導入——磐田の人は、磐田が嫌いなのではない

ジュビロの試合の日、スタジアムには人の波ができます。あの熱を見れば分かります。磐田の人は、磐田が嫌いなわけではない。ただ、市政に興味がないだけです。

議会の中継を見たことがある人が、まわりに何人いるでしょうか。パブリックコメントを出したことがある人は。審議会を傍聴したことがある人は。私も、この連載を始めるまでは、そのどれもしたことがありませんでした。だから、誰かを責めるつもりで書くのではありません。

ただ、この一年あまり、磐田の数字を追いかけ続けて、はっきり分かったことが一つあります。無関心は自由です。しかし、無料ではありません。今日は、その「値段」の話をします。

無関心の請求書——「気づいたら決まっていた」の列

この連載で裏取りしてきた数字を、一枚の請求書のつもりで並べてみます。

下水道使用料は、審議会が1立方メートル135円から150円への引き上げの道筋を示しています。国保税は令和8・9年度改定で一人あたり平均年間約9,700円の増額見込み。水道は、いまのペースでは管の入れ替えに154年かかる計算で、値上げの審議が進みます。市立総合病院は救急車6,011台を受け止めながら21億円の赤字——この穴は、めぐりめぐって公費で埋めるほかありません。市の予算は一度800億円を超え772億円に「戻り」ました。

ここで大事なのは、これらがどれも、隠れて決められたものではないということです。審議会は公開され、資料は市のサイトにあり、パブリックコメントの期間も設けられていました。手続きとしては、何も間違っていない。ただ、誰も見ていないところで、正しく、静かに決まっていったのです。

「気づいたら決まっていた」と、私たちは言います。けれど正確には、こうです。知らされてはいた。でも、届かなかった。そしてその間も、決定は家計に振り込まれ続けます。関心を持たなくても請求は来る——これが、無関心の値段です。

無関心の請求書として、この連載で裏取りしてきた磐田の数字を並べた図。下水道使用料は審議会が1立方メートル135円から150円への引き上げの道筋を提示。国保税は令和8・9年度改定で一人あたり平均年間約9,700円の増額見込み。水道は現在のペースだと管の入れ替えに154年かかる計算で値上げを審議中。市立総合病院は救急車6,011台を受け止めて21億円の赤字。市の予算は一度800億円を超え、772億円に戻った。これらはどれも隠れて決められたものではなく、公開の手続きを経て、誰も見ていない間に静かに決まっていった。
図1 無関心の請求書——本連載で裏取りしてきた数字から

だが——その無関心を、つくっているのは誰か

ここで筆を市民に向けたまま終えるなら、ただの説教です。この連載を書き続けてきた者として、言わなければならないことがあります。磐田の無関心の少なくとも半分は、つくられた無関心である。関心の入り口が、塞がれているのです。

証拠は、この連載自体に積み上がっています。国保税の記事で書いたとおり、改定税率の表は画像形式で貼られ、読み上げソフトにも検索にもかかりません。住宅セーフティネット法成年後見制度も、暮らしを変える法改正が、施行から何か月たっても市の案内に反映されていませんでした。見付宿の未来を考える会の申込は電子申請のみで、まちを支えてきた高齢の商店主には高い壁です。未来まちづくりワークショップの定員は20人でした。そして「行政の沈黙」の記事で書いたように、そもそも発信そのものが細い。

入り口がこれだけ細ければ、通る人が少ないのは当たり前です。「市民の関心が低い」と「関心の持ちようがない」は、外から見ると同じ顔をしています。低投票率や参加者の少なさを市民の意識の問題として片づける前に、届け方の設計を疑うべきだと、私は思います。

関心の入り口を塞ぐ4つの壁と、それを開ける鍵をまとめた図。壁は、税率表が画像形式で検索も読み上げもできないこと、暮らしを変える法改正が何か月も市の案内に反映されないこと、催しの申込が電子申請のみで高齢者に壁があること、ワークショップの定員が20人など関心の受け皿が小さいこと。鍵は、値上げの説明を理由とわが家の金額と使える助けの三点セットで示すこと、資料のテキスト化と紙や電話の窓口の併設、出した意見がどうなったかを市民に返すこと。
図2 関心の入り口を塞ぐ壁と、開ける鍵(本連載の既報から)

対案・結論——市民には「防衛」を、行政には「設計」を

だから提案は、両側に出します。

まず、市民の側へ。関心は義務ではありません。正義でもありません。防衛です。やることは3つで足ります。1つ、役所からの封筒を、金額の欄まで開けて読む。納税通知書には、金額と一緒に軽減の案内も入っています。読むだけで取り返せるお金があります。2つ、年に一度でいい、予算の記事か広報の特集を1本読む。772億円が何に使われるかを1時間だけ眺める——それだけで「気づいたら」の大半は防げます。3つ、パブリックコメントを、一行でいいから出してみる。立派な意見でなくていい。「値上げの理由をもっと分かりやすく」の一行でも、行政にとって「見られている」という事実になります。見られている行政と、見られていない行政は、確実に違う仕事をします。

次に、行政の側へ。この連載で書いてきた注文の総まとめです。1つ、お金の話は「理由・わが家の金額・使える助け」の三点セットで。平均値ではなくモデル世帯で示す。2つ、入り口のバリアフリー。資料はテキストで、申込には紙と電話の枠を残す。画像の表と電子申請のみの受付は、それだけで関心のある市民の一部を締め出しています。3つ、出した声の行き先を返す。パブリックコメントやワークショップで出た意見が、どう扱われ、何が変わったのか。返事のない投書箱に、二度目の手紙を入れる人はいません。

最後に一言。白状すると、私も長いあいだ無関心でした。変わったのは、不動産と介護の仕事で、制度を知らなかったというだけで損をしていく人を、何人も見たからです。相談がもう少し早ければ守れた家計が、いくつもありました。この連載は、いわば関心の代行業です。私が代わりに議会資料を読み、数字を裏取りして、家計の言葉に翻訳する。でも本当は、代行では足りないのです。あなたの家の請求書は、あなたにしか守れません。無関心は自由です。ただ、その値段だけは、知っておいてください。

出典(2026年7月確認)

  • 本連載の既報記事(各記事末尾に一次情報の出典を明記):下水道使用料(記事0048)/水道管更新154年(記事0069)/国保税改定・平均9,700円増(記事0089)/市立総合病院21億円赤字(記事0067)/予算800億円超・772億円(記事0019・0039)/行政の沈黙(記事0047)/未来まちづくりワークショップ(記事0044)/住宅セーフティネット法(記事0080)/成年後見制度(記事0081)/見付宿の未来を考える会(記事0088) https://oishi-hiroyuki.org/articles/
  • 磐田市「国民健康保険税の税率改定」 https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/zeikin/kokuminkenkouhokenzei/1010644.html

※各数字の詳細と一次情報は、リンク先の各記事および磐田市公式サイトでご確認ください。