導入——決算書は、読み通す種類の書類ではありません
9月9日から、磐田市議会の9月定例会が始まります。会期は10月16日まで。初日の9月9日に一般会計決算の説明、翌10日に特別会計・企業会計の決算の説明。9月25日と28日に決算への質疑。日程はすでに市議会のページに出ています。
ここで審査されるのが、令和7年度——つまり去年の4月から今年の3月まで——の決算です。
「決算を見よう」と言われて、実際に見た人は少ないと思います。私も、全部は読めません。市政報告書だけで3.4メガバイト、財政状況の冊子が5.9メガバイト。数字の海です。
だから今日は、逆のことを書きます。1枚だけ見るなら、どれか。
健全化判断比率の表です。数字は5つしかありません。しかも、それぞれに「この線を越えたらアウト」という基準が国の法律で決まっている。他人と比べなくても、自分の市が合格か不合格かが、その場で分かります。
まず、この5つの数字が何なのかを整理する
正式には「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」——通称、財政健全化法に基づく指標です。2007年に夕張市が財政再建団体になったのを受けて作られました。
市はこの数字を監査委員の審査にかけたうえで、議会に報告して公表しなければなりません。だから毎年9月に出てくる。義務です。
5つを、いちばんやさしい言葉に置き換えます。
1つ、実質赤字比率。市の本体(一般会計)が、その年に赤字を出していないか。
2つ、連結実質赤字比率。国保も介護も水道も病院も全部足して、市全体で赤字になっていないか。
3つ、実質公債費比率。毎年の収入のうち、どれだけを借金の返済に取られているか。家計でいえば、手取りに対する住宅ローンの返済割合です。
4つ、将来負担比率。いま抱えている借金や将来払う見込みの負担から、貯金(基金)などの返済にあてられるお金を引いて、なお残る分がどれくらいあるか。ローン残高から預金を引いた「実質の借金」です。
5つ、資金不足比率。水道・下水道・病院といった公営企業の資金が、事業規模に対してどれだけ足りていないか。
そして、それぞれに早期健全化基準(越えたら計画を作って立て直す)と、財政再生基準(越えたら国の管理下で再生する。夕張のライン)が決まっています。
磐田の成績——5つとも、基準のはるか手前
直近で確定している数字を並べます。令和6年度決算のものです。
実質赤字比率——「-」。赤字なし。早期健全化基準は11.42%、財政再生基準は20.00%。
連結実質赤字比率——「-」。こちらも赤字なし。基準は16.42%と30.00%。
実質公債費比率——0.4%。早期健全化基準25.0%、財政再生基準35.0%。
将来負担比率——0.4%。早期健全化基準350.0%。この指標に財政再生基準はありません。
資金不足比率——水道・下水道・病院とも「-」。経営健全化基準は20.0%です。
見てのとおり、全部セーフです。それも、ぎりぎりではありません。実質公債費比率0.4%に対して基準は25.0%。60倍以上の余裕があります。
県内で比べると、もっとはっきりします。静岡県が令和6年度決算をまとめた一覧表によると、実質公債費比率の県内加重平均は5.5%。磐田市の0.4%は、指定都市を除く県内33市町のなかで最も低い数字です。
2番目に低い御前崎市が2.2%、3番目の川根本町が2.4%。磐田は、2位に5倍以上の差をつけて1位です。
推移でも同じことが言えます。令和3年度2.5%、令和4年度1.7%、令和5年度0.9%、令和6年度0.4%。4年連続で下がり続けています。
ただし、この1枚が測っているのは「落第していないか」だけです
ここからが本題です。
健全化判断比率を「通信簿」と呼びましたが、正確には通信簿ではなく、健康診断の要精密検査ラインのようなものです。引っかからなければ何も書かれない。「良好」と「かろうじて基準内」の区別が、この紙には出ません。
実際、令和6年度の磐田には、この5つの数字に出てこない変化が起きています。同じ市政報告書の、別のページに書いてあります。
一つ、経常収支比率が87.4%から95.5%へ。8.1ポイントの上昇です。
経常収支比率は、毎年決まって入ってくるお金のうち、人件費や扶助費や借金返済といった毎年決まって出ていくお金に、どれだけ取られているかを示します。95.5%ということは、自由に使えるお金が4.5%しか残っていないということです。
二つ、実質単年度収支が42億9,479万4千円のマイナス。前年度は15億771万3千円のマイナスでしたから、赤字幅が約2.8倍になりました。
実質単年度収支は、その年の収支に、貯金への積立や取り崩しを加減した数字です。「その年、財布は本当に増えたのか減ったのか」を見るための指標です。
三つ、基金残高が149億3,274万3千円から132億9,405万1千円へ。16億3,869万2千円の減少。うち財政調整基金——市の普通貯金にあたるもの——は83億2,225万3千円から75億7,025万3千円に減りました。年度中に27億2,474万9千円を取り崩しています。
なぜこうなったのか。報告書の数字を並べれば、輪郭は見えます。
歳入は776億8,763万4千円で4.8%の増。ところが歳出は760億5,943万6千円で7.8%の増。出るほうが速く伸びました。
市税は278億7,539万7千円で5.6%の減。定額減税の影響、法人市民税の減、評価替えに伴う固定資産税の減が理由と説明されています。
一方で、扶助費が12.2%増、普通建設事業費が62.6%増。向陽学府一体校の整備、豊岡支所、消防指令システムの全更新、海岸堤防。やるべき投資が重なった年でした。
もう一つ、符号が変わった数字があります
細かい話ですが、私がいちばん気になったのはここです。
将来負担比率が、令和5年度の「-」から、令和6年度は「0.4」になりました。
「-」は、算定するとマイナスになる——つまり、将来の負担額より、あてられる財源のほうが多い状態——を意味します。県の資料でも「-」と表示すると注記されています。
令和3年度も、令和4年度も、令和5年度も、磐田は「-」でした。令和6年度に、初めて数字がつきました。
0.4%です。基準の350.0%から見れば、誤差のような数字です。危険信号ではまったくありません。
けれど、符号が変わるというのは、そういう性質の出来事ではありません。ゼロを跨いだ年は、跨いだ理由がある。将来の負担額が増えたのか、あてられる財源——基金など——が減ったのか。その両方かもしれません。
実際、同じ年に基金は16億円減り、普通会計の起債残高は547億2,045万6千円から556億7,213万1千円へ、9億5,167万5千円増えています。両方から挟まれた形です。
ただし、私はここで断定しません。正確な理由は、決算書と財政状況資料集を突き合わせないと分かりません。だから、これは9月議会で聞いてほしいことのリストに入れます。
評価——良い点を三つ
注文の前に、良いところを挙げます。
1つ、数字そのものが、素直に立派だということ。実質公債費比率が県内でいちばん低い。合併を経験し、合併特例債を使いながら整備を進めてきた市として、これは軽い成果ではありません。過去の誰かが、返し続けてきた結果です。
2つ、市政報告書が、指標の意味と基準を一緒に載せていること。「実質公債費比率0.4%」とだけ書いてあっても、市民には良いのか悪いのか分かりません。磐田の報告書には、算定方法と早期健全化基準・財政再生基準が同じ表に並んでいます。これは親切な作りです。
3つ、自分で立てた目標値を、同じ紙に併記していること。全会計の起債残高について「第2次総合計画の目標値(令和8年度末)950億円以下」、財政調整基金について「同40億円を下回らない」と書き、実績(920億4,033万1千円、75億7,025万3千円)を隣に置いている。約束と結果を並べて見せる姿勢は、評価したい。どちらも達成しています。
注文——三つ
1つ。将来負担比率が「-」から0.4になった理由を、9月議会で説明してほしい。
数字は小さい。だから「特に触れずに通す」こともできます。けれど、3年続いた符号が変わった年です。将来負担額が何億円増えたのか、充当できる財源が何億円減ったのか。その内訳を一度示しておけば、次に0.4が5.0になったときに、市民も議会も慌てずに読めます。
2つ。経常収支比率が8.1ポイント上がった理由を、健全化判断比率と同じ場所で説明してほしい。
健全化判断比率は全部セーフです。けれど市民が本当に困るのは、財政再生団体になることより先に、「新しいことに使えるお金がない」という状態のほうです。95.5%は、その入口の数字です。
一時的な要因なのか、構造的なものなのか。市税減が定額減税という一回きりの制度によるものなら、翌年度は戻るはずです。その見通しを、決算の説明のときに一言添えてほしい。
3つ。市民向けに、この5つの数字だけの1枚を出してほしい。
いま市のサイトにあるのは、3.4メガバイトの市政報告書と、5.9メガバイトの財政状況の冊子と、エクセルの財政状況資料集です。どれも中身は充実していますが、どれもスマホで開く気にはなりません。
5つの指標、基準、前年度との比較、県内平均。それだけのページが1つあれば、市民の理解はまったく変わります。他の市には、この形の1ページを持っているところがあります。作るのは難しくないはずです。
結論——9月9日から、確かめられます
提案をまとめます。第一に、将来負担比率が符号を変えた理由の説明を。第二に、経常収支比率の8.1ポイント上昇の要因と見通しを。第三に、市民向けの1ページを。
そのうえで、読者の方に一つだけお伝えしたいことがあります。
9月9日に一般会計の決算が説明され、9月25日に質疑があります。市議会にはインターネット中継があり、傍聴もできます。会議録も後から検索できます。今日この記事で書いた数字が、令和7年度分としてどう変わったのか。それを確かめる場所は、はっきり用意されています。
そして、その日に見るべき紙は1枚です。健全化判断比率の表。数字は5つ。基準と並べて印刷されているので、比べるものを自分で探す必要もありません。
最後に一言。私は不動産の仕事で、家を売るかどうかの相談を受けます。そのとき通帳の残高だけを見て判断する人はいません。ローンがあといくら残っているか、屋根はいつ替えるのか、来年も同じ収入があるのか。そこまで見て、初めて「大丈夫」と言えます。
健全化判断比率は、この比喩でいえば「差し押さえられそうかどうか」を見る紙です。大事な紙ですが、それだけです。磐田市は差し押さえられません。それははっきりしています。
けれど、貯金を27億円取り崩し、自由に使えるお金が4.5%まで細った年だった。この二つは、両方とも本当のことです。片方だけを見て安心するのも、片方だけを見て騒ぐのも、どちらも正確ではありません。
だから私は、いちばん短い紙から入ることをおすすめします。5つの数字を見て、全部セーフだと確認したうえで、「では、この1枚に載っていないものは何ですか」と聞く。その順番が、いちばん間違えにくいと思っています。
出典(2026年8月確認)
- 磐田市「令和6年度 市政報告書」(総括・財政課。健全化判断比率=実質赤字比率「-」〈早期健全化基準11.42/財政再生基準20.00〉、連結実質赤字比率「-」〈16.42/30.00〉、実質公債費比率0.4%・単年度0.2%〈25.0/35.0〉、将来負担比率0.4%〈350.0〉、資金不足比率は水道・下水道・病院とも「-」〈経営健全化基準20.0〉。令和5年度は実質公債費比率0.9%・将来負担比率「-」。財政力指数0.798、実質収支比率3.4%、経常収支比率95.5%〈令和5年度87.4%〉、普通会計起債残高55,672,131千円〈同54,720,456千円〉、全会計起債残高92,040,331千円〈同93,546,523千円〉、基金残高13,294,051千円〈同14,932,743千円〉、うち財政調整基金7,570,253千円〈同8,322,253千円〉、財政調整基金の年度中取崩額2,724,749千円。歳入77,687,634千円〈4.8%増〉、歳出76,059,436千円〈7.8%増〉、実質収支1,437,645千円、単年度収支△1,887,894千円、実質単年度収支△4,294,794千円〈令和5年度△1,507,713千円〉、市税27,875,397千円〈5.6%減〉、扶助費16,870,143千円〈12.2%増〉、普通建設事業費13,650,562千円〈62.6%増〉。総合計画の目標値=全会計起債残高は令和8年度末950億円以下、財政調整基金は同40億円を下回らない) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/015/754/R6shiseihoukokusyo_1.pdf
- 磐田市「決算 令和6年度」(市政報告書・決算カードの掲載ページ。担当=企画部 財政課 財政グループ 電話0538-37-4883) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/kessan/1015754.html
- 静岡県「県内市町(指定都市を除く)における令和6年度決算に基づく健全化判断比率等(確報)」(2025年11月28日公表。磐田市=実質赤字比率・連結実質赤字比率とも赤字無し、実質公債費比率0.4%、将来負担比率0.4%。実質公債費比率の県内加重平均5.5%、将来負担比率の同11.5%。県内33市町のうち将来負担比率が「-」の団体は13。地方公営企業は全113会計とも資金不足額なし) https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/shichozaisei/1044886/1077321.html
- 静岡県「県内市町等における健全化判断比率等」(令和3〜5年度の一覧表。磐田市の実質公債費比率は令和3年度2.5%、令和4年度1.7%、令和5年度0.9%。将来負担比率は令和3〜5年度いずれも「-」) https://www.pref.shizuoka.jp/kensei/shichozaisei/1044886/index.html
- 磐田市議会「令和8年9月定例会日程(案)」(2026年6月1日更新。会期=2026年9月9日から10月16日まで。9月9日=一般会計決算・一般議案の説明、9月10日=特別・企業会計決算・一般議案の説明、9月17日・18日・24日=一般質問、9月25日=一般会計決算・一般議案に対する質疑、9月28日=特別・企業会計決算・一般議案に対する質疑および予算決算委員会、9月29日〜10月1日=分科会・常任委員会、10月9日=予算決算委員会で採決、10月16日=本会議で採決。会場は磐田市役所6階議場) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shigikai/honkaigi/kaikinittei/1016459.html
- 磐田市「決算でみる磐田市の財政状況」(令和6年度決算版PDF、5.9MB) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/zaisei/1002640.html
- 磐田市「財政状況資料集」(令和4〜6年度、エクセル) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/zaisei/1002638.html
※本記事で紹介した健全化判断比率は、いずれも令和6年度決算に基づく確定値です。9月定例会で報告される令和7年度決算に基づく数値は、本記事の執筆時点では公表されていません。将来負担比率が「-」から0.4%へ変わった要因、および経常収支比率が上昇した要因については、市の公表資料から確定的な内訳を確認できていないため、本文では断定を避けています。議会日程は「(案)」として公表されているものであり、変更される場合があります。最新の情報は磐田市および磐田市議会の公式ページでご確認ください。
