Q. 106万円の壁がなくなるって、うちのパートの手取りはどうなるんですか。
静岡ではほとんど変わりません。週20時間で月8.8万円に届く時給は1,016円。静岡の最低賃金は1,097円で、すでに超えています。残る壁は「週20時間」「勤め先51人以上」「130万円」の3つ。手取りが動くのは、この3つに触れたときです。
導入——磐田のパート先で、この10月に2つのことが同時に起きます
2026年10月、短時間で働く方の社会保険の加入要件から「所定内賃金が月額8.8万円以上」という条件が外れる予定です。いわゆる「106万円の壁」の撤廃です。日本年金機構が公表しています。
同じ10月に、静岡ではもう一つ動きます。静岡県の最低賃金が1,097円から1,154円になります。静岡地方最低賃金審議会の答申は令和8年8月12日、発効予定日は令和8年10月15日です。
「壁がなくなる」と聞くと、手取りが大きく動きそうに聞こえます。ですが、静岡で計算してみると、話はまるで違いました。106万円の壁と130万円の壁は別の制度で、10月に動くのは片方だけです。順に並べます。
まず、事実を整理する——2つの壁は、まったく別の制度
106万円の壁と130万円の壁は、名前が似ているだけで、判定するものが違います。
106万円の壁は、勤め先の厚生年金保険・健康保険に自分が入るかどうかの話です。日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(更新日2026年4月17日)によると、加入の要件は3つ。(1)週の所定労働時間が20時間以上、(2)学生でないこと、(3)所定内賃金が月額8.8万円以上。加えて、勤め先が「特定適用事業所」——厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等——であることが前提です。
この(3)の8.8万円を12か月分にすると105.6万円になるので、「106万円の壁」と呼ばれてきました。ただし、この8.8万円には賞与も残業代も通勤手当も入りません。機構は除外する賃金として「臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:結婚手当、賞与等)」「時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金」「最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当)」を挙げています。
130万円の壁は、家族の健康保険の被扶養者でいられるかどうかの話です。日本年金機構によると、認定の要件は年間収入130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)で、同居なら被保険者の年間収入の2分の1未満、別居なら被保険者からの仕送り額未満であること。給与所得なら月額108,333円以下が目安です。こちらの「年間収入」は、106万円の側で除外された通勤手当や残業代も含めて見るのが一般的な取扱いです。
そして、この130万円のほうは2026年10月に変わりません。機構のQ&Aは「健康保険の被扶養者の認定について、収入要件の変更はありません」と書いています。
静岡では、106万円の壁はもう「壁」ではありません
撤廃の理由を、日本年金機構が自分で書いています。要件(3)の脚注です。「最低賃金以上で週20時間以上働く場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上となるため、この要件は令和8年10月に撤廃予定です」。
この一文を、静岡の数字で確かめます。週20時間で月額8.8万円に届く時給はいくらか。88,000円×12か月÷(20時間×52週)=1,015.4円。時給1,016円あれば、週20時間で8.8万円に届きます。
静岡県の最低賃金は、令和7年11月1日発効で1,097円です。すでに81円上回っています。令和8年10月15日に1,154円になれば、138円上回ります。
つまり、静岡で最低賃金以上をもらって週20時間働いている方にとって、8.8万円という要件は、撤廃される前からすでに機能していません。2026年10月に消えるのは、空振りしていた条件です。私はこの記事を書くまで、撤廃をもっと大きな変化だと思っていました。
では、静岡で残る壁は何か。「週20時間」「勤め先が51人以上」「130万円」の3つです。106万円という数字は、静岡ではもう判定に効いていません。
手取りはいくら動くのか——週20時間・時給1,154円で計算する
制度の説明だけでは、来月の家計は分かりません。磐田でよくある働き方——1日4時間、週5日、時給は改定後の最低賃金1,154円——で計算します。
月額は1,154円×20時間×52週÷12か月で100,013円。年収にするとおよそ120万円です。標準報酬月額は98,000円になります。
ここから引かれる保険料の本人負担分は、厚生年金保険が9.15%(保険料率18.3%の労使折半)で8,967円。健康保険は全国健康保険協会静岡支部の令和8年度の料率9.61%の半分、4.805%で4,709円。合わせて月13,676円、年164,112円です。40歳以上65歳未満の方は介護保険料率1.62%の半分が加わり、月794円増えます。
月に1万3千円強。これを「引かれる」とだけ見るのは、私は損だと思います。比べるべき相手があるからです。
130万円を超えて扶養から外れ、しかも勤め先の社会保険に入れない場合、自分で国民年金と国民健康保険を払います。令和8年度の国民年金保険料は月17,920円(年215,040円)。国民健康保険はこれとは別にかかります。
勤め先の社会保険に入るほうが、月13,676円。自分で払うほうが、国民年金だけで月17,920円。差は月4,244円、年に50,928円。そのうえ厚生年金は将来受け取る年金が増え、健康保険には傷病手当金と出産手当金がつきます。国民年金と国民健康保険には、この2つがありません。
私は不動産の仕事で、賃貸の入居審査のたびに給与明細を見ています。月10万円は、磐田で車を持って暮らすには余る額ではありません。だから1万3千円が重いことは分かります。それでも、扶養を外れる形と比べたときにどちらが得かは、一度は電卓を叩く価値があると私は考えています。
130万円の壁は残ります。しかも、一枚岩ではありません
130万円の壁について、2025年に一つ変わったことがあります。日本年金機構によると、扶養認定日が令和7年10月1日以降で、認定を受ける方が19歳以上23歳未満である場合(被保険者の配偶者を除く)、「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わりました。
大学生や専門学校生の子をアルバイトで扶養に入れている家庭では、線が20万円分うしろに動いています。同じ家の中で、親のパート勤務は130万円、子のアルバイトは150万円。壁の高さが人によって違います。
もう一つ。厚生労働省の「年収の壁」への対応では、繁忙期に労働時間を延ばして収入が一時的に上がっても、事業主がその旨を証明すれば扶養に入り続けられる仕組みが続いています。年末に人が要る商売の側からすると、これがないとシフトが組めません。
なお、106万円の側を支えていたキャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」は令和8年3月31日までが対象期間で、令和8年4月1日以降は「短時間労働者労働時間延長支援コース」の利用が案内されています。
評価——良い点と、注文したい点
今回の見直しについて、良いと思った点を先に3つ数えます。
一つめ。日本年金機構が、撤廃する理由まで書いていること。「最低賃金以上で週20時間以上働く場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上となるため」。この一行があるから、静岡ではもう関係ないことを読み手が自分で確かめられます。結論だけ書かれた告知は、確かめようがありません。
二つめ。企業規模の要件を、年月まで示して段階的に下げていること。令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月から11人以上。小さい事業者は、自分の会社が何年後に入るかを逆算できます。いきなり全事業所を対象にされるより、はるかに現実的です。
三つめ。130万円の側で、事業主の証明による扱いが残っていること。繁忙期に少し多く働いた月があるだけで扶養から外れるなら、年末に人を増やせません。制度が現場の季節に合わせている数少ない例だと思います。
そのうえで、注文を2つ。私は市を動かす側ではありません。磐田で人を雇う側にいる一事業者の要望として読んでください。
1つ。「106万円の壁」という呼び名を、公の側から使うのをやめてほしい。実際に判定するのは所定内賃金の月額8.8万円で、賞与も残業代も通勤手当も入りません。「106万円」は年収のように聞こえます。賞与を足して106万円を超えたから加入だと思い込んで、年の後半にシフトを減らす方が出ます。名前が誤解を作っています。呼ぶなら「月8.8万円の要件」です。
2つ。磐田市の窓口に、2つの壁を1枚に並べた紙を置いてほしい。働く方が最初に相談に行くのは年金事務所ではなく、市役所の国民健康保険・国民年金の窓口です。106万円は勤め先の話、130万円は家族の健康保険の話——この区別と、超えたときにいくらかかるかを1枚にしておくだけで、判断が変わる方がいます。制度は、知っている人だけが得をします。それが一番よくない。
対案・結論——今日できる確認は、2つ
この10月に自分がどうなるか気になった方が、今日できる確認を2つ挙げます。
一つめ。雇用契約書か労働条件通知書を出して、「週の所定労働時間」を見てください。106万円でも130万円でもなく、最初に効くのはこの数字です。20時間以上かどうか。日本年金機構は、週単位で決まっていない場合は1か月の所定労働時間を12分の52で割って算定するとしています。
二つめ。勤め先の厚生年金保険の被保険者数が51人以上かどうかを聞いてください。これは事業所ごとではなく、法人番号が同じすべての事業所の合計で数えます。ららぽーと磐田に入っている店でも、運営する会社の規模で決まります。小さな店の1人パートでも、全国チェーンなら対象になり得ます。逆に、市内の51人未満の事業所は、まだ対象外です。
2つとも、聞くだけなら無料で、5分で終わります。
最後に一言。
これは、人を雇う側の本音です。私の事務所は51人にはるかに届きません。だから今回の改正で、うちの負担は直接には増えません。それでも、この話を他人事だとは思っていません。
社会保険料は労使折半です。パートの方の手取りから月1万3千円強が引かれるとき、会社の側も同じ額を出しています。それを価格に乗せられない店から順に、シフトを削ります。週20時間の手前で止める働き方が増えれば、静岡が57円を積んだ意味も薄まります。私が分からないのは、磐田で「19時間のシフト」がどれだけ増えるかです。増えないでほしいと思っていますが、増えないと言い切れるだけの材料を、私はまだ持っていません。
それから、壁について一つ。「壁をなくす」と言われても、壁が動くだけで、なくなるわけではありません。2026年10月に消えるのは月8.8万円の要件で、そのぶん「週20時間」がむき出しになります。企業規模の51人は令和9年10月に36人へ下がります。130万円はそのまま残り、19歳以上23歳未満だけ150万円に上がりました。
壁が動いたときにいちばん困るのは、動いたことを知らない人です。10月に給与明細の控除欄が変わったら、まず勤め先に「週の所定労働時間は何時間ですか」と聞いてください。そこが分かれば、あとは計算できます。
よくある質問
Q. 106万円の壁と130万円の壁は、何がどう違いますか。
106万円の壁は、勤め先の厚生年金保険・健康保険に自分が加入する要件です。判定するのは所定内賃金の月額8.8万円以上で、賞与・残業代・通勤手当は含みません。130万円の壁は、家族の健康保険の被扶養者でいられるかの認定基準で、判定するのは年間収入130万円未満(60歳以上と障害者は180万円未満)です。前者は加入する話、後者は扶養から外れる話で、別の制度です。
Q. 2026年10月に106万円の壁が撤廃されると、磐田で働くパートの手取りは減りますか。
静岡では、ほとんどの人が影響を受けません。週20時間で所定内賃金が月8.8万円に届く時給は1,016円ですが、静岡県の最低賃金は令和7年11月1日発効で1,097円です。最低賃金で週20時間なら、撤廃の前からすでに8.8万円を超えています。日本年金機構も「最低賃金以上で週20時間以上働く場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上となるため」撤廃すると書いています。
Q. 勤め先が小さい会社なら、2026年10月からも社会保険に入らなくてよいのですか。
企業規模の要件は残ります。日本年金機構によると、対象は厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で、令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月から11人以上へ段階的に拡大されます。ただし、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上なら、企業規模に関係なく加入対象です。
出典(2026年8月確認)
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(更新日2026年4月17日、2026年8月21日確認。特定適用事業所=1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者〈短時間労働者は含まない、共済組合員を含む〉の総数が51人以上となることが見込まれる企業等。法人事業所は同一法人格に属する〈法人番号が同一である〉すべての適用事業所の被保険者数の総数で数える。短時間労働者の要件=1週間の所定労働時間または1月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である方のうち、(1)週の所定労働時間が20時間以上、(2)学生でないこと、(3)所定内賃金が月額8.8万円以上。(3)から除外する賃金=臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金〈例:結婚手当、賞与等〉、時間外労働・休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金〈例:割増賃金等〉、最低賃金法で算入しないことを定める賃金〈例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当〉。「※最低賃金以上で週20時間以上働く場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上となるため、この要件は令和8年10月に撤廃予定です」。週単位で所定労働時間が定まっていない場合は、1カ月の所定労働時間を12分の52で除して算定。任意特定適用事業所の仕組みあり) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」(更新日2026年6月30日、2026年8月21日確認。企業規模要件=現在は厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等、令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月から11人以上へ段階的に拡大。賃金要件=所定内賃金が月額8.8万円以上という要件は令和8年10月に撤廃予定) https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html
- 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」(更新日2026年7月13日、2026年8月21日確認。被扶養者の認定における年間収入の基準=130万円未満、60歳以上または障害者は180万円未満。給与所得がある場合は月額108,333円以下。同居の場合は収入が被保険者の年間収入の2分の1未満、別居の場合は収入が被保険者からの仕送り額未満。同居を要しない範囲=配偶者、子、孫、兄弟姉妹、直系尊属) https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20141202.html
- 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」(2026年8月21日確認。扶養認定日が令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける方が19歳以上23歳未満である場合〈被保険者の配偶者を除く〉、現行の「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わる) https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2025/202508/0819.html
- 日本年金機構 年金Q&A「健康保険の被扶養者として認定されるための要件の一つに、年収が130万円未満であることという収入要件がありますが、この要件に変更はありますか。」(2026年8月21日確認。「健康保険の被扶養者の認定について、収入要件の変更はありません」。年収が130万円未満であっても、4分の3基準または4要件を満たした場合は厚生年金保険・健康保険の被保険者となる) https://www.nenkin.go.jp/section/faq/kounen/tekiyoukakudai/tanjikan/fuyounintei.html
- 全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」(2026年8月21日確認。静岡支部の健康保険料率=9.61%。介護保険料率=全国一律1.62%。子ども・子育て支援金率=0.23%。健康保険料率は令和8年3月分〈4月納付分〉から、子ども・子育て支援金と介護保険料は令和8年4月分〈5月納付分〉から適用) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/rate_prefectures/r08/index.html
- 日本年金機構「国民年金保険料」(2026年8月21日確認。令和8年度〈令和8年4月〜令和9年3月〉の国民年金保険料は月額17,920円) https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/hokenryo.html
- 厚生労働省「『年収の壁』への対応」(2026年8月21日確認。繁忙期に労働時間を延ばすなどにより収入が一時的に上がっても、事業主がその旨を証明することで引き続き扶養に入り続けることが可能。キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」は令和8年3月31日までが対象期間で、令和8年4月1日以降は「短時間労働者労働時間延長支援コース」の利用を案内) https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00004.html
- 静岡労働局「令和8年度静岡県最低賃金の改正答申について」(答申日=令和8年8月12日。改定額=時間額1,154円、現行1,097円、引上げ額57円。発効予定日=令和8年10月15日。2026年8月21日確認) https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/news_topics/newpage_00035.html
- 静岡県「静岡県の最低賃金」(地域別最低賃金=時間額1,097円、令和7年11月1日発効。ページ更新日2025年11月21日、2026年8月21日確認) https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/shuroshien/rodoseisaku/rodokankyo/1003237/1026044.html
- 本連載の既報:静岡の最低賃金1,154円は令和8年10月15日発効予定(記事0240・記事0206)
※制度・料率・金額は変更される場合があります。最新の内容は日本年金機構、全国健康保険協会、厚生労働省の各公式サイトでご確認ください。静岡県の最低賃金1,154円は令和8年8月12日の答申にもとづく発効予定額で、異議申出等の手続を経て静岡労働局長が決定します。本文中の「時給1,016円」「月額100,013円」「本人負担 月13,676円」などは、公表されている料率と最低賃金額から筆者が計算した概算です。標準報酬月額の等級、実際に控除される額、被扶養者の認定は、勤務先・加入している健康保険・年金事務所の判断によって異なります。130万円の「年間収入」に何が含まれるかは加入している健康保険によって取扱いが分かれる場合があります。個別の判断は、勤務先、加入している健康保険、または年金事務所へ必ずご確認ください。
