導入——磐田には、全国に誇れる味がある
贈答の季節になると、磐田で暮らしていて、ちょっと誇らしくなることがある。「アローマメロン」である。網目の美しい高級マスクメロンで、静岡県温室農業協同組合の磐田支所に属するおよそ70名の生産者が温室で育て、そのブランドで全国へ出荷している。磐田は、温暖な気候と肥沃な土、天竜川水系の清流に恵まれた、メロンづくりの適地なのだという。もう一つ、磐田北部の敷地地区でつくられる「次郎柿」も忘れてはいけない。種が少なく、四角い形をした堅めの実で、濃厚な甘みと歯ごたえがある。渋柿からつくる干し柿「ころ柿」も、この土地の秋の風物詩だ。
メロンと柿。どちらも、一朝一夕にはできない、長い時間をかけて磨かれてきた磐田の味である。市の外の人に「磐田ってどんなところ?」と聞かれたとき、ジュビロと並んで胸を張って言えるものが、この畑と温室のなかにある。けれども、その足元は、決して安泰ではない。今回は、この「まちの宝」を、次の世代へどう手渡していくかを考えたい。
まず、現実を直視しておきたい。市の資料などによれば、磐田の農業をめぐる状況として、農家の兼業化や高齢化により、とくに土地を広く使う農業を中心に担い手不足が深刻になっている。そして、後継ぎに引き継がれない農地、担い手に集約されない農地が、使われないまま遊休農地として増えている。作り手が高齢になり、継ぐ人がいない。畑が一枚、また一枚と草に覆われていく。これは、遠い他人の話ではなく、磐田のあちこちで静かに進んでいることである。
評価——是々非々で見る
この状況を、是々非々で見ていきたい。まず、良いと思う点である。第一に、磐田には「アローマメロン」という、全国に通用する強いブランドがすでにあることだ。ゼロから知名度をつくる必要がない、というのは大きな財産である。第二に、次郎柿やころ柿のように、地区に根ざした特色ある産物があること。地域の風景や季節感と結びついた作物は、そのまちの物語そのものになる。第三に、小学生がメロンの栽培を学ぶといった取り組みも行われている。子どもの頃に、自分のまちの誇りに触れておくことは、将来この土地に戻ってくる、あるいは関わり続ける種になる。
一方で、注文をつけたい点が四つある。
第一に、「ブランドはあるが、作り手が減っていく」という一点である。どれほど評価の高いメロンでも、育てる人がいなくなれば、いつか棚から消える。ブランドを守ることと、担い手を確保することは、別の仕事である。前者だけに力を注いで、後者を放っておけば、いずれ守るべきものが無くなってしまう。
第二に、新しく農業を始めたい人にとっての、入り口の高さである。温室メロンにしても柿にしても、技術も設備も要る。土地を借りるにも、機械をそろえるにも、まとまった資金がいる。「やってみたい」と思った若い人が、その入り口で立ち止まってしまっていないか。技術を学べる場、初期の負担を軽くする仕組みが、十分に用意されているだろうか。
第三に、遊休農地の増加である。使われない農地は、荒れれば元に戻すのに大きな手間がかかる。獣害や雑草の問題も生む。増えてから慌てるのではなく、まだ耕せるうちに、次の担い手や集約の仕組みへつなぐ手立てが要る。これは、私が空き家の仕事で感じるのと、まったく同じ構図である。放っておくほど、選べる道は狭くなる。
第四に、農業が「割に合う」仕事であるかどうかである。誇りだけでは、人の暮らしは続かない。資材や燃料の高騰が続くなか、手間をかけたぶんが、きちんと手取りとして返ってくるのか。継いでほしいと願うのなら、まず、継ぐ価値のある仕事にしておくことが、大人の側の責任だと思う。
対案・結論——四つの提案
こうした評価を踏まえて、私は次の四点を提案したい。
第一に、「ブランドを売る」ことと同じ熱量で、「担い手を育てる」ことに取り組んでほしい。アローマメロンや次郎柿の技術を、次の世代へ引き継ぐための研修や、ベテランと新規就農者をつなぐ仕組みを、市として太く支えてほしい。
第二に、新しく始める人の入り口を、できるだけ低くしてほしい。温室や機械、農地の初期費用を軽くする支援、そして「まず試してみる」ことのできる場を用意してほしい。いきなり全部を背負わせるのではなく、段階を踏んで独り立ちできる道筋があるとよい。
第三に、遊休農地を、荒れる前に次へつないでほしい。空き家と同じで、傷む前に手を打てば、選べる道はずっと広い。農地の相談を、相続や引退の「手前の段階」で受けられる入り口を、分かりやすく示してほしい。
第四に、子どもたちが磐田の農に触れる機会を、続けて広げてほしい。メロンの授業も、柿の収穫体験も、すぐに担い手を生むわけではない。けれども、「自分のまちには、全国に誇れる味がある」という記憶は、その子の一生に残る。誇りは、次の担い手を育てる、いちばん深いところの土壌になる。
アローマメロンも、敷地の次郎柿も、誰かが何十年もかけて育て、守ってきたものである。それは、ただの農産物ではなく、このまちが積み重ねてきた時間そのものだ。担い手が減り、畑が草に覆われていくのを、「仕方ない」と眺めているだけでは、磐田はいつか、その誇りを失う。まちの宝は、放っておいて残るものではない。誰かが継いでこそ、次の世代に手渡される。
最後に一言。私は農家ではない。けれども、実家じまいや空き家の相談を受けるなかで、「継ぐ人がいない」という言葉の重さを、いやというほど聞いてきた。家も、畑も、継ぐ人がいなくなった瞬間から、静かに傷み始める。だからこそ思うのだ。継いでほしいと願うなら、まず、継ぎたいと思える仕事にすること。磐田のメロンと柿が、これからも誰かの誇りであり続けるように、まちぐるみで手を打つときだと思う。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市公式ウェブサイト「メロン」「農業」「農業委員会」関連ページ(担い手不足・遊休農地の状況など)
- 静岡県温室農業協同組合 磐田支所/アローマメロンに関する案内(会員数・産地の特徴など)
- 磐田市観光協会「地場産品紹介」(次郎柿・ころ柿など)
※生産者数・栽培状況・各支援制度の内容等は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式サイト・関係団体でご確認ください。