導入——いちばん力が出ない日に、いちばん重い手続きが来る

実家じまいや相続の相談を受ける仕事をしていると、必ず立ち会うことになる場面がある。親を亡くしたばかりのご遺族が、書類の束を前に、途方に暮れている場面だ。葬儀が終わって、ほっとする間もなく、市役所へ行かなければならない。保険証を返す。介護保険を止める。水道の名義を変える。税金の届出をする。——気力も体力もいちばん落ちているそのときに、人生でいちばん煩雑な手続きが、まとめて降ってくる。

前回、まちから金融の窓口が消えていく話を書いた。今日は、その隣にある話をしたい。市役所の窓口の話である。磐田市には「磐田市おくやみガイド」という、よくできた案内がある。ただ、そのガイドを読み込んでみて、私はひとつ、どうしても書いておきたいことができた。今日は、そのことを書く。

まず、事実を整理する——ガイドを、開いてみた

磐田市は、亡くなった方のご遺族に向けて「磐田市おくやみガイド」(2026年4月現在)を公開している。全8ページのPDFで、健康保険・介護保険・年金、税金、車両、障がい、こどもやひとり親家庭、農地や山林、市営住宅、上下水道、市営霊園、印鑑登録証やマイナンバーカード——と、必要な手続きと持ち物が、丁寧に整理されている。市役所以外の手続き(年金事務所、税務署、法務局、金融機関、保険会社など)や、必要になる戸籍・住民票の種類と手数料まで載っている。これ自体は、とても親切な資料である。

その冒頭に、こう書かれている。「市役所での手続きについては、必要な持ち物をご用意の上、担当窓口へお越しください。ご不明な点がございましたら担当各課へお問合せください」。

この一文が、いまの磐田のやり方を、正確に表している。つまり、ご遺族が、担当の課をひとつずつ訪ねていく方式である。

では、どこを回ることになるのか。ガイドに書かれた担当課を、建物ごとに並べてみる。本庁舎1階には、国保年金課の資格管理グループと賦課グループ、市民課窓口グループ、資産税課の土地グループと家屋グループ、収納課の収納管理グループと収納グループ、市民税課諸税管理グループ。iプラザ3階には、高齢者支援課の介護保険グループと事業給付グループ、福祉相談課障がい福祉グループ、こども未来課給付グループ。西庁舎1階には、農林水産課農地管理グループと環境課生活環境グループ。西庁舎2階には、建築住宅課住宅管理グループ。そして水道料金と下水道使用料は、福田支所2階の上下水道料金センターである。

建物とフロアで数えれば、本庁舎1階、iプラザ3階、西庁舎1階、西庁舎2階、福田支所2階の、5か所。ガイドに載っている担当グループは16、記載された問い合わせ先の電話番号は15種類にのぼる。もちろん、亡くなった方の状況によって、必要な手続きは変わる。全員がこの全部を回るわけではない。けれども、たとえば、市営住宅に住み、介護保険を使い、農地を持っていた高齢の方が亡くなれば、遺族は本庁舎とiプラザと西庁舎を、書類を抱えて行き来することになる。

磐田市おくやみガイドに載っている市役所内の担当課は、本庁舎1階に8グループ、iプラザ3階に4グループ、西庁舎1階に2グループ、西庁舎2階に1グループ、福田支所2階に1グループ。建物とフロアで5か所、担当グループは16、記載された問い合わせ先の電話番号は15種類にのぼる。亡くなった方の状況によって必要な手続きは変わるが、遺族は該当する窓口をひとつずつ訪ねる方式になっている。
図1 建物とフロアで5か所、担当グループは16。これを遺族が回る。

私が調べた限り、磐田市には、予約制でまとめて手続きができる「おくやみ窓口」「おくやみコーナー」といったワンストップの仕組みは、見当たらなかった。市の案内にも、その記載はない。一方、全国では、こうした窓口を設ける市町村が着実に増えている。担当の職員のほうが一つの窓口に出向いてきて、遺族は座ったまま手続きを終える。予約制だから、待ち時間もない。そういう自治体が、現に、いくつもある。

いまのやり方とワンストップ窓口の比較。いまのやり方では、遺族が該当する担当課をひとつずつ訪ねる。丁寧なガイドはあるが、歩く距離は縮まらず、手続き漏れの危険も残る。ワンストップのおくやみ窓口では、予約の日に関係する課の職員が一つの窓口へ出向き、遺族は座ったまま一度で終える。待ち時間がなく、必要な手続きをあらかじめ洗い出すため漏れも防げる。全国では設置する市町村が増えている。
図2 良い地図をもらっても、歩く距離は縮まらない。

評価——是々非々で見る

良いと思う点から、正直に書く。第一に、おくやみガイドそのものの出来が良いこと。持ち物が具体的で、「認印はスタンプ印不可」「ゆうちょ銀行の場合は通帳のコピーが必要」といった、現場でつまずきやすい点まで書いてある。作った職員の親切心が伝わってくる。第二に、市役所以外の手続きまで一覧にしていること。年金事務所、税務署、法務局、運転免許、在留カードの返納まで押さえてある。第三に、令和6年4月から相続登記が義務化されたことにも触れていること。これは、私が空き家の現場でいつも言っていることで、市がガイドに書いてくれているのは、ありがたい。

そのうえで、注文が三つある。

第一に、いちばん大きな注文である。ガイドがどれほど親切でも、「回る先が5か所に分かれている」という事実は変わらない。案内が丁寧なことと、負担が軽いことは、別である。丁寧な地図をもらっても、歩く距離は縮まらない。遺族に必要なのは、良い地図より、歩かなくて済む仕組みではないか。

第二に、回らされる人が、たいてい高齢だということだ。親を看取る人は、その多くが60代70代である。配偶者を亡くした人なら、80代90代のこともある。その人が、書類を抱えて、本庁舎からiプラザへ、西庁舎へと移動する。足が悪ければタクシーを使う。付き添う子どもは、仕事を休む。前回の記事で「窓口が遠くなる」と書いたが、市役所の中でさえ、窓口は遠いのである。

第三に、「手続き漏れ」の危険である。5か所16グループを自力で回る方式では、どうしても抜けが出る。抜けたまま何年か経ち、あとになって「あの届出がされていなかった」と発覚する。私は相続の現場で、その後始末を何度も見てきた。ワンストップの窓口には、単に楽になるという以上に、「漏れを防ぐ」という大きな効果がある。

対案・結論——三つの提案

そこで、三つ提案したい。

第一に、予約制の「おくやみ窓口」を、磐田にもつくってほしい。全国に先例はいくらでもある。死亡届が出た時点で、市は亡くなった方の情報を持っている。それを手がかりに、必要な手続きをあらかじめ洗い出し、予約の日に、関係する課の職員が一つの窓口へ出向く。遺族は、座ったまま、一度で終える。特別なシステムを一から作らなくても、運用の工夫でできる部分は大きいはずだ。

第二に、いきなり全部が難しいなら、せめて「一枚の順路表」を渡してほしい。死亡届を受け取ったときに、その方の状況に応じて「あなたが回る必要があるのは、この3か所です」と、順番と場所を書いた紙を手渡す。全部で16グループある一覧から、自分に関係するものを遺族が探し当てるのは、あの精神状態では、かなりつらい。

第三に、市役所の外の手続きへの橋渡しを、もう一歩太くしてほしい。ガイドには、年金事務所や法務局が並んでいる。とくに相続登記は義務化された。「登記のことは法務局へ」で終わらせず、司法書士会や専門家の無料相談につなぐ導線を、ガイドの中にはっきり置いてほしい。まちが最後まで面倒を見るのではなく、次の手に確実に渡す。それだけで、迷子になる遺族は、ずいぶん減る。

最後に一言。私は、この手続きの列に、何度も付き添ってきた。窓口の職員の方々は、みなさん親切である。問題は、人ではなく、配置なのだ。悲しみのただ中にいる人に、庁舎の階段を上り下りさせる。その構造を、そろそろ変えてもよいのではないか。行政の効率化は、たいてい「役所側の手間をどう減らすか」で語られる。けれども、本当に減らすべきなのは、いちばん弱っている市民の手間のほうだと思う。人が亡くなるということは、どの家にも必ず訪れる。だからこそ、この窓口は、すべての市民にいつか関係する窓口である。「おくやみ窓口」を、磐田にも。今日はそれだけを、はっきり書いておきたい。

出典(2026年7月確認)

  • 磐田市「磐田市おくやみガイド」(2026年4月現在。冒頭に「市役所での手続きについては、必要な持ち物をご用意の上、担当窓口へお越しください。ご不明な点がございましたら担当各課へお問合せください」と記載。担当課=国保年金課資格管理グループ/同賦課グループ/市民課窓口グループ/資産税課土地グループ/同家屋グループ/収納課収納管理グループ/同収納グループ/市民税課諸税管理グループ〈以上 本庁舎1階〉、高齢者支援課介護保険グループ/同事業給付グループ/福祉相談課障がい福祉グループ/こども未来課給付グループ〈以上 iプラザ3階〉、農林水産課農地管理グループ/環境課生活環境グループ〈西庁舎1階〉、建築住宅課住宅管理グループ〈西庁舎2階〉、上下水道料金センター〈福田支所2階〉。市役所以外の手続きとして浜松東年金事務所・磐田税務署・静岡地方法務局磐田出張所・軽自動車検査協会・静岡運輸支局・磐田財務事務所・磐田警察署・名古屋出入国在留管理局浜松出張所等を案内。相続登記が令和6年4月から義務化された旨の記載あり)
  • 磐田市公式ウェブサイト「死亡届」(届出は死亡の事実を知った日から7日以内、本庁舎1階市民課または豊岡支所で受付)
  • 全国の自治体におけるおくやみ窓口(ワンストップ・予約制)の設置事例

※担当課・手続き内容・窓口の運用は変更される場合があります。ワンストップ窓口の有無については、本記事執筆時点で公表資料に記載を確認できなかったものです。実際の手続きにあたっては、必ず磐田市公式サイトおよび市民課(0538-37-4816)でご確認ください。