この記事について。2026年5月に要約だけで公開した記事を、市の公表資料をあたって書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。

導入——家計簿に例えると、何が起きたのか

磐田市の一般会計当初予算が、令和7年度に初めて800億円を超えました。869億7,000万円です。そして令和8年度は771億9,000万円まで下がりました。1年で97億8,000万円、率にして11.2%の減です。

「膨らんで、しぼんだ」という、この記事の見出しどおりの動きです。ただ、これだけを見て「無駄遣いが減った」「引き締めに転じた」と早合点するのは、たぶん正しくありません。私は不動産と介護の仕事をしていて、日々、家計の相談を受けます。家計でも、子どもの入学や家のリフォームが重なる年は出費が一気に跳ね上がり、その山を越えれば元の水準近くまで戻る、ということがよくあります。今回の磐田市の予算の動きも、それに近い形をしています。

今日は、この「膨らんで、しぼむ」を、市が公表した数字だけを使って、できるだけ丁寧に確かめます。

まず数字を並べる——3年でどう動いたか

市が公表している当初予算の数字を、3年分並べます。

令和6年度。一般会計742億4,000万円(前年度比+5.9%、+41億3,000万円)。当時、市はこれを「過去最大」の予算規模と位置づけていました。

令和7年度。一般会計869億7,000万円(前年度比+17.1%、+127億3,000万円)。ここで初めて800億円台に乗りました。市自身、「令和6年度に続き過去最大の予算規模」と説明しています。

令和8年度。一般会計771億9,000万円(前年度比-11.2%、-97億8,000万円)。800億円台からは下りましたが、令和6年度より約30億円多く、過去2番目の規模です。

磐田市の一般会計当初予算の推移。令和6年度742.4億円、令和7年度869.7億円で初めて800億円台、令和8年度771.9億円で11.2%減
図1 磐田市の一般会計当初予算の推移(令和6〜8年度)。令和7年度に初めて800億円台、令和8年度は11.2%減。

この金額を、もう少し身近な尺度に置き換えてみます。磐田市の人口は令和8年6月末現在で16万3,321人、世帯数は7万2,400世帯です。仮に一般会計予算をこの世帯数でそのまま割ると、令和7年度は1世帯あたり約120.1万円、令和8年度は約106.6万円。差は約13.5万円という計算になります(筆者試算。世帯数は令和8年6月末の数値を令和7・8年度に共通で機械的に当てはめたもので、各年度時点の実際の世帯数とは異なります)。もちろん、これは市の予算がそのまま家計から出ていくという意味ではありません。国や県からのお金、市債という借金も含まれています。それでも、規模の変化を実感するための物差しにはなると思います。

一般会計予算を磐田市の世帯数で割った筆者試算。令和7年度は1世帯あたり約120.1万円、令和8年度は約106.6万円、差は約13.5万円
図2 一般会計予算を世帯数で割った筆者試算。1世帯あたり約13.5万円縮んだ計算になる。

なぜ膨らんだのか——堤防と学校の建て替えが重なった

市が令和7年度予算の増加要因として挙げているのは、海岸堤防の整備向陽学府小中一体校の整備の推進です。これに加えて、小中学校体育館の空調等の施設整備、消防庁舎の整備が、いわゆるハコモノ・インフラの工事費(普通建設事業費)を押し上げました。大型工事が、複数同時に進んだということです。

それだけではありません。児童手当や保育所等給付費といった扶助費の増加、基幹業務システムの標準化に伴う物件費の増加、給与改定による人件費の増加も、市が挙げている理由に含まれています。工事のような一時的な出費だけでなく、続いていく性質の費用も同時に増えている点は、見落とさない方がいいと思います。

個別の事業ごとに「海岸堤防にいくら、向陽学府にいくら」という内訳までは、私が確認できた市の公表資料の範囲では突き止められませんでした。市はこれらを増加要因として名指ししていますが、事業別の金額までは、正直に「確認できなかった」と書いておきます。

なぜ令和8年度でしぼんだのか——工事が一段落し、学校が開いた

令和8年度に予算が減った理由について、市は「海岸堤防や向陽学府小中一体校の整備事業が大幅に減額」されたためだと説明しています。

向陽学府小中一体校については、市の公表情報から、新しい校舎は令和6年7月に着工し、令和8年4月に開校したことが確認できます。校舎を建てている間は工事費がかかり続けますが、開校してしまえば、その工事費はもう発生しません。令和7年度が建設のピークで、令和8年度には主要な工事が終わっている、という時系列は自然です。海岸堤防についても、複数年かけて進む整備事業である以上、年度によって工事量に山と谷があるのは珍しいことではありません。

つまり、令和8年度の減少は、「財政を引き締めた」という市の意思の表れというより、大型工事の区切りがたまたま重なった年が終わったという説明の方が、私には筋が通って見えます。

評価——良い点を三つ

1つ、市が増減の理由をきちんと言葉にしていること。「増えた」「減った」という結果だけでなく、海岸堤防・向陽学府小中一体校・体育館空調・消防庁舎という具体的な事業名を挙げて説明しています。数字だけをぽんと出されるより、何が原因かが見える方が、市民は納得しやすいはずです。当たり前のようで、これができていない自治体もあります。

2つ、複数の大型事業を、先送りせずに時期を決めて進めてきたこと。海岸堤防は南海トラフ地震への備えとして、向陽学府小中一体校は学校の老朽化・再編として、それぞれ以前から続く課題です。ずるずる先送りするより、時期を決めて実行し、区切りをつける方が、後の年度への不安は小さくなります。実際、令和8年度に主要な工事が一段落したことで、予算はいったん下がりました。

3つ、特別会計・企業会計が安定して推移していること。令和8年度、特別会計は前年度比+2.5%、企業会計は+4.9%と、一般会計とは逆に増えています。これは国民健康保険や水道・下水道など、暮らしに直結する会計です。一般会計の大型工事が山と谷を描く一方で、こちらは比較的なだらかに推移しており、日常のサービスが工事の増減にそのまま振り回されているわけではないことがうかがえます。

注文——三つ

1つ。「初めて800億円台」を、もっと市民の言葉で伝えてほしい。今回、この数字を確認するのに、市の公表ページと予算資料を何度も往復しました。市民の多くは、そこまでしません。「なぜ増えたのか」「来年度はどうなるのか」を、専門用語を減らして一枚で見せる資料があれば、と思います。

2つ。事業ごとの金額の内訳を、もっと追いやすくしてほしい。「海岸堤防と向陽学府小中一体校が増加要因」という説明はありますが、それぞれにいくら使ったのかという内訳は、私が確認できる範囲では分かりませんでした。家計で言えば「リフォーム代と入学費用で出費が増えた」と言われても、それぞれの金額が分からなければ、来年の見通しは立てにくいものです。

3つ。「しぼんだ」ことを、良いニュースとしてだけ語らないでほしい。令和8年度の予算は、令和6年度より依然として約30億円多い水準です。過去2番目の規模だという事実は、市も明言しています。800億円を割ったことだけを強調して見せるのは、正確ではありません。膨らんだ理由も、しぼんだ理由も、同じ丁寧さで説明を続けてほしいと思います。

結論——膨らんで、しぼむのは、悪いことではない

まとめます。

磐田市の一般会計は、令和6年度742億4,000万円→令和7年度869億7,000万円(初めて800億円台)→令和8年度771億9,000万円と動きました。理由は、海岸堤防・向陽学府小中一体校といった大型工事が令和7年度に重なり、令和8年度にはその工事が一段落したためです。

家計に置き換えれば、子どもの入学や家の修繕が重なった年に出費が跳ね上がり、それが終われば元の水準近くまで戻る、という動きに近いものです。膨らんだこと自体も、しぼんだこと自体も、それだけでは「良い」も「悪い」もありません。大事なのは、何のために膨らんだのか、そしてその負担が後の年度にどう残っていくのかです。

後年度への負担を測る実質公債費比率などの指標については、この記事では扱いませんでした。当初予算の年度ごとの動きに絞り、市が公表した数字だけを並べています。市債残高などの財政の健全度に関わる数字は、今回確認しきれておらず、改めて別の機会に確かめたいと考えています。

次に予算が発表されるときも、私はまず「何が増減の理由か」を確かめるところから始めます。それが分かって初めて、家計としてどう受け止めればいいかが見えてくるからです。

出典(2026年8月確認)

  • 磐田市「令和6年度 当初予算」(一般会計742億4,000万円、前年度比+5.9%〈+41億3,000万円〉。特別会計317億2,414万2千円、前年度比-0.9%。企業会計394億4,344万6千円、前年度比+5.0%。総額1,454億758万8千円、前年度比+4.1%。予算テーマ「みんなでつくる!未来「共創」予算」) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/yosan/1013099.html
  • 磐田市「令和7年度 当初予算」(一般会計869億7,000万円、前年度比+17.1%〈+127億3,000万円〉、「令和6年度に続き過去最大の予算規模」。特別会計325億5,715万7千円、+2.6%。企業会計396億1,095万2千円、+0.4%。総額1,591億3,810万9千円、+9.4%。増加要因として海岸堤防の整備、向陽学府小中一体校の整備の推進、小中学校体育館の空調等の施設整備、消防庁舎の整備、扶助費・物件費・人件費の増を明記) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/yosan/1014066.html
  • 磐田市「令和8年度 当初予算」(一般会計771億9,000万円、前年度比-11.2%〈-97億8,000万円〉、過去2番目の規模。特別会計333億8,169万5千円、+2.5%。企業会計415億5,844万8千円、+4.9%。総額1,521億3,014万3千円、-4.4%。予算テーマ「みんなで磨く!みんなでカケル!魅力づくり予算」。減少理由として「海岸堤防や向陽学府小中一体校の整備事業が大幅に減額」と明記) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/yosan/1015750.html
  • 静岡新聞digital「磐田市予算案 一般会計 初の800億円台 大型ハード事業押し上げ」(2025年2月報道。令和7年度当初予算案について「予算規模が初めて800億円を超えた」、前年度比17.1%増、海岸堤防の整備・向陽学府小中一体校の整備がピークを迎えたことが押し上げ要因と報道) https://news.at-s.com/article/1649187
  • 磐田市「向陽学府小中一体校」(新校舎の着工は令和6年7月12日、「令和8年4月から小中一体校として開校しました」と明記) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kyoiku/1014889/1014892/1008588/1008590.html
  • 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(令和8年6月末現在、総人口16万3,321人〈男性8万2,487人、女性8万834人〉、総世帯数7万2,400世帯) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/1005583.html

※本文中の「1世帯あたり約120.1万円」「約106.6万円」「差は約13.5万円」は、市が公表した一般会計予算額を、令和8年6月末現在の世帯数(7万2,400世帯)で筆者が機械的に割った試算です。市の公表値ではなく、各年度時点の実際の世帯数とも異なります。海岸堤防・向陽学府小中一体校など個別事業ごとの予算内訳、市債残高や実質公債費比率など後年度負担に関わる指標は、今回確認できた資料の範囲では確定的な数字を示せなかったため、本文には記載していません。予算額・事業内容は今後変更される場合があります。最新の内容は磐田市企画部財政課(電話0538-37-4883)にご確認ください。家計に関する記述は、筆者が不動産・介護の現場で受けた相談の範囲での実感であり、統計に基づくものではありません。