導入——介護の相談の、その陰に
高齢の方の介護の相談を受けていると、ふと気づかされることがある。その家庭を支えているのが、必ずしも大人だけとは限らない、ということだ。親が働きに出ていて、日中は中学生の子が祖母の食事や着替えを手伝っている。障がいのあるきょうだいの世話を、小学生が受けもっている。表向きは「しっかりした、家族思いのいい子」に見える。けれども、その子は、同じ年ごろの子が当たり前に持っている時間や機会を、知らないうちに手放しているのかもしれない。こうした子どもたちを、「ヤングケアラー」と呼ぶ。
今回は、この見えにくい存在について、介護の現場に近い一市民の視点から考えてみたい。ヤングケアラーは、長いあいだ「家庭のこと」として、社会の目からこぼれ落ちてきた。それが近年ようやく、支えるべき対象としてはっきり位置づけられるようになった。まず、その事実から整理していく。
2024年(令和6年)6月、「子ども・若者育成支援推進法」が改正され、ヤングケアラーが初めて法律のなかに定義された。法律は、ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」とし、国や地方公共団体などが支援に努めるべき対象として明記した。支える対象の年齢は、18歳未満だけでなく、進学や就職といった人生の大事な移行期を切れ目なく支えるという考えから、おおむね30歳未満まで、状況によってはさらに上まで含むとされている。「家族を助けるのは当たり前」で片づけず、社会全体で支える——その出発点が、法律という形で定められたのである。
静岡県も、この問題に早くから向き合ってきた。県は令和3年度に、県内の小学5・6年生、すべての中学生と高校生を対象にアンケートを行い、ヤングケアラーの実態を把握しようとした。そして県のウェブサイトには相談窓口が設けられ、県内の市や町の担当課の一覧も示されている。磐田市も、子育て支援の一環として、こうした相談に応じる体制のなかにある。仕組みとしては、少しずつ整いつつあると言ってよい。
評価——是々非々で見る
この動きを、是々非々の立場で見ていきたい。
まず、良いと思う点である。第一に、ヤングケアラーが法律に定義され、支援の対象としてはっきり位置づけられたことである。「家庭のこと」として見過ごされてきた問題が、社会全体で支えるべきものだと認められた意味は大きい。第二に、静岡県が早い時期に実態調査を行い、見えにくい存在を数字として可視化しようとしたことである。まず「どれくらいいるのか」をつかもうとする姿勢は、支援の第一歩として正しい。第三に、県や市町に相談窓口が整えられてきたことである。困ったときに頼れる先があること自体は、大切な備えである。
一方で、注文をつけたい点が四つある。
第一に、いちばんの難しさは「本人が気づかない、言い出せない」ことである。子どもにとって、家族の世話は生まれたときからの日常であり、それが「過度な負担」だとは思いもしないことが多い。まして「うちは大変です」と外に助けを求めるのは、家族への引け目もあって、簡単ではない。だから、本人からの相談を待つだけの仕組みでは、いちばん支えたい子には届きにくい。
第二に、だからこそ「周りの大人が先に気づけるか」が要になる。学校の先生が、遅刻や忘れ物、居眠りの背景に家庭の事情を感じ取る。介護の現場で、ケアマネジャーやヘルパーが、支え手のなかに子どもがいることに気づく。そうした気づきが、支援につながる入り口になる。けれども、教育・介護・福祉はそれぞれ別の窓口で動いていて、気づきが共有されず、点のまま終わってしまうことが少なくない。
第三に、相談窓口があっても、子ども自身がそこへたどり着けるかという問題である。大人向けの言葉づかいや、平日昼間の窓口では、子どもには遠い。子どもが、自分の言葉で、安心して打ち明けられる入り口になっているか。窓口を「置いた」ことと、子どもに「届く」ことは、別である。
第四に、「家族思いのいい子」という美談で終わらせない視点である。家族を大切にする気持ちは尊い。けれども、そのために勉強の時間や友だちと過ごす時間、進路の選択肢が狭められているのなら、それは支えるべき状況である。子どもの優しさに甘えて負担を背負わせ続けることは、社会の側の怠慢になりうる。
対案・結論——四つの提案
こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。
第一に、「大人が先に気づく」仕組みを、分野を越えてつないでほしい。学校、地域包括支援センター、ケアマネジャー、民生委員——子どもや家族に関わる大人たちが、「この家に、無理をしている子がいるかもしれない」と感じたときに、ためらわずつなげる先と、その情報を共有できる筋道を整えてほしい。教育と介護・福祉のあいだの壁を、できるだけ低くしてほしい。
第二に、子どもが自分から相談しやすい入り口を用意してほしい。大人向けの窓口とは別に、子どもの言葉で書かれた案内や、話しやすい形の相談先があるとよい。「あなたが悪いわけではない」「助けを求めていい」というメッセージが、子どもにまっすぐ届く形で示されることが大切だ。
第三に、介護や福祉のサービスで、家族全体を支えることで、子どもの負担そのものを減らしてほしい。ヤングケアラーの問題は、突きつめれば、家族の介護や世話が子どもに回らざるをえない状況から生まれる。訪問介護やショートステイ、障がい福祉のサービスなどで、大人が担うべき部分をきちんと支えることが、子どもの肩の荷を軽くする、いちばん根本の支援になる。
第四に、子どもや家族に関わる立場の人たちに、ヤングケアラーについて知ってもらう機会を広げてほしい。教員や介護職、地域の担い手が、「そういう子がいるかもしれない」という視点を持つだけで、気づける場面は大きく増える。知ることが、気づきの土台になる。そして、磐田市の相談先を、子どもにも保護者にも分かりやすい形で、繰り返し示してほしい。
ヤングケアラーの問題は、高齢化と、共働きや核家族化が重なるなかで、これからむしろ増えていくかもしれない。介護の現場に近いところにいると、そのことが決して他人事には思えない。大人が担いきれない部分を、子どもがそっと肩代わりしている——その姿に、まちの誰かが早く気づき、「ひとりで抱えなくていいんだよ」と手を差し伸べられるか。それができるまちであるかどうかが、問われているのだと思う。
最後に一言。家族を思いやる子どもの優しさは、何よりも尊いものである。だからこそ、その優しさに寄りかかって、子どもから子どもらしい時間を奪ってしまうことのないように。支えるべきは家族であって、その重荷を子どもだけに負わせないこと。この記事が、身近にいるかもしれない、がんばりすぎている子に気づく、小さなきっかけになればうれしい。
出典(2026年7月確認)
- こども家庭庁「ヤングケアラーについて」、および子ども・若者育成支援推進法の改正(2024年〈令和6年〉6月成立・施行)に関する国の資料
- 静岡県公式ウェブサイト「ヤングケアラー」「ヤングケアラーの相談窓口について」(令和3年度の実態調査、県内市町の担当課一覧など)
- 磐田市公式ウェブサイト「子育て応援」関連ページ、こども家庭庁「静岡県の相談窓口」
※定義・対象年齢・相談窓口・支援内容等は変更される場合があります。最新情報は必ずこども家庭庁・静岡県・磐田市の公式サイトでご確認ください。困ったときは、ひとりで抱えずお近くの相談窓口へ。