この記事について。2026年6月に公開した記事を、その後に確認できた事実で書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。
導入——毎日、庁舎をまたいで仕事をしている
私は不動産と介護の仕事をしています。市役所の中の人間ではありません。それでも、相続の手続き、介護保険の申請、実家じまいの相談で、磐田市役所には何度も足を運びます。
そのたびに気づくことがあります。窓口が、ひとつの建物に収まっていないのです。
磐田市役所は、本庁舎(磐田市国府台3-1)に加えて、西庁舎が同じ敷地内にあります。さらに市内には福田支所、豊岡支所、豊田支所、竜洋支所という4つの支所があり、健康や福祉の窓口は「iプラザ」という別の施設に入っています。用件によって、行く建物が変わります。
これは市民だけの話ではありません。職員も、部署をまたぐ相談のたびに、本庁舎と西庁舎を行き来しています。効率という一言では片づけられない、日常の小さな不便が積み重なっています。
今日は、この「分かれている」という事実と、「古くなっている」という事実、そして「建てるにはお金がかかる」という事実を、順番に確かめます。そのうえで、良い点は良い点として、注文は注文として、率直に書きます。
まず事実——磐田市役所は、いくつの建物に分かれているか
市の庁舎案内によると、本庁舎は6階建てで、税務、保険年金、戸籍といった市民向けの窓口のほか、議会や各種委員会室が入っています。西庁舎は3階建てで、教育委員会、学校教育関連部門、都市計画・建築関係、DX推進課などが入っています。
支所は4か所。福田支所(磐田市福田400)、豊岡支所(磐田市下野部57-1)、豊田支所(磐田市上新屋304、アミューズ豊田内)、竜洋支所(磐田市岡729-1)です。
支所では、地域振興に関する相談、戸籍・住民票・印鑑登録・市税の証明、原動機付自転車の申請受付、税や保険料などの収納、医療費助成、各種手当、障害者福祉、高齢者福祉、介護保険といった業務が扱えます。ここまで聞くと、支所でかなりのことができるように見えます。
ただし、市が公表している業務一覧には、注記があります。転入・転出の手続きは「豊田支所を除く」全支所で可能。出生・死亡の届け出は「豊岡支所に限る」と、支所によって扱える業務が違うのです。「近くの支所に行けば済む」とは、必ずしも言えないということです。私も相続や介護保険の相談で、「この手続きは本庁舎でないとできません」と案内された経験があります。
まず事実——本庁舎は、建設から50年が経っている
広報いわたによると、磐田市役所本庁舎は建設から50年が経ち、外壁や給排水管が老朽化しています。市はこれまで改修を重ねて使い続けてきました。
これは本庁舎だけの話ではありません。磐田市が令和4年3月に改訂した「公共施設等総合管理計画」によると、市が保有する公共施設は768施設、延べ床面積は57万6340平方メートル。このうち整備後30年以上経過した建物は63.8%に上ります。昭和40年代から50年代にかけて一気に整備した施設が、いま一斉に更新の時期を迎えている、という構図です。
本庁舎だけを建て替えれば済む話ではなく、学校も、公民館も、道路も、同じタイミングで老朽化しています。庁舎の建て替えを考えるときは、この「順番待ちの長い列」のどこに庁舎を並べるか、という問題でもあります。
材料費の壁——公共工事の労務単価は、13年連続で上がっている
「古いなら建て替えればいい」。そう単純に言えないのは、建設費が上がり続けているからです。
国土交通省が公表している公共工事設計労務単価は、2025年度(令和7年3月適用分)で全国全職種平均が前年度比+6.0%となり、13年連続の引き上げとなりました。加重平均は1日あたり24,852円で、これは過去11年で最大の上昇率です。時間外労働の上限規制への対応など、建設業の担い手を確保するための動きが背景にあります。
つまり、庁舎を建て替える決断を先送りするほど、同じ建物を建てるための費用は増えていく可能性が高い、ということです。一方で、財源を急いで用意すれば、他の老朽化した施設への対応が後回しになります。「急ぐべきか、急いではいけないか」は、単純な二択ではありません。
参考になるのは、他の自治体の動きです。島田市は2025年3月に新庁舎(延べ床面積11,976平方メートル、総事業費87億1000万円)を完成させました。三島市は平成27年度から新庁舎整備事業を進め、令和7年1月に基本構想を策定し、令和13年度中の開庁を目標にしています。課題として挙げられているのは、老朽化、狭あい化、そして庁舎機能の分散――磐田市と同じ課題です。静岡市も、清水庁舎をJR清水駅東口へ移転新築する方針を2025年11月に示し、2031年度の供用開始を目指しています。いずれも、検討から実際の開庁まで10年前後の時間をかけています。
評価——良い点を三つ
1つ、支所を4か所残し、身近な窓口を維持してきたこと。効率だけを考えれば、窓口を本庁舎に集約したほうが管理はしやすくなります。それでも磐田市は、福田、豊岡、豊田、竜洋という広い市域それぞれに支所を置いてきました。高齢の親の代わりに手続きに行く、という場面を何度も見てきた立場から言えば、家から近い場所に窓口があることの意味は小さくありません。
2つ、公共施設全体を見渡す計画を、早い段階でつくっていたこと。令和4年3月改訂の公共施設等総合管理計画は、庁舎だけでなく768施設全体を対象に、財源の確保、施設数の縮減、長寿命化という3つの方針を示しています。庁舎の建て替えを、庁舎だけの問題として切り離さず、市全体の公共施設マネジメントの中に位置づけているのは、筋の通った進め方だと思います。
3つ、改修を重ねて、使えるものを使い続けてきたこと。建設から50年が経った本庁舎を、すぐに建て替えず、外壁や給排水管の改修で延命させてきたことは、財政的には堅実な判断です。古くなったらすぐ壊す、という発想ではないところに、私は好感を持ちます。
注文——三つ
1つ。「分散している」ことの不便さを、市民の声として集めてほしい。本庁舎、西庁舎、4支所、iプラザ。それぞれに理由があって今の形になっているはずですが、実際にどれだけの市民が「行く場所を間違えた」「二度手間になった」と感じているのか、私は聞いたことがありません。建て替えや集約を議論する前に、まずこの不便さを数字か声の形で見える化してほしいと思います。
2つ。建て替えるかどうかより先に、優先順位の考え方を示してほしい。768施設のうち63.8%が老朽化しているなかで、庁舎をどの順番で更新するのかは、市民の暮らしに直結する話です。他市の例を見る限り、検討から開庁まで10年前後かかります。「やる・やらない」の結論を急ぐより、いつ、どういう基準で判断するのかという工程表を先に示すことのほうが、いまの磐田市には必要だと感じます。
3つ。支所ごとの業務の違いを、もっと分かりやすく伝えてほしい。転入・転出は豊田支所を除いてできる、出生・死亡の届け出は豊岡支所に限る。こうした例外は、実際に手続きに行った人でなければ気づきにくいものです。「この支所で何ができて、何ができないか」を、一覧で誰でも確認できるようにしてほしいと思います。
結論——急ぐ理由と、急いではいけない理由
まとめます。
磐田市役所は、本庁舎・西庁舎・4支所・iプラザに機能が分かれ、本庁舎は建設から50年が経ち、老朽化しています。建て替えを急ぐべき理由は、確かにあります。
一方で、建設費は13年連続で上がり続け、768施設のうち63.8%が同じように老朽化を抱えています。庁舎だけを急いで建て替えれば、他の施設の更新が遅れます。急いではいけない理由も、同じくらい確かにあります。
私が言いたいのは、「今すぐ建て替えるべきだ」でも「まだ早い」でもありません。分散の不便さを数字で示し、公共施設全体の中での優先順位を示し、そのうえで市民に判断材料を渡すことです。他市の例では、検討から開庁まで10年前後かかっています。始めるなら、その時間をきちんと見込んだうえで、始めるべきだと思います。
毎日、庁舎をまたいで仕事をしている職員と、用件のたびに行き先を確かめる市民。その両方にとって、次の一歩がどう決まるのか、私はこれからも見ていきたいと思います。
出典(2026年8月確認)
- 磐田市「市役所・庁舎案内」(本庁舎=〒438-8650磐田市国府台3-1、6階建、税務・保険年金・戸籍等の窓口、議会・委員会室が入る。西庁舎=同一敷地内、3階建、教育委員会・学校教育関連部門・都市計画建築関係・DX推進課が入る) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/soshikiannai/choushaannai/1004455.html
- 磐田市「支所の業務・連絡先」(支所で扱える業務=地域振興、戸籍・住民票・印鑑登録・市税証明、原動機付自転車の申請受付、税・保険料等の収納、医療費助成・各種手当・障害者福祉・高齢者福祉・介護保険。「転入・転出手続(豊田支所を除く)」「出生・死亡届(豊岡支所に限る)」の注記あり) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/soshikiannai/soshikikikou/1002357.html
- 磐田市 福田支所・豊岡支所・豊田支所・竜洋支所 各施設ページ(所在地=福田支所:磐田市福田400、豊岡支所:磐田市下野部57-1、豊田支所:磐田市上新屋304アミューズ豊田内、竜洋支所:磐田市岡729-1) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/soshikiannai/choushaannai/1004456.html ほか各支所ページ
- 広報いわた2024年5月号「磐田市公共施設等総合管理計画」(磐田市役所本庁舎は「建設から50年が経ち」外壁や給排水管が老朽化していると記載。市保有の公共施設768施設、延べ床面積57万6340平方メートル、整備後30年以上経過した建物63.8%。計画は令和4年3月改訂、方針は財源確保の仕組みづくり・保有施設数の縮減・長寿命化の3つ) https://city-iwata.kohoplus.jp/article/静岡県磐田市/広報いわた-2024年5月号/磐田市公共施設等総合管理計画/
- 国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和7年2月14日公表。全国全職種平均が前年度比+6.0%、13年連続の引き上げ、加重平均24,852円/日、過去11年で最大の上昇率と各種報道で確認) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001864366.pdf
- 島田市「新庁舎建設事業」(新庁舎は2025年3月に完成、延べ床面積11,976平方メートル、総事業費87億1000万円、CASBEE-Sランク・ウェルネスオフィスSランク認証) https://www.city.shimada.shizuoka.jp/gyosei/zigyo-keikaku/kenchiku/shintyousyakensetsu/
- 三島市「新庁舎整備事業」(課題=老朽化・狭あい化・庁舎機能の分散。平成27年度から事業を進め、令和7年1月に基本構想を策定、令和13年度中の開庁を目標) https://www.city.mishima.shizuoka.jp/site/shinchousya/
- 静岡市 清水庁舎移転新築方針(2025年11月4日、市長がJR清水駅東口への移転新築方針を表明。オフィスやホテル等の民間機能を備えた複合施設として2031年度供用開始を目指すと2026年2月6日の市政説明会で説明) 各種報道で確認
※国土交通省の公共工事設計労務単価は令和7年2月14日発表の報道発表資料を主な出典としつつ、数値は複数の報道でも確認しました。他市の事業費・スケジュールは各市の公表時点の情報であり、その後変更される可能性があります。市民の不便さの実感に関する記述は、筆者が不動産・介護の現場で見聞きした範囲での実感であり、統計に基づくものではありません。建て替えや集約の是非について、本記事は特定の結論を主張するものではありません。

