導入——「保険証がなくなったら、病院に行けないの?」
この一年ほど、高齢の方からいちばんよく聞かれるようになったのが、健康保険証の話である。「保険証が廃止されたって聞いたけど、うちにはマイナンバーカードがない。もう病院に行けなくなるの?」。不安そうに、そう尋ねられることが本当に増えた。まず、いちばん大事な結論から書いておきたい。マイナ保険証を持っていなくても、病院にかかれなくなることはない。「資格確認書」という書類が市から届き、それを窓口で見せれば、これまでどおり保険で診てもらえる。だから、あわてる必要はない。
とはいえ、仕組みが次々と変わって、言葉も増えて、分かりにくいのは確かである。ちょうど7月は、この資格確認書の更新の時期にあたる。今回は、いま何がどうなっているのかを、高齢の方の目線で、できるだけかみくだいて整理してみたい。
まず、事実を並べる。2024年(令和6年)12月に、紙の健康保険証は新規の発行が終了した。それまでに配られた保険証は期限が切れるまで使えたが、これからは、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」が基本の形になっていく。では、マイナ保険証を持っていない人はどうなるのか。その人には、申請しなくても「資格確認書」が市から自動的に送られてくる。この資格確認書を医療機関や薬局の窓口に出せば、従来の保険証と同じように、保険診療を受けることができる。つまり、「マイナ保険証を持つ」か「資格確認書を受け取る」か、どちらかの形で、保険で医療を受けられる状態は続く。
ここで、高齢の方に関わる大事な点を補っておく。資格確認書には有効期限があり、毎年7月31日となっている。そして、期限が切れる前の毎年7月中に、新しい資格確認書が自動で送られてくる。だから、7月に見慣れない封筒が届いても、捨てずに中を確かめてほしい。とくに75歳以上の後期高齢者医療に加入している方については、これまで使ってきた橙色(だいだいいろ)の資格確認書が2026年(令和8年)8月1日から使えなくなり、新しいものに切り替わる。マイナ保険証を登録している方には、資格確認書ではなく「資格情報のお知らせ」という通知が届き、受診のときはマイナ保険証を使う形になる。名前が似ていて紛らわしいが、要は「自分のところに何が届いたか」を確かめれば、慌てることはない。
評価——是々非々で見る
この移行を、是々非々の立場で見ていきたい。
まず、良いと思う点である。第一に、マイナ保険証を持たない人にも、申請なしで資格確認書が届き、それで従来どおり受診できるという設計になっていることだ。手続きを自分でしなければ無保険になってしまう、という事態を避けている点は、素直に評価したい。高齢の方や、手続きが苦手な方への配慮として、この「自動で届く」仕組みは理にかなっている。第二に、マイナ保険証そのものにも、利点はある。たとえば、入院などで医療費が高額になったとき、これまで必要だった限度額適用の手続きをしなくても、窓口での支払いが自動的に限度額までで済む。過去の薬や検査の情報にもとづいた、より安全な医療につながる面もある。仕組みとして目指している方向は、決して悪いものではない。
一方で、注文をつけたい点が四つある。
第一に、「保険証が廃止される」という言葉だけが独り歩きして、必要以上の不安を生んでいることである。実際には、持っていなくても資格確認書で受診できるのに、「カードを作らないと病院に行けない」と思い込んで、あわててしまう高齢の方が少なくない。制度の説明が「マイナ保険証をどう使うか」に寄りがちで、「持っていない人はどうなるのか」という、いちばん知りたい部分の安心が、先に届いていない。
第二に、種類の多さと、分かりにくさである。紙の保険証、マイナ保険証、資格確認書、資格情報のお知らせ——似た言葉が並び、色や有効期限もあって、高齢の方には見分けがつきにくい。毎年7月末に更新があること、届いた封筒を確かめる必要があることも、知らなければ気づきにくい。分かりにくさそのものが、不安の大きな原因になっている。
第三に、マイナ保険証を使ううえでの、高齢の方ならではの不安である。カードを持ち歩くことへの紛失の心配、暗証番号や顔認証への戸惑い、窓口のカードリーダーの操作。便利さの裏で、こうした一つひとつが、高齢の方にとっては小さくないハードルになる。「便利になった」という説明が、必ずしも当事者の実感と一致していない場面もある。
第四に、いざ困ったときの相談先である。窓口でうまく読み取れなかった、封筒をなくした、期限が切れていた——そうしたときに、どこへ行けば、誰に聞けば解決するのか。その道筋が、当事者にきちんと伝わっているかどうかも、あわせて気にかかる。
対案・結論——四つの提案
こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。
第一に、「マイナ保険証を持っていなくても、資格確認書で今までどおり病院にかかれます」という一点を、何よりも大きく、くり返し伝えてほしい。制度の細かな説明より前に、この安心をまず届けることが、無用な不安をいちばん減らす。
第二に、更新の時期や、届くものの見分け方を、デジタルだけに頼らず伝えてほしい。広報いわたや、町内会の回覧板、民生委員の声かけ、地域包括支援センターの窓口など、高齢の方に届きやすい経路で、「7月に届く封筒は捨てないで」「あなたに届くのはこれ」と、具体的に知らせてほしい。
第三に、マイナ保険証を作りたい・使いたいという方への手助けを、手厚くしてほしい。市役所の窓口での登録の支援はもちろん、暗証番号やカードリーダーの操作に不安のある方が、気軽に相談・練習できる機会があるとよい。「作りなさい」ではなく「一緒にやってみましょう」という寄り添い方が、いちばん力になる。
第四に、困ったときの相談先を、はっきり一つに示してほしい。「保険証のことで分からないことがあれば、ここへ」という窓口と連絡先を、資格確認書を送る封筒の中や、身近な掲示で、繰り返し目に入る形にしてほしい。迷ったときに頼れる先があると分かるだけで、人は安心できる。
制度の移り変わりは、たいてい「便利にするため」に行われる。けれども、その変化のスピードや分かりにくさが、いちばん支えを必要としている人を置き去りにしてしまっては、本末転倒である。マイナ保険証への移行も、目指す方向は理解できる。だからこそ、そこから取り残されそうな高齢の方に、「大丈夫、あなたはこうすればいい」という具体的な安心を、ていねいに届けてほしい。それができて初めて、この移行は「みんなにとっての前進」になるのだと思う。
最後に一言。私は日ごろ、高齢の方の暮らしに近い場所で働いている。だからこそ、「制度は変わったけれど、自分がどうすればいいのか分からない」という、その心細さの手ざわりが、少しは分かるつもりだ。この記事が、身近なご家族やご近所の方に、「大丈夫だよ、こうすればいいらしいよ」と伝えるきっかけになれば、書いた甲斐がある。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市公式ウェブサイト「国民健康保険・後期高齢者医療加入のみなさまへ」「マイナンバーカード保険証」関連ページ
- 静岡県後期高齢者医療広域連合「令和8年8月以降の資格確認書・資格情報のお知らせの交付について」
- 厚生労働省「資格確認書について(マイナ保険証を使わない場合の受診方法)」
※交付されるものや有効期限・色・手続きは、加入している制度や登録状況、年度によって異なり、変更される場合があります。最新情報は必ず磐田市公式サイト・ご加入の医療保険者でご確認ください。