導入——一行の注記に、手が止まった
市が毎年公表している「給与・定員管理等について」という資料がある。職員の給料や人数を市民に開示するための、地味な冊子である。正直に言えば、私もこれまで、それほど丁寧に読んでこなかった。
今回、あるページで手が止まった。部門ごとの職員数と、その増減の理由が並んだ表である。総務は5人増、税務は1人増、民生は4人増。理由の欄には「業務増による」と書かれている。ところが、土木の欄だけ、7人の減だった。そして増減理由の欄には、こう書かれていた。
「組織変更に伴う職員の減 土木技師不足による」
市が、自分の資料に、はっきりそう書いている。人を減らしたのではない。採れなかったのである。
この場で私は、水道管の更新に154年かかる話を書いた。ため池の7割が江戸時代以前のもので、3割が所有者不明だという話も書いた。消防団の担い手が減っていく話も、農業の後継者の話も書いた。今日書くのは、その全部の下に隠れていた話である。そもそも、それを担当する市の職員が、確保できていない。
まず、数字を並べてみる
磐田市の公表資料(令和7年4月1日現在)から、部門別の職員数を見ていく。前の年からの増減である。
一般行政の部門では、議会8人(増減なし)、総務230→235人、税務57→58人、民生177→181人、衛生69人(増減なし)、農林水産29人(増減なし)、商工26→27人。そして土木98→91人。一般行政の小計は694→698人で、4人の増である。
つまり、一般行政全体では人が増えているのに、土木だけが7人減っている。その理由が「土木技師不足による」と書かれているわけだ。
公営企業の部門も見ておきたい。病院が914→949人と、35人も増えている。理由は「業務増による」。一方、水道は20→18人、下水道は21人で増減なし。全体の合計は2110→2146人で、36人の増である。
ここで、私は少し愕然とした。磐田の水道を支えている職員は、18人である。あの、管路の4分の1が耐用年数を超え、いまのペースでは全部を入れ替えるのに154年かかる、あの水道を、18人で回している。
もうひとつ、押さえておきたい数字がある。同じ資料に、人口1万人あたりの職員数が載っている。磐田市の一般行政部門は41.64人。これに対し、類似団体の平均は53.80人である。普通会計全体で見ても、磐田66.29人に対し類似団体71.58人。磐田市は、同じ規模の他の市より、2割以上少ない人数で行政を回している。
これは、磐田だけの話ではない
念のため、全国の状況も調べた。ここは、はっきりしている。
日経クロステックが都道府県と政令市の計67自治体に行った調査では、95パーセントの自治体が、職員採用試験の受験者数について「非常に低迷している」または「やや低迷している」と答えている。国家公務員一般職(大卒程度)の2025年度試験でも、技術系区分の合格者は1206人で、採用予定の1682人に対して476人も足りず、2年連続の定員割れとなった。技術系の受験者数は、前年から約2割減っている。
もっと生々しい例もある。和歌山県田辺市が実施した採用試験では、建築技術職と土木技術職が、いずれも受験者ゼロだった。政令指定都市である相模原市でも、公共施設の整備などを担う大卒の設備職で応募がゼロ。新潟市でも、水道の電気職と機械職で応募がなかったと報じられている。
民間との人材の取り合いに、自治体が負けている。それが、いま全国で起きていることである。
評価——是々非々で見る
良いと思う点から書く。
第一に、市が「採れませんでした」と正直に書いていることである。増減理由の欄に「土木技師不足による」と書くのは、格好のいいことではない。ごまかそうと思えば「組織変更に伴う」だけで済ませられた。それを書いた。この誠実さは、素直に評価したい。私はこの場で何度も「不都合な数字を隠すな」と書いてきたが、ここでは市が自分から開示している。
第二に、少ない人数で回してきた実績である。類似団体より2割以上少ない職員数でやってきたのは、努力の結果でもある。「役所は人が多い」という批判をよく聞くが、磐田に関しては、数字がそれを否定している。
第三に、増やすべきところには増やしていること。病院が35人増、民生が4人増(非正規職員の正規への置き換えを含む)。人が要るところに人を回す判断は、できている。
そのうえで、注文というより、強い危機感を三つ書く。
第一に、「少なくて偉い」の限界が来ているということだ。類似団体より2割少ないのは、これまでは効率の証しだった。けれども、水道管が老朽化し、ため池の点検が必要になり、橋も道路も一斉に更新期を迎えるいま、それは余力がないということでもある。人口1万人あたり41.64人という数字は、誇るべき数字なのか、それとももう限界を示す数字なのか。ここを取り違えると、判断を誤る。
第二に、技術職の不足は、市民の安全に直結するということである。事務職が足りなければ、窓口が混む。それも困る。しかし土木技師が足りなければ、点検が遅れ、設計が遅れ、工事が遅れる。水道管の更新が154年ペースなのは、お金の問題だけではないのかもしれない。お金があっても、設計し、発注し、監督する人がいなければ、工事は進まない。ため池の耐震照査も、橋の点検も、同じである。私が水道の記事で「値上げの前に減らす努力を」と書いたとき、実は担い手の問題を見落としていた。ここは正直に認めたい。
第三に、年齢の山が近づいていることだ。同じ資料の年齢別構成を見ると、磐田市の職員でいちばん多い層は48〜51歳の257人、次いで52〜55歳の226人である。全体2146人のうち、この二つの層だけで483人。10年もしないうちに、この人たちが一斉に定年を迎える。そのとき、いまでも採れていない技術職を、どうやって補充するのか。
対案・結論——四つの提案
そこで、四つ提案したい。
第一に、採用試験の実施結果を公表してほしい。磐田市は、事務職員、保健師、保育士・幼稚園教諭、栄養士、土木技術職員、建築技術職員、消防職員を募集している。けれども、私が調べた限り、職種ごとの申込者数・受験者数・倍率は公表されていなかった。定員管理の資料であれだけ正直に書いているのだから、採用の結果も出してほしい。「土木は何人募集して、何人受けて、何人採れたのか」。これが見えなければ、市民は問題の大きさを測れない。
第二に、技術職を「単独で」語ってほしい。職員数の話は、たいてい「多いか、少ないか」「増やすか、減らすか」という総量の議論になる。けれども本当の問題は、総量ではなく中身である。磐田は5年間で職員が84人増えている。ただしその内訳を見ると、増えたのは主に病院などの公営企業(72人増)で、土木は減っている。総量だけを見ていては、この構図は見えない。
第三に、「採る」だけでなく「借りる・組む・任せる」も並べてほしい。採用競争に勝つのは、正直、簡単ではない。だとすれば、近隣市町と技術職員を共同で確保する、県やOBの力を借りる、包括的な民間委託を検討する——といった道も、同時に検討すべきだ。水道の経営戦略には、広域化やPPP・PFIの検討がすでに書かれていた。あれを、絵に描いた餅で終わらせないでほしい。
第四に、これは市民の側の宿題でもある。私たちは長らく、「職員は少ないほどよい」「人件費は削るほどよい」と言い続けてきた。私自身、財政の記事で厳しいことを書いてきた。けれども、水道管を替える人も、ため池を点検する人も、災害のあとに道路を直す人も、その「人件費」の中にいる。削れと言い続けた結果が、いまの土木91人である。安さだけを求めた先に何が待っているかを、私たち自身が引き受けなければならない。
最後に一言。この夏、私はこの場で「継ぐ人がいない」という言葉を何度も書いた。メロンと柿の畑で、夜のポンプ車で、江戸時代のため池で。そのたびに、まちに向かって「担い手をどうするのか」と問いかけてきた。今日、その問いが、まち自身に返ってきた。担い手が足りないのは、農業でも消防団でもなく、市役所そのものだった。「土木技師不足による」——この一行を、私は軽く読み飛ばしたくない。154年かかる水道管を、18人の水道部門と、7人減った土木部門が支えている。この現実を知ったうえで、それでも「職員を減らせ」と言えるかどうか。まず、そこから考え直したいと思う。
出典(2026年7月確認)
- 磐田市「給与・定員管理等について」(令和7年4月1日現在。部門別職員数と主な増減理由=議会8人、総務230→235人、税務57→58人、民生177→181人、衛生69人、農林水産29人、商工26→27人、土木98→91人〈増減理由「組織変更に伴う職員の減 土木技師不足による」〉、一般行政小計694→698人、教育202→199人、消防209→211人、普通会計小計1105→1108人、病院914→949人、水道20→18人、下水道21人、その他50人、公営企業等小計1005→1038人、合計2110→2146人〈条例定数2329〉。人口1万人あたり職員数は一般行政41.64人〈類似団体53.80人〉、普通会計66.29人〈類似団体71.58人〉、総計126.58人)
- 同(年齢別職員構成:20歳未満7人、20〜23歳174人、24〜27歳229人、28〜31歳241人、32〜35歳201人、36〜39歳167人、40〜43歳183人、44〜47歳212人、48〜51歳257人、52〜55歳226人、56〜59歳163人、60歳以上86人、計2146人。職員数の推移〈過去5年〉:一般行政688→698人、教育203→199人、消防205→211人、公営企業等会計計966→1038人、総合計2062→2146人)
- 磐田市公式ウェブサイト「正規職員」採用案内(事務職員、保健師、保育士・幼稚園教諭、栄養士、土木技術職員、建築技術職員、消防職員を募集。職種別の申込者数・受験者数・倍率は本記事執筆時点で確認できず)
- 日経クロステック等の報道(都道府県・政令市計67自治体への調査で95パーセントが受験者数の低迷を回答。2025年度国家公務員一般職〈大卒程度〉技術系区分は合格者1206人・採用予定1682人で2年連続の定員割れ、受験者は前年比約2割減。和歌山県田辺市で建築・土木技術職の受験者ゼロ、相模原市で大卒設備職の応募ゼロ、新潟市で水道の電気職・機械職の応募ゼロ 等)
※職員数・年齢構成は令和7年4月1日時点の公表値であり、今後変動します。採用試験結果の非公表については、本記事執筆時点で公表資料に記載を確認できなかったものです。全国の事例は報道等にもとづく要約です。最新情報は磐田市公式サイトでご確認ください。