導入——154年の、裏側の話
この連載で、私は水道の話を何度か書いてきました。いまのペースだと管の入れ替えに154年かかるという記事。その理由として市の資料に「土木技師不足による」と書かれていた話。そして今年の土木職の採用試験は申込5人・合格4人だったという答え合わせ。
どれも「替えられない」という話でした。今日は、その裏側の話をします。7月31日、市が告知を出しました。8月17日から12月18日まで、市内全域で水道管の漏水調査を行う——というものです。
替えるのに154年かかるなら、その間にできることは何か。漏らさないことです。地味ですが、これが現実の維持管理でした。
まず、事実を整理する
市の告知によれば、対象は市内の漏水している可能性が高い水道管で、専門業者に調査を委託しています。期間は令和8年8月17日から12月18日までのおよそ4か月間。調査時間は平日の午前8時30分から午後5時。範囲は市内全域で、詳しい箇所はPDFで公開されています。
調査の中身が、なかなか面白い。二つの方法が挙げられていました。
一つは戸別音聴調査。「音聴棒」という棒を使って、各家庭の水道メーターを調べます。もう一つは路面音聴調査。漏水探知機を使って、道路の路面から地下の音を探ります。つまり、人が耳で聴くのです。地面の下を掘り返すのでも、カメラを通すのでもなく、水が漏れるときの微かな音を拾う。私はこの記事を書くまで、漏水調査がここまでアナログな技術だとは知りませんでした。
調査の対象は、道路に埋設した水道の本管と、各家庭の水道メーターまで。立ち会いは不要で、不在時でもメーターが見える場所にあれば調査されます。ただし、漏水音を確認するため、声をかけたうえで一時的に水道の使用を止めてもらう場合があるとのこと。現地の状況によっては複数回入ることもあります。
そして、市の告知でいちばん実用的だったのが、この一行です。「調査員が、調査費用や物品販売などの代金を請求することはありません」。調査員は漏水調査の腕章を付け、磐田市発行の身分証明書を携帯しています。調査は株式会社M'sジャパン静岡営業所が行い、電話番号も公表されています。
評価——良い点と、注文したい点
良い点を3つ挙げます。
1つ、替えられないなら、漏らさないという現実的な選択です。154年という数字は絶望的に見えますが、その間ずっと手をこまねいているわけではない。漏水を見つけて直すことは、それ自体が水を守る仕事です。熊本で断水が約8万4千戸に及んだのを見たあとでは、地面の下の管を気にかける仕事の重みが、以前と違って見えます。
2つ、詐欺への注意喚起を、告知に含めていること。「代金を請求することはありません」「腕章と市発行の身分証明書を携帯」——この二行があるかないかで、ひとり暮らしの高齢者宅の玄関先で起きることは変わります。ATMが消えていく話のときにも書きましたが、暮らしの変化にはいつも、それに便乗する人がついてきます。市の名前をかたる訪問には、くれぐれもご注意ください。
3つ、立ち会い不要としていること。平日の日中に4か月。全戸が在宅で対応するのは不可能です。留守でも進められる設計は、市民にとっても事業にとっても現実的です。
そのうえで、注文が3つあります。
1つ。「漏水している可能性が高い管」を選んだ根拠が見えないことです。市内全域とされていますが、優先順位はどう決めたのか。管の古さか、過去の漏水履歴か、水量の差か。154年の記事で書いたように、更新の順番は市民にとって関心のある話です。「どこから直すのか」の考え方を示すことは、値上げの説明の一部でもあります。
2つ。結果の公表を約束してほしいこと。4か月かけて調べるのですから、何件の漏水が見つかり、どれだけの水が守られたのかは必ず分かります。その数字は、水道料金を払う市民が知りたい数字です。「調査しました」で終わらせず、年明けにでも結果を出してほしい。
3つ。高齢者宅への事前の声かけ。腕章と身分証明書があっても、突然メーターの前に人が立てば驚く方はいます。地区ごとの日程が決まっているのなら、回覧板や民生委員を通じて「来週このあたりを回ります」と一言あるだけで、受け取る側の安心感はまるで違います。
対案・結論——漏水を減らすことは、値上げを抑えること
提案を3つ書きます。
第一に、調査結果の公表。件数、修繕した箇所、そして可能なら「守られた水の量」。国保税の記事でも書きましたが、負担をお願いする側は、まず数字を見せるべきです。漏水が減れば、作った水のうち料金になる割合(有収率)が上がります。それは回りまわって、値上げ幅を抑える方向に効きます。市民にとっては、そこがいちばん知りたい。
第二に、市民からの通報の入り口を、あわせて広報すること。市のサイトには「道路などでの漏水についての情報提供のお願い」というページもあります。4か月かけて市内全域を回る調査より、通りかかった市民の一報のほうが早いこともあります。調査の告知と一緒に、「路面が濡れている、水の音がする、と気づいたらここへ」を並べて出してほしい。
第三に、この仕事を、見せてほしい。音聴棒で地面の音を聴く——この作業は、子どもが見たら間違いなく面白がります。土木職の採用に申し込んだのが5人だった話を思い出してください。担い手は、仕事の中身を知らなければ増えません。夏休みの見学会でも、広報の1ページでもいい。「磐田の水を守る音を聴く仕事」は、十分に語る価値があります。
最後に一言。私たちは、蛇口をひねれば水が出ることを当たり前だと思っています。熊本で8万4千戸が断水したのを見て、その当たり前が薄い氷の上にあることを知りました。8月17日から12月18日まで、磐田のどこかで、誰かが地面に耳を当てています。漏れの音を聴き分けるという、ひどく地味で、ひどく大事な仕事です。もしメーターの前に腕章の人がいたら、驚かずに、そして少しだけ「お疲れさまです」と思っていただけたらと思います。ただし、代金を請求されたら、それは市の調査員ではありません。
出典(2026年8月1日確認)
- 磐田市「水道管の漏水調査を実施します」(2026年7月31日更新。調査期間=令和8年8月17日〜12月18日、平日8:30〜17:00、市内全域、戸別音聴調査〈音聴棒により各戸のメーターを調査〉と路面音聴調査〈漏水探知機により路面を調査〉、対象は水道本管および各家庭の水道メーターまで、立ち会い不要、調査会社=株式会社M'sジャパン静岡営業所、調査員は腕章と磐田市発行の身分証明書を携帯し代金の請求は行わない、担当=環境水道部 上下水道工事課) https://www.city.iwata.shizuoka.jp/kurashi_tetsuzuki/jougesuidou/jousuidou/1016790.html
- 本連載の既報:水道管の更新に154年(記事0069)/土木技師不足(記事0079)/土木職の採用は申込5人・合格4人(記事0093)/熊本地震の断水約8万4千戸(記事0188)
※調査日程・範囲は変更される場合があります。詳細は磐田市公式サイトおよび上下水道工事課へご確認ください。不審な訪問があった場合は、市または警察へご相談ください。