この記事について。2026年5月に「どこまで軽くできるか」という問いの形で公開した記事を、その後に確認できた事実で書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。

導入——目立たない仕事にこそ、時間が溶けている

私は磐田市で小さな不動産屋を営んでいます。以前この場所で、ClaudeというAIを日々の実務にどう使っているかを書きました。見積書のたたき台をつくらせる、契約に関わる文書を読ませて確認させる、間取りや物件情報を整理させる。どれも地味な作業です。それでも、この地味な作業に取られていた時間が軽くなると、お客様と向き合う時間や、現場を見に行く時間が増えます。派手さはないけれど、確実に効いてくる。これは自分の店で毎日実感していることです。

磐田市役所にも、同じ種類の仕事があります。出張に行った職員が出す精算の書類。市民や事業者が窓口に出す各種の申請書。ひとつひとつは小さくても、数が積み重なれば、それを確認する職員の時間はまとまった量になります。そしてその時間の分だけ、人件費という形で税金が使われています。この記事のタイトルにある「裏方仕事」とは、まさにこの、市民の目にはほとんど触れない事務の積み重ねのことです。

磐田市は「AI市長ボット」のような目立つAI活用でニュースになることが増えました。市長の思考を学習させたボットの是非については、この場ですでに別の記事で取り上げています。今日はそちらではなく、もっと地味で、しかし家計に近いところにある話をします。出張精算や申請書チェックといった裏方の事務仕事を、磐田市はどこまで自動化しようとしているのか。事実を確かめます。

まず事実——磐田市の「裏方DX」、何がいつ動いたか

確認できた範囲で、時系列に並べます。

ひとつ目。磐田市は2019年度(令和元年度)に、RPA(決まった手順の作業をソフトに代行させる仕組み)の実証実験を7つの業務で行いました。静岡新聞アットエスとRPA BANKが2020年に報じたところによれば、4〜5月に実施した軽自動車税の減免業務では、導入前に95時間かかっていた作業が、導入後は10時間で終わるようになり、85時間の削減につながったといいます。この結果を踏まえ、磐田市は2020年度(令和2年度)からAI・RPAの本格導入に進む方針を、「磐田市AI・RPA利活用基本方針」として示しました。

ふたつ目。磐田市は2024年4月22日から、生成AIツール「自治体生成AI ZEVO(ゼヴォ)」を全職員(会計年度任用職員を含む)向けに本格導入しました。市の公表資料によれば、総合行政ネットワーク(LGWAN)回線で安全に使え、職員が普段の連絡に使っているチャットツール「LGTalk」とも連携しています。用途は、イベントの企画書や挨拶文、報告書などの作成、法律・条例や会議録・ニュース記事の要約、Word・Excel・PowerPointの操作補助、そして職員が書いた文書の校正です。担当はDX推進課(電話0538-37-4818)。

みっつ目。もっとも新しい動きです。磐田市は2026年4月20日、アンドドット株式会社と「生成AIの活用による業務の高度化」に関する連携協定を結びました。磐田市自身が出したプレスリリースによれば、まず取り組むのは、職員が私用車で出張した際に提出する申請書類の審査業務についての実証実験です。うまくいけば、対象は各種申請書・精算業務・予算関連の審査へと、順次広げていく方針だとされています。

よっつ目。この一連の動きの土台には、磐田市が2026年5月8日の市長定例記者会見で示した「磐田市AXビジョン2030」があります。市長がAI活用を全庁で牽引する立場(CAIO)につき、「職員がAIを行政業務を支えるパートナーとして活かす」という方向性が掲げられました。同じ会見では話題になりやすい「AI市長ボット」の開発も発表されていますが、今日はそちらではなく、この記事の主役である出張精算や申請書チェックの自動化に焦点を絞ります。

磐田市「裏方DX」年表。2019年度のRPA実証実験(軽自動車税減免業務95時間→10時間)から、2024年4月の生成AI「ZEVO」全庁導入、2026年4月20日のアンドドット社との連携協定、2026年5月8日のAXビジョン2030発表までの流れ
図1 磐田市「裏方DX」年表。2019年度の実証実験から2026年4月の協定まで。

中身を見る——アンドドットとの協定は、何を目指しているか

「生成AIの活用による業務の高度化」という協定名だけでは、何が変わるのか分かりにくいので、もう少し具体的に見ます。

背景としてプレスリリースが挙げているのは、審査業務にともなう職員の負担増です。申請書は、書式や添付書類の不備、金額の計算誤りなど、確認すべき項目が多く、慣れた職員でも時間がかかります。アンドドット社は250を超える自治体でAI支援の実績があるとうたう企業で、審査業務に特化したAIエージェントの開発を各地で進めています。磐田市は、その実証の場のひとつに手を挙げた形です。

最初の対象が「私用車出張の申請書類」というのは、選び方として理にかなっていると思います。件数がそれなりにあり、確認する項目が定型的で、仮にうまくいかなくても市民生活に直接の影響が出にくい。実証実験の入り口として無理のない選び方です。ここでうまくいけば、各種申請書・精算業務・予算関連の審査へ広げる、という順序も、いきなり大きな範囲に手を出すより現実的だと感じます。

ただし、ここまでの発表は「協定を結んだ」「実証実験を始める」という段階のものです。実際にどれだけ時間が減ったか、件数がどう変わったかという成果の数字は、2026年8月時点でまだ公表されていません。2019年度の軽自動車税の実証(95時間→10時間)のような具体的な効果が、今回の協定でも出るのかどうかは、今後の発表を待つ必要があります。

もうひとつ、気になるところがあります。「AIが審査する」というと、最終的な判断までAIに任せてしまうように聞こえますが、実際に多くの自治体で使われている仕組みは、書類の不備や計算違いをAIが先にチェックし、最終的な可否は職員が確認する、という役割分担です。プレスリリースを読む限り、磐田市とアンドドットの取り組みも、この「支援AIエージェント」という言い方から見て、同じ考え方だと推測できます。ただし、どこまでを機械が行い、どこからを職員が確認するのか、その線引きの具体的な中身は、現時点の発表では読み取れません。ここは実証実験が進んだ段階で、あらためて確認したい点です。

磐田市の実証実験の比較。2019年度の軽自動車税減免業務は95時間から10時間に短縮(85時間削減)。2026年4月からの出張精算・申請書審査の実証実験は、2026年8月時点で効果の数字が未公表
図2 「実績のある過去」と「これからの今」。2019年度の実証と、2026年からの実証の違い。

参考——他の自治体では、どこまで進んでいるか

磐田市固有の最新の効果はまだ見えないので、近隣や全国の例を参考までに置いておきます。あくまで磐田市の話ではない、という前提で読んでください。

隣の湖西市は、2024年7月から庁内でChatGPTの利用を始めました。総務省がまとめた「自治体DX推進参考事例集」によれば、IT調達の仕様書づくりにかかる時間がおよそ5分の1に、議会答弁案づくりの作業負担がおよそ3分の1になったとされ、月あたり100時間相当の業務時間削減につながったと紹介されています。

山形市は、LINEと生成AIを組み合わせた相談対応を導入し、開始から8か月ほどで約7,500件の相談にAIが対応、人件費に換算すると年約2,000万円相当の効果があったと、同じ事例集で紹介されています。

いずれも磐田市の話ではありません。それでも、書類仕事や定型的な問い合わせ対応が、生成AIやRPAでどれくらい軽くなり得るかの目安にはなります。磐田市がアンドドットとの実証実験で、これに近い規模の効果を出せるかどうかは、これからの検証次第です。湖西市も山形市も、いきなり大きな成果を出したわけではなく、まず一部の業務で試し、効果が見えたところから広げています。磐田市の今回の実証実験の進め方も、この順序に近いと言えます。

評価——良い点を三つ

1つ、対象の選び方が地に足についている。市長ボットのような目立つ取り組みと並行して、出張精算・申請書審査という、誰も注目しないけれど職員の時間を確実に食っている仕事に手をつけたのは、率直に評価します。市民サービスの前面に出ない仕事ほど、削られた時間が見えにくく、後回しにされがちです。そこに光を当てたことに意味があります。

2つ、いきなり全部を自動化しようとしていない。私用車出張の申請書という、範囲を絞った実証実験から始め、うまくいけば広げるという順序を取っています。自治体のAI導入では、最初から大きく構えて期待した効果が出ず、現場が疲弊する例も少なくありません。小さく始めて確かめる姿勢は、身の丈に合っていると思います。

3つ、2019年度の実証実験という「実績」がすでにある。軽自動車税の減免業務で95時間が10時間になったという数字は、決して新しいものではありませんが、磐田市が過去に一度、同じ種類の取り組みで結果を出した経験を持っていることを示します。ゼロから始めるのではなく、経験の上に今回の協定が乗っている点は、安心材料です。

注文——三つ

1つ。今回の実証実験で、実際にどれだけ時間が減ったのか、いつ・どこで公表するのかを、あらかじめ決めておいてほしい。「協定を結びました」で終わる発表は、これまでも珍しくありません。2019年度の実証のように、具体的な数字が出て初めて、市民は「本当に軽くなったのか」を判断できます。

2つ。浮いた時間が、どこに使われるのかを説明してほしい。出張精算や申請書チェックが軽くなること自体は良いことですが、それで生まれた時間が、職員の長時間労働の是正に回るのか、市民対応の充実に回るのか、あるいは単に人員を減らす材料にされるだけなのか。ここは金額以上に、市民にとって気になるところだと思います。私の店でも、AIに任せられる作業が増えるほど、浮いた時間を何に使うかで結果が変わります。市役所でも同じはずです。

3つ。「市長ボット」のような目立つ話題の陰で、この種の地味な取り組みの進捗が埋もれないようにしてほしい。記者会見でもAI市長ボットの開発は取り上げられますが、出張精算の自動化がどこまで進んだかは、意識して探さないと出てきません。派手さのない改善こそ、区切りごとに報告してほしいと思います。

結論——地味な仕事の軽さは、まだこれから確かめる段階

まとめます。磐田市は2019年度のRPA実証、2024年の生成AIツール全庁導入、そして2026年4月のアンドドットとの協定と、裏方の事務仕事を軽くする取り組みを段階的に重ねてきました。今回の協定で狙っているのは、出張精算や申請書チェックという、市民の目にはほとんど触れない作業です。

私は不動産屋として、Claudeに見積書のたたき台や契約に関わる文書の確認を任せることで、自分の時間の使い方が変わった実感があります。同じことが市役所の中で起きるのなら、それは職員にとっても、間接的には市民にとっても、悪い話ではありません。

ただし、今回の協定はまだ実証実験の段階です。効果の数字はこれからです。派手なAI市長ボットの陰で、この地味な取り組みがどこまで本気で続けられるか。数字が出た段階で、また改めてこの場で書きたいと思います。

出典(2026年8月確認)

  • 磐田市役所プレスリリース「【審査業務をAIで効率化】アンドドット株式会社との『生成AIの活用による業務の高度化』に関する連携協定の締結」(配信2026年5月1日、本文中に「4月20日に締結しました」と記載。最初の取り組みとして「職員が私用車出張する際に提出する申請書類の審査業務についての実証実験」を実施し、順次拡大する方針を明記) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000155.000102493.html
  • アンドドット株式会社プレスリリース「静岡県磐田市、『生成AIを活用した書類審査業務の効率化』に関する連携協定をアンドドットと締結」(配信2026年5月25日。対象業務として「各種申請書、精算業務、予算などの支援AIエージェント」、同社が250を超える自治体でAI支援実績を持つと記載) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000103.000125579.html
  • 磐田市公表資料「生成AIツールを市役所業務へ本格導入」(「4月22日から運用を開始しました」。全職員〈会計年度任用職員を含む〉が対象。利用ツールは「自治体生成AI ZEVO(ゼヴォ)」〈シフトプラス株式会社〉。LGWAN回線・LGTalk連携。担当:DX推進課 電話0538-37-4818) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/408/20240508-3.pdf
  • 磐田市「市長定例記者会見(2026年5月)」(2026年5月8日開催。「磐田市AXビジョン2030の策定」「AI市長ボットの開発」を市長報告として掲載) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/kouhou_kouchou/teireikishakaiken/1016414.html
  • 磐田市「磐田市AI・RPA利活用基本方針」に基づく取り組みとして、静岡新聞アットエスおよびRPA BANKが2020年に報道(軽自動車税の減免業務で、導入前95時間から導入後10時間に短縮、85時間削減。7業務での実証実験を経て2020年度からの本格導入方針を報道)※原記事のURLは変更・削除されており、本文執筆時点で直接の再確認はできていません。 https://www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/722771.html https://rpa-bank.com/rpanews/27372/
  • 自治体通信Online「自治体DX事例集 #生成AIの活用」(出典として総務省「自治体DX推進参考事例集」を明記。湖西市=ChatGPT活用でIT調達仕様書の作成時間が5分の1程度、議会答弁案づくりの負担が3分の1程度、月100時間相当の業務削減。山形市=LINEと生成AIによる相談対応で開始8か月・約7,500件対応、人件費換算で年約2,000万円相当) https://www.jt-tsushin.jp/articles/case/casestudy_generativeai-1
  • 日本経済新聞「静岡県湖西市、ChatGPTを解禁 SNS投稿文の提案などで」(湖西市が2024年7月から庁内でChatGPTの利用を開始したことを報道) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC208FZ0Q3A720C2000000/

※本文中の「2019年度の実証実験」「95時間→10時間」の数字は、磐田市の基本方針に基づく取り組みとして静岡新聞アットエス・RPA BANKが2020年に報じた内容によるものです。両記事の元URLは現在アクセスできず、本文執筆時点(2026年8月)で一次情報への再アクセスによる裏取りはできていません。磐田市への直接の追加取材はできておらず、2026年4月のアンドドット社との協定については、実証実験の対象や方針までが確認できた事実であり、削減時間・件数などの成果はまだ公表されていません。湖西市・山形市の数字は磐田市とは別の自治体の事例であり、参考として掲載しています。数字や制度の内容は今後変更される場合があります。ご自身で確認する際は、磐田市DX推進課(0538-37-4818)へお問い合わせください。家計・業務に関する記述は、筆者が不動産業の現場でAIを使ってきた実感であり、統計に基づくものではありません。