導入——「断られました」という電話

不動産の仕事をしていると、月に何度か、こういう電話が来る。「アパートを探しているんですが、どこも断られてしまって」。声の主は、たいてい高齢の方である。一人暮らし。年金はある。家賃も払える。それでも、決まらない。

正直に書く。私は不動産屋であると同時に、大家さんの側の事情も分かる立場にいる。だから、断る大家さんを一方的に責める気にはなれない。断る理由は、はっきりしている。孤独死が心配だ。家賃が滞ったら困る。亡くなったあと、部屋の荷物を誰が片づけるのか。この三つである。感情ではなく、経営判断としてそうなる。

一方で、磐田のまちには空き家が増え続けている。私はこの場で、空き家が増える話も、空き家に課税する話も、空き家を磐田らしさで売る話も書いてきた。家は余っている。なのに、住むところがない人がいる。この、どう考えてもおかしな状態が、ずっと続いてきた。

ところが、去年の10月、この矛盾に正面から手を打つ制度改正があった。今日は、その話をしたい。そして、磐田市の案内を確かめてみて、ひとつ気づいたことがある。

まず、磐田の市営住宅を数えてみた

住まいに困ったとき、まず思い浮かぶのは市営住宅だろう。磐田市の施設ガイドには、市営住宅と再開発住宅が並んでいる。はまぼう団地、小島団地、大藤団地、大之郷団地、長森団地、天竜住宅、東新屋団地、二番町団地、北野団地、大原住宅、東大久保団地、竜洋豊岡団地、そして再開発住宅。全部で13である。

そのうち、間取りと戸数が公表されているものを数えてみた。はまぼう団地50戸、二番町団地30戸、北野団地46戸、東大久保団地18戸、竜洋豊岡団地42戸、再開発住宅40戸。合わせて226戸である。残る7つ(小島、大藤、大之郷、長森、天竜、東新屋、大原)には、戸数の記載が見当たらなかった。

募集は、年3回。5月、9月、1月の「広報いわた」に掲載される。はまぼう団地だけは年間を通じて受付をしている。家賃は収入と住宅の規模で決まり、はまぼう団地の例では3LDKが19,800円から42,000円、2DKが16,900円から33,200円である。

入居の資格は、市内に住所か勤務先があること、同居者は親族などであること、現に住宅に困窮していること、世帯の収入が基準以下であること、市税の滞納がないこと、暴力団員でないこと。

ここで、冒頭の電話の主のことを考えてみる。年3回の募集を待ち、申し込み、選ばれるのを待つ。その間、その人はどこに住むのか。市営住宅は大事な仕組みだが、「今すぐ住むところがない」という相談に、年3回の募集で応えるのは、どうしても無理がある。

磐田市の市営住宅は、施設ガイドに13の住宅が掲載されている。そのうち間取りと戸数が公表されているのは6つで、はまぼう団地50戸、北野団地46戸、竜洋豊岡団地42戸、再開発住宅40戸、二番町団地30戸、東大久保団地18戸の合計226戸。残る7つ、小島団地、大藤団地、大之郷団地、長森団地、天竜住宅、東新屋団地、大原住宅には戸数の記載が見当たらない。定期募集は5月・9月・1月の広報いわたに掲載される年3回で、はまぼう団地のみ通年受付。今すぐ住むところがないという相談に、年3回の募集で応えるのは無理がある。
図1 公表分で226戸。募集は年3回。「今すぐ」には応えきれない。

去年10月、制度が変わった

ここからが本題である。2025年(令和7年)10月1日、改正された住宅セーフティネット法が施行された。ねらいは、まさに冒頭で書いた「断られる人」を減らすことである。柱は三つある。

第一に、「居住サポート住宅」の創設。居住支援法人が大家と組んで、安否の確認や見守り、必要なときには福祉への橋渡しまで行う住宅を、自治体が認定する仕組みだ。単身の高齢者を受け入れるのに有効だとされている。

第二に、終身建物賃貸借の手続きの簡素化。これまでは住宅ごとに認可が必要だったものが、事業者として認可を受けたうえで対象の住宅を届け出る方式になった。

第三に、残置物の処理業務の明確化。居住支援法人が残置物の処理を行うための要項が定められ、モデル契約条項も整備された。

この三つを、もう一度、冒頭の「大家が断る三つの理由」と並べてみてほしい。孤独死が心配だ→見守りをつける。家賃が滞ったら困る→支援法人が間に入る。荷物を誰が片づけるのか→残置物処理の枠組みを作る。見事に、一対一で対応している。

加えて、セーフティネット住宅として登録することを前提に、改修費の補助や、家賃を低く抑えるための補助も用意されている。空き家を直して、断られてきた人に貸す。その道筋が、制度として引かれたわけである。

不動産の現場にいる者として、正直に言う。この改正は、よくできている。理屈で作られた制度ではなく、断る側の本音を踏まえて作られた制度だと感じた。

大家が高齢の単身者の入居を断る三つの理由と、2025年10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法の対応。孤独死が心配だという理由には、居住サポート住宅の創設で応える。居住支援法人が大家と連携し、安否確認や見守り、福祉への橋渡しを行う住宅を自治体が認定する。家賃が滞ったら困るという理由には、支援法人が間に入る仕組みと、登録を前提とした家賃低廉化補助や改修費補助で応える。亡くなったあと荷物を誰が片づけるのかという理由には、居住支援法人による残置物処理業務の明確化とモデル契約条項の整備で応える。断る三つの理由に、制度が一対一で対応している。
図2 孤独死・家賃・残置物。断る三つの理由に、制度が一対一で答えている。

評価——是々非々で見る

まず、磐田について良いと思う点から書く。

第一に、磐田市はセーフティネット住宅の案内ページを持っていること。「住宅の確保に配慮が必要な方」「高齢者、障がい者、生活困窮者などの住宅確保要配慮者」という言葉で、制度の存在を市民に伝えている。何もしていないわけではない。

第二に、居住支援に関わる人たちの勉強会を実施していると書かれていること。行政だけで抱え込まず、関係者の連携を促そうとしている姿勢は評価したい。

第三に、市営住宅に車いす仕様の住戸を確保していること。北野団地、東大久保団地、竜洋豊岡団地に、それぞれ車いす仕様の部屋がある。数は多くないが、必要な備えである。

そのうえで、注文が三つある。

第一に、これが今日いちばん書きたいことだ。市のセーフティネット住宅の案内に、2025年10月の法改正への言及が見当たらなかった。居住サポート住宅のことも、終身建物賃貸借の簡素化も、残置物処理の話も、私が確認した限りでは書かれていない。制度は9か月以上前に変わっている。いちばん助けになるはずの改正が、いちばん届くべき人に伝わっていないのではないか。

第二に、大家に向けた案内がないことである。この制度は、部屋を借りたい人だけでは動かない。貸す側が「それなら貸せる」と思ってはじめて、部屋が出てくる。登録するとどんな補助があるのか、居住支援法人はどこに頼めばいいのか、残置物のリスクはどう軽くなるのか。それを大家に届けなければ、制度は絵に描いた餅で終わる。私は同業者や大家さんと日々話しているが、この改正を知っている人は、ほとんどいない。

第三に、空き家の窓口と、住まいの窓口がつながっていないことだ。磐田市には空き家バンクがあり、空き家お越しプロジェクトがあり、空家等対策計画がある。一方に、住まいに困っている人の相談がある。この二つは、本来ひとつの線でつながるはずのものだ。「使われていない家」と「住むところがない人」を、まちが結びつける。それこそが、セーフティネット住宅の思想である。

対案・結論——三つの提案

そこで、三つ提案したい。

第一に、去年10月の改正を、市の案内に反映してほしい。まずはそこからである。「居住サポート住宅とは何か」「磐田市では認定を始めているのか、これから始めるのか」。市民が知りたいのは、制度の理念ではなく、いま磐田で使えるのかどうかである。使えないなら「準備中」と書けばいい。何も書かれていないのが、いちばん困る。

第二に、大家向けの一枚を作ってほしい。「高齢の方の入居を断っている大家さんへ」という宛名で、断る三つの理由と、それぞれに制度がどう応えるかを並べた紙を一枚。宅建協会や不動産の関係団体を通じて配れば、届く。難しい条文はいらない。「見守りがつきます」「残置物の段取りがあります」——それだけで、貸してみようかと思う大家さんは、確実にいる。

第三に、空き家バンクとセーフティネット住宅を、同じ入り口に置いてほしい。空き家を預かる仕組みと、住まいに困る人を支える仕組みが、別々の課の別々のページにあるのは、市民から見れば不合理である。「この空き家は、改修すればセーフティネット住宅として登録できます」という提案が、空き家の相談の場でできるようになれば、両方が一度に前へ進む。

最後に一言。私は不動産屋なので、「断ること」の重さを知っている。大家さんにとって、一室が空くことも、事故が起きることも、生活に直結する。だから私は、断る大家さんを責めてこなかった。責めても、何も変わらないからだ。変えるべきなのは、気持ちではなく、条件のほうである。去年10月の改正は、まさにその条件を変えるものだった。孤独死が怖いなら見守りをつける。荷物が心配なら段取りを用意する。そうやって、断る理由をひとつずつ潰していく。地味だが、これがいちばん確かなやり方だと思う。磐田には空き家がある。住むところに困っている人もいる。そして、その二つをつなぐ制度が、もう手元にある。あとは、それを知らせるだけである。

出典(2026年7月確認)

  • 磐田市公式ウェブサイト「施設ガイド 住宅」(はまぼう団地・小島団地・大藤団地・大之郷団地・長森団地・天竜住宅・東新屋団地・二番町団地・北野団地・大原住宅・東大久保団地・竜洋豊岡団地・再開発住宅の13住宅を掲載。間取りと戸数が公表されているのは、はまぼう団地50戸/二番町団地30戸/北野団地46戸/東大久保団地18戸/竜洋豊岡団地42戸/再開発住宅40戸=計226戸。北野・東大久保・竜洋豊岡には車いす仕様の住戸あり)
  • 磐田市公式ウェブサイト「市営住宅入居者の募集」(定期募集は5月・9月・1月の広報いわたに掲載、はまぼう団地は年間を通じて受付。入居資格=市内に住所または勤務場所、同居者は親族等、現に住宅に困窮、世帯の収入が基準以下、市税滞納なし、暴力団員でないこと。家賃は入居者の収入や住宅の規模などにより決定。はまぼう団地の参考家賃 3LDK 19,800〜42,000円、2DK 16,900〜33,200円)
  • 磐田市公式ウェブサイト「セーフティネット住宅」(高齢者・障がい者・生活困窮者などの住宅確保要配慮者向けの制度を案内。居住支援関係者の連携・協働を促進するための勉強会を実施。2025年10月の法改正への言及は本記事執筆時点で確認できず)
  • 国土交通省・政府広報オンライン等「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律」(令和7年〈2025年〉10月1日施行。居住サポート住宅の創設〈居住支援法人が大家と連携し安否確認・見守り・福祉への橋渡しを行う住宅を自治体が認定〉、終身建物賃貸借の認可手続きの簡素化、居住支援法人による残置物処理業務の明確化とモデル契約条項の整備。セーフティネット住宅として登録することを前提とした改修費補助・家賃低廉化補助)

※戸数は市の施設ガイドで間取り・戸数が公表されている住宅を筆者が集計したもので、市営住宅の総戸数ではありません。市の案内に法改正の記載が見当たらない旨は、本記事執筆時点で公表ページに確認できなかったものです。制度の詳細・補助の要件は変更される場合があります。入居や登録の相談は、磐田市建築住宅課住宅管理グループ(0538-37-4851)および国土交通省の情報提供システム等でご確認ください。