導入——「他人事ではない」と書いた、その日のことだった
昨日、私は令和8年熊本地震の記事を書きました。断水約8万4千戸、連日の猛暑日予報、そして避難所での夜。「磐田で同じことが起きたら」という問いを、水道と体育館のエアコンに引きつけて書きました。
その記事を出したあと、市のサイトで一つの告知を見つけて、手が止まりました。「市内一部地域の停電とクーリングシェルターのご案内」。7月29日付です。読むと、こう書かれていました。7月28日の落雷により市内の一部地域で停電が発生し、29日午前9時の時点でまだ復旧作業が続いていると。そして市は、室内でも熱中症になる危険があるとして、クーリングシェルターとして指定している施設の活用を呼びかけていました。
熊本の停電と猛暑を「他人事ではない」と書いた、その同じ7月28日に、磐田でも停電が起きていたのです。規模はまったく違います。人的な被害の報告も見当たりません。それでも、書き手として気づかなかったことが恥ずかしく、そして試されたのは磐田の仕組みだったと思い直しました。
実は私は、3週間ほど前に「『涼しい逃げ場』に、本当にたどり着けるか」という記事を書いています。クーリングシェルターの仕組みを点検し、四つの注文をつけた回です。今日は、その答え合わせをします。
まず、事実を整理する——指定は74か所ある
市が公表している指定施設の一覧(7月29日更新)を数えました。公共施設が37か所、民間施設が37か所、合わせて74か所です。3週間前に記事を書いたときより、私は初めてこの数を正確に数えました。多い、と思いました。
中身を見ると、公共側はiプラザ(8時30分〜22時、20人程度)、市役所西庁舎や各支所(8時30分〜17時15分、5〜10人程度)、各地区の交流センター、図書館、市民文化会館「かたりあ」、竜洋体育センター(8時30分〜21時30分)、渚の交流館、しおさい竜洋、クリーンセンターや埋蔵文化財センターまで含まれます。
民間側は、より意外でした。市内の郵便局が14か所ほど並び、ウエルシア薬局や杏林堂、マックスバリュ各店(イートインスペース)、サーラプラザ磐田、浜松いわた信用金庫、磐田商工会議所——そして中部電力パワーグリッドの磐田営業所も入っています。今回の停電の問い合わせ先と同じ会社の建物が、涼しい逃げ場として登録されている。妙な符合です。
ただ、数字をよく見ると、別の顔が見えてきます。郵便局の受入可能人数は、多くが「2人」または「3人」。薬局の待合スペースも2〜5人。公共施設でも「5人程度」「3人程度」の施設が並びます。74か所という数は、収容力の数ではありません。そして開放時間を見ると、郵便局は9時〜16時で土日祝は休み。いちばん遅いiプラザが22時まで。深夜に開いている施設は、一つもありません。
答え合わせ——3週間前の注文は、どうだったか
3週間前の記事で、私は四つの注文をつけました。今回の停電に当てはめて、順に確かめます。
①「知られているか」。今回、市はホームページで呼びかけました。ただ、停電している家では、Wi-Fiのルーターも止まっています。テレビも映りません。停電している人が、停電の告知を読めるのか。私が指摘した「デジタルだけに頼らないでほしい」という注文は、まさにこの場面のためのものでした。
②「たどり着けるか」。74か所という数は、この点では効いています。郵便局が14か所あるということは、多くの地区から歩ける距離に一つはある、ということです。ここは素直に、良かったと言いたい。
③「開いている時間」。ここが今回いちばん刺さりました。停電は7月28日に発生し、29日の朝も続いていました。つまり、夜をまたいだのです。そして指定施設は、いちばん遅いiプラザでも22時まで。熱帯夜に、エアコンの止まった家にいる人が行ける場所は、制度上ゼロです。3週間前に「夜間や休館日の暑さにどう備えるのか」と書いたことが、そのまま現実の穴として現れました。
④「特別警戒のときだけ」という運用。制度上、クーリングシェルターが「開放」されるのは、熱中症特別警戒情報が出たときです。それは環境大臣が発表するもので、静岡県内すべての暑さ指数の地点で翌日のWBGTが35に達すると予測される場合という、めったに出ない条件です。今回の市の告知は「クーリングシェルターとして指定している施設の活用」という書き方でした。つまり、制度としての開放ではなく、ふだんの営業時間内に立ち寄ってくださいという呼びかけだったと読めます。私が指摘した「運用の線引きと、実際の暑さのつらさとのずれ」が、停電というかたちで露出したわけです。
そして今回、新しく分かった論点があります。停電しているのは、その地域全体です。近所の郵便局や薬局が同じ停電エリアにあれば、そこの冷房も止まっています。いちばん近い逃げ場が、いちばん先に使えなくなる。これは、猛暑だけを想定した制度設計では見えなかった弱点です。
評価——良い点と、注文したい点
良い点を3つ、はっきり書きます。
1つ、停電の日に、暑さの逃げ場を案内したこと。停電の復旧見込みだけを流すのではなく、「室内でも熱中症の危険がある」と一歩踏み込んで、逃げ場につなげた。この判断は良かったと思います。2つ、民間37か所の協力を取りつけていること。郵便局や薬局、スーパーのイートインまで巻き込むのは、行政だけではできない仕事です。3つ、指定施設の一覧を、停電の翌日に更新していること。ファイルの更新日は7月29日でした。手が動いていた証拠です。
そのうえで、注文を3つ。
1つ。停電の告知に、地域・戸数・復旧見込みが書かれていなかったことです。私が確認した限り、告知にあったのは「市内一部地域」「7月28日の落雷により」「復旧作業中」という表現と、中部電力パワーグリッドの電話番号だけでした。自分の家が対象なのかどうかが分からない告知は、判断材料になりません。停電の復旧は電力会社の仕事です。しかし「どの地区が、いつまで」を市民に伝える仕事は、市の役目でもあるはずです。
2つ。夜間の逃げ場が、制度に存在しないこと。今回はたまたま朝までに復旧作業が進みました。しかし、真夏の停電が夜をまたぐことは、これからも起こります。22時以降、エアコンのない家で夜を越すしかない高齢者がいる。ここに手を打たないまま「74か所を指定しています」と数えても、いちばん危ない時間帯は空白のままです。
3つ。問い合わせ先が、電力会社の番号ひとつだったこと。停電で困っている人が知りたいのは、復旧の見込みだけではありません。「涼しい場所はどこか」「持病の器具の電源はどうすればいいか」「近所の高齢者は大丈夫か」。市の窓口の番号も、並べて書いてほしい。
対案・結論——「夜」と「同時被災」に手を打つ
提案は3つです。
第一に、夜間の暑さ避難の受け皿を、一か所でも決めておくこと。市内全域に置く必要はありません。「停電が夜をまたいだときは、○○を朝まで開けます」という取り決めを、あらかじめ一つ決めて公表するだけでいい。体育館のエアコンの話とも、ここでつながります。夜に開ける場所が一つあるかないかで、独り暮らしの高齢者の夏は変わります。
第二に、指定施設の一覧に「非常電源の有無」を書き添えること。停電エリアの中にある施設は、そのとき使えません。停電時にも冷房が動く施設はどこか——この一列が加わるだけで、一覧は災害時にも使える資料に変わります。74か所の全部でなくていい。数か所でも構いません。
第三に、停電の告知に、地区名と市の窓口を必ず入れること。加えて、昨日書いたLINE障害の記事で提案したとおり、停電の家に届く経路——防災行政無線や、地区の回覧、民生委員の声かけ——を組み合わせてほしい。停電した家のスマホは、いずれ電池が切れます。
最後に一言。3週間前に「涼しい逃げ場にたどり着けるか」と書いたとき、私はまだ、想像で書いていました。今回、落雷という小さな出来事が、その想像を実地で検算してくれました。結果は「昼は届く、夜は届かない」でした。そして熊本では、いまも猛暑の中で停電と断水が続いています。規模はまったく違いますが、試されている仕組みは同じです。制度は、平時の物差しではなく、いちばん条件の悪い夜で測るべきなのだと思います。74か所という数字は立派です。あとは、その74か所が「夜の停電」にも耐えられるかどうか。そこだけ、詰めていただきたいのです。
出典(2026年7月30日確認)
- 磐田市「市内一部地域の停電とクーリングシェルターのご案内」(7月28日の落雷により市内一部地域で停電、7月29日午前9時時点で復旧作業中、室内でも熱中症の危険があるとしてクーリングシェルター指定施設の活用を呼びかけ、問い合わせは中部電力パワーグリッド) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/bousai_anzen/1016797.html
- 磐田市「クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」および指定施設一覧(2026年7月29日更新。公共施設37か所・民間施設37か所、開放時間・休館日・受入可能人数・開放場所を掲載。運用期間は4月第4水曜日〜10月第4水曜日、熱中症特別警戒情報が発表されたときに開放) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kenkou_fukushi/otona_kenkou_kenshinsoudan/1013533/1013535.html
- 本連載「『涼しい逃げ場』に、本当にたどり着けるか——磐田のクーリングシェルターを、猛暑本番に確かめる」(2026年7月11日) https://oishi-hiroyuki.org/articles/iwata-oishihiroyuki0050
※停電の地域・戸数・復旧時刻は市の告知に記載がなく、本記事では確認できた範囲で記述しています。施設の開放時間・受入人数は変更される場合があります。最新情報は磐田市公式サイトでご確認ください。