導入——今日、静岡県内には警報が出ています
今日は8月15日。お盆の最終日です。
明日から明後日にかけて、帰省していた家族が帰っていきます。そして、その前に「最後にどこか連れて行ってやろう」という話になる家が、必ずあります。
川か、海です。
その前に、一つだけ知っておいてほしいことがあります。
今日この瞬間、静岡県内には「水難事故多発警報」が出ています。
県が発令したのは8月12日。対象は県内全域。期間は8月18日までです。報道によれば、2026年に入って初めての発令です。
つまり、お盆の三日間と、明けたあとの2日間が、まるごと警報の中に入っています。
ご存じでしたか。私は正直に書きますが、ニュースで見るまで知りませんでした。
先月、私はこのサイトで川遊びとライフジャケットの記事を書きました。そのときは統計の話でした。今日は違います。いま出ている警報の話です。
まず、事実を整理する——1週間で7件、1人が亡くなっている
なぜ、この時期に警報が出たのか。理由は数字ではっきりしています。
報道によれば、8月5日から11日までの1週間に、静岡県内で7件の水難事故が起きました。場所は下田市、牧之原市、伊東市、沼津市。9人が助け出され、1人が亡くなっています。
亡くなったのは、8月9日、牧之原市の静波海水浴場で、親族と海水浴に来ていた19歳のベトナム国籍の男性でした。
この7件を受けて、県の水難事故防止対策協議会が8月12日から18日まで、県内全域を対象に警報を発令した、という流れです。
呼びかけの中身は、次のようなものです。
- 危険な場所に近づかない
- 飲酒後、睡眠不足、体調不良のときは水に入らない
- 自分の体力・技術を過信しない
- 子どもから目を離さない
- 海水浴場やプールではルールを守る
- 気象状況に注意し、悪天候のときは水場に近づかない
- 魚釣りやボートに乗るときは必ずライフジャケットを着用する
もう少し長い目でも見ておきます。静岡県警察のサイトには、こう書かれています。
「令和7年中、静岡県内での水難事故は、48件発生し21人が亡くなりました。」
年間48件で、21人。1件あたりで見ると、ほぼ2件に1件が死亡につながっている計算になります。交通事故とは、まったく違う性質の数字です。水の事故は、起きたら助からないことが多い。
7件は磐田ではない。だから安全、ではありません
ここからが、磐田の話です。
先ほどの7件の場所を、もう一度見てください。下田市、牧之原市、伊東市、沼津市。
伊豆と、県中部です。磐田は、一件も入っていません。
ここで「うちは大丈夫だな」と読むのが、いちばん危ない読み方だと思っています。
理由を書きます。
1.事故が起きた場所には、海水浴場がありました。
亡くなった男性がいたのは、牧之原市の静波海水浴場です。海水浴場には監視員がいて、区域があって、開設期間があります。だから事故は「見つかり」「数えられ」「報道される」。
2.磐田の海岸には、海水浴場が開設されていません。
これは以前の記事でも書きました。遠州灘は波が高く流れも速いため、磐田の海岸には海水浴場が開かれていません。
静岡県自身が、西部地域局のページにこう書いています。
「遠州灘海岸は遠浅の海岸ですが、潮の流れが速く、水難事故が多発しています。」
「遠浅」と「流れが速い」が同居している——これが遠州灘のいちばん怖いところです。歩いて入れそうに見える。実際、足はつく。ところが、横に持っていかれる。
そして、監視員はいません。助けを呼ぶ人も、数える人もいない海岸です。
3.警報を出している側の窓口は、磐田市見付にあります。
この「遠州灘は流れが速い」と書いているのは、静岡県西部地域局危機管理課です。所在地は磐田市見付3599-4、電話は0538-37-2204。
県の警報は、遠い伊豆の話ではありません。それを担当している部署の住所が、磐田市内にあるということです。
4.そして磐田で子どもが水に触れるのは、たいてい川です。
西に天竜川、東に太田川、まちなかに今之浦川。海に泳ぎに行かなくても、水辺はすぐそこにあります。
評価——良い点は3つ、注文したい点は3つ
まず、良いと思う点を3つ。
1つ目。「期間を区切って」出したこと。
この警報のいちばんの美点は、8月18日までと書いてあることだと思います。「夏は注意しましょう」では、人は動きません。今週です、と言われて初めて予定が変わる。
2つ目。発令の根拠を、数字で出したこと。
「事故が相次いだため」ではなく、1週間で7件、1人死亡と示している。判断の材料が、受け取る側にも渡されています。
3つ目。呼びかけが、精神論になっていないこと。
「気をつけましょう」で終わらず、飲酒後は入らない、体調不良では入らない、釣りとボートはライフジャケットと、行動の形で書かれています。
そのうえで、注文を3つ書きます。
1つ目。この警報が、磐田の家庭に届いていない。
私がこれを知ったのは、テレビと新聞のニュースからでした。
逆に言えば、ニュースを見ていない人には届いていないということです。お盆に帰省してきた家族、子どもを預かっている祖父母、夜勤明けで昼に寝ている人。いちばん水辺に行きそうな人たちが、いちばんニュースを見ていない時間帯にいます。
市の防災メールやアプリで、県が警報を出した事実がそのまま流れてくれば、話は変わります。県が出したものを、市が転送する。それだけのことです。
2つ目。警報の言葉が「海」に寄っている。
呼びかけを読み直すと、海水浴場、魚釣り、ボートと、海の語彙が並びます。もっともです。事故が起きたのが海だからです。
ただ、磐田で子どもが命を落としやすいのは、泳ぎに行った海ではなく、遊びに行った川です。上流で降った雨で、晴れていても増水する。見た目が穏やかでも底に深みがある。
県の警報を、磐田の川の言葉に翻訳する一行が、市の側にほしい。
3つ目。18日で警報は切れるが、危険は切れない。
この記事を読んでいる方に、いちばん誤解してほしくないのがここです。
8月18日は、水が安全になる日ではありません。県が期間を区切って注意を集中させる期限であって、19日から遠州灘の流れが遅くなるわけではない。
むしろ9月にかけては、台風と秋雨で川が増える季節に入ります。海も、うねりが入ります。「警報が明けた」を「解禁された」と読ませない出し方が要ります。
もう一つ——日本語で出された警報が、届かない人がいる
ここは、磐田だからこそ書いておきたいことです。
今回亡くなったのは、19歳のベトナム国籍の男性でした。親族と海水浴に来ていた、と報じられています。
磐田市の統計を見ます。令和8年6月末現在、磐田市の人口は163,321人。そのうち外国人は10,121人です。市の人口のおよそ6.2パーセント。
地区別に見ると、磐田地区5,130人、竜洋地区2,186人、福田地区1,316人、豊田地区1,142人、豊岡地区347人。
気づいてほしいのは、竜洋と福田です。人口規模で言えば市内で大きい地区ではありません。それでも、外国人住民は合わせて3,500人を超えます。
この2つの地区は、海と天竜川に接している地区です。
製造業のまちである磐田には、技能実習や特定技能で働く若い人が多くいます。20代の、体力に自信のある人たちです。
そして、その人たちの多くは、この土地の水を知りません。
遠州灘が遠浅なのに流れが速いことも、天竜川が上流の雨で増えることも、海水浴場が開設されていない海岸に監視員がいないことも、生まれ育った人なら体で知っていることが、そのまま情報になっていない。
そのうえ、県が出した警報は、日本語のニュースで流れます。
言葉が届かない人ほど、休みの日に水辺へ行き、事故が起きても通報が遅れる。今回の1人が19歳の外国籍の若者だったことは、偶然ではないと私は思っています。
対案・結論——「今週、川と海に行くなら」の一枚を
提案を4つ書きます。
第一に、県の警報を、市の防災チャンネルでそのまま流すこと。
市の防災メール、アプリ、公式SNS。県が発令した日に、機械的に転送する。新しい判断も、新しい文章もいりません。「県内全域に水難事故多発警報、8月18日まで」——この一行が届くかどうかで、その週末の行き先が変わる家があります。
第二に、多言語で出すこと。
磐田市には10,121人の外国人住民がいます。ポルトガル語、ベトナム語、やさしい日本語。市はすでに多文化共生の窓口を持っていて、翻訳の体制もあります。すでにある回路に、この一行を通すだけです。
そして、いちばん効くのは市の広報ではなく、勤め先だと思います。人が集まっているのは工場です。市が企業に一枚渡し、企業が休憩室に貼る。これが最短です。
第三に、「118番」を知らせること。
海の事件・事故の緊急通報番号は118番(海上保安庁)です。110番・119番と違って、知らない人がまだ多い。
目の前で人が流されたとき、番号を思い出せるかどうかで、数分が変わります。海岸の駐車場と河口の看板に、118の三文字を大きく。これは、お金のかからない対策です。
第四に、行く前にスマホで水位を見る習慣を。
磐田市は市内河川の水位とカメラ映像を公開しています。「川に着いてから判断する」のではなく、「家を出る前に見る」。行ってしまえば、子どもはもう水に入りたがっています。
最後に一言。
私は不動産の仕事で、川沿いの家、海に近い家の相談を受けます。そのたびに思うのは、地元の人ほど、水を「風景」として見ているということです。
毎日見ている川は、危険には見えません。実家に帰ってきた子や孫にとっても、そこは「じいちゃんの家の近くの川」です。見慣れた場所に、警戒はしにくい。
今日は8月15日。警報の期間は、あと3日残っています。
提案は、たった一つです。
明日どこかへ連れて行く予定があるなら、今夜のうちに、家族に一言言っておいてください。
「いま、県内に水難事故の警報が出ているらしい」
それだけで、浮き輪の代わりにライフジャケットを積むかもしれない。川の水位を見てから出るかもしれない。子どもから目を離さないかもしれない。
行かせないための警報ではありません。全員で帰ってくるための警報です。
夏の終わりに、磐田から誰も欠けないように。今年もそう願っています。
出典(2026年8月確認)
- 静岡放送(SBS)「静岡県内に2026年初の『水難事故多発警報』 お盆期間海のレジャーは安全に留意を=静岡」(8月12日発表。8月5日~11日の1週間に県内で7件の水難事故。対象期間は8月18日まで。8月9日に牧之原市の静波海水浴場で19歳のベトナム国籍の男性が死亡。呼びかけとして「危険な場所に近づかない」「飲酒後、睡眠不足、体調不良の際は水に入らない」「自分の体力・技術を過信しない」「子どもから目を離さない」「海水浴場やプールではルールを守る」「気象状況に注意し、悪天候時は水場に近づかない」「魚釣りやボート乗船時は必ずライフジャケット着用」) https://news.yahoo.co.jp/articles/baaab2c95e7cb3eb3c32192df43185564407a656
- 静岡朝日テレビ「県が今年初の『水難事故多発警報』を発令 1週間で7件の水難事故 1人死亡 静岡」(県の水難事故防止対策協議会が8月12日から18日まで県内全域を対象に発令。下田市・牧之原市・伊東市・沼津市で7件、9人が救助され1人が死亡) https://news.yahoo.co.jp/articles/9fbefb5b4b670d7a07d636e681806cf91e946d9c
- 静岡県警察「水難情報」(「令和7年中、静岡県内での水難事故は、48件発生し21人が亡くなりました。」水泳・海洋レジャー実施者、保護者、磯釣り・夜釣り実施者、施設管理者の別に注意事項を掲載) https://www.pref.shizuoka.jp/police/kurashi/umiyama/suinan.html
- 静岡県西部地域局危機管理課「ストップ!水難事故」(「遠州灘海岸は遠浅の海岸ですが、潮の流れが速く、水難事故が多発しています。」所在地は〒438-0086 磐田市見付3599-4、電話0538-37-2204。「水難事故を防止するための10か条」を掲載) https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/chiikikyoku/seibuchiiki/1058994/1035213.html
- 海上保安庁「海の『事件・事故』は118番」(海の緊急通報用電話番号。聴覚や言語に障害のある方向けのNET118も案内) https://www.kaiho.mlit.go.jp/doc/tel118.html
- 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(令和8年6月末現在の人口163,321人、日本人153,200人、外国人10,121人。外国人の地区別=磐田5,130人、福田1,316人、竜洋2,186人、豊田1,142人、豊岡347人) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/1005583.html
- 磐田市「磐田市河川情報」(市内河川の水位とカメラ映像を公開) https://www.bosai.city.iwata.shizuoka.jp/kasen/
※水難事故多発警報の発令日・期間・件数は、2026年8月15日時点で報道されている内容によります。発令期間は状況により延長・再発令される場合があり、最新の状況は静岡県および静岡県警察の発表でご確認ください。外国人住民数の内訳は磐田市が公表する令和8年6月末現在の数値で、在留資格の別を示すものではありません。本文中の「技能実習や特定技能で働く若い人が多い」という記述は磐田市の産業構成を踏まえた筆者の一般的な認識であり、統計で内訳を確認したものではありません。多言語での注意喚起や企業を通じた周知、118番の掲示に関する提案は筆者個人の意見であり、磐田市や静岡県が検討していると確認したものではありません。水辺に行かれる際は、必ず当日の気象・水位・海況をご自身で確認してください。
