この記事について。2026年6月に「磐田の家計から考える」という切り口で公開した記事を、その後に確定した事実で書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。

導入――「もう国民は限界」という声と、磐田の実例

「もう国民は限界に来ている」。こうした声が、SNSや動画サイトで広がっています。増税、社会保険料の上昇、物価高。手取りは思うように増えないのに、天引きされる額は増えていく。そう感じている方は、磐田にも少なくないはずです。

私は不動産と介護の仕事をしています。相談の場で家計を見せていただくことがありますが、「引かれるものが多すぎる」という実感は、多くの方が口にされます。年金の相談、実家の空き家の相談、その合間に「税金と保険料でこんなに減るとは思わなかった」という言葉を聞くことが、この一年で増えたように感じます。

ただ、「限界」という言葉そのものは主観です。感じ方には個人差がありますし、同じ数字を見ても「まだ大丈夫」と考える方もいれば「もう限界」と考える方もいます。今日は、その主観の土台にある数字と、磐田市が実際に打ち出した物価高対策を、両方とも公表資料から確認します。国民負担率という「重さ」の実例と、いわた応援チケットプレミアムという「下支え」の実例。この二つを並べて、良かった点と、注文したい点を整理します。なお、消費税を下げるか給付で配るかという、負担を軽くする手段そのものの選び方については、別記事「消費税は下げるのか、配るのか ― まず事実を並べてみる」で扱っています。

まず事実――国民負担率は、いくらか

そもそも国民負担率とは何か。国民所得に占める、税金と社会保険料の合計額の割合を示す指標です。簡単に言えば、稼いだお金のうち、天引きされて手元に残らない部分の比率のことです。給与明細で言えば、額面から所得税・住民税・社会保険料を引いた残りが手取りですが、その「引かれた部分」の重さを、国全体でならして測ったものと考えてください。

財務省は2026年3月5日、令和8年度の国民負担率の見通しを公表しました。

国民負担率は45.7%。令和7年度の実績見込み46.1%から0.4ポイント低下する見通しです。令和6年度の実績は46.7%でしたから、この3年間はわずかながら下がる形になります。

内訳は、租税負担率が28.0%(国税18.1%、地方税9.9%)、社会保障負担率が17.6%。財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」は令和8年度48.4%です(令和7年度49.1%、令和6年度50.3%)。

租税負担率は所得税・消費税・住民税などの合計、社会保障負担率は年金・医療・介護などの社会保険料の合計です。会社員であれば給与から天引きされる項目、自営業であれば自分で納める項目が、そのまま積み上がって国全体の割合になっています。磐田で暮らす私たちが日々払っている消費税や、毎月の社会保険料も、この45.7%という数字の中に含まれています。

つまり、所得のおよそ半分に近い金額が、税と社会保険料、そして将来世代へのツケという形で、すでに国民の手元を離れている計算になります。「限界」という感覚は、この数字を背景にしたものだと言えます。

一方で、数字だけを見れば、直近3年間は横ばいからやや低下の方向にあります。「増え続けている」という受け止めと、「わずかに下がっている」という数字の間には、ずれがあります。このずれは、給与や物価が上がっても、天引きされる金額の重さそのものは体感として残りやすいことによるものだと、私は考えています。

もうひとつ、見ておきたいのが「潜在的国民負担率」です。これは国民負担率に財政赤字を加えたもので、令和8年度は48.4%という見通しです。財政赤字は、いま返していない分だけ、将来の増税や社会保険料の引き上げという形で先送りされている負担でもあります。地方に住む私たちにとって、国民負担率は遠い数字に見えるかもしれません。しかし社会保険料は毎月の給与明細に、消費税は日々の買い物のレシートに、確実に反映されています。

国民負担率の見通し。令和6年度46.7%、令和7年度46.1%、令和8年度45.7%。内訳は租税負担率28.0%、社会保障負担率17.6%
図1 国民負担率の見通し(財務省)。直近3年はわずかに低下する見通しだが、水準そのものは高いまま。

まず事実――磐田市のプレミアム商品券は、いくらの手厚さか

国民負担率が「重さ」の話だとすれば、磐田市が令和8年度に打ち出したのは「下支え」の話です。

磐田市は令和8年度、物価高騰対策として「いわた応援チケットプレミアム」を実施しました。市の公式ページには、「近年の食料品等の物価高対策として、市民の生活を支援するとともに地域経済の活性化を図る」ためと明記されています。

内容は、プレミアム率100%。1口5,000円で、10,000円分の買い物ができます。電子商品券と紙商品券のどちらかを選べ、紙は1,000円券×10枚のつづりです。総発行口数は20万口、発行総額は20億円。1人あたりの購入上限は2口です。

使える場所は、磐田市内の登録店舗に限られます。市外の大型チェーン店だけで使われてしまえば、地域経済の下支えにはなりません。市民の生活支援と同時に「地域経済の活性化を図る」という目的が掲げられているのは、支出の行き先を市内に留めることも狙いに含まれているからだと考えられます。

財源は市の一般財源ではなく、国の「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」を活用しています。申込は令和8年5月15日から6月19日まで、応募多数のため抽選制でした。当選者の購入期間は7月21日から8月28日、利用期間は8月1日から10月31日までです。

磐田市はこれまでも、物価高騰対策として同種の商品券事業を複数回実施してきました。今回のプレミアム率100%は、市がこれまで積み重ねてきた物価高対策の延長線上にある、いわば最新版という位置づけです。使える店舗は市内の登録店舗に限られ、専用サイトで業種やエリアから探せるようになっています。問い合わせは磐田市プレミアム付商品券事務局が窓口で、平日の午前9時から午後5時まで電話で受け付けています。

評価――良い点を三つ

1つ、プレミアム率100%という、分かりやすい手厚さ。支払った金額が、そのまま倍になって戻ってくる仕組みです。物価高が続くなかで、この水準を選んだことは率直に評価します。難しい制度説明を読まなくても、「5,000円が1万円になる」という一点だけで、多くの市民に効果が伝わります。制度は、内容がどれだけ手厚くても、伝わらなければ使われません。その点で、分かりやすさそのものが設計の一部だと私は思います。

2つ、所得制限を設けず、電子・紙の両方を用意したこと。スマホでの申込に不慣れな世帯にも、紙商品券という選択肢が残されています。年齢や所得で線を引かず、幅広い市民が使える設計になっている点は良い判断だと思います。所得で線を引く制度は、線のすぐ外側にいる世帯を苦しめがちですが、今回はその心配がありません。

3つ、財源を国の交付金に求め、市の一般財源を直接圧迫しない形にしたこと。物価高対策は継続性が問われますが、少なくとも今回は、既存の行政サービスを削ってまで実施したわけではありません。この点は、市民として確認しておいてよい事実だと思います。国の交付金を、市が実際にどう使うかは自治体の判断に委ねられている部分が大きく、その中で商品券という形を選んだこと自体、市の意思決定として見ておくべきだと考えます。

いわた応援チケットプレミアムの仕組み。5,000円で10,000円分、プレミアム率100%。総発行20万口・20億円、財源は国の交付金、利用期間8月1日から10月31日
図2 いわた応援チケットプレミアムの仕組み(磐田市)。財源は国の交付金で、市の一般財源を直接使う形ではない。

注文――三つ

1つ。抽選に外れた世帯への説明を、もっと丁寧にしてほしい。申込は抽選制でした。当選しなかった世帯にとっては、「支援を受けられなかった」という受け止めが残ります。何人が申し込み、何人が当選したのか、倍率の実績を市民に分かる形で公表してほしいところです(この倍率の実績値は、本記事の執筆時点で公表資料を確認できませんでした)。当選・落選の結果だけを通知して終わりにせず、次回に向けて何人分の需要があったのかを、市として把握し共有してほしいと思います。参考までに、磐田市の人口は令和8年6月末時点で163,321人、世帯数は72,400世帯です。仮に全市民が1人あたりの上限である2口まで申し込んだとすれば、理論上必要な口数は32万口を超える計算になります(筆者試算)。発行口数20万口はこれを下回っており、抽選になったこと自体、需要の大きさの裏返しだったとも言えます。

2つ。利用期間の短さを、次回以降は見直してほしい。利用期間は8月1日から10月31日までの3か月間です。購入から利用開始までの準備を考えると、実質的に使える期間はさらに短くなります。使い切れずに失効する商品券が出れば、せっかくの下支えが目減りします。介護や不動産の相談で高齢の方とお話しすると、「気づいたら期限が近かった」という声を聞くことも少なくありません。利用期限の告知は、購入時だけでなく、期間の途中でも改めて行ってほしいところです。

3つ。一時的な下支えと、恒常的な負担の重さは別物だと、市民に伝えてほしい。いわた応援チケットプレミアムは、あくまで期間限定の取り組みです。一方で、国民負担率45.7%という重さは、今年度に限った話ではありません。「今年は商品券があったから助かった」で終わらせず、来年度以降どうするのか、財源の見通しとあわせて早めに示してほしいと思います。物価高対策が毎年の恒例行事のように続くのであれば、その財源が何に依存しているのかも、あわせて説明してほしいところです。

結論――重さは変わらず、下支えは一時的

まとめます。

国民負担率は45.7%の見通し。直近3年ではわずかに下がる方向にありますが、所得のおよそ半分に近い金額が、税・社会保険料・財政赤字という形で国民の手元を離れている状況そのものは変わっていません。「もう限界」という声の背景には、この重さがあります。

磐田市のいわた応援チケットプレミアムは、プレミアム率100%という手厚い下支えでした。所得制限なし、電子・紙の選択制、財源は国の交付金。設計そのものは評価できます。

ただし、これは一時的な取り組みです。重さそのものが変わらない以上、下支えが終わったあとの家計をどう支えるのか、次の一手を早めに示してほしい。私はそう思います。物価高対策は、その年その年の応急処置になりがちですが、国民負担率という土台の重さに向き合わなければ、応急処置を毎年繰り返すことになりかねません。

商品券が届いた家庭も、抽選に外れて届かなかった家庭も、抱えている「重さ」は同じです。その重さに、市がどう向き合い続けるのか。私はこれからも、数字で確かめていきます。

「もう国民は限界」という声に、私は簡単に頷くことも、簡単に否定することもしません。ただ、限界かどうかを議論する前に、まず数字を共有すること。それが、是々非々で物事を見るための出発点だと考えています。

出典(2026年8月確認)

  • 財務省「令和8年度の国民負担率を公表します」(公表日:令和8年3月5日。令和8年度の国民負担率見通し45.7%〈租税負担率28.0%=国税18.1%・地方税9.9%、社会保障負担率17.6%〉、令和7年度実績見込み46.1%、令和6年度実績46.7%。財政赤字を加えた潜在的国民負担率は令和8年度48.4%、令和7年度49.1%、令和6年度50.3%) https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/20260305.html
  • 磐田市「いわた応援チケットプレミアム」(目的=「近年の食料品等の物価高対策として、市民の生活を支援するとともに地域経済の活性化を図る」。プレミアム率100%、1口5,000円で10,000円分〈電子・紙とも〉、紙は1,000円×10枚つづり、総発行口数20万口、発行総額20億円、1人あたり購入上限2口。財源=国の物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金。申込は抽選制、令和8年5月15日~6月19日、購入は当選者のみ7月21日~8月28日、利用期間8月1日~10月31日。問い合わせ=磐田市プレミアム付商品券事務局 電話053-456-0044、午前9時~午後5時〈土日祝を除く〉) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/sangyou_business/kigyou_shien/1016363.html
  • 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(令和8年6月末現在、総人口163,321人〈男性82,487人・女性80,834人〉、世帯数72,400世帯) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/1005583.html

※「もう国民は限界」という表現は、SNSや動画サイトで広がった一般的な言論状況を指すものであり、特定の動画・個人・団体を指すものではありません。抽選の応募倍率など、公表資料で確認できなかった数値は本文中にその旨を明記しています。国民負担率は財務省による見通しであり、実績値は今後の予算・決算により変わり得ます。いわた応援チケットプレミアムは申込・購入期間が終了した令和8年度限りの取り組みで、次年度以降の実施有無・内容は未定です。最新情報は磐田市プレミアム付商品券事務局(053-456-0044)または磐田市公式ウェブサイトでご確認ください。家計に関する記述は、筆者が不動産・介護の現場で受けた相談の範囲での実感であり、統計に基づくものではありません。