導入——「じいじ、川に連れてって」と言われたら

夏休みに入り、日中の子どもを祖父母が預かる家庭が増える時期です。エアコンの効いた部屋ばかりでは退屈だから、川にでも連れて行こうか——磐田なら天竜川の河川敷、太田川の親水広場あたりが思い浮かびます。私自身、この歳になると「孫を預かる側」の同世代から、そんな話をよく聞きます。

ただ、その前に一つだけ、数字を見てほしいのです。警察庁がまとめた昨年夏(令和7年7〜8月)の統計では、全国の水難者535人のうち、中学生以下の子どもが103人。おおよそ5人に1人が子どもで、うち15人が亡くなるか、行方不明になっています。熱中症の記事は何度も書いてきましたが、夏のもう一つの危険——水の事故を、今回は正面から取り上げます。

警察庁の統計による令和7年夏期の水難発生状況をまとめた図。全国の水難者は535人で前年より66人減、うち死者・行方不明者は241人。中学生以下の水難者は103人で全体の19.3パーセント、うち死者・行方不明者は15人。場所別では海が288人で53.8パーセント、河川が187人で35.0パーセント。死者・行方不明者に限ると河川は94人で前年より6人増えた。静岡県内の発生は25件、水難者27人、死者12人。
図1 令和7年夏期(7〜8月)の水難発生状況(警察庁の速報値から作成)

まず、事実を整理する

警察庁の「令和7年夏期における水難の概況」によると、昨夏2か月間の水難は全国で446件、水難者535人、うち死者・行方不明者は241人。件数・水難者とも前年より減りましたが、過去5年でみれば概ね横ばいです。静岡県内では25件・水難者27人で、12人が亡くなっています。

注目したいのは場所です。水難者全体では海が53.8%と最多ですが、死者・行方不明者に限ると、河川が94人と前年より6人増えました。そして中学生以下の死亡・行方不明15人の行為別で最も多いのは「水遊び」の6人。泳ぎに行ったのではなく、水辺で遊んでいて命を落とすのが、子どもの水難の典型なのです。

磐田の地理に引きつけて言えば、西に天竜川、東に太田川、まちなかに今之浦川。そして南は遠州灘です。遠州灘は波が高く流れも速いため、磐田の海岸に海水浴場は開設されていません。警察庁も「海水浴場として開設されていない場所は監視員が不在で安全が確保されていない」と繰り返し注意しています。つまり磐田で子どもが水に触れるのは、必然的に川が中心になる。だからこそ、河川の統計が増えているという事実は、磐田では他人事ではありません。

川には、海と違う危険があります。見た目が穏やかでも底に深みがある。上流で雨が降れば、晴れていても急に増水する。磐田市は防災サイトで市内河川の水位やカメラ映像を公開しており、川に行く前に手元のスマホで確かめられるようになっています。

評価——良い点と、注文したい点

良い点を2つ挙げます。1つ、いま触れた磐田市の河川情報サイト。水位計とカメラの映像がスマホで見られる環境は、十年前にはなかったものです。2つ、国が「河川水難事故防止ポータルサイト」でライフジャケットの着用を強く呼びかけ、啓発の言葉が「泳がせない」から「正しく備えて楽しむ」へ変わってきたこと。禁止一辺倒より、現実的だと思います。

注文も2つ。1つ、ライフジャケットを「買わずに借りられる」仕組みが磐田に見当たらないこと。子ども用のライフジャケットは数千円で買えますが、年に数回のために買うのはためらう家庭も多い。よそでは図書館や公民館で無料貸出する自治体が出てきています。2つ、河川敷の危険箇所の情報が、水位データに比べて手薄なこと。「この付近は深みがある」「ここは過去に事故があった」という場所の情報は、地元の消防や川に親しむ団体には蓄積されているはずです。ハザードマップが浸水の危険を教えてくれるように、川遊びの危険も地図で見えるとよいのですが。

子どもを水の事故から守る5つのポイントをまとめた図。1つ目、ライフジャケットは大人も子どもも必ず着用し、体のサイズに合ったものを正しく着る。2つ目、行く前に天気と川の水位を確認し、上流の雨や増水のおそれがあるときはやめる。3つ目、深み・流れの速い場所・藻の茂る場所など危険箇所に近づかない。4つ目、海水浴場が開設されていない海岸では泳がない。5つ目、子どもだけで水遊びをさせず、保護者は子どもから目と手を離さない。
図2 子どもを水の事故から守る5つのポイント(警察庁・国土交通省の啓発資料から作成)

対案・結論——「貸すライフジャケット」と「見える危険箇所」を

行政への注文として、3点提案します。

第一に、ライフジャケットの無料貸出。図書館・交流センター・道の駅など、家族連れが立ち寄る場所に子ども用を数着ずつ置き、「借りて、遊んで、返す」を当たり前にする。予算規模は小さく、効果は命に直結します。まずは夏休み限定の試行でもいい。

第二に、着衣泳・浮いて待つ教育の全校実施。服を着たまま水に落ちたときに浮いて救助を待つ訓練は、実施する学校としない学校の差が大きい分野です。市内全小学校で、学年に一度は水の安全を学ぶ機会を確保してほしい。

第三に、祖父母世代への注意喚起。夏の子どもの見守りは、いまや祖父母が担い手です。ところが水難の啓発は保護者向けの学校配布が中心で、預かる側に届いていません。高齢者向けの市の広報チャンネル——シニアクラブの回覧、地域包括支援センターの窓口——に、夏の水辺の注意を一枚入れるだけで、届く範囲は変わります。

最後に一言。不動産の仕事柄、「川の近くの家」の相談を受けるたび、水は恵みにも脅威にもなると実感します。天竜川も太田川も、磐田の暮らしを育ててきた川です。怖がって遠ざけるのではなく、正しく備えて楽しむ。ライフジャケットを着せて、水位を確かめて、目を離さない。この三つさえ守れば、川は今年の夏も、子どもたちのいちばんの遊び場になってくれます。

出典(2026年7月確認)

  • 警察庁「令和7年夏期における水難の概況」(令和7年9月16日) https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/chiiki/r7_kaki_suinan.pdf
  • 国土交通省「河川水難事故防止ポータルサイト(ライフジャケットの着用)」 https://www.mlit.go.jp/river/kankyo/play/use_a_life_jacket.html
  • 磐田市「磐田市河川情報」 https://www.bosai.city.iwata.shizuoka.jp/kasen/

※統計数値は速報値であり、確定値と異なる場合があります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。