導入——地面の下は、見えない
以前この場で、下水道使用料の話を書いた。1立方メートルあたり135円が、審議会の示す方向では150円へ——という話である。あのとき私は、「使った汚水を流すお金」の値上げを、家計の目線で整理した。今日は、その反対側の話をしたい。上水道。蛇口をひねって出てくる、飲むほうの水である。
結論から言えば、磐田の水道は、いまのところ健全だ。黒字だし、水道料金も全国平均より安い。これは、正直に評価すべきことである。ただし、この4月から始まった新しい「水道事業経営戦略」(令和8年度〜令和17年度)を読んでいくと、地面の下で進んでいる、もうひとつの現実が見えてくる。そして、その現実には、はっきりと値上げの日程が書き込まれている。私は不動産の仕事柄、「見えない場所の劣化」がどれほど厄介かを知っている。だからこそ、この話は、いま整理しておきたい。
まず、いい話から——磐田の水道は、健全である
順に見ていく。まず、経営の健全性だ。令和6年度の経常収支比率は112.05パーセント。100パーセントを超えていれば黒字ということなので、これは健全である。しかも同規模都市の平均より高い。累積欠損金、つまり過去から積み上がった赤字は0.00パーセントで、ゼロ。流動比率は275.94パーセントで、毎年度100パーセントを確保しており良好。料金回収率は111.81パーセントで、給水にかかる費用は水道料金できちんと賄えている。
そして、市民にとって大事なのはここだ。給水原価は1立方メートルあたり127.55円。これは同規模都市の平均より低く、全国平均よりもかなり低い水準で推移している。要するに、磐田の水は、全国的に見て安く供給できているということである。「経営効率性は比較的高い」と、市自身の分析も認めている。ここまでは、素直にいい話だ。
次に、地面の下の話——4分の1が、耐用年数を超えている
ところが、老朽化の指標を見ると、景色が変わる。
管路経年化率、つまり法定耐用年数の40年を超えた管が全体に占める割合は、令和6年度で24.85パーセント。およそ4分の1の管が、すでに「耐用年数を超えている」ということだ。これでも同規模都市の平均(28パーセント前後)よりは低く抑えられており、市は「管路更新計画を基に計画的に管路更新を進めており、同規模都市平均以下に抑えることができている」と説明している。頑張ってはいるのである。
問題は、その隣の数字だ。管路更新率——1年間に何パーセントの管を入れ替えられたか——は、令和6年度で0.65パーセント。ここ数年を並べると、0.64、0.58、0.69、0.53、0.65と、おおむね0.5から0.7の間を行ったり来たりしている。
年に0.65パーセントということは、単純に割り算をすれば、全部の管を入れ替えるのに約154年かかる。管の寿命は40年である。40年でだめになるものを、154年かけて取り替えている。この計算が意味することは、ひとつしかない。いまのペースでは、老朽化に追いつけない。
しかも、市はこう書いている。「管路更新計画を基に計画的に管路更新を進めているが、人件費や資材の高騰など更新費用の増加要因により、減少してしまう年度が生じている」。つまり、値上がりのせいで、同じ予算では去年より短い距離しか替えられない年がある、ということだ。
もうひとつ、気になる数字がある。有収率は83.28パーセント。これは、送り出した水のうち、料金として回収できた水の割合である。裏を返せば、およそ17パーセントの水が、途中で消えている。同規模都市の平均は90パーセント前後なので、磐田は7ポイントほど低い。市自身、「老朽管等からの漏水などが無効水量になり有収率に影響している」と分析している。古い管から、水が漏れているのだ。
そして、値上げの話——市の試算は、すでに数字を出している
ここからが本題である。経営戦略には、投資の目標が書かれている。老朽化した施設の更新に年およそ2.5億円、老朽管の更新に年およそ14.5億円、その他1.1億円。合わせて年18.1億円の建設改良費を確保する、という計画だ。とくに管路については、「これまで進めてきた上水道管路更新計画に加えて、今後は避難所などの重要な給水施設に接続する管路を優先的に整備する」としている。
一方で、入ってくるお金は減っていく。給水人口は令和8年度から令和17年度までの10年間で5パーセント減る見込み。水の使用量(有収水量)も、平成26年度の1日およそ49,300立方メートルから、令和17年度には46,060立方メートルまで減る見込み。料金収入は、令和17年度に令和8年度と比べて1.4パーセント減る見込みである。
出ていくお金は増え、入ってくるお金は減る。では、どうするのか。市は4つのケースで試算をしている。この表が、この記事でいちばん見てほしいところだ。
ケース0は、水道料金を現状維持——つまり値上げしない場合。結果は、収益的収支の黒字維持が「×」、災害等に備えた資金確保も「×」。両方とも達成できない。ケース1は、令和10年度に13パーセント、令和15年度に16パーセントの改定。黒字は「○」だが、資金確保は「×」。ケース2は、令和10年度に20パーセント、令和15年度に12パーセントの改定(企業債を年6億円に増額)。両方「○」。ケース3は、令和10年度に30パーセント、令和15年度に7パーセント。これも両方「○」である。
読み方は、はっきりしている。市の試算では、料金を据え置いたままでは、目標は達成できない。そして、値上げをする場合の幅として、令和10年度——つまり2028年度、2年後だ——に13パーセントから30パーセントという数字が、すでに机の上に載っている。
さらに、経営戦略にはこう書かれている。料金については「今後10年間のうち審議会において、改定の是非や改定案を検討する。次回審議会は令和8〜9年度を予定」。令和8年度は、今年度である。つまり、水道料金の審議会は、今年度か来年度に開かれる。値上げは「遠い将来の足音」ではない。もう、日程の話になっている。
評価——是々非々で見る
良いと思う点から書く。第一に、市が数字を隠していないこと。値上げをしなければ目標を達成できない、という不都合な結論を、ちゃんと表にして公表している。これは誠実だと思う。第二に、いまの経営が実際に健全で、料金も全国平均より安いこと。ここまで安く供給してきた努力は、評価されるべきだ。第三に、更新の優先順位に「避難所などの重要な給水施設に接続する管路」を挙げていること。南海トラフを控えたまちとして、これは正しい順番である。
そのうえで、注文が三つある。
第一に、この話が、市民にまったく届いていないことだ。私は、水道料金の審議会が今年度か来年度に開かれることを、この経営戦略を読むまで知らなかった。8ページの資料の、7ページ目の表である。13パーセントから30パーセントという数字が、市民の目に触れないまま審議会に進み、決まってから「決まりました」と知らされる——それでは、下水道のときと同じ道をたどる。市民が知らないまま進む値上げほど、あとで不信を生むものはない。
第二に、「安い」ことが、必ずしも褒め言葉ではないという視点である。給水原価が全国平均より低いのは、効率がよいからでもあるが、更新を先送りしているからでもありうる。市自身、「将来的な施設更新需要や維持管理水準とのバランスについても継続的に検証が必要」と書いている。年0.65パーセント——154年ペースの更新率は、その言葉を裏づけている。いまの安さは、未来からの前借りである可能性がある。
第三に、有収率83.28パーセントの17ポイントである。漏れている水にも、汲み上げて、浄化して、送り出すコストがかかっている。値上げを市民にお願いする前に、この漏れをどこまで減らせるのかを示してほしい。市は「漏水調査等を効果的に活用し、有収水量の向上を図っていく」としているが、目標値と達成状況を、料金の議論とセットで出すべきだと思う。
対案・結論——三つの提案
そこで、三つ提案したい。
第一に、審議会が始まる前に、この4つのケースを市民の言葉で説明してほしい。「値上げか、据え置きか」ではない。「据え置けば、管の更新はさらに遅れ、災害時の備えも確保できない」という引き換えを、先に示してほしい。数字の意味を知らされずに賛否だけ聞かれても、市民は答えようがない。
第二に、値上げを議論するなら、同時に「減らす努力」も並べてほしい。漏水対策で有収率をどこまで上げるのか。施設利用率が58.66パーセントまで下がり、市自身が「相対的に余剰能力が大きい」と認めている以上、ダウンサイジング——つまり、身の丈に合った規模へ縮めること——をどこまでやるのか。経営戦略には、広域化やPPP・PFIの検討、施設の廃止・統合の検討も書かれている。負担をお願いする側が、まず自分の側を削って見せる。順番として、それが筋だと思う。
第三に、上水道と下水道を、家計の合計で見せてほしい。市民が払うのは「水道代」という一本の請求である。下水道は令和5年に改定があり、審議会は次の一段を示している。そこへ上水道が13から30パーセント上がれば、家計に来るのは合算の衝撃だ。別々の会計であることは、行政の都合であって、暮らしの都合ではない。二つ合わせて月にいくら増えるのかを、はじめから示してほしい。
最後に一言。私は不動産の仕事で、築40年の家をよく扱う。そういう家で、いちばん厄介なのが、実は給水管である。壁の中、床の下、地面の下。見えないから、誰も気にしない。そして、漏れて、初めて気づく。そのときには、床を剥がすことになる。まちの水道管も、まったく同じだ。地面の下にあるから、票にもならないし、拍手も起きない。けれども、4分の1が耐用年数を超え、154年かけて入れ替えているという事実は、いま、そこにある。値上げの是非を決めるのは市民である。ただ、その前に、地面の下で何が起きているかを知っておきたい。審議会は、今年度か来年度に開かれる。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市「水道事業経営戦略」(計画期間 令和8年度〜令和17年度、基本理念「市民と環境を支え続ける水道」)
- 同「経営比較分析表等を活用した現状分析」(令和6年度 経常収支比率112.05パーセント、累積欠損金比率0.00パーセント、流動比率275.94パーセント、料金回収率111.81パーセント、給水原価127.55円、施設利用率58.66パーセント、有収率83.28パーセント)
- 同「老朽化状況」(令和6年度 管路経年化率24.85パーセント、管路更新率0.65パーセント、有形固定資産減価償却率50.16パーセント)
- 同「将来の事業環境」(給水人口は令和8〜17年度の10年間で5パーセント減、有収水量は令和17年度に1日46,060立方メートルへ、料金収入は令和17年度に令和8年度比1.4パーセント減の見込み)
- 同「投資・財政計画」(建設改良費 施設・設備2.5億円/管路更新14.5億円/その他1.1億円=計18.1億円/年、投資財政シミュレーション ケース0〜3の料金改定率と経営目標達成の可否)
- 同「財源についての検討状況等」(料金:今後10年間のうち審議会において改定の是非や改定案を検討。次回審議会は令和8〜9年度を予定)
- 磐田市「下水道使用料及び農業集落排水処理施設使用料改定(令和5年4月1日)」
※本記事の「154年」は、管路更新率0.65パーセントから単純計算した目安であり、市の公表値ではありません。シミュレーションの改定率は、あくまで試算上のケースであって、決定された料金改定ではありません。各数値・計画の内容は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式サイトでご確認ください。