導入——昨日、大久保グラウンドで
昨日8月13日、ジュビロ磐田の練習場である大久保グラウンドで、委嘱式がありました。
藤原健介選手が「静岡いわたPR大使」に就任した——というニュースです。
磐田市出身。バディFCでボールを蹴りはじめ、ジュビロ磐田U-15、U-18を経てトップチームへ。ギラヴァンツ北九州と栃木SCへ育成型の期限付き移籍で出て、2026年に磐田へ戻ってきました。そして2026/27シーズンのキャプテンです。
2003年12月生まれですから、いま22歳。任期は、クラブの発表ではこの日から2年間とされています。
私は磐田で小さな不動産業をしています。実家じまい、空き家、相続、介護。「この街を出ていった人」の話ばかり聞いている商売です。
だから、この一行には素直に反応しました。出ていって、戻ってきて、主将になった22歳が、市の看板を掛けた。
ただ、素直に喜んだあとで、いつもの癖が出ます。
この大使、いま何人いるんだろう。そして市は、その人たちに何を頼んできたんだろう。
調べました。今日はその話です。
まず、事実を並べる
「静岡いわたPR大使」は、令和4年度に始まった仕組みです。
市の説明は、こうです。磐田には、スポーツ・芸能・文化・産業経済などの分野で、国内外に広く発信できる影響力を持つ人がいる。そういう人たちに大使になってもらうことで、「本市の効果的なイメージアップと市民の磐田市への愛着・誇りの醸成」を図る——。
担当は企画部 広報広聴・シティプロモーション課(本庁舎2階、電話0538-37-4827)です。
そして今回の藤原選手で、大使は15人になりました。
顔ぶれを、委嘱の順に並べます。
令和4年9月27日(芸能・経済分野/5人)——EXILE AKIRAさん(ダンスパフォーマー)、椎木隆太さん(株式会社ディー・エル・イー創業者兼最高執行責任者)、椎木里佳さん(株式会社AMF代表取締役社長)、鈴木利幸さん(株式会社ユナイテッドラウンジ代表取締役/アートディレクター)、山下康介さん(作曲家・編曲家)。
令和4年11月28日(スポーツ分野/4人)——水谷隼さん(元プロ卓球選手)、伊藤美誠さん(プロ卓球選手)、森岡陸さん(プロサッカー選手)、奥村翔さん(プロラグビー選手)。
令和5年7月11日——深川麻衣さん(俳優)。
令和6年11月5日——五郎丸歩さん(元ラグビー選手)。
令和6年12月16日——ホベルト・サトシ・ソウザさん、クレベル・コイケ・エルベストさん(ともに総合格闘家)。
令和8年8月7日——神谷天音さん(俳優)。
令和8年8月13日——藤原健介さん(プロサッカー選手)。
分野で数えると、スポーツ8人、芸能・文化5人、経済2人。バランスは、悪くありません。
もうひとつ、並べて気づくことがあります。委嘱のペースが、まったく一定ではないことです。
立ち上げの令和4年度に9人。翌年が1人。令和6年度が3人。令和7年度は、ゼロ。そして令和8年度は、8月に入ってから2人が続きました。
これは責める話ではありません。大使は「その人が引き受けてくれるかどうか」ですから、市が思ったときに増やせるものではないのは当然です。
ただ、1年空くと、市民の側は「この制度、まだ動いているんだっけ」と思います。私がまさにそう思いました。
評価——良い点は、はっきりあります
先に、良い点を4つ書きます。
1つ、22歳を選んだこと。
大使の顔ぶれを見ると、実績を積み終えた人が多い。オリンピックのメダリスト、引退した代表選手、確立した俳優。「もう有名な人」を選ぶのは、いちばん安全な選び方です。
そこに、これから伸びる22歳を入れた。しかも市内で生まれ、市内のクラブでボールを蹴りはじめ、市内の下部組織で育ち、いったん外に出て、戻ってきた選手です。
磐田の子どもにとって、これほど分かりやすい道筋はありません。「ここにいても、あそこまで行ける」——広報の言葉としては、100の標語よりこの一人が強い。
2つ、「発信してもらう」だけで終わっていない大使が、すでにいること。
ここは、あまり知られていないと思うので、具体的に書きます。
山下康介さんは、磐田市歌「ふるさと いわた」を作曲しています。鈴木利幸さんは、現在の「広報いわた」の表紙のデザインと、市制施行10周年・20周年のロゴマークを手がけています。椎木隆太さんは、「しっぺい」のダンス動画を制作しました。深川麻衣さんは、市のPR動画(60秒版・30秒版)に出演しています。
つまり磐田は、少なくとも一部の大使とは、「名前を貸してもらう関係」ではなく「一緒に物を作る関係」を持っている。これは、素直に良い制度運用だと思います。
3つ、外国出身の大使が2人いること。
ホベルト・サトシ・ソウザさんとクレベル・コイケ・エルベストさんは、ともにブラジル・サンパウロ出身で、磐田のボンサイ柔術で育った格闘家です。ソウザさんは18歳で来日して以来、磐田市在住。クレベルさんは14歳で来日し、20年間磐田に住んでいたと語っています。
クレベルさんは、磐田市の市章を縫い付けた柔術着で入場している。市のページには、ポルトガル語の就任コメントもそのまま並んでいます。
磐田で不動産をやっていれば分かりますが、この街の借家と持ち家の一部は、ブラジルにルーツのある方々が支えています。その人たちが「うちの街の大使だ」と思える人が2人いる。これは、数字に出ない大きな効果です。
4つ、就任コメントを全文載せていること。
市のページには、大使一人ひとりのコメントが要約されずに載っています。藤原選手のコメントにも、「小学生一斉観戦をはじめ、子どもたちがジュビロ磐田やサッカーに触れる機会が多くあります」という一節がありました。
市が書いた作文ではなく、本人の言葉が残っている。広報として、地味だが正しいやり方です。
注文——四つ。「頼んだこと」が、見えません
そのうえで、注文を4つ書きます。
1つ。任期が、どこにも書かれていません。
藤原選手の任期が「令和8年8月13日より2年間」だと分かるのは、クラブ側の発表を読んだからです。市のページには、委嘱日は載っていますが、任期の記載が見当たりません。
すると、こういう疑問が残ります。令和4年9月に委嘱された5人は、いまも大使なのか。2年で切れているなら、もう更新されているのか。それとも任期のない制度なのか。
一覧に載り続けているのだから続いているのだろう、と推測はできます。ただ、推測させる時点で、案内としては不十分です。
2つ。「何を頼んだのか」が公開されていません。
これが、今日いちばん言いたいところです。
市の説明にあるのは、目的(イメージアップと愛着・誇りの醸成)だけです。では実際に、大使に何を依頼しているのか。年に何回、何をお願いするのか。報酬や費用は発生するのか、それとも無償なのか。市民が読める形では、示されていません。
私は「無償でやってくれているに違いない」と決めつけるつもりはありませんし、逆に「費用が出ているに違いない」とも思いません。分からないから、書いてほしいと言っています。
公費で運営する仕組みなら、依頼の中身と費用の有無は、聞かれる前に出しておくのが早いのです。
3つ。就任のあと、どうなったかが分かりません。
15人のうち、市のページから具体的な活動の成果物にたどり着けるのは、深川麻衣さんのPR動画くらいです。あとは、プロフィールと就任コメントで止まっています。
先ほど「良い点」に挙げた市歌やロゴや表紙デザインも、よく読むと大使になる前からの仕事です。つまり、大使という肩書がついたあとに何が生まれたのかは、外からは分からない。
広報の効果は測りにくい、という反論はあると思います。それでも、「今年度、大使に関連して行った発信は◯件」という1行くらいは、書けるはずです。
4つ。市民や地元の店から「頼む」導線がありません。
大使のページは、市から市民への「お知らせ」の形で終わっています。
けれど、まちの資源としてはもったいない。商店街のイベントに大使のメッセージが1本ほしい。学校の総合学習で話を聞きたい。移住相談の動画に一言出てほしい。——そういう相談を、どこに持ち込めばいいのかが書かれていません。
「大使への依頼は、広報広聴・シティプロモーション課へご相談ください。ただし、ご本人の都合により実現しない場合があります」。この二行があるかないかで、制度の使われ方は変わります。
付け加えると、令和4年に委嘱された森岡陸選手は、2026年にモンテディオ山形へ完全移籍しています。それでも一覧には載り続けている。
私は、これでいいと思っています。「磐田で育った」という事実は、移籍しても消えません。むしろ、外に出た人が磐田の名前を出し続けてくれることのほうが、シティプロモーションとしては価値がある。
ただ、それなら「市外に出ても大使は続きます」と一行書いておけばいい。書いていないから、「更新し忘れかな」と読まれてしまう。もったいない話です。
対案・結論——大使に頼む中身を、5つ書きます
批判だけでは芸がないので、具体的に提案します。予算をほとんど使わずにできる順に並べました。
第一に、大使のページに「任期」の列を足すこと。
委嘱日の横に、任期の年数と、市外へ出た場合の扱いを一行。今日中にできます。
第二に、「大使にお願いできること/お願いの仕方」を1枚作ること。
市民、学校、自治会、商店街、企業。誰が、何を、どこへ相談すればいいのか。実現しない場合があることも、正直に併記して構いません。入口がないより、断られる可能性のある入口があるほうが、はるかにいい。
第三に、年1回、A4で1枚の「大使の1年」を出すこと。
誰が、どこで、何をしたか。SNSでの発信、動画、イベント出演、学校訪問。件数と行き先が並ぶだけで十分です。豪華な報告書は要りません。「今年は動きがありませんでした」と書ける制度のほうが、信用されます。
第四に、藤原選手には「試合以外の1本」を頼むこと。
これは、私の勝手な希望です。
藤原選手は、市内のクラブでボールを蹴りはじめ、下部組織で育ち、外へ出て、戻ってきた。この経路そのものが、いま磐田がいちばん欲しいコンテンツです。
子育て世代が住む場所を選ぶとき、見ているのは学区と、家賃と、「この街で育つと、どうなるのか」です。三つ目には、なかなか答えが出せない。
だから、5分でいい。「磐田で育って、外に出て、帰ってきた22歳の話」を1本撮って、市の移住のページと、子育てのページの両方に置いてほしい。試合の宣伝より、そちらのほうが長く効きます。
第五に、大使どうしを、一度つなぐこと。
作曲家、アートディレクター、映像会社の創業者、SNSマーケティングの経営者、俳優、そしてアスリート。この15人は、そのままひとつの制作チームになる顔ぶれです。
市が場を用意して、年に一度でも顔を合わせてもらう。そこから何が出てくるかは分かりませんが、15人をばらばらに委嘱して、ばらばらのまま置いておくのは、いちばんもったいない使い方だと思います。
最後に一言。
私は不動産屋なので、「まちの名前が知られること」の効き目を、少し冷めた目で見ています。
名前を知られただけでは、人は動きません。磐田という名前を知っている人は、たぶん静岡県外にもそれなりにいます。サッカーで、卓球で、格闘技で。それでも人口は増えていません。
知ってもらったあとに必要なのは、「調べられること」です。家賃はいくらか。保育園に入れるか。親を呼び寄せられるか。仕事はあるか。
だから私は、PR大使という仕組みを、入口を広げる装置として評価しています。入口は広いほうがいい。15人もいるなら、なおいい。
ただし、入口の先に、答えのある部屋が要る。
そして今日の話に戻れば、その「答えのある部屋」がいちばん足りていないのは、PR大使のページそのものでした。任期が分からない。何を頼んだか分からない。どうお願いすればいいか分からない。
15人の名前を集める仕事は、もう終わっています。次は、その15人に何を頼むかを、市民に見える形で書く番です。
22歳の主将が2年間の任期を引き受けてくれました。2年は、あっという間です。
出典(2026年8月確認)
- 磐田市「静岡いわたPR大使」(ページ番号1011561、更新日2026年8月13日。令和4年度から、本市の効果的なイメージアップと市民の磐田市への愛着・誇りの醸成を図ることを目的に委嘱。委嘱日と顔ぶれは、令和8年8月13日=藤原健介氏、令和8年8月7日=神谷天音氏、令和6年12月16日=ホベルト・サトシ・ソウザ氏/クレベル・コイケ・エルベスト氏、令和6年11月5日=五郎丸歩氏、令和5年7月11日=深川麻衣氏、令和4年11月28日〈スポーツ分野〉=水谷隼氏/伊藤美誠氏/森岡陸氏/奥村翔氏、令和4年9月27日〈芸能・経済分野〉=EXILE AKIRA氏/椎木隆太氏/椎木里佳氏/鈴木利幸氏/山下康介氏の計15人。情報発信元は企画部 広報広聴・シティプロモーション課〈本庁舎2階、電話0538-37-4827〉) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/kouhou_kouchou/1011561.html
- 磐田市役所プレスリリース「【ジュビロ磐田キャプテンが磐田の魅力を発信】藤原健介さん『静岡いわたPR大使』に任命」(2026年8月13日任命。制度は令和4年度創設で15人に委嘱していること、藤原氏の就任コメント全文を掲載) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000168.000102493.html
- ジュビロ磐田「藤原健介選手『静岡いわたPR大使』就任のお知らせ」(令和8年8月13日より2年間の就任。委嘱式は8月13日に大久保グラウンドで実施) https://jubilo-iwata.co.jp/news
- ジュビロ磐田「2026/27シーズン『キャプテン・副キャプテン』決定のお知らせ」(藤原健介選手がキャプテンに就任) https://jubilo-iwata.co.jp/news/topteam20260728infop4k7m2gx
- ジュビロ磐田 選手プロフィール「藤原 健介」(MF、背番号77、2003年12月21日生まれ、静岡県出身。2026年8月14日時点で22歳) https://jubilo-iwata.co.jp/player/fujiwara-kensuke
※本記事の制度の内容・委嘱状況・担当課の連絡先は、2026年8月14日時点で確認した各公式サイトの記載に基づくもので、今後変更される場合があります。任期については、藤原健介選手の「2年間」がクラブ側の発表に基づく記載であり、他の大使の任期および更新の有無は筆者が確認した範囲の公開情報では確認できませんでした。年度別の委嘱人数は、市が公表している委嘱日をもとに筆者が集計したものです。「令和7年度の委嘱はゼロ」という記述は、市のページに令和7年度中の委嘱の掲載が見当たらないことを指すもので、市が委嘱を行わない方針を示したという意味ではありません。報酬・費用の有無、活動実績についても、公開情報では確認できなかったという趣旨であり、存在しないと断定するものではありません。本記事の評価・提案は筆者個人の意見であり、磐田市やジュビロ磐田が検討していると確認したものではありません。制度の詳細は、磐田市 企画部 広報広聴・シティプロモーション課(0538-37-4827)へお問い合わせください。
