導入——部活動のときと、まったく同じ話をする
この場で、部活動について何度か書いてきた。誰が支えるのか。先生のタダ働きの上に成り立っていた仕組みが、限界に来ている、という話である。今日は消防団の話をするが、実を言うと、構造はまったく同じだ。同じ話を、防災の側からもう一度する、と思って読んでいただきたい。
夜中にサイレンが鳴って、ポンプ車が出ていく。台風の夜、川べりを見回る人がいる。行方不明者の捜索で、朝から山に入る人がいる。あれは、公務員ではない。あなたの近所の、勤め人であり、自営業者であり、農家である。昼間は会社で働き、夜に呼び出される。その人たちが、いま、いなくなりつつある。
今日の結論を先に書く。私は、この問題の根っこは「ボランティア」という言葉にあると思っている。善意でやってくれている、という建前があるから、その時間に値段がつかない。値段がつかないから、誰もコストとして計算しない。計算しないから、いくらでも積み増せる。そして、ある日、人がいなくなる。
まず、事実を整理する——蛇口より、排水のほうが太い
数字から見ていく。総務省消防庁の調査によれば、令和7年4月1日現在の全国の消防団員数は732,223人。前年から14,458人、1.9パーセントの減少である。
この減り方の意味は、内訳を見るとはっきりする。この1年で入団した人は37,757人。辞めた人は52,215人。入ってくる人より、出ていく人が1万4千人あまり多い。桶に水を注いでも、底の穴のほうが大きければ、水位は下がる。いま起きているのは、そういうことだ。募集が足りないのではない。辞める人が多いのである。
長い目で見ると、もっと分かりやすい。昭和29年には、全国で1,944,233人——およそ194万人いた。昭和30年に200万人を割り、平成2年に100万人を割り、いま73万人である。70年で、3分の1近くまで減った。
年齢も偏っている。30代以下の団員は、全体の33.5パーセントにとどまる。裏を返せば、3分の2は40代以上だ。60歳以上が10.2パーセントで、うち65歳以上が4.5パーセント。「若い衆が消防団」というのは、もはや過去の風景である。
では、磐田はどうか。磐田市消防団は、1消防団本部・7方面隊・28分団で構成され、条例定数は1,044名である。平成17年の合併で、旧磐田市・福田町・竜洋町・豊田町・豊岡村の団が統合されて、いまの姿になった。
次に、お金の話——磐田は、きちんと払っている
ここは正確に書かなければならない。磐田市は、国の基準どおりに、しかも個人の口座に直接、報酬を払っている。
市が公表している報酬表は、こうだ。出動・訓練報酬は、災害出動——火災・風水害・土砂災害・地震・捜索活動——が1日8,000円。災害以外、つまり訓練・会議・講習会・式典・その他が1日3,000円。これが「毎月の活動内容に応じて個人の口座へ振り込まれます」と明記されている。
これとは別に、年額報酬がある。年2回、6月と12月に分けて、これも個人の口座へ振り込まれる。金額は階級別で、団長82,500円、副団長69,000円、本部長58,500円、副本部長55,500円、分団長50,500円、副分団長45,500円、班長37,000円、そして団員が36,500円である。
この36,500円という数字と、災害出動8,000円という数字には、見覚えのある人もいるだろう。国が示した標準額と、ぴったり同じだからだ。
経緯はこうである。2021年(令和3年)4月13日、消防庁長官が全国の自治体に通知を出した。団員階級の年額報酬は36,500円を標準とし、災害に関する出動報酬は1日8,000円を標準とする。そして、2022年(令和4年)4月1日から適用された。
この通知の肝は、金額ではない。支給の方法である。報酬および費用弁償は、団員個人に対して、活動記録等に基づいて市町村から直接支給すること——そう定められた。
なぜ、わざわざそんなことを国が言わなければならなかったのか。消防庁は、はっきり書いている。団への一括返納や、幹部による通帳預かりといった慣行は「基準の趣旨を逸脱する」ものであり、是正が望ましい、と。
つまり、そういうことが、実際にあったのだ。個人に支払われるはずの報酬が、団にまとめて戻され、団の運営費や、行事や、飲食に消えていく。国が名指しで戒めるということは、それが例外ではなかったということである。
この点で、磐田は基準を満たしている側だ。全国では、年額報酬・出動報酬・支給方法の基準を満たす市区町村が92パーセントを超えたと、消防庁は報告している。着実に改善はしている。裏を返せば、1割弱は、まだ満たしていないのだが。
評価——是々非々で見る
良いと思う点から書く。第一に、いま述べたとおり、磐田は国の基準どおりの額を、個人の口座へ直接振り込んでいる。制度としては、正しくやっている。第二に、災害以外の訓練・会議・式典にも1日3,000円を出していること。国の基準が主に念頭に置くのは災害出動だが、磐田は訓練等にも払っている。第三に、準中型免許の取得に最大6万円を助成し、マイカー共済(最大50万円補償)も用意していること。ポンプ車を運転できる人がいなければ、団は動かない。地味だが、実務が分かっている手当てだと思う。第四に、全国では女性団員が29,478人(前年比3.1パーセント増)、学生団員が7,568人(同6.3パーセント増)、機能別団員が40,195人(同7.0パーセント増)と、増えている層があること。ここには、はっきり光がある。
そのうえで、注文が四つある。
第一に、「ボランティア」という言葉をやめるべきだ、ということである。消防団員は、法律上は非常勤の特別職公務員であって、ボランティアではない。にもかかわらず、私たちは長らく「地域の善意」「奉仕の精神」という言葉でこれを語ってきた。善意と呼んだ瞬間、その時間は無料になる。無料のものは、家計簿にも決算書にも載らない。載らないものは、誰も減らそうとしない。だから、訓練が増え、式典が増え、行事が増える。部活動で起きたことと、寸分違わない。コスト意識がないから、際限なく積み上がるのだ。
第二に、団に落ちるお金と、個人に届くお金は、まったくの別物だという点である。ここは、はっきり言っておきたい。団の運営費や、行事の費用や、慰労の飲み会代を市が出したとしても、それは団員一人ひとりの報酬にはならない。飲み会は、報酬ではない。国がわざわざ「団への一括返納」「幹部による通帳預かり」を名指しで戒めたのは、まさにこの取り違えが全国にあったからだ。磐田は制度上クリアしている。ただ、制度が変わっても現場の慣行が残っていないか——たとえば、振り込まれた報酬を、事実上、団に出し直すような空気がないか。そこは、市として確かめてほしい。
第三に、金額を時間で割ってみてほしい、ということだ。団員の年額報酬は36,500円。月に直せば約3,000円である。仮に、訓練や点検や式典で年20回出動したとすれば、1回あたり1,825円。災害以外の1日3,000円にしても、仮に半日4時間拘束されるなら、時給に直して750円である。静岡県の最低賃金には、届かない。もちろん、消防団は労働ではない、という理屈は分かる。だが、拘束される時間は、まぎれもなくその人の人生の時間だ。時給に直したら最低賃金を下回るものを、私たちは「報酬」と呼んで、若い人に勧めている。勧められるほうの身になれば、答えは出ている。
第四に、募集より定着だ、ということである。入団37,757人に対し、退団52,215人。この数字を前にして、ポスターを増やしても意味がない。なぜ辞めるのかを調べ、その理由を潰すほうが先である。仕事を休めない。家族に負担がかかる。訓練が多すぎる。上下関係がつらい。飲み会が実質強制である。——理由の見当は、たぶん、みんなついている。ついているのに、手をつけていないだけではないか。
対案・結論——四つの提案
提案したい。
第一に、市の広報から「ボランティア」という表現を外し、「非常勤の公務」として正面から扱ってほしい。呼び方を変えることは、小手先ではない。呼び方が、コストの計算の仕方を決めているからだ。
第二に、団に出しているお金と、個人に届いているお金を、分けて公開してほしい。年間、団の運営にいくら出し、団員一人あたりにいくら届いているのか。この二つが混ざったまま「消防団にこれだけ支出しています」と言われても、団員の手取りは1円も増えない。
第三に、退団理由の調査を行い、結果を公表してほしい。桶の穴を塞がずに水を注ぐのは、税金の使い方として下手である。辞めた人にこそ、いちばん大事な情報がある。
第四に、機能別団員の拡大である。全国で40,195人まで増え、803市区町村が導入している。「全部はできないが、これならできる」——後方支援だけ、大規模災害時だけ、広報だけ。全部を背負わせるから、誰も手を挙げないのだ。入り口を分ければ、入れる人は確実に増える。
最後に一言。私は、消防団の人たちを尊敬している。だからこそ、「ありがとう」で終わらせたくない。感謝は、報酬ではない。誇りも、報酬ではない。飲み会も、報酬ではない。誰かのタダ働きを前提にした仕組みは、その誰かがいなくなった瞬間に止まる。部活動で、私たちはそれを目の当たりにした。消防団で同じことが起きたとき、止まるのは、南海トラフの夜のポンプ車である。継いでほしいと願うなら、まず、継ぐ価値のある仕事にすること。農業のときにも書いたが、結局、どの分野でも答えは同じところに戻ってくる。時間には、値段がある。それを認めるところからしか、始まらない。
出典(2026年7月確認)
- 総務省消防庁「消防団の組織概要等に関する調査(令和7年度)の結果」(令和7年8月29日公表。令和7年4月1日現在 団員数732,223人・前年比▲14,458人〈▲1.9パーセント〉、入団者37,757人・退団者52,215人、30代以下の構成率33.5パーセント、女性団員29,478人〈+3.1パーセント〉・学生団員7,568人〈+6.3パーセント〉・機能別団員40,195人〈+7.0パーセント〉、機能別団員制度は803市区町村で導入、報酬の基準を満たす市区町村が92パーセント超、昭和29年1,944,233人)
- 消防庁「非常勤消防団員の報酬等の基準」(令和3年4月13日消防庁長官通知、令和4年4月1日適用。団員の年額報酬36,500円を標準、災害に関する出動報酬1日8,000円を標準、団員個人への直接支給)
- 消防団オフィシャルウェブサイト「消防団員の処遇について」(団員個人に対して直接支給。団への一括返納や幹部による通帳預かり等の慣行は基準の趣旨を逸脱するとして是正が望ましい旨の記載)
- 磐田市消防本部警防課「磐田市消防団 報酬について」(出動・訓練報酬:災害出動8,000円/日、災害以外3,000円/日、毎月の活動内容に応じて個人の口座へ振込。年額報酬:年2回〈6月・12月〉個人の口座へ振込、団長82,500円/副団長69,000円/本部長58,500円/副本部長55,500円/分団長50,500円/副分団長45,500円/班長37,000円/団員36,500円)
- 磐田市公式ウェブサイト「消防団」(1消防団本部・7方面隊・28分団、条例定数1,044名、退職報償金、マイカー共済〈最大50万円補償〉、準中型免許補助制度〈最大6万円助成〉)
※本記事の時給換算(1回1,825円、時給750円)は、出動回数や拘束時間を仮に置いた筆者の試算であり、公表値ではありません。報酬額・制度の内容は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式サイト・総務省消防庁でご確認ください。