導入——先月出た数字を、市はまだ載せていない
2026年7月29日、静岡県が「令和7年国勢調査 静岡県の人口(速報値)」を公表しました。
国勢調査は5年に一度、2025年10月1日を基準日として行われたものです。その最初の集計が、先月出ました。
磐田市の数字は、こうです。
- 人口:160,548人(令和2年=166,672人、5年で6,124人減、−3.67%)
- 世帯数:65,606世帯(令和2年=65,059世帯、547世帯増、+0.84%)
もう一度読んでください。人は6,124人減って、世帯は547増えています。
私はこの数字を見て、しばらく手が止まりました。不動産の仕事をしていると、「人口が減るから家が余る」という説明を、あちこちで聞きます。けれど、この5年で磐田に必要な「住まいの数」は、減っていない。むしろ547戸ぶん増えている。
それなのに、空き家は増え続けている。
ここに、磐田で家が余る本当の理由が入っています。順番に書きます。
そしてもう一つ。この速報値は、8月17日現在、磐田市の統計ページにはまだ掲載されていません。市のサイトにあるのは「令和2年国勢調査」のページのままです。県が出してから、そろそろ3週間になります。
まず、事実を整理する——県全体でも同じことが起きている
磐田だけの話ではありません。静岡県全体でも、同じ形です。
- 静岡県 人口:3,468,845人(5年で164,357人減、−4.52%)
- 静岡県 世帯数:1,501,036世帯(17,564世帯増、+1.18%)
県から16万人が消えて、世帯は1万7千増えた。16万人というのは、磐田市の人口とほぼ同じ規模です。5年で磐田市が丸ごと1つ消えたことになる。
ただし、市町ごとに見ると、様子はかなり違います。静岡県の35市町のうち、世帯が増えたのは17、減ったのは18。ちょうど半々に割れました。
磐田の近隣を並べます。
ここで、磐田の位置がはっきりします。
人口の減り方は、35市町のうち7番目に小さい。−3.67%は、県平均の−4.52%よりだいぶ踏ん張っています。磐田は、人口の面では健闘しているほうです。
ところが、世帯の増え方は14番目。+0.84%は、県平均の+1.18%を下回ります。
隣を見てください。袋井は+4.69%で県内1位。掛川は+3.76%、浜松は+3.27%、菊川は+3.48%。磐田だけ、桁が違う。
人口は近隣より減っていないのに、世帯だけ増えていない。この「ねじれ」が、磐田の住まいの現在地です。
なぜ「人が減って世帯が増える」のか——家は、人数では空かない
からくりは、割り算です。
人口を世帯数で割ると、1世帯あたりの人数が出ます。
- 令和2年の磐田:166,672 ÷ 65,059 = 2.562人
- 令和7年の磐田:160,548 ÷ 65,606 = 2.447人
5年で0.115人、小さくなりました。
0.115人と言われてもピンときません。だから、こう考えます。
もし1世帯あたりの人数が令和2年のまま(2.562人)だったなら、160,548人が住むのに必要な世帯は62,669世帯でした。実際は65,606世帯です。
差は2,937世帯。人が減ったにもかかわらず、約2,900世帯ぶん「住まいの口」が余分に必要になったということです。
ここが、いちばん大事なところです。
家は、人数が減っても空きません。空くのは部屋です。
4人家族が2人になっても、その家は「空き家」にはならない。使わない部屋が2つ増えるだけです。統計にも出ないし、固定資産税も変わらない。誰も困らないので、誰も動かない。
家が丸ごと空くのは、世帯そのものが消えるときだけです。最後のひとりが施設に入る。亡くなる。子は市外に家を建てている。その瞬間に、1軒がまるごと空きます。
つまり、こうです。
世帯が増えているというのは、「これから丸ごと空く家」の予備軍が増えている、ということでもあります。増えた世帯の多くは、新婚さんではありません。親と子が分かれて暮らすようになった結果の、単身世帯です。
住宅の数と、世帯の数を並べてみる
もう一つ、数字を重ねます。
令和5年(2023年)の住宅・土地統計調査によると、磐田市の空き家は7,840戸、空き家率10.69%。逆算すると、市内の住宅はおよそ73,000戸あります。
一方、国勢調査の世帯数は65,606世帯。
住宅はおよそ73,000戸、世帯は65,606。7,000戸以上、家のほうが多い。
そして、その空き家7,840戸のうち、賃貸用が4,470戸、売却用が520戸。市場に出ているものです。残る「その他の空き家」が2,710戸。売りにも貸しにも出ていない、いわゆる放置に近い状態の家です。
私が相談を受けるのは、たいていこの2,710戸のほうです。
現場の感覚を、正直に書きます。
いま磐田で「探している人」の多くは、単身か2人です。60代・70代のご夫婦、あるいはひとり暮らし。若い単身の方も、外国人のご家族も来られます。
いっぽう、売りに出る家の多くは4LDKか5DKです。昭和の終わりから平成の初めに、4人・5人で住むために建てられた家です。
数だけ見れば、余っている家と、探している人の数は釣り合っている。けれど、中身が合っていない。
2人で住むのに、4LDKは要りません。掃除できない部屋が2つ増えるだけです。庭の草も刈れない。だから、値段を下げても決まらない家が出てきます。
これが、「人口が減るから家が余る」という説明では、どうしても捉えきれないところです。磐田で家が余っているのは、人が減ったからではなく、世帯の形が変わったからです。
もう一つ、気になる数字の差
ここは、専門的になるので短く書きます。
磐田市が毎月公表している人口は、住民基本台帳にもとづくものです。令和8年6月末現在で、163,321人・72,400世帯(うち外国人が10,121人・5,594世帯)。
いっぽう、国勢調査の速報値は160,548人・65,606世帯です。
世帯数で、6,800近い開きがあります。
これは、どちらかが間違っているという話ではありません。住民基本台帳は「住民票がどこにあるか」、国勢調査は「実際にどこに住んでいるか」を数えます。基準日も、令和8年6月末と令和7年10月1日で違います。だから、単純比較はできません。
ただ、住まいの計画を立てるときに、どちらの数字を土台にするかで、答えは変わります。7万2千世帯を前提にするのと、6万5千世帯を前提にするのとでは、必要な住宅の数も、上下水道の見込みも、変わってきます。
だから、市が「どちらをどう使うか」を書いておくことには意味があります。
評価——良い点を三つ、注文を三つ
まず、良いと思う点を三つ。
1つ目。静岡県の公表が、速い。
基準日が2025年10月1日で、速報値の公表が2026年7月29日。しかもエクセルで、35市町ぶんの人口・世帯数・増減数・増減率が一枚に入った表を、誰でもダウンロードできる形で置いています。
私はこの記事を書くのに、その表をそのまま使いました。加工しやすい形で出す、というのは、それだけで公開の質です。PDFの画像だけだったら、こうはいきません。
2つ目。磐田の人口の減り方は、県内で健闘しているほうだということ。
−3.67%は、35市町のうち7番目に小さい。森町は−8.66%、川根本町は−14.31%、西伊豆町は−14.16%です。その中で磐田は、まだ持ちこたえている。
これは素直に良い数字です。「磐田は人が減っている」とだけ言うのは、正確ではありません。
3つ目。市が毎月、住民基本台帳の人口を町別・年齢別まで公表していること。
国勢調査は5年に一度です。その間を埋める毎月の数字を、市はきちんと出し続けています。日本人と外国人を分けて、世帯数まで載せている。この継続は、地味ですが値打ちがあります。
そのうえで、注文を三つ。
1つ目。県が出した速報値を、市がまだ載せていない。
これが今回いちばん気になりました。7月29日に県が出しています。今日は8月17日です。
市の統計ページに並んでいるのは「令和2年国勢調査」。5年前の数字が、いちばん新しい国勢調査として置かれたままです。
市がわざわざ集計し直す必要はありません。県の表へのリンクを1本張って、「磐田市は160,548人・65,606世帯でした」と3行書けば済む話です。
2つ目。「人口が減る」という言い方だけでは、家の問題は動かない。
行政の資料は、たいてい人口の折れ線グラフから始まります。けれど、住まいの話でいちばん効くのは、世帯数と1世帯あたりの人数です。
磐田で必要な住まいの「口」は、この5年で547増えました。減っていない。それでも空き家は増える。この矛盾を説明しないまま「人口減少だから空き家が増えます」と書くと、読んだ人は「じゃあ仕方ない」で止まってしまいます。
仕方なくはありません。世帯の形が変わったのなら、家の形を変える手はあります。
3つ目。世帯の増え方が近隣より弱いことを、誰も問題にしていない。
袋井+4.69%、掛川+3.76%、磐田+0.84%。この差は、偶然ではないはずです。
世帯が増えるということは、その市に「新しく住まいを構える人」がいるということです。若い単身の人、独立した子ども、転入してきた世帯。磐田は、人口全体では踏ん張っているのに、そこが弱い。
私の実感で言えば、磐田で育った若い人が、最初のひとり暮らしを浜松や袋井で始めているという感触があります。アパートの数も、駅までの距離も、勤め先も関係するでしょう。ここは、思い込みではなく調べるべきところです。
対案・結論——四つ、提案します
第一に、県の速報値を市のサイトに載せること。今週中に。
リンク1本と3行です。「磐田市=160,548人・65,606世帯。5年前より6,124人減、547世帯増」。これだけで、市民が自分の頭で考える材料になります。
第二に、市の計画に「世帯数と1世帯あたり人数」の見通しを入れること。
いま第3次磐田市総合計画(案)へのパブリックコメントが9月11日まで募集されています。8年先までの計画です。
人口の見通しだけでなく、世帯数と1世帯あたり人数の見通しを併記してほしい。住宅、上下水道、ごみ、防災の備蓄。どれも「人数」ではなく「世帯数」で効いてくる話です。
第三に、「余っている家」と「探している人」の中身の差を、市の空き家の取り組みに反映すること。
いま余っているのは4LDKで、探しているのは単身と2人世帯です。この差を埋める道は、実はいくつかあります。減築、二世帯への改修、賃貸への転用、庭の一部を分けて売る。どれも「壊す」より前にできることです。
補助金を増やせ、という話ではありません。「4LDKのまま売るのは難しい」と最初に言ってくれる窓口があるかどうかの話です。
第四に、これは私たち不動産の側の宿題です。
「人口が減るから」と言って説明を終わらせない。お客さんが本当に知りたいのは、「うちの家は、誰が買うのか」です。
その答えは、人口ではなく世帯の中にあります。2.447人。この数字が、次に家を買う人の平均的な姿です。
最後に一言。
私はこの夏も、実家じまいの相談をいくつか受けました。だいたい同じ形です。親御さんがひとりで4LDKに住んでいて、子どもは市外にいる。
その家は、国勢調査のうえでは「1世帯」です。人が1人で、世帯が1つ。数字のうえでは、袋井で新しくアパートを借りた若い人と、まったく同じ「1世帯」です。
けれど、片方はワンルームのアパートで、片方は部屋が四つある一戸建てです。統計は、この違いを教えてくれません。
だからこそ、数字を見たあとで、家を見に行く必要があります。
5年で6,124人減って、547世帯増えた。この547世帯の中には、新しく暮らしを始めた人もいれば、家族が分かれて残った人もいます。同じ「+1」でも、意味はまるで違う。
次の国勢調査は、2030年10月1日です。あと4年と少し。そのとき磐田の1世帯あたりの人数は、たぶん2.3人台になっています。
そこまでに、あなたの実家をどうするか。決めるのは、統計ではなく家族です。
ただ、話を始めるきっかけとして、この数字は悪くないと思っています。お盆で帰ってきた子どもが、まだ市内にいるうちなら、なおさらです。
出典(2026年8月確認)
- 静岡県統計センター「令和7年国勢調査 静岡県の人口(速報値)」(調査日=2025年10月1日、ページ更新日=2026年7月29日。「表1 市区町別人口及び世帯数(速報値)」=磐田市 人口160,548人〈男80,814人・女79,734人〉・世帯数65,606世帯、令和2年確定値166,672人・65,059世帯、増減−6,124人〈−3.67%〉・+547世帯〈+0.84%〉。静岡県計 3,468,845人・1,501,036世帯、増減−164,357人〈−4.52%〉・+17,564世帯〈+1.18%〉。浜松市765,750人・331,250世帯〈−3.16%/+3.27%〉、袋井市86,597人・35,669世帯〈−1.44%/+4.69%〉、掛川市111,662人・45,414世帯〈−2.86%/+3.76%〉、菊川市45,535人・18,377世帯〈−4.72%/+3.48%〉、湖西市55,211人・23,460世帯〈−4.62%/+1.98%〉、焼津市130,935人・53,941世帯〈−4.32%/+1.31%〉、藤枝市134,513人・54,196世帯〈−4.83%/+0.41%〉、森町15,945人・6,095世帯〈−8.66%/−2.36%〉、川根本町−14.31%、西伊豆町−14.16%) http://toukei.pref.shizuoka.jp/jinkoushugyouhan/data/02-010/2025jinko-sokuho.html
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月1日現在。磐田市=空き家数7,840戸・空き家率10.69%、うち賃貸用4,470戸・売却用520戸・二次的住宅150戸・その他の空き家2,710戸) https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html
- 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(住民基本台帳による。令和8年6月末現在=総人口163,321人〈男82,487人・女80,834人〉・72,400世帯。うち日本人153,200人・66,806世帯、外国人10,121人・5,594世帯。ページ更新日2026年7月16日) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/1005583.html
- 磐田市「令和2年国勢調査」(本記事執筆時点で、市の統計ページに掲載されている最新の国勢調査の結果ページ。令和7年国勢調査の速報値のページは確認できなかった) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/1010003.html
- 磐田市「統計」(統計書、磐田市の人口〈令和8年度〜平成18年度〉、令和8年経済センサス‐活動調査などを掲載) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/index.html
- 磐田市「第3次磐田市総合計画(案)に対するパブリックコメント」(募集期間=令和8年8月5日〜9月11日午後5時15分必着。令和9年度から令和16年度までの8年間の計画) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/kouhou_kouchou/publiccomment/1005813/1016711.html
※令和7年国勢調査の数値は静岡県が公表した速報値であり、今後の集計により確定値が変わる場合があります。1世帯あたり人数、および「1世帯あたり人数が令和2年のままだった場合に必要な世帯数(62,669世帯)」は、公表された人口と世帯数から筆者が計算した目安です。住宅総数のおよそ73,000戸は、空き家数7,840戸と空き家率10.69%から逆算した概数です。住民基本台帳の人口・世帯数と国勢調査の人口・世帯数は、集計の考え方(住民票の所在/実際の居住)も基準日も異なるため、単純に比較・差引きできるものではありません。市の統計ページに令和7年国勢調査の結果が掲載されていない旨は、2026年8月17日時点で筆者が確認したものです。総合計画への世帯数の見通しの併記、空き家の窓口に関する提案は筆者個人の意見であり、磐田市が検討していると確認したものではありません。最新の情報は静岡県・総務省統計局・磐田市の公式サイトでご確認ください。
