導入——受賞は、めでたい。だが
磐田市が「子育て支援大賞」を受賞した、というニュースが届いた。市の発表によれば、ジュビロ磐田や静岡ブルーレヴズのホームゲームを小中学生が一斉に観戦する取り組み、市内小中学校の校庭の芝生化、移住体験ツアー、中学校での「赤ちゃん登校日」、子育て支援施設の運営など、スポーツのまちらしさを活かした数々の取り組みが評価されたのだという。受賞そのものは、関わった人たちの努力の成果であり、素直におめでとうと言いたい。
そのうえで、私は一市民として、正直に思うことを書いておきたい。こうしたイベントや取り組みで、磐田の子供の数が増えるわけではない、ということである。誤解しないでほしい。これらの取り組みが「不要だ」と言っているのではない。今いる子育て家庭にとって、意味のあるものだと思う。ただ、賞をもらったことに浮かれて、いちばん向き合うべき本質から目をそらしてしまってはいけない。今日は、「子育て支援」と「子供を増やすこと」は別の話なのだ、という当たり前を、あらためて確かめておきたい。以前「子供の数は、どうすれば増えるのか」という記事で事実を並べたが、今回はその続きとして、受賞を入り口に考えてみる。
まず、二つをはっきり分けたい。ひとつは「子育て支援」——いま子育てをしている家庭を支え、暮らしを楽にし、まちで子育てする楽しさを増やす取り組みである。今回受賞した施策の多くは、これにあたる。もうひとつは「少子化への取り組み」——これから生まれてくる子供の数そのものを増やし、人口減少の流れを反転させることである。この二つは、重なる部分もあるが、同じではない。前者をどれだけ手厚くしても、後者が自動的に進むとは限らない。ここを混同したまま「子育てに力を入れています」と胸を張っても、子供の数は増えていかない。
では、子供の数を増やすことの「本質」とは何か。国の少子化社会対策白書などが繰り返し指摘してきたのは、少子化の主な原因が、未婚化・晩婚化と、結婚した夫婦の子供の数の減少にある、ということである。その背景には、若者が安定した仕事や十分な所得を得にくいという経済的な不安、結婚や子育てにかかる費用の重さ、仕事と家庭の両立の難しさ、そして出会いの機会そのものの減少がある。つまり、子供を増やすとは、若い人たちが、経済的な安心と将来の見通しを持って、結婚し、子供を持つことを選べる——そういう土台をつくることに、ほかならない。観戦イベントや芝生の校庭は、その土台の話とは、少し離れたところにある。
磐田の数字も見ておきたい。市の人口ビジョンなどによれば、赤ちゃんの出生数は、2013年から2017年の平均で年におよそ1,312人、合計特殊出生率は1.58であった。そして、2020年からの30年で、市の人口はおよそ18.6パーセント減り、13万6千人ほどになると見込まれている。この、まちの土台を揺るがす大きな流れを、観戦イベントや校庭の芝生化で反転できるかといえば、正直、私はそうは思えない。
評価——是々非々で見る
ここまで厳しいことを書いたが、是々非々で、良い点も述べておきたい。第一に、受賞した取り組みには、今いる子育て家庭を楽しませ、支える価値がある。プロスポーツの観戦や芝生の校庭、子育て支援施設は、子育ての日々に彩りと安心を与える。子育てがしやすく、楽しいまちだという評判は、定住を後押しし、二人目・三人目を考えるきっかけになる面もあるだろう。第二に、スポーツのまちという磐田ならではの強みを、子育てに結びつけている点は、このまちらしい工夫であり、悪いことではない。だから私は、これらを「やめろ」とは言わない。
そのうえで、注文をつけたい点が四つある。
第一に、いちばん大事なこととして、「賞」に浮かれて、本質から逃げないでほしい、ということである。表彰は、関わった人への励みにはなる。しかし、それは目的ではない。まちが本当に問われているのは、賞の数ではなく、子供の数がどう動いたかである。「子育て支援で表彰されました」を、いつの間にか「少子化に取り組んでいます」とすり替えてしまうと、いちばん大事な課題が、手つかずのまま置き去りになる。
第二に、本質である「若者の経済的な安心」に、まちとしてどれだけ手を打っているかである。安定した仕事、十分な所得、手の届く住まい。若い人が、お金の不安なく家庭を持てる環境こそが、子供の数を左右する。ここに、観戦イベントと同じだけの熱量が注がれているだろうか。
第三に、結婚や出会いを望む人への後押しである。未婚化が少子化の大きな原因である以上、結婚したいと願う人が、その一歩を踏み出せるような支えも要る。もちろん、結婚や出産を押し付けるものであってはならない。あくまで、望む人が、経済的な事情や出会いの少なさであきらめずにすむように、という配慮としてである。
第四に、子育て・教育にかかる費用の重さを、目に見えて軽くすることである。二人目、三人目を持ちたくても、教育費や暮らしの負担を考えて踏みとどまる——そういう家庭は少なくない。イベントの楽しさより、こうした負担の軽減のほうが、子供を持つ決断には効く場面が多いはずだ。
対案・結論——四つの提案
こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。
第一に、「子育て支援大賞」を、ゴールではなく、スタートにしてほしい。受賞を機に、「では、この先、磐田の子供の数を増やすために何をするのか」を、あらためて市民に示してほしい。そして、賞の数ではなく、出生数や若い世帯の定住がどう動いたかで、自らの取り組みを正直に測ってほしい。
第二に、若者の経済的な安心——仕事・所得・住まい——に、まちとして本気で向き合ってほしい。地元で安定して働き、手の届く家に住み、家庭を持てる。その土台づくりを、子育てイベントと同じか、それ以上の熱量で進めてほしい。
第三に、結婚や出会いを望む人への、押し付けにならない後押しを検討してほしい。近隣の市や県とも連携しながら、望む人が一歩を踏み出せる支えを、そっと用意してほしい。
第四に、子育て・教育の費用負担の軽減を、目に見える形で進めてほしい。楽しいイベントも大切だが、家計の重荷を一つでも下ろすことのほうが、子供を持つ決断を、静かに、しかし確かに後押しする。
賞をもらうことは、うれしい。関わった人の努力は、本物だと思う。けれども、まちの存続そのものがかかっているこの問題で、いちばん怖いのは、「良いことをしている」という手応えだけで、満足してしまうことである。子育て支援は、続けてほしい。そのうえで、それとは別に、子供の数を増やすという本質に、逃げずに向き合ってほしい。楽しいまちであることと、子供が生まれ育つまちであること。その両方を、磐田には目指してほしいと思う。
最後に一言。私は、子育て支援を否定したいのではない。むしろ、まちが子育てに力を入れること自体は、心から応援している。だからこそ、「表彰されて、よかったね」で終わってほしくない。本当に子供が増えるまちにするには、耳に痛い本質の話から、目をそらさないこと。その覚悟を、一市民として、まちと分かち合いたいと思っている。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市の「子育て支援大賞」受賞に関する発表(PR TIMES/一般社団法人日本子育て支援協会、2026年7月)
- 内閣府「少子化社会対策白書」ほか、少子化の要因(未婚化・晩婚化・経済的要因など)に関する国の資料
- 磐田市「第2期磐田市人口ビジョン」「磐田市の人口推計」等(出生数・合計特殊出生率・将来人口の見通し)
※数値・受賞内容・各取り組みの詳細は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式サイト等でご確認ください。