導入——空き家を、住所だけで売らない
磐田市の空き家バンクで、今日、令和8年7月17日から「スタジアムを感じられる家」の特集物件募集が始まった。募集期間は8月31日まで。市のページでは、不動産関係者に積極的な登録を呼びかけている。
私は、この切り口は良いと思う。空き家は、築年数、面積、価格だけで見れば、どうしても古さや手直しの負担が先に立つ。だが、磐田には磐田らしい暮らし方がある。試合の日にまちが動く。スタジアムへ歩ける。応援の空気が近い。そういう地域の手触りを、家の見せ方に入れるのは自然なことだ。
ただし、見せ方だけで終わってはいけない。空き家は広告の言葉で動くのではなく、最後は現地、費用、手続き、改修、暮らし方で動く。今回は、今日始まった募集を入口に、空き家バンクの掲載物件と既存住宅取得等事業費補助金を、実務の順番で見てみたい。
まず、事実を整理する
磐田市の空き家バンクは、不動産関係事業者からの情報を市が掲載する仕組みである。購入を希望する人は、直接、不動産関係事業者に相談する。市は購入に関して発生したトラブルに責任を負わない、と明記している。つまり、市のページに載っているから安心、ではなく、入口は市、確認と契約は通常の不動産取引として見る必要がある。
令和8年7月15日更新のページでは、特集物件として「スタジアムを感じられる家」の募集が示されている。募集期間は令和8年7月17日金曜から8月31日月曜まで。一般物件としては、国府台、合代島、大原、新貝、海老島、岩井、見付、城之崎などの物件が掲載され、価格や問い合わせ先も載っている。
あわせて見るべきなのが、既存住宅取得等事業費補助金である。市内の既存住宅を取得し、リフォーム工事等を行って居住する人を対象とする補助で、若者世帯・子育て世帯は、取得、建替え、リフォームが対象になる。若者世帯・子育て世帯以外は、リフォームが対象になる。
補助額も大事だ。若者世帯・子育て世帯では、建物購入費の10分の1、リフォーム工事費の2分の1などが対象で、市外から転居する場合は上限150万円、市内転居等は上限100万円。若者世帯・子育て世帯以外は上限50万円である。ただし、補助金は予算の範囲内で、交付申請後の経費が対象になる。買った後、工事した後に気づいても、対象にならない場合がある。
評価——良い点と、注文したい点
まず良い点は、空き家を「地域の魅力」と結びつけて見せようとしているところだ。家は箱ではない。朝どこを歩くか、休日どこへ行くか、試合の日にどんな音が聞こえるか、近所にどんな人がいるか。そうした生活の風景まで含めて、住まいである。
二つ目に、空き家バンクと補助金が同じ流れで見られる点も良い。空き家を買う人にとって、物件価格だけでは判断できない。改修費、耐震、設備、外構、引っ越し、税金まで含めて、総額で判断する必要がある。補助金があるなら、最初から資金計画に入れるべきだ。
三つ目に、不動産関係者を巻き込んでいる点も評価したい。空き家は、行政だけでは動かない。所有者に声をかけ、現地を見て、価格を考え、必要なら片付けや修繕を提案し、買主に説明する。そこは民間の実務が要る。
そのうえで、注文したい点もある。第一に、特集名だけでなく、買主が確認したい情報をもう一段厚くしてほしい。スタジアムを感じられる、という言葉は魅力的だが、実際には徒歩時間、駐車場、試合日の交通、音、近隣状況、改修のしやすさまで知りたい。雰囲気だけでは、買う決断には届かない。
第二に、補助金の注意点をもっと前に出してほしい。特に「申請後の経費が対象」という点は、不動産の現場では重要である。良い物件を見つけて、先に契約し、先に工事を頼んでしまう人はいる。そうなると、もらえるはずだった支援を逃すことがある。
第三に、所有者向けの準備リストがほしい。空き家を登録する側は、写真、図面、境界、雨漏り、残置物、耐震、固定資産税、近隣への説明などを整理しておくと、話が早い。特集をきっかけに登録を増やしたいなら、「登録してください」だけでなく、「ここまで整えると動きやすい」を示した方がよい。
対案・結論——「見せ方」と「動かし方」をセットにする
私は、今回の「スタジアムを感じられる家」を、単なる特集で終わらせない方がよいと思う。磐田らしい空き家の見せ方をつくるなら、同時に、動かし方まで用意したい。
第一に、特集物件には「暮らしの確認欄」を付ける。スタジアムまでの距離、徒歩時間、最寄りのバス停、駐車場、試合日の交通、スーパーや病院、学校までの距離。物件の魅力を、買主が判断できる情報に変える。
第二に、「補助金を使う前提の手順」を、空き家バンクのページから自然に見られるようにする。物件を見る、見積もりを取る、補助金の対象か確認する、申請する、交付決定後に契約や工事へ進む。この順番を一枚で示すだけでも、取りこぼしは減る。
第三に、所有者と不動産関係者向けに、登録前チェックを整える。価格を高く見せることより、後から問題になりそうな点を先に出す方が、結果として信頼される。空き家は、隠すほど動かない。直すべきところ、使えるところ、地域の良さを正直に並べる方がよい。
第四に、ジュビロやスポーツのまちという磐田の個性を、住宅流通にも生かす。駅近、学校近、買い物近だけでは、どこのまちも同じである。磐田には磐田の選ばれ方があってよい。スタジアムを感じる家という見せ方は、その一歩になる。
最後に一言。私は不動産の仕事で、空き家や実家じまいの相談を受ける。家は、持っているだけでは資産にならない。買う人が「ここで暮らす理由」を見つけ、費用と手続きの不安を越えられて、初めて動く。空き家も“磐田らしさ”で売る時代へ。今日始まったこの募集を、見せ方だけでなく、実際に一軒でも多く動かす仕組みにつなげてほしい。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市「空き家バンク」(ページ番号1009122、2026年7月15日更新)
- 磐田市「既存住宅取得等事業費補助金」(ページ番号1001513、2026年3月31日更新)
※募集期間、掲載物件、補助金の要件や予算状況は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式サイトおよび各不動産関係事業者にご確認ください。