この記事について。2026年5月に要約だけで公開した記事を、市の公表資料と例規集をあたって書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。
導入——「これ、書かないとダメなんですか」
引っ越しの手続きをお手伝いしていると、決まって聞かれることがあります。「ごみ袋に名前って、書かないとダメなんですか」。
私は不動産と介護の仕事をしています。行政の中の人間ではありません。それでも、部屋を借りる人、親の家を片づける家族、施設に移る手前の高齢者と、ごみ出しの話は毎週のようにします。一人暮らしを始めた学生。離婚して名字が変わったばかりの人。事情があって住んでいる場所を知られたくない人。認知症の親を抱えて分別まで手が回らない家族。ごみ袋の氏名欄は、そういう人にとって、ただの空欄ではありません。
一方で、集積所を回している側の話も聞きます。分別が守られていない袋が残る。誰が出したものか分からない。集積所は自治会が管理していて、当番が困る。名前が書いてあれば連絡できる。これも、まったく本当のことです。
どちらかを断罪する前に、まず確かめたいことがあります。どこまでが決まりで、どこからがお願いなのか。今回は、市の例規集で条例と規則の条文にあたり、市公式ウェブサイトの文言を読みました。分かったところまでを書きます。
まず条文——条例に「名前を書け」とは書かれていない
磐田市の家庭ごみは、磐田市廃棄物の減量及び適正処理に関する条例(平成17年4月1日条例第156号、最終改正 令和元年7月3日条例第4号)が扱っています。
出し方を定めているのは、第14条第2項です。条文はこうです。
「市民は、その家庭系廃棄物を市が定める収集袋若しくは収集券を使用し、又は市が指示する方法でごみ集積所に排出しなければならない。」
「しなければならない」と書かれているのは、市が定める収集袋(=指定ごみ袋)か収集券を使うこと、そして決められた集積所に出すことです。氏名という言葉は、ここには出てきません。
施行規則も読みました。磐田市廃棄物の減量及び適正処理に関する条例施行規則(平成17年4月1日規則第97号、最終改正 令和7年11月6日規則第65号)の第20条は、収集袋と収集券について「別表の形状のものその他市が行う処理作業に支障を及ぼすおそれがないと市長が認めたもの」と定めているだけです。規則の本則にも、氏名の記入を求める条文は見当たりませんでした。
では、市はどう案内しているか。市公式ウェブサイトの「ごみ袋に記名が難しい場合の記号申請」のページには、こう書かれています。
「磐田市では、自分の出すごみに責任を持っていただき、分別が不十分なごみを減らすため、ごみ袋に記名をお願いしています。」
「家庭ごみ分別ガイドブック」のページも同じ言い方です。「本市では、ごみの適正な分別やリサイクルの意識を高めていただくため、ごみ袋・収集券には、地区名と氏名等の記載をお願いしています。(地区名等の記載方法は自治会によって定められている場合があります。)」
市自身の言葉が「お願いしています」なのです。条例と規則の条文に根拠が見当たらず、市の案内も「お願い」と書いている。ここまでは、はっきり確認できました。
ついでに気づいたことを一つ。可燃ごみやプラスチック資源といった個別の「出し方」ページには、記名の記述そのものがありませんでした。記名の案内が載っているのは、ガイドブックのページ、記号申請のページ、そして次に触れる臨時措置のページです。
県内の状況も一つだけ書いておきます。2025年9月16日の静岡朝日テレビの報道では、県内35市町のうち17市町が記名式で、その内訳は「必ず記名」が8市町、「お願いベース」が4市町、「地区によって記名あり」が5市町。磐田市は「お願いベース」の側に分類されていました。同じ報道は、下田市が2025年8月から、プライバシーやご近所トラブルへの懸念を理由に、記名欄をなくした無記名式を試験的に始めたことも伝えています。約18年続けてきた記名式の見直しで、試験運用はその年度いっぱいを目安に、住民の声を見て継続を判断するとされていました。その後どうなったかは、今回は確認できていません。
それでも「必須」に近づく場面がある
ただし、「お願いなんだから書かなくていい」と言い切れるかというと、そう単純ではありません。実際には、記名がほぼ必須として働く場面があります。三つ挙げます。
一つ目。指定ごみ袋の臨時措置です。中東情勢の影響で指定ごみ袋の購入が集中し、一部の店舗で品切れが起きたため、市は指定袋以外でもごみを出せる臨時措置をとりました。期間は令和8年5月15日から8月31日まで。当初の期限から延長されたもので、市のページの更新日は2026年6月25日です。対象は可燃ごみ、プラスチック、金物・小型電化製品、有害ごみ、埋立ごみ。透明か半透明で中身の見える袋であること、可燃ごみは6〜45リットル、不燃ごみは6〜30リットルであること、口を縛れることなどの条件が付きます。段ボールや紙袋、他自治体の指定袋は使えません。
そして、このページの記名についての言い方は、「下記の3点を記入してください」です。「可燃」又は「不燃」、「地区名」、「氏名」の3点。ガイドブックの「お願いしています」よりも、明らかに強い。指定袋でないぶん、誰の何のごみか分からなくなる。だから書いてほしい、という理屈は分かります。それでも、平時は「お願い」で、非常時は「記入してください」という揺れは、受け取る側から見て分かりにくい。
二つ目。自治会です。ガイドブックの但し書きにあるとおり、記載方法は自治会によって定められている場合があります。市が「お願い」でも、地区の申し合わせが「必ず書く」であれば、住民にとってはそちらが実効的なルールです。集積所そのものが「当該ごみ集積所を利用しようとする自治会との協議に基づき定められた場所」に置かれることは施行規則第33条に書かれていて、運用に地区差が出るのは、制度上むしろ自然なことなのです。
三つ目。分別が足りなかったときの流れです。記号申請のページには、「分別不十分でごみ袋がごみ集積所に残された場合、収集業者がごみ資源循環課に連絡の上、職員が回収して本人に連絡します」と書かれています。名前は、この連絡のために使われている。逆に言えば、名前のない袋は誰にも連絡できないまま残り、その負担は当番の人に乗ります。ここを軽く見て「プライバシーだからやめろ」と言うのは、私はしたくありません。
名前を書けない事情がある人には、記号がある
ここは、磐田市の仕組みのなかで私がいちばん評価している部分です。
市は「ストーカー被害の恐れがあるなど事情があり記名が難しい方」に対して、氏名の代わりに「記号」を書く方法を用意しています。申請は電子申請フォームからでき、紙の申請書を郵送(〒438-0061 磐田市刑部島301 磐田市ごみ資源循環課)するか、ごみ資源循環課・環境課(西庁舎1階)・各支所の窓口に出すこともできます。市が内容を審査し、割り当てた記号を申請後10日程度で本人あてに郵送。以後は、ごみ袋の氏名欄にその記号を書きます。窓口はごみ資源循環課 資源循環推進グループ(電話0538-37-4812、午前8時30分〜午後5時15分)。ページの更新日は2026年4月24日です。
記名の仕組みを残したまま、書けない人のための道を制度として用意している。現場の必要とプライバシーの両方に、手を当てようとした形だと思います。
評価——良い点を三つ
1つ、言葉を「お願い」にとどめていること。条例で義務にして罰則をつける道も、理屈の上ではありました。磐田市はそれを選んでいません。条例第39条の罰金(20万円以下)は、集積所に出されたごみの持ち去りをやめるよう命じられた者が従わなかった場合に向けられたもので、記名しなかった住民に向けられたものではありません。ここを混同しないことは大事です。名前を書かなかったから罰せられる、という仕組みにはなっていません。
2つ、代わりの手段を明文で用意し、待ち時間まで書いていること。記号申請は、対象、申請の窓口、審査があること、10日程度で通知が届くことまで書かれています。制度は、どれくらい待てばいいのか分からないと使われません。「相談してください」で終わらせず、日数を書いた。これは実務として親切です。
3つ、名前が何に使われるのかを書いていること。「分別不十分で残された場合、職員が回収して本人に連絡します」と明記されているので、何のために書かせるのかが読めます。目的の書かれていない個人情報の収集は、それだけで不安を生みます。磐田市はそこを外していません。
注文——三つ
1つ。「お願いである」ことを、案内の目立つところに書いてほしい。
いまは、ガイドブックのページと記号申請のページに一文があるだけです。可燃ごみやプラスチック資源といった、市民がいちばんよく見る「出し方」のページには、記名の記述そのものがありません。書かないと回収されないのか、書かなくても回収されるのか。ここが多くの人の知りたいところです。義務ではないと書くことは、書かなくていいと勧めることとは違います。「条例上の義務ではありませんが、こういう理由でお願いしています」と正面から書いたほうが、かえって協力は得られると私は思います。
2つ。記号の対象を、もう少し広く読めるようにしてほしい。
いまの案内は「ストーカー被害の恐れがあるなど事情があり」です。「など」に何が入るのかは書かれていません。離婚した直後の人、一人暮らしの学生や高齢者、外国籍で名前が目立つ住民、闘病中で医療系のごみが増える人。名前と中身が結びつくことに不安を持つ理由は、ストーカー被害だけではありません。不動産の仕事をしていると、「隣に何を捨てたか知られたくない」という声は、想像よりずっと多く聞きます。窓口で事情を説明させる形ではなく、書式のチェック欄で済むくらいの入口にしてほしい。
3つ。臨時措置のように強い言い方をするときは、平時との違いを一言添えてほしい。
「通常は記名をお願いしていますが、指定袋以外を使っていただく間は、誰のごみか分からなくなるため記入をお願いします」。この一文があるだけで、受け取り方はずいぶん変わります。あわせて、8月31日で終わるのか、また延びるのか。この記事を書いている2026年8月上旬の時点では、市のページで確認できるのは「8月31日まで」だけでした。期限のぎりぎりではなく、早めに知らせてほしいところです。令和8年4月からはプラスチックの分け方も変わり、プラマークのない製品プラスチックも一定の条件で資源として出せるようになりました。変更が重なる時期こそ、伝え方が効きます。
結論——「義務ではない」と「書かなくていい」は違う
まとめます。
条例と規則の条文を読んだ限り、磐田市のごみ袋に氏名を書くことは、条例上の義務としては確認できませんでした。義務として書かれているのは、市が定める収集袋または収集券を使い、決められた集積所に出すところまでです。市自身も「お願いしています」と書いています。
一方で、指定袋が使えない臨時措置の間は「記入してください」となり、地区によっては自治会の申し合わせがあり、分別が足りなければ名前をたよりに連絡が来ます。お願いは、現場ではそれなりの重さを持っている。ここを見ないで「義務じゃないから書かない」と言うのは、当番を回している人に負担を押しつけることになります。
私は、記名をやめろとは言いません。集積所を維持している人たちの手間を知らないまま、プライバシーだけを理由に仕組みをひっくり返すのは乱暴です。同時に、名前を書けない事情のある人が、ごみを出すたびに小さく緊張していることも、なかったことにはできません。
だから求めたいのは、二つだけです。「これは義務ではなく、お願いです」と、はっきり書くこと。そして「書けない人には、この道があります」を、もっと見つけやすい場所に置くこと。
ごみ出しは、週に何度もある行為です。そこにかかる小さな緊張を減らせるなら、それは十分に、まちのこれからの話だと思います。
出典(2026年8月確認)
- 磐田市例規集「磐田市廃棄物の減量及び適正処理に関する条例」(平成17年4月1日条例第156号、最終改正 令和元年7月3日条例第4号。第14条第2項=「市民は、その家庭系廃棄物を市が定める収集袋若しくは収集券を使用し、又は市が指示する方法でごみ集積所に排出しなければならない。」。第39条=第16条第1項又は第2項の命令〈収集運搬禁止廃棄物の収集・運搬の中止等〉に違反した者は20万円以下の罰金。条文中に氏名の記入を求める規定は見当たらない) https://ops-jg.d1-law.com/opensearch/?jctcd=8A8573C7C0
- 磐田市例規集「磐田市廃棄物の減量及び適正処理に関する条例施行規則」(平成17年4月1日規則第97号、最終改正 令和7年11月6日規則第65号〈令和8年4月1日施行〉。第20条=収集袋及び収集券は「別表の形状のものその他市が行う処理作業に支障を及ぼすおそれがないと市長が認めたもの」。第32条=資源ごみの種類にプラスチックを含む。第33条=ごみ集積所は「当該ごみ集積所を利用しようとする自治会との協議に基づき定められた場所」に設置。本則に氏名の記入を求める規定は見当たらない) https://ops-jg.d1-law.com/opensearch/?jctcd=8A8573C7C0
- 磐田市「ごみ袋に記名が難しい場合の記号申請」(「磐田市では、自分の出すごみに責任を持っていただき、分別が不十分なごみを減らすため、ごみ袋に記名をお願いしています。」。対象=「ストーカー被害の恐れがあるなど事情があり記名が難しい方」。電子申請または紙申請〈郵送先=〒438-0061 磐田市刑部島301 磐田市ごみ資源循環課、窓口=ごみ資源循環課・環境課〈西庁舎1階〉・各支所〉、審査のうえ申請後10日程度で記号を郵送、ごみ袋の氏名欄に記号を記載。「分別不十分でごみ袋がごみ集積所に残された場合、収集業者がごみ資源循環課に連絡の上、職員が回収して本人に連絡します」。問い合わせ=ごみ資源循環課 資源循環推進グループ 電話0538-37-4812、午前8時30分〜午後5時15分。更新日2026年4月24日) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/gomi_recycle/1014939/1012122.html
- 磐田市「家庭ごみ分別ガイドブック」(「本市では、ごみの適正な分別やリサイクルの意識を高めていただくため、ごみ袋・収集券には、地区名と氏名等の記載をお願いしています。(地区名等の記載方法は自治会によって定められている場合があります。)」。令和8年度版ガイドブックを日本語・ポルトガル語・英語・ベトナム語・インドネシア語で掲載。更新日 令和8年4月15日) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/gomi_recycle/1014449/1001445.html
- 磐田市「市指定ごみ袋に関する臨時措置」(中東情勢の影響で指定ごみ袋の購入が集中し一部店舗で品切れとなったため、指定袋以外でも出せる期間を延長。期間=令和8年5月15日〈金曜〉から8月31日〈月曜〉まで。対象=可燃ごみ、プラスチック、金物・小型電化製品、有害ごみ、埋立ごみ。記名=「下記の3点を記入してください」として「可燃」又は「不燃」/「地区名」/「氏名」。袋=プラスチック製・ビニール製で透明または半透明、可燃6〜45ℓ・不燃6〜30ℓ、口を縛る。段ボール・米袋・紙袋・布袋、他自治体指定袋、事業系〈青色〉袋は不可。更新日2026年6月25日) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/gomi_recycle/1016419.html
- 磐田市「プラスチック資源の出し方」(令和8年4月から「プラスチック製容器包装」の名称が「プラスチック」に変わり、プラマークのない製品プラスチックも、プラスチック単一素材で50cm未満・厚さ5mm未満・汚れなしなどの条件を満たせば対象。透明の指定袋に入れる。更新日2026年8月4日) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/gomi_recycle/gomi/1015430.html
- 磐田市「可燃ごみ」(緑色の指定袋に入れる、長さ50cm以内、二重袋にしない等。ページ本文に記名についての記述はない。更新日2026年8月4日) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/gomi_recycle/gomi/1007783.html
- 静岡朝日テレビ「LOOK」2025年9月16日「静岡県17市町がゴミ出しは『記名式』…回収しない場合も 一部でプライバシー保護から見直しの動き」(県内35市町のうち17市町が記名式。「必ず記名」8市町、「お願いベース」4市町〈磐田市を含む〉、「地区によって記名あり」5市町。下田市は同年8月から、プライバシーやご近所トラブルへの懸念を理由に無記名式を試験導入、約18年続いた記名式を見直し、試験運用は当該年度いっぱいを目安に継続を判断) https://look.satv.co.jp/content_news/topic/69017
※本文中の条例・規則の引用は、磐田市例規集(内容現在=令和8年3月31日、令和8年8月10日時点で有効な条文として表示されたもの)によります。「氏名の記入を求める条文は見当たらなかった」というのは、条例の本則および施行規則の本則を通読した範囲での確認です。施行規則第20条が引く別表は袋の形状を示す図として掲載されており、記名欄の有無まではこの記事では確認していません。また、自治会ごとの申し合わせや、集積所単位の運用については、市の公表資料からは確認できないため触れていません。下田市の無記名式の試験導入について、2025年度末以降どうなったかは確認できていません。臨時措置の期間、ごみの分け方、記号申請の要件は変更される場合があります。ご自身の地区にあてはめて確認するときは、必ず磐田市ごみ資源循環課 資源循環推進グループ(0538-37-4812)またはお住まいの自治会へお問い合わせください。ごみ出しをめぐる不安についての記述は、筆者が不動産・介護の現場で受けた相談の範囲での実感であり、統計に基づくものではありません。

