導入——「免許を返したら、どうやって病院へ行くのか」
高齢の方の相談を受けていると、ときどき出てくる言葉がある。「免許を返したいのはやまやまだが、返したら、病院にも買い物にも行けなくなる」。磐田のように、日々の暮らしに車が欠かせないまちでは、これは切実な問題である。アクセルとブレーキの踏み間違いのニュースを見るたびに「そろそろ運転は」と思う一方で、車を手放したあとの「足」が見えないから踏み切れない。そんな声を、私は何度も聞いてきた。
その「足」を支える仕組みの一つが、磐田市のデマンド型乗合タクシー、愛称「お助け号」である。あらかじめ電話やインターネットで予約すると、タクシー車両が自宅まで迎えに来て、目的の施設まで運んでくれる。決まった時刻に決まった停留所を通る路線バスとは違い、利用者の予約に応じて運行する乗合の交通で、いわばバスとタクシーの中間のような仕組みである。今回は、この「お助け号」を、車を手放したあとの暮らしという視点から点検してみたい。
まず、事実を整理する。「お助け号」は、竜洋線(竜タク)、福田線(ふくタク)、豊岡線(ごんタク)、磐田北部線、磐田東部線、磐田南部線、豊田線、磐田中央線の8路線で運行している。運行地区に住んでいる方であれば、原則として誰でも利用でき(磐田中央線には年齢の条件がある)、あらかじめ無料の利用者登録をしておく必要がある。運行は月曜から土曜まで。予約をすると、車両が自宅まで迎えに来て、自宅と指定の施設との間を運んでくれる。そして、運転経歴証明書を持つ65歳以上の方、つまり免許を自主返納した方は、運賃が半額になる。令和7年2月からは、磐田中央線と豊田線の2路線でインターネット予約も始まった。
予約の締切には、いくつか決まりがある。「行き」の便は乗車の2時間前まで、「帰り」の便は1時間前まで。ただし午前9時より前に乗る便は、前日の午後5時までに予約しておく必要がある。この「予約が要る」という点が、あとで触れる論点にもつながってくる。
評価——是々非々で見る
この仕組みを、是々非々の立場で見ていきたい。
まず、良いと思う点である。第一に、車両が自宅まで迎えに来てくれることの価値は大きい。停留所まで歩くのが難しい方にとって、玄関から乗れることの安心は、路線バスにはないものだ。第二に、免許を返した方の運賃を半額にしている点である。返納をためらう一番の理由が「足がなくなること」だとすれば、返納後の移動を安くすることは、返納を後押しするうえで理にかなっている。第三に、令和7年から一部の路線でインターネット予約を始めたことである。電話がつながりにくい時間の負担を減らし、家族が離れて暮らしていても代わりに予約できるようになるのは、前向きな一歩だと思う。
一方で、注文をつけたい点が四つある。
第一に、「予約の手間」である。行きは2時間前、帰りは1時間前、朝早い便は前日の午後5時まで。この締切は、運行の効率を考えれば理解できる。しかし、暮らしのなかでは「急に具合が悪くなった」「思い立って出かけたい」という場面も多い。前もって予定を立てられる通院にはよくても、当日ふと動きたいときには使いにくい。予約が要ることそのものが、利用のハードルになっていないかは気にかかる。
第二に、「行ける場所」の広がりである。お助け号は自宅と「指定の施設」との間を結ぶ仕組みで、どこへでも自由に行けるわけではない。病院やスーパー、市の施設など、暮らしに欠かせない行き先がきちんと網羅されているか。地区によって行ける場所に差はないか。単に「路線がある」ことと、「行きたいところへ行ける」こととは、別の話である。
第三に、「路線・地区ごとの使い勝手の差」である。8路線あるとはいえ、インターネット予約に対応しているのは磐田中央線と豊田線の2路線にとどまる。住んでいる地区によって、予約のしやすさや便の多さに差があるのだとすれば、「どこに住んでいても、車がなくても暮らせる」という状態には、まだ距離がある。
第四に、そもそもの「周知」である。私が相談のなかで「お助け号という仕組みがありますよ」と伝えると、「初めて聞いた」という方が少なくない。免許返納を考え始めた、まさにその人にこそ届いてほしい情報が、届いていない。制度があることと、知られていることのあいだには、いつも隔たりがある。
対案・結論——四つの提案
こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。
第一に、予約の締切を、可能な範囲で緩めることを検討してほしい。すべてを当日対応にするのは難しくても、たとえば当日でも空きがあれば乗れる枠を用意するなど、「思い立ったときに動ける」余地を少しでも広げてほしい。暮らしは、時刻表どおりには進まないからだ。
第二に、インターネット予約の対象路線を、順次広げてほしい。あわせて、ネットが苦手な方のために、電話予約や窓口での申し込みも、これまでどおり丁寧に残してほしい。デジタルは選択肢を増やすためのものであって、これまでの経路を細らせるためのものであってはならない。
第三に、免許返納の相談と、返納後の「足」の案内を、セットで届けてほしい。運転に不安を感じ始めた方やその家族が相談に訪れたとき、返納の手続きだけでなく、「返したあとは、こうやって病院にも買い物にも行けますよ」という具体的な道筋を、その場で一緒に示してほしい。足の見通しが立ってこそ、人は安心して車を手放せる。
第四に、利用の実績を、市民に見える形で公表してほしい。どの路線が、どれくらい使われているのか。使われていない路線があるなら、それは需要がないのか、それとも使いにくいから使われないのか。数字が見えれば、次にどこを直すべきかを、市民も一緒に考えられる。
車を手放せるかどうかは、その人が安全に暮らせるかどうかであると同時に、まちが安全であるかどうかにも関わる。高齢のドライバーに「返納してください」と呼びかけるのであれば、その先の「足」を用意することは、まちの側の責任でもある。お助け号は、その責任を果たすための、大切な仕組みの一つだと思う。だからこそ、「路線がある」で満足せず、「本当に、行きたいところへ、行きたいときに行けるか」というところまで、育てていってほしい。
最後に一言。私自身、いつか自分や家族が車を手放す日のことを考える。そのとき、「足がないから」とあきらめるのではなく、「お助け号があるから大丈夫」と思えるまちであってほしい。移動できることは、人が人とつながり、社会の一員であり続けるための、いちばんの土台なのだから。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市公式ウェブサイト「デマンド型乗合タクシー」ページ(運行路線・利用者登録・予約締切・免許返納者割引・インターネット予約の開始など)
- 磐田市広報「デマンド型乗合タクシーの運行案内」(広報いわた)
- 磐田市公式ウェブサイト「自動車・タクシー」関連ページ
※運賃・運行日時・予約方法・対象要件等は変更される可能性があります。ご利用の際は必ず磐田市公式サイトや各運行事業者の最新案内でご確認ください。