この記事について。2026年6月に公開した記事を、その後に確認できた統計・策定経過にもとづいて書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。

導入——「幸福感あふれるまち」と、値上がりする食卓

磐田市は、令和9年度から始まる第3次磐田市総合計画で、まちの将来像に「多様な魅力と幸福感があふれる都市 磐田 ~共創で世界とつながるまち~」を掲げました。美しい言葉です。ただ、同じ時期に、私たちの食卓では、食料品の値上がりが続いています。総務省が発表した2026年6月分の消費者物価指数では、食料品(生鮮食品を除く)が前年同月比で3.1%上がっています。「幸福感」という言葉と、レシートに並ぶ値上がりの実感。この二つの距離を、今日は考えてみます。

私は普段、不動産と介護の仕事をしています。将来像のような大きな言葉と、日々の家計のような小さな数字。この両方に日常的に触れる立場だからこそ、両方を同じ土俵に並べて見る意味があると思っています。総合計画は市の10年先を描く言葉で、物価は今日のスーパーの棚の話です。時間軸のまったく違う二つを、あえて並べて考えてみます。

まず事実——第3次総合計画は、何を目指しているか

磐田市の第2次総合計画は、令和8年度末で計画期間が終わります。これを受けて市は、令和9年度以降のまちづくりの方向性を示す「第3次磐田市総合計画」の策定を進めてきました。前期基本計画(素案)では、まちの将来像として「多様な魅力と幸福感があふれる都市 磐田 ~共創で世界とつながるまち~」を掲げ、7分野・29の基本施策を並べています。市が公表している素案の構成では、各施策は見開き1ページで「目指す姿」「背景」「取組」「共創の取組として期待すること」が整理されており、抽象的な将来像を、分野ごとの具体的な取り組みまで落とし込もうとしていることが分かります。

市は、独自の「ウェルビーイング指標」という主観的な指標も導入し、これを暮らしやすさの物差しの一つにしていく考えを示しています。人口や予算といった客観的な数字だけでなく、市民がどれだけ「幸福感」を実感しているかという主観的な感覚を、計画の評価に組み込もうとしている点は、これまでの総合計画にはなかった発想だと感じます。

将来像に添えられた「共創で世界とつながるまち」という副題も、気になる言葉です。「共創」は、行政が一方的に施策を実行するのではなく、市民や事業者と一緒につくっていく、という姿勢を示す言葉だと私は理解しています。7分野・29の基本施策のそれぞれに「共創の取組として期待すること」という項目が用意されているのも、この姿勢を形にしようとした結果なのだと思います。言葉として掲げるのは簡単ですが、実際にどこまで「共創」が機能するかは、これから素案が計画として固まっていく過程で問われることになります。

どう作られてきたか——若者会議から意見募集まで

この将来像は、いきなり市役所の中だけで決まったものではありません。市が公表している策定経過を見ると、令和7年度に基礎となる市民意識調査を実施し、同年8月には「若者会議」を2回開催して26人の若者が参加しています。11月4日から12月5日にかけては、まちの将来像の候補についてオンライン投票が行われました。そして令和8年4月22日から7月31日までは、オンラインでの意見募集を継続し、48件の意見が寄せられています。若者の声を早い段階から取り入れ、投票という形で将来像の言葉を選ばせている点は、これまでの総合計画づくりとは違う進め方だと感じます。

総合計画は、本来なら10年、20年先まで暮らし続ける世代のための計画です。その言葉選びに、実際にこれから10年、20年を磐田で過ごす若い世代の声を反映させる仕組みを組み込んだこと自体は、手続きとして筋が通っていると思います。一方で、若者会議への参加が26人にとどまっている点、オンライン投票やオンライン意見募集がインターネットを使いこなせる層に偏りがちな点は、この種の手続きにつきまとう課題でもあります。誰の声が拾われ、誰の声が拾われにくいのか。この点は、今後も気にかけておきたいところです。

第3次磐田市総合計画の策定の流れ。策定基本方針から市民意識調査、若者会議、将来像投票、オンライン意見募集まで
図1 第3次総合計画の策定の流れ(磐田市公表の策定経過をもとに作成)

もう一つの事実——物価は、いま前年比どれくらい上がっているか

一方で、家計の側の数字も見ておきます。総務省統計局が2026年7月24日に発表した2026年6月分の消費者物価指数(全国、2020年基準)では、総合指数が前年同月比+1.7%、生鮮食品を除く総合指数(いわゆるコアCPI)が同+1.6%でした。第一生命経済研究所の分析によると、その内訳のうち食料品(生鮮食品を除く)は前年同月比+3.1%。5月分の+3.5%からは伸び率がやや縮小したものの、全体の伸び率よりも、食卓に直結する食料品の値上がりのほうが大きいという状態が続いています。コアCPI自体は、5月の+1.4%から6月の+1.6%へと、逆にやや拡大しています。食料品の伸びが縮小する一方で全体の伸びは広がっているという、単純に「落ち着いてきた」とは言い切れない、ねじれた動きになっている点も押さえておきたいところです。

なお、この数字は全国の統計であり、磐田市や静岡県に限定した数字ではありません。磐田市単独の消費者物価指数は公表されておらず、地元の実感がどこまでこの数字と重なるかは、正直なところ確認できていません。それでも、全国的な傾向として、食料品の値上がりが総合指数の伸びを上回る状態が続いていることは、家計への影響を考えるうえで無視できない事実だと思います。値上げの背景については、原材料費や物流費、エネルギーコストの上昇が理由として報じられることが多く、磐田のような地方都市の家計にも、同じ流れが及んでいると考えるのが自然です。

私は不動産と介護の仕事をする中で、家計の相談を受けることがあります。給料が去年と変わらないのに、同じ買い物かごの中身が高くなっている。この感覚は、統計の数字とも一致しています。「幸福感あふれるまち」という将来像が語られる、まさに同じ時期に、食卓の負担は増え続けているのです。

将来像の言葉と、物価高の現実。食料品は前年同月比プラス3.1パーセント(2026年6月分)
図2 将来像の言葉と、物価高の現実(総務省統計局・第一生命経済研究所の分析をもとに作成)

評価——良い点を三つ

1つ、将来像に若者の声と投票を取り入れたこと。26人の若者会議とオンライン投票を経て言葉を選んだ手続きは、これまでの計画づくりより開かれていると感じます。将来像を決めるのは市役所でも議会でもなく、そのまちで暮らし続ける若い世代であるべきだという考え方が、この進め方には表れています。

2つ、ウェルビーイングという主観的な指標を、独自に導入しようとしていること。予算や施設の数だけでなく、暮らしの実感を測ろうとする姿勢自体は評価したいところです。数字で測りにくいものを、あえて測ろうとする挑戦には、相応の難しさも伴うはずですが、まず取り組む姿勢自体に意味があると思います。

3つ、7分野29の基本施策という形で、幸福感という抽象的な言葉を、具体的な取り組みに分解しようとしていること。スローガンだけで終わらせない設計になっている点は、良いと思います。「目指す姿」から「取組」まで見開き1ページで整理する構成も、市民が読んで理解しやすい形を意識していると感じます。

注文——三つ

1つ。「幸福感」という言葉を掲げるなら、物価高という足元の負担にどう向き合うのかを、計画のどこかで具体的に書いてほしい。将来像と暮らしの実感の距離を縮める言葉が、素案の中に見当たりません。10年先の理想を語る計画だからこそ、今日の暮らしの厳しさから目をそらしていない、という一文があってよいと思います。

2つ。ウェルビーイング指標を、暮らしの負担感(値上がりの実感など)も含めて測る指標にしてほしい。満足度だけでなく、何が満足を妨げているかを拾える設計にしてほしいと思います。「幸福感があるか」だけでなく「何が幸福感を下げているか」まで尋ねる調査であってこそ、次の施策づくりに生きるはずです。

3つ。48件という意見募集の中身を、匿名化した形でもよいので公開してほしい。何が求められているのかを、市民自身が見られるようにしてほしいところです。件数だけでは、どんな声が寄せられたのかが分かりません。物価高への言及がどれだけあったのかも、私は知りたいと思っています。

結論——将来像と、暮らしの距離を測り続ける

「多様な魅力と幸福感があふれる都市 磐田」。将来像としては、否定する理由がありません。ただ、将来像の言葉が輝くほど、いま目の前で食料品が前年より3.1%値上がりしているという現実との距離が、かえって目につきます。総合計画は、10年先を見る言葉です。物価高は、今日の話です。両方の時間軸を、市がどうつなぐのか。前期基本計画がまとまっていく過程を、これからも見ていきたいと思います。

将来像に掲げられた言葉を、絵に描いた餅で終わらせないために必要なのは、大きなスローガンをさらに大きくすることではなく、いま目の前にある物価高のような小さな痛みに、丁寧に向き合い続けることだと私は思います。

第3次総合計画は、まだ前期基本計画の素案段階です。今後、議会での審議や、さらなる市民の声を経て、内容が固まっていくはずです。「幸福感」という言葉が、絵空事ではなく、値上がりする食卓を抱える家庭にも届く言葉になっているかどうか。私は、その一点を、これからの計画づくりの節目ごとに確かめていきたいと思います。

出典(2026年8月確認)

  • 磐田市「第3次総合計画策定経過」(策定基本方針、令和7年度市民意識調査、令和7年8月の若者会議〈2回、26人参加〉、令和7年11月4日〜12月5日のまちの将来像オンライン投票、令和8年4月22日〜7月31日のオンライン意見募集〈48件〉を掲載) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/keikaku/sougoukeikaku/1016065.html
  • 磐田市「第3次磐田市総合計画前期基本計画(素案)について皆さんのご意見をください!」(いわたのくらしラボ。まちの将来像=「多様な魅力と幸福感があふれる都市 磐田 ~共創で世界とつながるまち~」、7分野・計29の基本施策を掲載、各施策は見開き1ページで「目指す姿」「背景」「取組」「共創の取組として期待すること」を整理) https://iwata-city.liqlid.jp/space0mt8mwv1
  • 総務省統計局「2020年基準消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)6月分」(2026年7月24日公表。総合指数113.6・前年同月比+1.7%、生鮮食品を除く総合指数〈コアCPI〉113.1・同+1.6%) https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html
  • 第一生命経済研究所(新家義貴)「消費者物価指数(全国・2026年6月)」(食料品〈生鮮食品を除く〉の前年同月比=2026年6月分+3.1%、5月分+3.5%。総務省公表統計にもとづく分析、2026年7月24日発表分) https://www.dlri.co.jp/report/macro/634631.html

※第3次総合計画は本稿執筆時点で策定作業中の素案段階であり、内容は今後の議会審議等を経て変更される可能性があります。物価の数値は全国の消費者物価指数であり、磐田市・静岡県に限定した統計ではありません。最新情報は磐田市公式サイト、総務省統計局のページでご確認ください。