導入——過疎地の話ではなかった
千葉県松戸市のニュースを見て、正直、背筋が寒くなった。人口50万人を超える、東京のベッドタウンである。過疎地ではない。その松戸市で、ある市立小学校の入学予定者が23人だったのに、実際に入学したのは1人だった。全校児童は、6学年あわせて30人。複式学級を導入している。市は、来年度以降の新入学児童の受け入れ停止を決めた。
この場で、学校のことは何度か書いてきた。学校再編にどう向き合うか。岩田地区から学校が消えた春のこと。小中一体校に私が強く反対した理由。地域説明は足りているのか。そして、小学校をなくすということは、地域コミュニティをなくした果てにあるものだ、という話。
今日は、それらとは少し違う角度から書きたい。賛成か反対か、ではない。「その線は、いつ、誰が、どうやって引くのか」という話である。松戸のニュースを読んで、私がいちばん強く思ったのは、そこだった。
まず、松戸で何が起きたか
報道によれば、この学校は松戸市立常盤平第一小学校。1960年(昭和35年)の創立で、初年度の児童数は83人だった。そこから増え続け、1971年度には最も多い1621人にまで達している。それが近年減り続け、いま30人である。
すぐそばに、常盤平団地がある。学校とほぼ同じころに建てられ、最盛期にはおよそ1万7000人が暮らし、「東洋一の団地」とも呼ばれた。それが60年余りを経て、入居者はおよそ6000人に減り、高齢化も目立つという。自治会の役員の方が、こう語っている。「本当に若い人が多かった。うちの母が40代で(団地に)入って、一番高齢だったような感じがする」と。
ここまでなら、「団地が古くなって、子どもが減った」という、よくある話に見える。けれども、この件の肝は、そこではない。
原因は、少子化だけではなかった。
近くの第二小には361人、第三小には583人の児童がいる。第一小の30人が、際立って少ない。なぜこうなったのか。松戸市は、希望すれば居住地の学区以外の学校に入学できる「学校選択制」を採用している。別の小学校に子どもを通わせている保護者が、報道でこう答えている。「(第一小は)人数的には少なすぎるかなっていうのがあったので、ある程度人数がいた方が子どもたちにもいいかなと思った」。
つまり、こういうことだ。児童が少ない。だから保護者が不安になる。だから別の学校を選ぶ。だから、さらに少なくなる。——報道はこれを「負の連鎖」と呼んでいた。入学予定者23人のうち22人が、他の学校を選んだ。その結果が、新入生1人である。
市は「現在の段階では統廃合や廃校が決定しているものではございません」「今後は魅力ある学校づくりに向け、まちの再生とあわせ、新しい教育環境の整備を検討していく予定です」としている。
では、磐田はどうか——数字を並べてみた
他人事ではない。磐田の数字を、実際に調べてみた。令和8年5月1日現在の、市の公表値である。
磐田市には小学校が20校あり、児童数は合わせて7947人。いちばん多いのは磐田北小の801人、東部小の727人と続く。そして、いちばん少ないのが豊浜小の88人である。次いで竜洋東小131人、竜洋北小182人、田原小189人、長野小と豊岡北小がそれぞれ219人。中学校は10校で4192人、いちばん少ないのは向陽中の233人だ。
豊浜小の88人を、学年ごとに見ると、1年14人、2年15人、3年11人、4年21人、5年17人、6年10人。6年生は10人、3年生は11人である。
ここで、大事な事実をひとつ押さえておきたい。磐田市には、いま複式学級がひとつもない。豊浜小も、竜洋東小も、竜洋北小も、田原小も、どの学年もそれぞれ1学級を維持できている。松戸の常盤平第一小が複式学級を導入しているのとは、まだ段階が違う。全校30人と88人では、3倍近い開きがある。
つまり磐田は、松戸より手前にいる。これは、素直に安心してよい事実だ。ただし、6年生10人という数字は、はっきりと視界に入っている。
評価——是々非々で見る
良いと思う点から書く。
第一に、磐田は学校選択制を採っていないことである。磐田は通学区域制で、原則として住んでいる場所で通う学校が決まる。指定校を変えられるのは、転居予定、いじめや環境適応の事情、保護者の就労で祖父母宅から通う、部活動の事情など、認可基準に定められた場合に限られる。「人数が少ない学校は不安だから、大きい学校へ」という保護者の希望だけでは、変更できない。これは、松戸で起きた「負の連鎖」が、磐田では制度上、起きにくいということを意味する。地味だが、決定的な違いである。
第二に、磐田はすでに再編を進めている当事者だということ。ながふじ学府の小中一体校が令和3年4月に開校し、向陽学府の一体校が令和8年4月に開校した。はまぼう学府についても検討に着手する予定とされている。良し悪しの評価は別として、「何もしていない」まちではない。
そのうえで、注文が三つある。
第一に、これが今日の本題である。磐田には、判断の「線」が示されていない。市の「新時代の新たな学校づくり」を読んでも、児童数が何人を下回ったらどうする、という数値の基準は書かれていない。私が調べた限り、見当たらなかった。つながりの深化という理念と、一体校の整備予定は書かれている。けれども、「どこまで小さくなったら、何を始めるのか」という線がない。
線がないと、どうなるか。松戸が、まさにその答えだと思う。23人が1人になってはじめて、受け入れ停止という重い判断が出てくる。そこまで来たら、もう選択肢はほとんど残っていない。線がないということは、危機が「誰の目にも明らかになるまで」動かないということである。そして、誰の目にも明らかになった時点では、たいてい手遅れなのだ。
第二に、線がないことは、実は学校を守りたい側にとっても不利だということである。私は、小学校をなくすことに慎重な立場をとってきた。学校が消えるということは、地域の芯が抜けることだと書いてきた。その考えは変わらない。けれども、線がないまま進むと、議論は「気がついたら手遅れでした」という形でしか始まらない。それは、統合したい側にとっても、残したい側にとっても、最悪の始まり方である。線があれば、その手前で手を打てる。「あと3年でこの線に触れる。だから、いま、住民を増やす手を打とう」という話ができる。線は、閉じるための道具であると同時に、守るための時計でもある。
第三に、通学区域制という「守り」に、安心しきってはいけないということだ。磐田で負の連鎖が起きにくいのは事実である。しかし、それは学校の外へ出ていく道を制度が塞いでいるだけで、まちの外へ出ていく道は塞げない。子育て世代が磐田そのものを選ばなくなれば、通学区域制は何の防波堤にもならない。松戸の団地の話は、磐田にとっても他人事ではない。かつて一斉に開発された住宅地が、そろって高齢化していく——この構図は、買い物困難のときにも書いたとおり、磐田にも確実にある。
対案・結論——三つの提案
そこで、三つ提案したい。
第一に、「線」を、平時のうちに、住民と一緒に決めてほしい。たとえば、「1学年が◯人を下回る見込みになったら、その学区の保護者と地域に説明を始める」「複式学級が現実になる◯年前に、選択肢を並べて協議に入る」。数字は市が独断で決めるのではなく、地域と話し合って置く。大事なのは、線そのものより、線に触れたら自動的に対話が始まるという約束のほうである。
第二に、その線は「閉校のスイッチ」ではなく「議論開始の合図」だと、はっきり位置づけてほしい。ここを曖昧にすると、線を引くこと自体が「統廃合の準備だ」と受け取られ、話が進まなくなる。線に触れたときの選択肢は、統合だけではない。学区を見直す、住宅を誘導する、小規模を活かした教育をあえて打ち出す、通学の足を用意する——いくつもある。線は、そのどれを選ぶかを決めるためではなく、選べるうちに考え始めるためにある。
第三に、学校の数字と、まちづくりの数字を、同じ机に乗せてほしい。松戸の第一小が小さくなった直接の原因は、団地の入居者が1万7000人から6000人に減ったことである。学校の問題は、教育委員会だけでは絶対に解けない。どの地区で住宅が古び、どの地区で子育て世代が減っているのか。その地図と、児童数の推計を重ねる。以前から私は「空白地図をつくれ」と書いてきたが、ここでも同じことを言いたい。
最後に一言。豊浜小の6年生は10人である。この10人は、来年には中学生になる。そして下の学年には、11人の3年生がいる。この数字を見て「まだ大丈夫」と言うことも、「もう危ない」と言うことも、どちらもできてしまう。だからこそ、感想ではなく、線が要るのだと思う。松戸は、線を引かないまま、23人が1人になる日を迎えた。磐田は、まだそこにいない。複式学級もない。手前にいるうちに決められることが、まだいくつも残っている。私は学校を残したい側の人間だ。だからこそ、線を引けと言いたい。追い込まれてから始まる議論に、残すという選択肢は、ほとんど残っていないからである。
出典(2026年7月確認)
- テレビ朝日 報道(2026年5月15日放送分):千葉県松戸市立常盤平第一小学校について、入学予定者23人のうち入学は1人、全校児童30人、複式学級を導入、1960年創立・初年度83人・1971年度最多1621人、常盤平団地は最盛期約1万7000人から約6000人へ、第二小361人・第三小583人、松戸市は学校選択制を採用、市は来年度以降の新入学児童の受け入れ停止を決定、市コメント「現在の段階では統廃合や廃校が決定しているものではございません」等
- 磐田市「令和8年度 児童・生徒数」「令和8年度 学級数」(令和8年5月1日現在。小学校20校・児童7947人、豊浜小88人〈1年14・2年15・3年11・4年21・5年17・6年10〉、竜洋東小131人、竜洋北小182人、田原小189人、長野小219人、豊岡北小219人、磐田北小801人、東部小727人。中学校10校・生徒4192人、向陽中233人。豊浜小・竜洋東小・竜洋北小・田原小はいずれも各学年1学級)
- 磐田市「学区外(区域外)就学認可基準」(通学区域制を前提とし、転居・いじめ等の児童生徒指導上の理由・保護者の就労・部活動等、定められた事由に該当する場合に指定校変更を認可)
- 磐田市「新時代の新たな学校づくり」(ながふじ学府小中一体校 令和3年4月開校、向陽学府小中一体校 令和8年4月開校、はまぼう学府は整備に向けた検討に着手予定、磐田北小は建替え検討会を令和8年3月発足)
※児童生徒数・学級数は令和8年5月1日時点の公表値であり、今後変動します。「判断の数値基準が見当たらない」旨は、本記事執筆時点で公表資料に記載を確認できなかったものです。松戸市の事例は報道にもとづく要約です。最新情報は磐田市公式サイト・磐田市教育委員会(学校教育課 0538-37-2760)でご確認ください。