導入——シリーズの最終回に
磐田南の話を、二回続けて書きました。一回目は「磐南だけが正解ではない」という話。二回目は、磐南に行った私自身が「選び直すなら、たぶん行かない」という告白。行かない側、行けない側に立って書いてきました。
最終回の今日は、逆側に立ちます。これから磐南に行く君へ、いま磐南に通っている君へ。卒業生の一人として、そして磐田で暮らしを支える仕事をしている大人の一人として、ひとつだけ、問いたいことがあるのです。
——君は、なぜ、磐田南に行くのか。
「勉強ができたから」は、理由にならない
多くの子が、こう答えると思います。「成績が届いたから」「内申点があったから」。かつての私も、そうでした。中学で勉強ができた。だから、いちばん上の学校に行く。それだけの理由で、あの門をくぐりました。
でも、よく考えてみてほしいのです。成績と内申点は、入口の「資格」であって、通う「理由」ではありません。運転免許を取ったからといって、行き先が決まるわけではないのと同じです。資格を理由と取り違えたまま3年間を過ごすと、どうなるか。順位表の中の自分の位置だけを見つめて、「何のためにここで学ぶのか」を一度も考えずに卒業していく——前回書いた私自身が、その見本です。
では、理由は何であるべきか。私は、こう考えるようになりました。
磐田南は、磐田の投資である
磐田南は、公立高校です。1922年に県立見付中学校として開かれてから100年余り、この学校を支えてきたのは、公費と、地域の期待です。スーパーサイエンスハイスクールの指定も、充実した設備も、優れた先生方も、タダで降ってきたものではありません。磐南とは、磐田という地域が「一番の頭脳」に対して行っている、世代を超えた投資なのです。
では、その投資の果実は、いまどこにあるでしょうか。
磐南を出た多くの子は、大学進学で磐田を離れます。それ自体は当然のことで、責められる話ではありません。問題は、その先です。この連載で何度も書いてきたとおり、磐田の人口は減り続けています。直近のひと月だけでも、転入446人に対して転出560人。出ていく人のほうが多い。市の資料に「土木技師不足」と書かれ、水道管を替える人がいない、消防団の担い手がいない、学校が消えていく——磐田のあらゆる課題の根っこには、「担い手がいない」があります。地域で一番の頭脳を集め、一番の投資をして育てた人材が、戻ってこないまちの姿が、そこにあります。
覚悟を問いたい——そこは、磐田を発展させる場所だ
だから、問いたいのです。磐南に行く君、通っている君。そこは、中学時代に勉強ができたから行く場所ではない。内申点があるから行く場所でもない。磐田を発展させる場所だ。その覚悟が、あるか。
覚悟といっても、「磐田に残れ」と言っているのではありません。それは狭すぎる。東京へ出ていい。海外へ行っていい。医者になるなら、最先端の場所で腕を磨けばいい。ただ、その力の使い道の中に、磐田を入れておいてほしいのです。医者になって磐田市立総合病院に戻ってくる。技師になって、154年かかると言われた水道管の更新を50年に縮める。起業して、磐田に仕事をつくる。外にいながら、磐田の子どもたちに知恵を送り返す。形は何でもいい。「自分は磐田の投資で育った。だからいつか、何かの形で返す」——その一行が心のどこかにあるかどうかで、同じ3年間の意味は、まるで変わってきます。
これは磐南だけの話ではありません。磐田のどの高校に通う子にも、同じことが言えます。ただ、一番の投資を受ける者には、一番はっきり問われるべきだと思うのです。それが、投資を受ける側の作法だからです。
ただし——問うだけの大人に、ならないために
ここまで書いて、天に唾していることも自覚しています。子どもに覚悟を問うなら、大人の側にも責務があります。
戻りたくなるまちと、戻れる仕事をつくること。それは、まさにこの連載で書き続けてきたことです。学童に入れるか。学校はどうなるか。病院は保つか。水道は、ごみは、暑さ対策は。中古住宅への補助金の記事で、私は「150万円で人は動かない。動くのは、もう磐田に決めた人だ」と書きました。磐南の卒業生が30歳になったとき、「磐田に決めた」と言ってもらえるまちになっているか。それは子どもの覚悟ではなく、いまの大人と市政の仕事です。
覚悟を問い、受け皿をつくらない。それでは、ただの説教です。両方やって、初めて循環が生まれます。まちが人を育て、人がまちを育てる。磐南という学校は、その循環の、磐田でいちばん太い管であるはずなのです。
最後に一言。私はその覚悟を知らずに、あの門をくぐりました。「磐田を発展させる場所だ」なんて、在学中に一度も考えたことがなかった。だから偉そうに言う資格はありません。ただ、覚悟を知らずに通った者だからこそ、知って通う3年間がどれほど濃くなるかは、想像がつきます。この夏、志望校の欄に「磐田南」と書こうとしている君へ。その四文字の横に、書けない一行を心の中に添えてほしい。「磐田を、発展させに行く」——それが書ける君なら、あの学校は、成績のご褒美なんかよりずっと大きなものを、君に渡してくれるはずです。
出典(2026年7月確認)
- 前回記事「磐田南に行くことだけが、正解だと思っていた」 https://oishi-hiroyuki.org/articles/iwata-oishihiroyuki0085 /「今の私は、磐田南に行けない。そして、たぶん行かない」 https://oishi-hiroyuki.org/articles/iwata-oishihiroyuki0086
- 静岡県公式ホームページ「静岡県立磐田南高等学校 全日制」(1922年開校・SSH指定などの学校概要) https://www.pref.shizuoka.jp/kodomokyoiku/school/kyoiku/1003777/1003792/1003784/1003816/1003827/1031656.html
- 磐田市「磐田市の人口 令和8年度」(令和8年6月末現在。同月の転入446人・転出560人) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/profile/toukei/1005583.html
※本記事は筆者個人の考えを述べたものです。進路の選択はご家庭とご本人のものであり、特定の進路を強いる意図はありません。