導入——「予防接種になった」と聞いて、無料だと思った人へ

以前この場で、補聴器の助成と並べて、帯状疱疹ワクチンの話を少しだけ書いた。あのころは「助成が始まった」という段階だった。それが、この4月から、大きく変わった。帯状疱疹ワクチンが、予防接種法にもとづく「定期接種」になったのである。磐田市でも、令和8年度から、65歳になる方などを対象に、定期接種として実施している。

これは、はっきり前進である。ただ、ひとつだけ、先に言っておきたいことがある。「定期接種になった」と聞いて、「じゃあ、無料で打てるんだ」と思った方がいたら、そこは、少し違う。定期接種になっても、自己負担は残る。しかも、選ぶワクチンによっては、決して小さくない額だ。今日は、この「定期接種になったのに、お金がかかる」という、少し分かりにくい話を、高齢者の家計の目線で整理したい。介護の相談を受けていると、帯状疱疹で寝込んでしまった、という話は、本当によく聞く。だからこそ、正確に伝えておきたいのである。

まず、事実を整理する

順に見ていく。まず、帯状疱疹という病気のことだ。子どものころにかかった水ぼうそうのウイルスが、神経の中に長く潜んでいて、加齢や疲れで免疫が落ちたときに、再び暴れ出す。それが帯状疱疹である。体の片側に、帯のように痛みと発疹が出る。やっかいなのは、その後だ。発疹が治っても痛みだけが長く残る「帯状疱疹後神経痛」になることがあり、これが高齢者を長く苦しめる。年を取るほど、かかりやすく、重くなりやすい。だから、対象が高齢者なのである。

次に、制度のことだ。2025年度(令和7年度)から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンが、定期接種の対象になった。あわせて、経過措置として、令和7年度から令和11年度までの5年間は、その年度内に70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳になる方も対象とされた。5歳きざみで、5年かけて、いまの高齢者に接種の機会を行き渡らせよう、という設計である。磐田市でも同じ枠組みで、令和8年度は、その年度内に65歳になる方に加え、経過措置の対象年齢の方、そして接種当日に60〜64歳でヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障がいのある方が対象となっている。

帯状疱疹ワクチン定期接種の対象。基本はその年度に65歳になる人。加えて令和7年度から令和11年度までの5年間の経過措置として、その年度に70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳になる人も対象。5歳きざみで5年かけて、いまの高齢者に接種の機会を行き渡らせる設計。対象の年度を逃すと次の機会が分かりにくいので、個別の案内を確実に届けることが大切。
図2 5歳きざみの経過措置。自分が対象の年度を、逃さないように。

そして、お金のことだ。ここが、今日いちばん伝えたいところである。帯状疱疹のワクチンには、2種類ある。1回で済む「生ワクチン」と、2回打つ「組換えワクチン(不活化ワクチン)」だ。磐田市の令和8年度の自己負担額は、生ワクチンが1回4,500円。組換えワクチンが1回あたり16,500円で、これを2回打つので、合わせて33,000円になる。生活保護世帯の方は、市が発行する無料券を提示すれば無料だが、それ以外の方は、この自己負担が必要である。接種期間は令和8年4月1日から令和9年3月31日まで。対象者には、4月初旬に予診票とクーポン券が郵送されている。

磐田市の令和8年度の帯状疱疹ワクチンには2種類ある。生ワクチンは1回接種で自己負担4,500円。組換えワクチン(不活化ワクチン)は2回接種で1回あたり16,500円、合わせて33,000円。定期接種になっても自己負担は残り、生活保護世帯は無料券の提示で無料。値段の差は7倍以上ある。
図1 定期接種になっても、自己負担は残る。しかも選ぶワクチンで7倍ちがう。

評価——是々非々で見る

良いと思う点から書く。第一に、そもそも定期接種になったこと自体が、大きな前進である。定期接種になるということは、国が「これは公費を使ってでも打つ価値がある」と認めた、ということだ。任意接種のままなら、全額自己負担で、生ワクチンでも1回8,000円前後、組換えなら2回で4万円を超えることもある。それが、公費の下支えで、自己負担が軽くなった。第二に、経過措置で、いまの70代・80代・90代にも5年かけて機会が回ってくること。「65歳になる人だけ」で切らず、すでに高齢の人にも門を開いたのは、実態に合っている。第三に、生活保護世帯を無料にしていること。いちばん打ってほしい、でもいちばん払えない層を、きちんと拾っている。

そのうえで、注文をつけたい点が三つある。

第一に、「定期接種=無料」という誤解を、市がもっと解いてほしい、ということだ。ニュースで「定期接種になりました」とだけ聞くと、多くの人は無料を想像する。ところが窓口で「組換えなら3万3千円です」と言われて、驚いて帰ってしまう。これでは、せっかくの制度が、いちばん打ってほしい人に届かない。金額を、最初に、大きく、正直に伝えることが、かえって接種につながると思う。

第二に、二つのワクチンの「差」の説明である。生ワクチンは1回4,500円で安いが、効果が続く期間はやや短めとされる。組換えワクチンは2回で33,000円と高いが、予防の効果が高く、長く続くとされる。この差を、値段だけ見て「安いほう」と決めてしまってよいのか。かかりつけの先生と相談して選ぶべきものだが、その判断材料を、市も分かりやすく示してほしい。値段の差が7倍以上あるだけに、なおさらである。

第三に、33,000円という額の重さである。年金で暮らす高齢者にとって、3万3千円は、軽い額ではない。物価が上がり、電気代も水道代も上がっていくなかで、「痛い思いをしないための3万3千円」を、後回しにする人は必ずいる。そして、後回しにした人が帯状疱疹で寝込み、後神経痛に苦しみ、通院を重ねれば、結局は本人も、医療費を負担する社会も、もっと高くつく。目先の3万3千円と、先々の費用と。この天秤を、どう見るかである。

対案・結論——三つの提案

そこで、三つ提案したい。

第一に、金額を「隠さず、最初に」伝える広報にしてほしい。「定期接種が始まりました」の大きな見出しの下に、同じ大きさで「自己負担:生ワクチン4,500円/組換えワクチン33,000円(2回)」と書く。良い知らせと、お金の話を、セットで出す。それが、驚いて帰る人を減らす、いちばんの近道である。

第二に、経過措置の「打ちそびれ」を防いでほしい。5歳きざみの対象は、その年度を逃すと、次にいつ対象になるのか分かりにくい。令和11年度で経過措置が終われば、あとは65歳の年だけがチャンスになる。「あなたは今年度が対象です」という個別の案内を、確実に、繰り返し届けてほしい。クーポンが一度届いて終わり、では、机の引き出しで眠ってしまう。

第三に、将来的な自己負担の軽減を、検討課題として持っておいてほしい。いますぐ全額を、とは言わない。ただ、組換えワクチンの33,000円が、接種をためらわせる壁になっているなら、市独自の上乗せ助成を、他の高齢者施策との優先順位のなかで議論する価値はある。帯状疱疹で寝込む高齢者が一人減ることは、介護の現場から見れば、決して小さな話ではない。

最後に一言。私は医者ではないので、打つべきかどうかを勧める立場にはない。それは、かかりつけの先生と相談して決めることだ。ただ、介護と看取りの現場に立つ者として、これだけは言える。年を取ってからの「痛み」は、暮らしの質を、思っている以上に削る。夜、眠れない。外に出るのが億劫になる。気持ちがふさぐ。そうやって、一つの痛みが、その人の世界を少しずつ狭くしていく。定期接種になった、というニュースは、そこに一つの選択肢が増えた、ということだ。ただし、その選択肢には、まだ値札がついている。その値札を、正直に、分かりやすく見せること。それが、制度を「絵に描いた餅」にしないための、まちの仕事だと思う。

出典(2026年7月確認)

  • 磐田市公式ウェブサイト「令和8年度(令和7年度)帯状疱疹予防接種」(対象:その年度内に65歳になる方、経過措置として令和7〜11年度に70・75・80・85・90・95・100歳になる方、接種当日60〜64歳でHIVによる免疫機能障がいのある方。生ワクチン1回4,500円、組換え〈不活化〉ワクチン1回16,500円×2回。生活保護世帯は無料券提示で無料。接種期間 令和8年4月1日〜令和9年3月31日)
  • 厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」(2025年度〈令和7年度〉から65歳等を対象に定期接種化、令和7〜11年度の経過措置)

※自己負担額・対象・実施内容は年度や制度改正により変更される場合があります。接種の可否やワクチンの選択は、かかりつけ医など医療機関にご相談ください。最新情報は磐田市公式サイト・厚生労働省でご確認ください。