導入——「担当が増えた」と「うまくいく」は別の話

不動産の仕事をしていると、「担当者が増えました」という話をよく聞く。役所でも、会社でも、担当が増えること自体は歓迎すべきことが多い。だが同時に、現場で長く相談を受けてきた身として正直に言うと、「人を増やしたから、これで大丈夫」という空気には、いつも少し身構えてしまう。担当が増えることと、相談者の悩みが実際に解決に向かうことは、別の話だからだ。

磐田市の空き家対策は、令和6年度に「空き家おこしプロジェクト」として本格的に動き出し、令和7年度には地域おこし協力隊(空き家担当)が3人体制になった。窓口が手厚くなったこと自体は良い流れだと思う。ただ、この1年ほどの間に相談の現場で感じる空気の変化もあり、「人を増やしたから、あとは進むだろう」で終わらせていい話ではないと感じている。今日は、この空き家対策の体制の変わり目について、事実を整理したうえで、是々非々で考えてみたい。

まず、事実を整理する

磐田市は令和6年度、「空き家おこしプロジェクト」を発足させた。市民や関係者に空き家対策への関心を持ってもらい、一緒に取り組む相手(共創相手)を見つけ、空き家の有効活用を進めることが目的である。この年度は、株式会社カチタスと株式会社マストレの2社と連携し、空き家の査定提案業務(想定・週1〜3戸程度、査定等は無償)などに取り組んだ。自治会への働きかけによる意見収集や、移住体験ツアー、地域イベントへの出展も行っている。

令和7年度に入り、この体制はさらに広がった。連携事業者は株式会社カチタス、合同会社まごころ不動産、マークスライフ株式会社の3社となり、年間のマッチング目標を12件と掲げている。実際に、就農を希望する人と空き家所有者の顔合わせが実現するなど、具体的な事例も出てきている。

そして、この令和7年度に委嘱されたのが、地域おこし協力隊(空き家担当)の3人である。空き家の所有者と、購入・活用を希望する人とのマッチングや、市民への啓発活動などを担う。委嘱の時期は隊員によって異なり、4月、6月、10月と、1年をかけて段階的に体制が整えられてきた。担当課である建設部建築住宅課は、本人の同意を得たうえで隊員の相談内容を共有し、対応する仕組みになっている。

磐田市の空き家対策の積み上げを時系列で示す図。令和6年度は空き家おこしプロジェクト発足、連携事業者2社、査定提案業務を実施。令和7年度は連携事業者3社に拡大しマッチング目標12件、同じ年度内に地域おこし協力隊(空き家担当)を4月・6月・10月と3人段階的に委嘱。担当課は建設部建築住宅課。
図1 令和6年度からの積み上げの上に、令和7年度、協力隊3人の体制が加わった。

評価——良い点と、注文したい点

まず、良いと思う点を挙げたい。第一に、令和6年度からの2年がかりで、事業者連携・査定提案・啓発活動という土台を着実に積み上げてきたことである。単発の思いつきではなく、年度をまたいで拡大してきた経緯は評価したい。第二に、協力隊という「専任で動ける人」を空き家対策に充てたこと。空き家の相談は、役所の窓口だけで完結しない。所有者の家庭の事情、相続の状況、地域とのつながりまで踏み込んで話を聞く必要があり、専任担当がいることの意味は大きい。第三に、連携事業者を2社から3社に広げ、マッチング目標まで掲げたこと。数字の目標を外に示す姿勢は、行政としては珍しく、率直に良いと思う。

一方で、注文をつけたい点が三つある。

第一に、体制の変わり目そのものへの目配りである。協力隊は1年のうちに4月、6月、10月と段階的に委嘱されており、令和7年度は言ってみれば「立ち上げの年」だった。今年に入り、空き家の相談対応をめぐる役所側の窓口や動きに変化があったという声を、不動産業界の中でも耳にするようになった。新しい体制が軌道に乗るまでには、引き継ぎや役割分担の調整に一定の時間がかかるものだ。それ自体は自然なことだが、「人を増やしたのだから、あとは順調に進む」という受け止め方で済ませてしまうと、この過渡期特有の手薄さが見過ごされかねない。

第二に、協力隊という制度の性質そのものへの理解である。地域おこし協力隊は、任期があり、任期後は独立や転職で地域を離れる隊員も少なくない全国共通の制度だ。空き家の相談は、一件ごとに事情が違い、法務・税務・解体・売却・賃貸活用まで幅広い実務知識を要する。専任担当が熱心であることと、その担当が実務の勘所まで蓄積していることは、必ずしも同じではない。協力隊の熱意を、建築住宅課や、私たちのような実務経験のある事業者がどう支え、知見を渡していくかが問われている。

第三に、「人を配置した」ことが、対策の成果そのものであるかのように受け止められる空気である。令和7年度のマッチング目標12件は、達成できて初めて意味を持つ数字だ。協力隊3人という体制は、あくまで手段であり、目的ではない。手段が整ったことと、目的(空き家の解消・活用)が達成されることの間には、まだ距離がある。

人を増やすことと成果が出ることの違いを示す図。左側、体制を整える。協力隊3人委嘱、連携事業者3社、目標12件。右側、成果につながる。引き継ぎと役割分担の定着、実務知見の蓄積、マッチング件数の実績。左から右へは自動では進まず、建築住宅課と事業者・実務経験者による下支えが要る。
図2 「体制を整える」と「成果につながる」の間には、下支えが要る。

対案・結論——三つの提案

そのうえで、私は次の三点を提案したい。

第一に、協力隊と建築住宅課の役割分担を、市民にも見える形で整理してほしい。どこまでを協力隊が相談に乗り、どこから先を建築住宅課が引き取るのか。窓口が増えるほど、この線引きが曖昧だと、相談者はかえって「どこに聞けばいいか分からない」となる。

第二に、相談履歴と実務ノウハウを、個人ではなく組織に残す仕組みをつくってほしい。協力隊は任期のある制度である。担当が代わっても、これまでの相談内容や事業者とのやり取りが引き継がれるよう、記録を一元管理してほしい。人が変わっても、積み上げが消えない体制こそが、本当の意味での「対策の強化」だと思う。

第三に、マッチング目標12件のような数字は、年度の途中経過も含めて公表してほしい。目標を掲げたのは良いことだ。ならば、達成に向かっているのか、苦戦しているのかも、あわせて示すべきである。うまくいっている部分を隠す必要はないし、苦戦している部分を隠す必要もない。

令和6年度からの2年間、磐田市の空き家対策は、決して悪い方向には進んでいない。だからこそ、令和7年度の体制の変わり目を「人を増やしたから安心」で終わらせず、引き継ぎと実務の中身にもう一段、目を配ってほしい。

最後に一言。私は日々、実家じまいや空き家の相談を受ける現場にいる。所有者の悩みは、制度の説明だけでは解決しない。誰が、どこまで責任を持って、その家族の事情に付き合ってくれるのか——相談者が知りたいのは、結局そこである。協力隊という「人」が増えたことを歓迎しつつ、その人たちが実務の重みに押しつぶされず、腰を据えて働ける体制になっているか。私たち不動産の現場も、その下支えの一端を担いたいと思っている。

出典(2026年7月確認)

  • 磐田市公式ウェブサイト「地域おこし協力隊(空き家担当)」(委嘱人数・委嘱時期・活動内容、担当課との連携)
  • 磐田市公式ウェブサイト「空き家おこしプロジェクト」(令和6年度・令和7年度の連携事業者、マッチング目標・実績)
  • 磐田市公式ウェブサイト「建築住宅課」(組織・所管業務の案内)

※協力隊員の人数・任期、連携事業者、マッチング目標・実績等の数値は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式ウェブサイトでご確認ください。