導入——いちばん多い相談は、これである

不動産と介護の両方をやっていると、避けて通れない相談がある。おそらく、いちばん多い。

「母が施設に入ることになりました。その費用を、実家を売って作りたいんです」

ごく自然な話に聞こえる。使わなくなる家を売って、その人の暮らしのために使う。誰も損をしない。ところが、ここで手が止まることがある。お母さんに、認知症の診断が出ている場合である。

家を売るというのは、契約をするということだ。契約には、本人の判断能力が要る。判断能力が失われていると、その契約は成り立たない。息子さんや娘さんが代わりにサインすることも、原則としてできない。本人の家なのに、本人が売れず、家族も売れない。そこで初めて、みなさん「成年後見制度」という言葉に出会うことになる。

この場で私は、認知症の人をまちで見守るオレンジシールの話を書いた。窓口が消えて詐欺の見守りが薄くなる話も書いた。親を亡くしたあとの手続きが5か所に分かれている話も書いた。今日は、その手前にある話をしたい。亡くなる前、判断できなくなった時点で、家と預金が動かなくなる。その話である。

まず、数字を並べてみる

国の資料などによれば、認知症の高齢者は、2025年ごろにおよそ700万人に達するとされてきた。高齢者の、およそ5人に1人である。

一方で、成年後見制度を実際に使っている人は、およそ26万人にとどまる(2025年末時点)。制度の利用を始めるきっかけとして最も多いのが認知症で、開始原因のおよそ6割を占めている。

700万人と、26万人。この差を、どう読むか。

もちろん、認知症と診断された人が全員、後見制度を必要とするわけではない。軽度のうちは、ご本人が自分で判断できる。家族が支えて、日々の暮らしが回っている家も多い。だから、この二つの数字を単純に引き算するのは乱暴である。

それでも、この開きは大きすぎる。私が現場で見ているのは、「必要になってから、初めて知る」という光景だ。施設の入居費が要る。実家を売ろうとする。不動産屋に相談する。そこで「後見人を立てないと売れません」と言われる。そこから家庭裁判所に申し立てをして、数か月待つ。その間、施設の費用は誰かが立て替える。——この順番が、あまりに多い。

ちなみに、本人の住んでいた家(居住用不動産)を後見人が売るには、家庭裁判所の許可が別に必要になる。後見人がついたからといって、すぐ売れるわけでもない。ここも、意外と知られていない。

認知症の高齢者は2025年ごろにおよそ700万人、高齢者のおよそ5人に1人とされる。一方で成年後見制度を実際に使っている人は2025年末時点でおよそ26万人にとどまる。制度利用を始めるきっかけは認知症が最も多く、開始原因のおよそ6割を占める。認知症と診断された人が全員後見制度を必要とするわけではないが、この開きは大きい。現場では、施設の入居費が必要になり実家を売ろうとして初めて、後見人を立てないと売れないと知る例が多い。さらに本人が住んでいた居住用不動産を後見人が売るには、家庭裁判所の許可が別に必要になる。
図1 700万人と26万人。多くは「必要になってから、初めて知る」。

そして2026年6月、制度が大きく変わった

ここからが、今日いちばん伝えたい話である。

この成年後見制度が、大きく変わることになった。2026年4月3日に民法などの改正案が閣議決定され、国会を通り、2026年6月17日に成立している。ほんの一か月ほど前の話だ。施行は2028年度中と見込まれている。

変わる点のうち、大きいものは二つある。

第一に、終身制の廃止である。これまでは、一度後見が始まると、本人の判断能力が回復しない限り、途中でやめることができなかった。つまり「実家を売るために後見人をつけた」場合でも、売却が終わったあと、その人が亡くなるまでずっと後見が続く。専門職が後見人になれば、報酬も毎年かかり続ける。一回の手続きのために、一生の関係を結ばされる。これが、制度が敬遠されてきた最大の理由だと、私は現場で感じてきた。改正では、必要な期間だけ利用できる仕組みへと変わる。

第二に、「後見」「保佐」「補助」という3つの類型を、「補助」に一元化する方向である。これまでは、判断能力の程度によって型が決まり、後見人の権限も画一的だった。本人の状態に合わせた柔軟な支援がしにくい、本人の意思よりも画一的な財産保護が優先されがちだ——そうした指摘に応えるものである。

正直に書く。私はこの改正を、歓迎している。「必要なときだけ、必要な分だけ」という形に近づくなら、いま二の足を踏んでいる家族の背中を、確実に押すことになるからだ。

2026年6月17日に成立した民法等の改正で、成年後見制度が大きく変わる。これまでは一度後見が始まると本人の判断能力が回復しない限り途中でやめられず、実家を売るために後見人をつけた場合でも本人が亡くなるまで続き、専門職が後見人なら報酬も継続してかかっていた。改正では終身制が廃止され、必要な期間だけ利用できる仕組みになる。また後見・保佐・補助の3類型を補助に一元化し、本人の状態に合わせた柔軟な支援ができるようにする。閣議決定は2026年4月3日、成立は6月17日、施行は2028年度中の見込み。磐田市には成年後見支援センターが磐田市社会福祉協議会内に置かれ、電話は0538-37-2792。
図2 終身制の廃止と、3類型の一元化。「必要なときだけ」に近づく。

評価——是々非々で見る

磐田について、良いと思う点から書く。

第一に、磐田市には成年後見支援センターがある。地域連携ネットワークをまとめる、いわゆる中核機関である。磐田市社会福祉協議会(国府台57-7)の中に置かれ、電話は37-2792。受付は平日の午前8時30分から午後5時15分まで。これは、はっきりした前進である。「どこに相談すればいいか分からない」という状態が、いちばん人を動けなくするからだ。

第二に、その業務に市民後見人の養成と活動支援が入っていること。専門職だけに頼っていては、費用の面でも人数の面でも回らない。地域の人が担い手になる道を用意しているのは、正しい方向だと思う。

第三に、弁護士・司法書士・社会福祉士といった専門職や、家庭裁判所、その他の支援機関と連携する体制を掲げていること。この問題は、一つの窓口だけでは絶対に解けない。

そのうえで、注文が三つある。

第一に、2026年6月の法改正を、市民に知らせてほしい。前回、私は住宅セーフティネット法の改正が市の案内に反映されていないことを書いた。今回も同じことを言わなければならない。制度が変わることは、いま二の足を踏んでいる家族にとって、大きな判断材料である。「終身制がなくなる方向です」「施行は2028年度中の見込みです」——この二行があるだけで、動ける人がいる。逆に言えば、知らないまま「一生続くなら嫌だ」と諦めてしまう人が、いまも出ている。

第二に、「元気なうちに」の入り口を太くしてほしい。成年後見は、判断能力が落ちてから使う制度である。落ちる前であれば、任意後見という選択肢もあるし、家族で話し合っておくだけでも違う。けれども、元気な人はまず相談に来ない。相談に来るのは、いつも「もう遅い」段階になってからである。ここを変えるには、介護保険の申請のとき、地域包括支援センターに来たとき、あるいは私たちのような民間の相談の場で、「その話、いまのうちに」と一言添える仕組みが要る。

第三に、お金の話を、正直に示してほしい。後見制度を使うと、申立ての費用がかかり、専門職が後見人になれば報酬も継続的にかかる。この点を曖昧にしたまま「制度があります」と案内しても、現場では選ばれない。いくらかかるのか。市の助成はあるのか。市民後見人ならどうなるのか。費用が見えないことが、制度から人を遠ざけている。

対案・結論——三つの提案

そこで、三つ提案したい。

第一に、「実家を売りたいのに売れない」という具体的な場面から、案内を書き直してほしい。制度の説明から入ると、市民は読まない。「親が施設に入ることになり、実家を売って費用にあてたい。でも本人に認知症の診断がある」——この一文から始めて、そのときどうすればいいかを順番に書く。制度の理念ではなく、手順を知りたいのである。

第二に、介護と不動産の窓口を、意識してつないでほしい。この問題は、介護の側から見れば「入居費用の工面」であり、不動産の側から見れば「契約ができない」という話で、実は同じ一つの問題である。地域包括支援センターとケアマネジャー、そして成年後見支援センターが、同じ場面を共有していれば、「その相談は早いほうがいい」と最初の段階で言える。私たち民間の不動産事業者も、その輪に入れてもらえるなら協力したい。

第三に、市民後見人の養成を、続けて広げてほしい。改正で「必要な期間だけ」の利用に近づけば、後見人の担い手はもっと要るようになる。専門職だけでは足りない。ここは、消防団やため池のときに書いた「担い手不足」と、まったく同じ構図である。ただし後見は、地域の人が学んで担える余地が大きい。いまのうちに、人を育てておくべきだと思う。

最後に一言。この仕事をしていて、いちばん申し訳ない瞬間がある。「もう少し早くご相談いただけていれば」と言わなければならないときだ。家は建っている。買い手もいる。家族もみんな売ることに賛成している。それでも、売れない。本人が「売ります」と言えなくなった、その一点だけで止まる。認知症は、誰にでも起こりうる。私の親にも、いつか私自身にも。だからこれは、他人の家の話ではない。制度は、2028年度に向けて動き始めた。使いやすくなる方向である。けれども、いちばん大事なのは、元気なうちに、家族で一度話しておくことだと思う。実家をどうするか。お金をどう使うか。誰に任せるか。気まずい話である。でも、気まずいまま先送りにした家ほど、あとで苦労している。それだけは、はっきり言える。

出典(2026年7月確認)

  • 成年後見制度をめぐる報道・解説(認知症の高齢者は2025年ごろにおよそ700万人=高齢者の約5人に1人とされる一方、成年後見制度の利用者は2025年末時点でおよそ26万人。制度利用の開始原因は認知症が最多でおよそ6割)
  • 民法等の一部を改正する法律(2026年4月3日閣議決定・国会提出、2026年6月17日成立。成年後見制度の終身制を廃止し必要な期間だけ利用できる仕組みへ、「後見」「保佐」「補助」の3類型を「補助」に一元化する方向。施行は2028年度中の見込みと報じられている)
  • 磐田市公式ウェブサイト「成年後見支援センター」(地域連携ネットワークのコーディネートを担う中核機関。磐田市社会福祉協議会内〈〒438-0077 磐田市国府台57-7〉、電話37-2792、ファクス37-4866、窓口受付は午前8時30分〜午後5時15分、休業日は休日・祝日・年末年始。業務は広報、相談、利用促進、後見人支援、市民後見人の養成および活動支援。弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門職、家庭裁判所その他の支援機関と連携)
  • 磐田市公式ウェブサイト「成年後見制度」

※改正法の施行時期・内容の詳細は今後の政令等により変わる可能性があります。認知症高齢者数は推計であり、調査主体や前提により幅があります。成年後見制度の利用や居住用不動産の売却には家庭裁判所の手続き・許可が必要となる場合があります。個別の判断は、磐田市成年後見支援センター(0538-37-2792)、家庭裁判所、弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律的助言ではありません。