導入——「胃カメラ、いつ受けた?」と親に聞けない話
今日は8月11日、火曜日です。お盆に、実家へ帰る方も多いと思います。
私は不動産の仕事をしています。実家じまい、空き家、相続、そして介護。親の家の片づけを、子ども世代と一緒にやる仕事です。
その現場で、私はある順番を何度も見てきました。
まず、親の具合が悪くなる。次に、入院する。そのあと、家の話が始まる。
順番は、ほぼ変わりません。そして、その最初の「具合が悪くなる」がどの段階で見つかったかで、そのあとの数年がまるで違うものになります。
早い段階で見つかった家は、本人が自分で決められます。どこで治療するか、家をどうするか、お金をどう使うか。
遅かった家は、そうはいきません。本人が決められる時間が、ほとんど残っていない。子どもが慌てて、知らない土地の施設を探し、実家を急いで売ることになります。
だから私は、この記事を書きます。
磐田市立総合病院に、消化器内視鏡センターができました。病院長が年頭の挨拶で「本年6月末には消化器内視鏡センターが竣工し、秋には運用が開始される予定です」と書いています。予定どおりなら、建物はもう建っています。
検査を受けられる数は、約1.5倍になる予定です。
これは、いい話です。素直に、いい話です。
ただし、その病院の令和6年度の決算は、20億9,749万7千円の赤字です。
今日は、この二つを同じ紙の上で見ます。家族の目と、財政の目の両方で。
まず、事実を整理する——何ができたのか
建物の中身から書きます。
磐田市が2024年12月に出した資料によれば、消化器内視鏡センターは鉄骨造の地上2階建て。建築面積1,131.84平方メートル、延床面積2,189.39平方メートル。
使い方は、こう分かれています。1階が内視鏡検査のスペース、2階が外来のスペース(消化器内科と消化器外科)。
整備の目的も書かれています。「内視鏡検査を受ける患者さんへのサービス向上と検査数の増加、プライバシー保護などに対応できるゆとりある外来スペースの確保」。
この「プライバシー保護」という一語を、私は軽く見ません。
胃カメラや大腸カメラの前後というのは、正直、人に見られたくない状態です。着替えて、鎮静剤で少しぼんやりして、休んで、また着替える。その一連を、狭い場所でやると、人は次から来なくなります。
「検査が怖い」と言う人の恐怖は、実は痛みだけではありません。「あの部屋にまた入るのか」という気持ちが、けっこう大きい。ここを直したのは、正しい。
そして、いちばん大きいのが処理能力です。検査の受入上限を約1.5倍にし、看護師なども増員する予定。
なぜ1.5倍が要るのか。理由は、病院自身が計画に書いています。
「中東遠医療圏の消化器内視鏡検査・処置件数のうち、当院は44.6%のシェアを確保しています」。
この圏域の内視鏡の、およそ半分近くを、この1病院がやっているということです。
さらに、こう続きます。「2035年の入院患者数においても消化器系疾患患者は増加する予測となっている」ため、「今後も診断、治療ともに内視鏡診療のニーズが高くなる」と。
患者が増える見込みがあり、自分たちのシェアが44.6%ある。ここを広げるという判断そのものは、理屈が通っています。
病院の規模も置いておきます。許可病床数500床、標榜科目34科。昭和27年12月開設、平成10年5月に大久保の現在地へ移転新築。正規職員938人(2026年4月1日現在)。
指定は、地域医療支援病院、救命救急センター、地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院、外国人患者受入拠点病院。
磐田市の病院というより、中東遠の病院です。ここは押さえておく必要があります。
次に、財政の目で見る——21億円という数字の中身
ここからが、もう一つの目です。
病院が公表している令和6年度(2024年度)の決算を、そのまま並べます。
収益的収入の合計は188億4,812万3千円。収益的支出の合計は209億4,562万円。差し引き、20億9,749万7千円の赤字。
この赤字は、去年始まったものではありません。
令和2年度は1億8,696万4千円の赤字。令和3年度は2億2,498万6千円の黒字。令和4年度は2億4,872万1千円の黒字。そして令和5年度が16億4,038万9千円の赤字、令和6年度が20億9,749万7千円の赤字。
2年で37億円以上、溶けています。
何が増えたのか。支出の内訳を、令和4年度と令和6年度で比べます。
給与費は96億2,269万8千円から105億4,851万3千円へ。材料費は43億1,452万8千円から50億4,665万5千円へ。経費は29億1,553万8千円から30億9,548万4千円へ。
病院自身の説明は、こうです。「令和6年度は人件費の増加、医療材料や光熱水費の高騰等が影響し、2,097,497千円の純損失となりました」。
収入が減ったのではありません。入院収益は115億2,955万8千円で過去5年で最高、外来収益も60億1,074万1千円で最高です。
患者も減っていません。入院患者数は13万9,055人で、令和4年度の13万1,048人から増えています。
よく働いて、収入は最高で、それでも21億円足りない。これが今の姿です。
もう二つ、見ておくべき数字があります。
一つ目。未処理欠損金が189億8,560万8千円。これは「収益的収支で生じた純損失の累計」だと病院が注記しています。
二つ目。令和7年3月31日時点の現金預金が、1億4,515万9千円。
年間200億円を動かす病院の、手元の現金が1億4,500万円です。給与費だけで年105億円、ひと月あたり8億円台。
なお、未収金が30億2,522万7千円あります。診療報酬は約2か月遅れで入るので、これ自体は異常ではありません。ただ、余裕は明らかにありません。
企業債(借入金)は、借入総額236億4,990万円、既償還166億8,005万4千円、未償還53億7,753万7千円。令和6年度の元金償還は15億9,230万9千円でした。
計画と、現実の距離
ここで、私がいちばん引っかかったところを書きます。
病院は「磐田市病院事業 公立病院経営強化プラン 2023-2027」という5年計画を持っています。
その収支計画に、年度ごとの純損益の見込みが載っています。
2024年度(令和6年度)の見込みは、△4億2,100万円。
実際は、△20億9,749万7千円でした。
計画の、およそ5倍です。
ついでに書くと、この計画の本文にはこうあります。「2024 年度以降において単年度で黒字化する経営成績を目標とします」。表を見ると純損益が黒字になるのは2027年度の+2,700万円で、本文の「黒字化」は本業(医業収支)を指しているようですが、いずれにせよ現実は表の見込みからも大きく外れました。
誤解のないように書きますが、私はこれを「病院が嘘をついた」とは思っていません。
計画がつくられたのは2023年です。そのあとに来たのは、賃上げと、円安と、光熱費と、医療材料の高騰でした。2年で読み切れる変化ではありません。
そして、これは磐田だけの話でもありません。病院長の年頭の挨拶に、こう書かれています。
「全国の公立/自治体病院はその83.3%(703/844病院)が赤字経営で合計赤字額も過去最高」。
844のうち703。ほとんど全部です。公立病院で黒字なのは、141病院しかありません。
つまり、これは磐田市立総合病院の失敗というより、いまの公立病院の仕組み全体の話です。診療報酬という「売値」を国が決め、人件費と材料費という「原価」は市場が決める。売値を自分で上げられない商売です。
私は不動産をやっているので、この構造の苦しさは想像がつきます。仕入れが上がったのに、売値の改定は2年に1回しか来ない。その2年を、手元の現金1億4,500万円で走るわけです。
評価——良い点を三つ
1つ、この赤字の中でも、投資先が「内視鏡」だったこと。
ここは評価します。
赤字の病院が箱物を建てると言えば、普通は反発が出ます。私も、中身によっては反対します。
けれど内視鏡は、数少ない「早く見つけるほど、あとの費用が減る」領域です。
胃がんも大腸がんも、早期であれば内視鏡で取れます。進行してから見つかれば、開腹手術、抗がん剤、入退院の繰り返し、そして介護。本人の苦痛も、家族の時間も、公費の負担も、桁が変わります。
私の仕事の側から言えば、「実家じまいが要らなくなる」ケースが増えるということです。親が元気なまま自宅にいられれば、家は売らなくていい。
投資として、筋がいい。
2つ、赤字も、患者数も、現金も、全部そのまま公表していること。
この記事で並べた数字は、すべて病院と市の公表資料に載っています。私が取材で掘り出したものは、一つもありません。
純損失も、未処理欠損金189億円も、現金預金1億4,515万9千円も、5年分の推移つきで、誰でも見られる場所にあります。
都合の悪い数字を丸めない。これは、行政の資料としてかなり誠実な部類です。
私はこの場で「市の資料は読めない」「探せない」と何度も書いてきました。だから、読めるものは読める、と書きます。
3つ、赤字の年でも、中身の質が落ちていないこと。
令和6年度の総括に、こうあります。
診療報酬改定でのDPC機能評価係数Ⅱは「全国1,526病院ある標準病院群の中で9位」。令和7年2月には「県内初となる独自にエキスパートパネルの実施が可能ながんゲノム医療連携病院」の指定。全身麻酔手術2,000件以上、うち緊急手術350件以上。
お金がないときにいちばん先に落ちるのは、質です。それが落ちていない。ここは働いている人たちへの評価として、書いておきたい。
注文——三つ
1つ。「1.5倍」を、何をどれだけ増やすのかまで書いてほしい。
いま公表されているのは「検査受入上限を約1.5倍」という一行だけです。
市民として知りたいのは、その先です。
いま何件で、何件になるのか。待ち日数は何日から何日になるのか。増える分は、検診(症状のない人の早期発見)に回るのか、それとも紹介患者に回るのか。
ここが大事なのは、誰の検査が増えるかで、まちにとっての意味がまったく変わるからです。
紹介患者の待ちが短くなるのも、もちろん良い。しかし「症状が出ていない人が受けやすくなる」ことこそが、早期発見の本体です。そして、そこがいちばん、まちの財布に効きます。
秋の運用開始に合わせて、数字を1枚出してほしい。
2つ。運用開始と同時に、収支の見込みも出してほしい。
これは厳しい注文ですが、書きます。
新しい建物ができれば、減価償却費が増えます。看護師を増やせば、給与費が増えます。令和6年度の減価償却費はすでに10億8,900万2千円あります。
つまりこのセンターは、開いた瞬間から費用を発生させます。その費用を、増える検査収入が上回るのかどうか。
市の令和8年度当初予算のページには、企業会計の増加理由として「人件費や材料費の増などによる病院事業会計の増額」と書かれています。増える理由が費用側なのは、はっきりしています。
だから、「何年で回収するつもりか」を、開くときに言っておいたほうがいい。
言っておけば、外れたときに「なぜ外れたか」を議論できます。言わなければ、数年後に「また赤字が増えた」という結果だけが残ります。2023年の計画が5倍外れたのは、まさにそういう形でした。
3つ。9月議会で、決算を「読み合わせ」してほしい。
もうすぐ9月議会です。令和7年度の決算が審査されます。
お願いしたいのは、数字を並べるだけの説明をやめることです。
市民が知りたいのは3つだけです。去年より良くなったのか、悪くなったのか。その理由は病院の努力で変えられるものか、外から来たものか。そして、手元の現金はいつまでもつのか。
特に3つ目です。現金預金1億4,515万9千円という数字は、市民に説明が要る水準だと私は思います。一時借入で回しているのか、一般会計から追加で入れる想定があるのか。
令和6年度の一般会計繰入金は5億3,852万2千円で、令和2年度の6億1,246万6千円より減っています。赤字が20億円に膨らんでいる年に、繰入は減っている。この組み合わせを、どう考えているのか。
ここを説明できるかどうかが、9月議会の値打ちだと思います。
結論——建物は建った。次は数字を出す番
提案をまとめます。
第一に、「約1.5倍」の中身を、件数・待ち日数・検診枠まで具体的に公表すること。第二に、センターの運用開始と同時に、費用と収入の見込みを何年分か示すこと。第三に、9月議会で、現金の状況と一般会計繰入の考え方を市民にわかる言葉で説明すること。
三つとも、新しい支出は要りません。すでに持っている数字を、出す・並べる・説明するだけです。
そのうえで、読んでくださっている方への話を書きます。
この記事は、病院を責めるために書いたのではありません。
むしろ逆です。
21億円の赤字を抱えながら、それでも早期発見の設備を広げたという判断を、私は支持します。ここで縮こまって検査枠を絞れば、5年後10年後に、進行がんの入院で同じお金が出ていきます。そのときは、家族の時間まで一緒に持っていかれます。
最後に一言。
冒頭の話に戻ります。
実家じまいの相談で私がいちばん多く聞くのは、「もっと早く分かっていれば」という言葉です。
もっと早く分かっていれば、本人と話せた。家をどうするか、聞けた。「この家、どうしたい?」と、本人の口から答えをもらえた。
それが聞けなかった家の片づけは、なかなか終わりません。子どもが、何年も迷います。「捨てていいのか分からない」からです。
検査というのは、突き詰めれば「時間を買う」ことだと私は思っています。
早く分かれば、治療の時間が増える。それ以上に、話す時間が増えます。
お盆です。実家に帰る方は、一つだけ聞いてみてください。
「胃カメラ、いつ受けた?」
この一言は、たぶん、相続の話より先に必要です。
秋には、受けられる場所が1.5倍になります。
出典(2026年8月確認)
- 磐田市立総合病院「経営状況」(令和6年度決算。収益的収入合計18,848,123千円〈入院収益11,529,558/外来収益6,010,741/一般会計繰入金538,522/その他769,302〉、収益的支出合計20,945,620千円〈給与費10,548,513/材料費5,046,655/経費3,095,484/減価償却費1,089,002/その他1,165,966〉、収支差引額△2,097,497千円。過去5年の収支差引額=令和2年度△186,964/令和3年度224,986/令和4年度248,721/令和5年度△1,640,389/令和6年度△2,097,497。患者数=入院139,055人・外来270,766人。職員数計960人〈4月1日時点〉。貸借対照表〈令和7年3月31日時点〉=資産合計15,997,268千円、現金預金145,159千円、未収金3,025,227千円、未処理欠損金△18,985,608千円。企業債〈同日時点〉=借入総額23,649,900千円、既償還額16,680,054千円、令和6年度償還額1,592,309千円、未償還額5,377,537千円。総括=「令和6年度は人件費の増加、医療材料や光熱水費の高騰等が影響し、2,097,497千円の純損失となりました」「DPC機能評価係数Ⅱ…は全国1,526病院ある標準病院群の中で9位」「令和7年2月からは県内初となる独自にエキスパートパネルの実施が可能ながんゲノム医療連携病院として指定」「全身麻酔手術2,000件以上、うち緊急手術350件以上」。令和6年度の施設改良=「内視鏡センター増築工事基本・実施設計業務委託等」、施設改良費64,592千円) https://www.hospital.iwata.shizuoka.jp/about/hospital-management/management/
- 磐田市役所プレスリリース「【さらなる医療体制の拡充のために】磐田市立総合病院に『内視鏡センター』を新設」(2024年12月24日。目的=「内視鏡検査を受ける患者さんへのサービス向上と検査数の増加、プライバシー保護などに対応できるゆとりある外来スペースの確保」。鉄骨造地上2階建て、建築面積1,131.84㎡、延床面積2,189.39㎡。1階=内視鏡検査スペース、2階=外来スペース〈消化器内科・消化器外科〉。検査受入上限を約1.5倍にし、看護師なども増員する予定。令和8年度中の供用開始予定) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000081.000102493.html
- 磐田市立総合病院「磐田市病院事業管理者 兼 病院長挨拶」(磐田市病院事業管理者 兼 病院長 山﨑薫、2026年1月吉日。「本年6月末には消化器内視鏡センターが竣工し、秋には運用が開始される予定です。」「全国の公立/自治体病院はその83.3%(703/844病院)が赤字経営で合計赤字額も過去最高」。電子カルテシステムを元旦より更新) https://www.hospital.iwata.shizuoka.jp/about/byouincho/
- 磐田市立総合病院「磐田市病院事業 公立病院経営強化プラン 2023-2027」(第8章=「2024 年度に消化器内視鏡センターとして新棟の建築を予定しています。中東遠医療圏の消化器内視鏡検査・処置件数のうち、当院は44.6%のシェアを確保しています」「2035 年の入院患者数においても消化器系疾患患者は増加する予測」。第10章 収支計画=「2024 年度以降において単年度で黒字化する経営成績を目標とします」、表10-1の純損益〈百万円〉は2021年度225/2022年度249/2023年度△71/2024年度△421/2025年度△232/2026年度△155/2027年度27、経常収支比率は2024年度98.3%・2027年度100.5%) https://www.hospital.iwata.shizuoka.jp/media/20240321-1.pdf
- 磐田市立総合病院「施設概要」(許可病床数500床、標榜科目34科、昭和27年12月開設、平成10年5月に市大久保の地に移転新築、鉄骨鉄筋コンクリート造 地下1階・地上7階・塔屋2階、正規職員938人〈2026年4月1日現在〉。地域医療支援病院/救命救急センター/地域がん診療連携拠点病院/災害拠点病院/外国人患者受入拠点病院) https://www.hospital.iwata.shizuoka.jp/about/facility/
- 磐田市「令和8年度 当初予算」(更新日2026年2月25日。企業会計3会計=前年度比4.9%、19億4,749万6千円増の415億5,844万8千円。増の理由として「人件費や材料費の増などによる病院事業会計の増額」。企画部財政課財政グループ 電話0538-37-4883) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/gyouzaisei/yosan/1015750.html
※金額・日程・体制は変更される場合があります。受診や検査についてのご相談は磐田市立総合病院(代表 電話0538-38-5000)またはかかりつけ医へ、予算・決算については磐田市(財政課 電話0538-37-4883)の公表資料でご確認ください。本文中の「6月末竣工・秋に運用開始」は2026年1月時点の病院長挨拶に記された予定であり、実際の竣工日および運用開始日は本文執筆時点(2026年8月11日)で確認できていません。令和6年度の決算数値は病院が公表しているもので、令和7年度の決算は本文執筆時点では公表を確認できていません。純損益の計画値は「公立病院経営強化プラン2023-2027」表10-1の百万円単位の数値です。公立病院の赤字割合83.3%(703/844病院)は病院長挨拶に記載された全国の数値であり、集計主体・時点の詳細は同挨拶に明記されていません。内視鏡検査による早期発見の効果に関する記述は一般的な理解に基づくもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。不動産や実家じまいの現場に関する記述は、筆者が業務で受けた相談の範囲での実感であり、統計に基づくものではありません。
