導入——あの蒸し風呂のような体育館を、思い出す

夏の学校の体育館を思い出してほしい。高い天井に熱がこもり、風は通らず、まるで蒸し風呂のようになる。近年の猛暑では、体育館のなかが40度を超えることも珍しくないという。そんな場所で、子どもたちは体育の授業を受け、部活動に汗を流し、式典で長い時間を過ごす。全国では、体育館で熱中症になる子どもの例も報じられている。エアコンの効いた教室と、灼熱の体育館。この落差を、私たちはどこかで「仕方ない」と見過ごしてきたのではないか。

そして、体育館には、もう一つの顔がある。災害時の「避難所」である。大きな地震や台風のとき、地域の人々が身を寄せるのは、多くの場合、学校の体育館だ。真夏に災害が起きれば、その蒸し風呂のような空間で、高齢者や小さな子どもを含む大勢が、何日も過ごすことになる。つまり体育館の空調は、ふだんは子どもの命を守り、いざというときは避難した住民の命を守る——二つの意味を持っている。今回は、この体育館へのエアコン整備を、一市民として是々非々に考えてみたい。

まず、事実を整理する。全国の公立学校の体育館で、空調が設置されているのは、2025年(令和7年)5月の時点で、およそ23パーセントにとどまる。裏を返せば、四分の三以上の体育館には、まだエアコンがない。この状況を受けて、国は動き出した。災害時に避難所ともなる体育館の空調整備を加速するため、臨時の特例交付金を新たに設け、財政面から後押しをしている。令和6年度の補正予算では、この体育館空調のために数百億円の規模が計上された。国全体としては、2035年度までに設置率を95パーセントに引き上げることを目標に掲げている。磐田市も、施政方針のなかで、学校体育館への空調整備を進める方針を示している。

体育館エアコンの二つの意味。平時は子どもの熱中症対策で、猛暑で40度を超えることもある体育館での体育・部活・式典の安全。災害時は避難所の質で、真夏の災害時に地域の人が身を寄せる場所。全国の体育館の空調設置率は2025年5月で約23パーセントにとどまり、国は交付金で整備を加速し2035年度に95パーセントを目標にしている。
図1 体育館のエアコンは、平時は子どもを、災害時は避難した住民を守る。

評価——是々非々で見る

この動きを、是々非々で見ていきたい。

まず、良いと思う点である。第一に、なんといっても、子どもの命を守ることである。エアコンのある教室で学びながら、体育館では危険な暑さにさらされる——この落差を放置しないことは、当然、進めるべきだ。第二に、災害時の避難所としての質が上がることである。真夏の避難所が蒸し風呂のようでは、体力の弱い高齢者や子どもの命に関わる。冷暖房のある避難所は、防災の面からも大きな安心になる。第三に、国が交付金で財政を後押ししていることである。市の負担をやわらげながら整備を進められるいまは、動くべき好機だといえる。

一方で、注文をつけたい点が四つある。

第一に、コストと優先順位である。すべての学校の体育館に一斉に空調を入れるには、多額の費用がかかる。限られた予算のなかで、どの体育館から手をつけるのか。私は、まず「災害時に避難所となる体育館」を優先するのが筋だと思う。あわせて、天井の断熱や、大型の送風機といった、比較的安価な暑さ対策を組み合わせることも検討すべきだ。エアコンだけが答えではない。

第二に、ランニングコスト、つまり電気代である。大きな体育館を冷やすには、相応の電気代がかかる。つける費用だけでなく、使い続ける費用をどう見込むのか。電気代の高騰が続くなか、ここを曖昧にしたままでは、「つけたけれど、もったいなくて使えない」ということにもなりかねない。

第三に、実際の運用ルールである。空調を入れても、「いつ、誰の判断で動かすのか」がはっきりしなければ、いざ暑い日に使われないおそれがある。暑さ指数が一定を超えたら動かす、といった目安を、あらかじめ決めておくことが要る。つけて終わり、にしないための備えである。

第四に、避難所としての、停電時の備えである。大きな災害では、停電が起こりうる。そのとき、電気で動くエアコンは止まってしまう。避難所としての機能を本当に確かなものにするなら、非常用の電源や燃料といった、停電時にも空調を動かせる備えまで、あわせて考えておく必要がある。

対案・結論——四つの提案

こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。

第一に、災害時に避難所となる体育館を優先しながら、国の交付金を最大限に活かして、計画的に整備を進めてほしい。「いつまでに、どこから」という道筋を、市民に示してほしい。

第二に、エアコンだけに頼らず、天井の断熱や遮熱、大型送風機といった手段を組み合わせて、費用を抑えながら暑さをやわらげる工夫も、あわせて進めてほしい。

第三に、つける費用だけでなく、電気代というランニングコストの見通しを、はっきり示してほしい。そのうえで、平時は地域のスポーツや行事にも活かすなど、投じた費用が幅広く生きる使い方を考えてほしい。

第四に、猛暑の日にきちんと使われるための運用ルールと、災害時の停電に備えた電源の確保まで、セットで整えてほしい。設備は、正しく使われ、いざというときに動いてこそ、意味を持つ。

体育館のエアコンは、ぜいたく品ではない。猛暑が当たり前になり、大きな災害がいつ起きてもおかしくない時代に、子どもの命と、避難した住民の命を守るための、必要な備えである。教室にエアコンが入ったとき、私たちは「これでひと安心」と思った。けれども、子どもたちがいちばん体を動かす体育館と、いざというとき地域が身を寄せる体育館は、いまも灼熱のまま取り残されている。この二つの理由を思えば、磐田の体育館の空調整備は、急ぐに値する取り組みだと、私は考えている。

最後に一言。子を持つ親として、そして地域で暮らす一人として、思うことがある。「うちの子が、暑い体育館で倒れませんように」。「災害のとき、逃げ込んだ体育館が、せめて涼しくありますように」。この二つの願いは、けっしてぜいたくではない。当たり前に叶えられるまちであってほしいと、心から思う。

出典(2026年7月確認)

  • 文部科学省「学校体育館等への空調整備」関連資料(設置率・臨時特例交付金・整備の加速化など、2025年時点)
  • 学校体育館の空調整備に関する各種報道(避難所機能の強化、令和6年度補正予算など)
  • 磐田市「令和7年度施政方針」(学校体育館への空調整備の方針)、磐田市公式ウェブサイト「指定避難所一覧」

※設置率・国の交付金・磐田市の整備計画等は変更される場合があります。最新情報は文部科学省および磐田市・磐田市教育委員会の公式情報でご確認ください。