この記事について。2026年5月に「収支マイナス1.56億円」という数字だけを示した記事を、静岡県・磐田市の公表資料をあたって書き直しました(本文の確認は2026年8月)。公開日は当時のままにしています。令和5年度に加えて、確認できた令和6年度・令和7年度の数字も並べています。
導入──「受入7.67億円」の裏側
磐田市のふるさと納税の受入額は、令和7年度に約7.67億円まで伸びました。件数も26,951件です。数字だけを見れば、明るいニュースに見えます。
私は不動産と介護の仕事をしています。住民税は、道路や学校、介護や福祉のサービスを支える原資の一つです。ふるさと納税の受入額が増えたという話を聞くたびに、私はその裏側で「磐田市民が他の自治体に寄附して、磐田市の住民税が減っている分」がどうなっているのかが気になります。片方だけを見て「好調」と言ってよいのか。今日は、その裏側の数字まで並べてみます。
まず数字──3年分の決算を並べる
磐田市のふるさと納税の受入額(件数・金額)そのものは、市の公式サイトに公表されています。令和5年度16,421件・5億1,411万円、令和6年度22,814件・6億4,455万円、令和7年度26,951件・7億6,651万円。3年連続で件数・金額とも増えています。
一方で、「返礼品等の経費」や「市民税控除額」、そして両方を差し引いた「実質収支」は、私が確認した範囲では磐田市の公式サイトには見当たりませんでした。この数字は、静岡県が県内市町分をまとめて公表している「ふるさと納税に係る決算状況」という資料に出ています。寄附受入金額(A)から、返礼品等の経費総額(B)と市町村民税控除額(C)を差し引いた額が、差引額(D=A-B-C)です。磐田市の3年分は、次のとおりでした。
令和5年度。受入額5.14億円、返礼品等経費2.35億円、市民税控除額4.35億円。差引額はマイナス約1.56億円です。
令和6年度。受入額6.45億円、返礼品等経費3.03億円、市民税控除額5.61億円。差引額はマイナス約2.20億円で、3年で最も赤字が大きい年でした。
令和7年度。受入額7.67億円、返礼品等経費3.67億円、市民税控除額5.89億円。差引額はマイナス約1.89億円です。
3年とも、差引額はマイナスでした。受入額が伸びているのは事実ですが、実質収支という物差しで見ると、磐田市のふるさと納税は3年連続の赤字ということになります。
なぜ実質収支がマイナスになるのか
仕組みを整理します。ふるさと納税で全国から磐田市に寄附が集まると、市には「受入額」が入ります。ただし、市はその寄附者に返礼品を送るために「返礼品等の経費」を支払います。この経費には返礼品の原価、送料、決済手数料などが含まれ、制度上は寄附額の5割以内に抑えることになっています。
一方で、磐田市民が他の自治体にふるさと納税をすると、その分は磐田市に納めるはずだった個人住民税から控除されます。これが「市町村民税控除額」です。磐田市に住んでいる人が、よその自治体の返礼品を選んで寄附するほど、この控除額は大きくなります。
つまり、受入額が増えても、それ以上に返礼品の経費と、磐田市民が他市に流れた分の控除額が増えれば、差引額はマイナスになります。実際、磐田市では3年ともこの構造になっていました。特に市民税控除額は、令和5年度4.35億円から令和7年度5.89億円へと、受入額の伸び以上のペースで増えている年もありました。
評価──良い点を三つ
1つ、受入額・件数が3年連続で伸びていること。5.14億円・16,421件から7.67億円・26,951件へ。返礼品の開拓や広報の努力がなければ、この伸びは実現しません。全国の自治体が競い合っている制度の中で、数字を伸ばし続けていること自体は、素直に評価すべきだと思います。
2つ、寄附金の使い道を分野ごとに整理し、寄附者が選べる形にしていること。磐田市は「将来を担う子どもたちへの支援」「津波・防災対策への取組み」「スポーツのまちづくりへの支援」など5つの分野を示し、令和8年度からは「中学生の地域クラブ活動応援」「磐田市立総合病院の運営支援」も加わりました。使い道が見える寄附は、寄附する側にとっても納得しやすいはずです。
3つ、新しい調達の手法にも挑戦していること。磐田市は、特定の事業に絞って寄附を募るガバメントクラウドファンディングも実施しています。令和7年度は「Iwata Seaside DREAM Fes2025」という事業で、目標額1億2,000万円を掲げました。結果は後で触れますが、新しい手法を試すこと自体は前向きな姿勢だと思います。
注文──三つ
1つ。「差引額」「市町村民税控除額」を、磐田市自身の言葉で公表してほしい。受入額と件数という「良いニュース」の数字は市のサイトに出ているのに、流出側にあたる市民税控除額や実質収支は、静岡県の資料を見なければ分かりませんでした。どちらも同じ制度の裏表です。片方だけを見せる形を、市民が両方を見られる形に変えてほしいと思います。
2つ。市民税控除額が増えている理由を、市はどう見ているのか説明してほしい。磐田市民が他の自治体への寄附を増やしているとすれば、それは磐田市の返礼品が選ばれにくい、あるいは他市の返礼品の魅力が勝っている、ということかもしれません。原因の分析と、今後どう対応していくのかを、市民に向けて説明してほしいところです。
3つ。ガバメントクラウドファンディングの実績を検証し、公表してほしい。「Iwata Seaside DREAM Fes2025」は、目標額1億2,000万円に対し、集まった寄附額は315万2千円でした。目標に届かなかったこと自体を責めるつもりはありません。挑戦には失敗もつきものです。ただ、なぜ目標に届かなかったのかを検証せずに次の事業に進むのは良くないと思います。何が足りなかったのかを公表し、次に活かす姿勢を見せてほしいのです。
結論──「好調」の数字だけでは、片手落ちです
受入額だけを見れば、磐田市のふるさと納税は3年連続で伸びている「好調」な制度に見えます。しかし、返礼品の経費と市民税控除額まで含めた実質収支で見ると、令和5年度から7年度まで3年連続の赤字で、令和6年度は約2.2億円まで拡大していました。
受入額の伸び、使い道の整理、新しい手法への挑戦は、私も良い点として評価します。そのうえで求めたいのは、受入額という良い面だけでなく、市民税控除額という流出側の数字も、磐田市が自分の言葉で市民に見せることです。両方の数字がそろって初めて、この制度がまちにとって黒字なのか赤字なのかを、市民が自分で判断できるようになるはずです。
出典(2026年8月確認)
- 静岡県「令和5年度 ふるさと納税に係る決算状況」(県内市町別。磐田市=寄附件数16,421件、寄附受入金額A 514,115千円、返礼品等の経費総額B 235,369千円、市町村民税控除額C 434,820千円、差引額D=A-B-C ▲156,074千円) https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/161/r05_furusatokessan.pdf
- 静岡県「令和6年度 ふるさと納税に係る決算状況」(磐田市=22,814件、受入額644,559千円、返礼品等経費303,226千円、市町村民税控除額561,265千円、差引額▲219,932千円) https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/161/r6furusatonouzei.pdf
- 静岡県「令和7年度 ふるさと納税に係る決算状況」(磐田市=26,951件、受入額766,514千円、返礼品等経費367,119千円、市町村民税控除額588,593千円、差引額▲189,198千円) https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/161/r7furusatonouzei.pdf
- 磐田市「ふるさと納税 寄附金の活用」(受入実績=令和2年度26,656件・814,559,500円、令和3年度32,002件・956,143,000円、令和4年度23,746件・751,678,990円、令和5年度16,421件・514,115,100円、令和6年度22,814件・644,559,100円、令和7年度26,951件・766,514,000円。活用分野=「将来を担う子どもたちへの支援」「津波・防災対策への取組み」「スポーツのまちづくりへの支援」「中学生の地域クラブ活動応援」〈令和8年度から〉「磐田市立総合病院の運営支援」〈令和8年度から〉) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/fukusato_nouzei/1002779.html
- 磐田市「『ふるさと磐田』へ応援をお願いします ふるさと納税(寄附金)制度」(制度の基本説明、申込方法、ワンストップ特例制度) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/fukusato_nouzei/1002778.html
- 磐田市「ガバメントクラウドファンディング」(令和7年度「Iwata Seaside DREAM Fes2025」=実施団体・一般社団法人Future Innovation Lab、寄附目標額120,000,000円、集まった寄附額3,152,000円、「寄附の申込みは終了しました」) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/shiseijouhou/fukusato_nouzei/1014736.html
※「差引額(実質収支)」「返礼品等の経費総額」「市町村民税控除額」は、磐田市の公式サイトでは(今回確認した範囲では)公表が見当たらず、静岡県が公表する県内市町別の決算資料を出典としています。単位は原資料では千円で、本文・図では億円に換算し、小数第3位を四捨五入して示しています。市町村民税控除額は、実際には前年までの寄附に対して翌年度の個人住民税から控除される仕組みであり、同じ年度内の受入額と単純に対応する収支ではない点にご留意ください。企業版ふるさと納税は個人のふるさと納税とは別の制度であり、本文の数字には含めていません。令和8年度以降の数字、制度や返礼品の内容は変更される場合があります。ご自身に関わることを確認する際は、必ず磐田市経済産業部のふるさと納税担当(電話0538-37-4781)へお問い合わせください。

