家の活用を促すことを目的としたもので、その取り組みの一つとして、民間事業者と空き家の活用可能性を調べる業務委託契約を結び、所有者へ査定などの結果を知らせる、といったことも行われている。補助の仕組みとしては、既存住宅の取得などを支える「既存住宅取得等事業費補助金」や、危険な空き家の取り壊しを支える「危険空き家等除却事業費補助金」がある。
もう一方の「人を呼ぶ」取り組みも見ておきたい。磐田市は、東京圏などから移り住む人に向けて「移住就業支援金」を用意しており、金額の目安は単身で60万円、世帯で100万円(子育て世帯にはさらに加算がある)。2025年(令和7年)4月には、この支援金の対象要件に「スポーツチームのファンクラブ会員」という項目が加わった。サッカーのジュビロ磐田をはじめ、このまちを応援してきた人に、移住という形でも近づいてもらおうという狙いである。あわせて、東京圏在住者を対象にした「移住体験ツアー」も行われており、ジュビロのホームゲーム観戦や、先輩移住者との交流、ヤマハスタジアムの見学などを通じて、実際に住んだときのイメージをつかんでもらう内容になっている。参加費は大人1万円、小学生以下8千円で、バス代・宿泊費・食事代・観戦チケット代が含まれる。このツアーへの参加は、先ほどの移住就業支援金を受けるための要件の一つにもなっている。
評価——是々非々で見る
これらを、是々非々の立場で見ていきたい。
まず、良いと思う点である。第一に、空き家バンクと空き家おこしプロジェクトによって、「放置される前に、まず動かす」ための入り口が用意されたことは、現場の実感からも意味が大きい。空き家は、放っておくほど傷んで扱いが難しくなる。所有者に査定などの結果を届けて「一度考えてみませんか」と背中を押す取り組みは、迷ったまま止まっている人を前に進めるうえで有効だと思う。第二に、移住の呼び込みに「スポーツのまち」というこのまち独自の強みを使っている点である。どの自治体も移住者の獲得に力を入れるなかで、ジュビロ磐田という応援の輪を入り口にできるのは、磐田ならではの差別化であり、うまく育てたい強みだと感じる。
一方で、注文をつけたい点が四つある。
第一に、「増えるスピードに、対策が追いついているか」という点である。相続登記の義務化で、名義が放置されがちだった実家の問題は表に出やすくなった。しかし現場の感覚では、空き家が生まれるスピードは速く、バンクへの登録や活用が追いついているとは言いがたい。仕組みが整っても、実際に動く件数がそれを上回る勢いで増えていけば、まちのなかの空き家は減らない。「制度はある」ことと「空き家が減っている」ことは、分けて見る必要がある。
第二に、空き家バンクは「登録される物件の数」が命だという点である。使いたい人がいても、登録物件が少なければ出会いは生まれない。所有者にとっては、「わざわざ登録するより、知り合いの不動産屋に任せたい」「そもそも売る決心がつかない」といった事情もある。バンクを機能させるには、登録の呼びかけだけでなく、登録に踏み出しやすくする工夫——地元の不動産事業者や相続の相談と一体で案内するなど——が要る。
第三に、「空き家を減らす」取り組みと「人を呼ぶ」取り組みが、どこまでつながっているかである。移住支援金やツアーで磐田に関心を持ってもらっても、いざ住もうとしたときに紹介できる家が乏しければ、その関心は他のまちへ流れてしまう。空き家バンクに登録された家を、移住希望者に自然に届ける——この「移住×空き家」の橋渡しが太くなってこそ、二つの取り組みは互いを支え合う。呼び込みと受け皿は、本来は一つの流れであるべきだと思う。
第四に、間口と成果の見え方である。移住体験ツアーは東京圏在住者が対象で、支援金の要件にもファンクラブ会員という条件が加わった。ねらいを絞ること自体は理にかなっているが、その一方で、近隣の市や県内から移り住む人、ファンではないけれど磐田に縁のある人といった、別の入り口も大切にしたい。そして、これらの取り組みで実際に何件の空き家が活用され、何世帯が移り住んだのかという成果が、市民に見える形で共有されると、施策の手応えを一緒に確かめられる。
対案・結論——四つの提案
こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。
第一に、空き家バンクの登録を増やす工夫を、地元の現場と一緒に進めてほしい。相続や実家じまいの相談を受ける段階で、「こういう選択肢もありますよ」と空き家バンクを自然に案内できるよう、地元の不動産事業者や相談窓口との連携を厚くしてほしい。登録のハードルを下げることが、バンクを生きた仕組みにする近道だと思う。
第二に、「移住×空き家」の橋渡しを、はっきり一つの流れにしてほしい。移住に関心を持った人へ、空き家バンクの物件や、活用しやすい家の情報をセットで届ける。呼び込みの窓口と、住まいの受け皿を、同じ担当・同じ案内のなかでつなげてほしい。
第三に、片づけや相続の「手前の相談」を早い段階で受けられるようにしてほしい。空き家は、傷む前・こじれる前に手を打てれば、選べる道がずっと広い。「まだ売るかどうか決めていない」という段階でも気軽に相談できる入り口があれば、放置される家は確実に減る。
第四に、成果を見える形で公表してほしい。空き家バンクの成約件数、補助金の利用件数、移住者の数といった実績を、年に一度でよいので市民に示してほしい。数字が見えれば、どこがうまくいき、どこに手を入れるべきかを、市民も一緒に考えられる。
空き家を減らすことと、人を呼び込むこと。この二つは、別々の担当が別々に進める話に見えて、実は「このまちに、住み継がれる家をどう残すか」という一つの問いにつながっている。増える空き家をただ数えるのではなく、それを次の暮らしへ手渡していく。磐田には、そのための入り口がすでにいくつも用意されている。あとは、それらを一本の流れにつなぎ、現場と一緒に回していけるかどうかだと思う。
最後に一言。不動産の現場に立っていると、「もっと早く相談してくれていれば」と思う場面が本当に多い。家は、住む人がいなくなった瞬間から静かに傷み始める。空き家バンクも、移住支援も、その傷みが深くなる前に人と家を結び直すための道具である。この記事が、実家のことで迷っている誰かにとって、「一度、相談してみようか」と思う小さなきっかけになればうれしい。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市公式ウェブサイト「空き家」「空き家バンク」「空き家に関する相談会等」関連ページ
- 磐田市「空き家おこしプロジェクト」協力事業者公募に関する案内(磐田市・不動産関係団体の公表資料)
- 磐田市公式ウェブサイト「移住就業支援金制度」ページ、および移住体験ツアーに関するプレスリリース・報道(2025〜2026年時点)
- 相続登記の申請義務化(2024年〈令和6年〉4月1日施行)に関する法務省・広報いわたの案内
※金額・要件・対象・事業内容等は変更される可能性があります。最新情報は必ず磐田市公式サイトでご確認ください。